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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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雨ごいの儀式そして、再会

いよいよ儀式が始まります。

水路の復活、間に合うのか。

トレーラーハウスの外側からかけられていた鍵が開けられた。

そしてドアが開く。

そこにはママイメルダと儀式の進行役の神官が立っていた。


「さあ、時間ですよ。行きましょう」

とママイメルダがアンに言う。


アンはこの少し前に届けられた「式服」を着ている。

真っ白なドレスだ。

飾りなどは一切ついていない、シンプルなワンピース。

アンの足首くらいまでの長いスカートは彼女を少し大人っぽく見せていた。


そんなアンの手をしっかりと握っているイレーネ。


「この方は?」

神官がママイメルダに尋ねた。


「アンの付き添いです。最終地点まで同行します」

とママイメルダ。


「それでは」

と言われて、トレーラーハウスを出るアンとイレーネ。

二人が出ると、ママイメルダが再度外側から鍵をかけた。


農場の脇にある洞窟。

このあたりは一面農地が広がっているが、洞窟のあるあたりだけは小さな森のように

木々が生い茂っていた。

その横に北の国からの水路跡がある。復活すればここは水で満たされるだろう。


たいまつの炎に先導され、アンとイレーネが洞窟に向かう。

その前には神官、そして神官の側近らしきが数名がいた。

「この人たちは呪術師か魔法使いだ」

イレーネはこの側近たちに、ただならぬ気配を感じていた。

後ろにはルルカ村村長や街の有力者、そしてママイメルダが続いた。


「なんだかすごい嫌そうな顔」

後ろから着いてくる面々を見たイレーネの感想だ。

ママイメルダ以外はみな、小さなアンをまともに見ることも出来ない有様だった。


その時、アンが小さくよろめいた。スカートの裾を踏んだのだ。

こんなに長いスカートをはくのは初めてだろうから無理はない。


「あのね、手でスカートをつまむんだよ。こうやって」

空いている方の手で、自分のスカートを持って見せるイレーネ。


「ほんと、お姫様みたいな歩き方だね」

スカートをつまんで歩きながらアンが嬉しそうに言う。


一行が洞窟に到着した。

ちょうど、満月が夜空の真上に位置している。


洞窟の中央に立つ。

その頭に、白い花で作られて花冠が乗せられた。


儀式の始まりだ。


神官が何やら祈祷をし、笹の先を軽くいぶして煙をだした。

それを洞窟内に充満させる。


その間も、神官の側近が呪文を唱え続ける。

祈祷も呪文も、どんどん激しく唱えられる。

まるで、洞窟がうめき声をあげているかのようだ。


煙が充満してきた洞窟は、にわかに息苦しくなっていた。


見れば笹はあちこちに積み上げられており、そのすべてがくすぶっている。

煙がすごい勢いで昇っていく。


神官が何かを唱え、そして全員が洞窟から退出する時がきた。

ここで、「捧げもの」が一人と取り残されるのだ。


神官に何か耳打ちするママイメルダ。

神官はアンとイレーネを交互に見つめる。


そして側近を集めて何か話し合われた。


「イレギュラーを認めましょう」

神官はそう言うと、アンの頭の花冠をイレーネにかぶせた。


そしてしっかりと握られていた、アンの手を引き離すとイレーネを洞窟の奥に突き飛ばした。

咄嗟のこのに、よろめくイレーネ。


「さあ」

という神官の声と共に、神官と側近たちは洞窟から去って行った。


そしてアンを抱きかかえたママイメルダも出て行こうとする。

その姿をしっかりと見つめるイレーネ。


「お願い、アンは助けて」

ママイメルダの背後から、そう叫ぶイレーネ。


「大丈夫、アンは孤児院に戻すわ。リリアに迎えに来させてるからこのまま連れて帰る。

だから安心して」

そう言ってその場を離れて行った。


洞窟の中はどんどん煙が充満しており、息をするのもやっとだ。

散らばめられた笹から火の手も上がっている。

気温もどんどんと上昇していた。


そんな洞窟の奥でイレーネはひとり。


「あー、ほんとに身代わりになっちゃったよ。どうしよう

アンが助かったのはうれしいよ。これは本当。

だけど、私、身代わりになってよかったのかなあ?王女がここで死んでいいの?」

とブツブツと言っていた。


「もう、ハンス、早くしてよ、水路の復活、まだなの?

このままだと本当に私、生贄じゃん」


そんなことを思っていた時、洞窟の入り口で大きな音がした。

洞窟を閉じようとしているのだ。

これでここで、煙に巻かれ、イレーネは「犠牲」となるのだ。


「ああ、わたし、ここでおわりだ」

とイレーネ。

その時、洞窟の入り口のあたりから何かがイレーネに向かってきたのが見えた。


「イレーネ、イレーネ」

そう言いながら駆け込んできたのは、アンだった。


「アン、なんで戻ってきたの?ここにいたら死んじゃうんだよ」

とイレーネ。


「あのね、ハンスがもうすぐそばまで来てるの。お水と一緒に。

だからあと少しだけがまんしてって。そう言いに来たの」


ハンス、やっぱり戻ってきてくれたんだ。

あと少しだ。


「え、がまんして、って、誰に聞いたの?見えたの?」

とイレーネが聞くと。


「あのね、ハンスと一緒の妖精さんが話しかけてきてくれたんだよ。

あと少しで着くからイレーネに伝えてって」


「シャロンと話ができるの?」

驚くイレーネ。


「うん、妖精さん、シャロンっていうんだ。まだ名前聞いてなかったよ。

あ、このあたりの[すいろ]が流れ始めたって。

鉄砲水が起きるかもしれないから気を付けて、だって」


この洞窟のすぐ横が水路だ。

水量によっては洞窟内にも水が流れ込んでくるだろう。


周囲が煙から湯気に変り始めた。

そして、地面がどんどん水が浸入してくる。


「ここから逃げないと」

イレーネはアンの手を引き、洞窟の入り口に向かった。

まだ閉まったままの入り口。

その下の隙間から水が勢いよく流れ込んでいる。


「アン、シャロンと話せる?

お願いここから出してって言って?」

シャロンの魔法で移動させてもらおうとアンに頼むイレーネ。


しかし、次の瞬間、大きな音とともに入り口をふさいでいた大岩が砕け散り、大量の水が流れ込んできた。

咄嗟にアンを抱えるイレーネ。

そしてそのまま二人はどこかへ流されていった。


大きな水流に飲み込まれ、流されるイレーネとアン。

イレーネは決してアンを放そうとはしない。


「水泳の授業、もっとまじめにやっておけばよかった」


王宮では姫のたしなみとして、水泳の授業があった。

それは王宮内の温水プールで基本的な泳ぎ方を習い、実習として王族御用達のビーチにて海水浴をする。

そんなプログラムだった。


温水プールまでは楽しかったが、海で泳ぐなんてまっぴらだ、そう思い、海での実習はサボった。

急にお腹が痛くなった、ということにして。

あの時も、水泳の指導係とその日の食事係がクビになったんだっけ。


「悪い事しちゃったな」

水に流されながらイレーネはそんなことを思い出していた。


「でも、もう息が」

なかなか水面にでられないでいるイレーネとアン。

アンもぐったりとし始めていた。


「そろそろやばい」

そう思った時、誰かの手がイレーネをつかんだ。

そして静かに引き寄せる。


するとイレーネもアンもやっと水面に顔を出せた。

ぜいぜいと息をするイレーネ。


引き寄せられた先は陸地だった。

そしてそこには、ママイメルダの姿が。

ママイメルダが二人を水流から助け出してくれたのだ。


「あなたは大丈夫ね?」

ママイメルダがイレーネに言う。


一方、アンはぐったりとしたままだ。

息をしていない。


「アン?どうしたの?アン?」

懸命にアンに話しかけるイレーネ。


ママイメルダはアンを寝かせ、胸を何度も押す。

それでもアンは動かない。


「それじゃダメです。代わって」

そう言って人影が入り込んできた。


アンの口を開き、自分の口から息を吹き込む。

それを何度も行った。

しばらくすると、アンが水を吐き、息を吹き返した。


「ああ、よかった。これで大丈夫だ」

そう言って振り返ったのは、ハンスだった。


「イレーネ、約束通り、水路を復活させましたよ」

とハンス。


ああ、ハンス、ぎりぎりだったけど間に合ってよかった。

そしてやり遂げたのね。すごいわ。

感慨深くハンスを見つめるイレーネ。


ほんの2日だけど、もう何日も会っていないかのように、久しぶりな感じがした。

すると、目頭が熱くなっていた。


「これって涙の再会ってやつ?」

心でつぶやくイレーネ。


しかし、その傍らで、

ゴーゴーという地鳴りのような泣き声がした。


「イレーネ、無事でよかった。イレーネー」

ハンスが涙と鼻水で顔をぐじゃぐじゃにしながら号泣していた。


そんなハンスを見て、イレーネの涙はすっかり引っ込んでしまった。

「ほんとに、こいつポンコツだ。こういう時は女の子が泣くって決まってるでしょ」

とつぶやきながら。











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