水路復活
水路は復活するのか?
国境沿いのとある集落。
そこにハンスとシャロンがいる。
このあたりの集落は名前の付いているような村はなく、ほぼ「国境沿いの集落」と呼ばれている。
そんな集落がいくつか点在しているのが国境沿いだ。
そして、ハンスのいる集落、ここは冬の国と夏の国に接している集落だ。
北の国の国境沿いには大きな湖がある。
北の国には山が多く、その山々の雪解け水がこの湖に集まってくるのだ。
そしてこの湖から、いくつもの水路が伸ばされている。
その一つが、夏の国、ルルカ村付近を通る水路だ。
ここが何故が閉鎖されてどれくらい経ったのだろう。
毎年、夏の国の使者が水路の復活を要望するが、水路を管理しているロバンナによって阻まれてきたのだ。
2日前、突然やってきたハンスは迷うことなくロバンナを探し出した。
ハンスはロバンナが「国境沿い、水路管理団体」の代表だと知っていたようだ。
そして、とにかく今のルルカ村の現状を話し、水路を開けてくれるように頼んだ。
「お願いします、水路を開けてください。このままではルルカ村の農場の作物が枯れてしまう。」
とシンプルに頼むハンス。
「今年はなんだ、お前さんがやってきたのか。
何度来ても返事はおんなじだ。水路は通さねえ」
ロバンナは眉一つ動かさずこう答えた。
「えーなんで?」
シャロンが不思議そうに言った。
そもそも、なぜ水路がふさがれているのか、それが疑問だった。
「ねえねえ、なんで水路ふさいじゃったの?」
口に出して聞くシャロン。
するとロバンナの周囲にいた男たちが、一斉に身構えた。
シャロンに向かって飛びかかりそうな勢いだ。
思わずハンスの後ろに隠れるシャロン。
ロバンナも周囲の男を止めるように手を上げた。
「その妖精は、魔法使いか?宮廷魔法使いだな。こんなところにそんな奴同行でやってくるとは。」
シャロンが宮廷魔法使いと聞いた、周囲の男たちが先ほどとは打って変わって、
ひざまずき、剣を地面に突き立てた。
ロバンナも手を胸にあてながら一礼をする。
「ねえ、シャロン、君ってそんなに偉いの?」
ハンスが驚いてシャロンに耳うちした。
「いやあ、失礼した。宮廷魔法使いのご同行の君にご無礼をした」
そう言いながら、ハンスの肩をポンポンと叩いた。
「国境沿い、水路管理団体」の代表室に通されたハンスとシャロン。
そこで改めて、
「頼む、夏の国、ルルカ村付近を通る水路を復活させてほしい」
と改めて頼むハンス。
「えー復活させちゃっていいの?ほんとは困るんだけど、って毎年言ってたじゃん」
ロバンナの話によると、毎年水路の復活を求めてやってくる夏の国の使者。
しかし、一応、交渉しただけですぐに納得して帰ってしまうのだという。
「え、なんでなんですか?夏の国では毎年干ばつで作物が大変です。
それに、雨ごいの儀式でだれかが捧げものとして犠牲になる。今年は幼い女の子です。
水路さえ通れば問題はすべて解決するのに」
しばし考え込むロバンナ。
「その儀式が必要なんだって、国の奴らは言ってたぜ」
どうやら、儀式を遂行し孤児院の子供を犠牲にすることに意味があるらしい。
だから真剣に水路の復活を交渉しなかったのだ。
「いや、僕は今までの奴らとは違う。水路は通してもらいたい。」
と言い放つハンス。
「そうか、それじゃあ」
「復活させてくれるの?」
とシャロンが喜んで言ったが、
「いや、すぐにそれは出来ない。水路がふさがれた時、魔法使いがとある魔法をかけた。
それを解除しなければ」
「だったら私がやるよ。でも、魔法をかけられてる形跡はないんだけど」
とシャロン。
「その魔法というのは、俺との勝負に勝つってことだ。
俺と、俺の仲間たちと酒の吞み比べをしろ。
お前たちが勝てば水路は復活させてやる」
そして、酒場に移動したロバンナと周囲の男たち、そしてハンスとシャロン。
盛大な酒盛りが始まったのだ。
ロバンナとその仲間たちのお陰で水路は予定より早く復活した。
水が流れ始め、この流れはルルカ村までつながっている。
「今夜が満月だ。急いで帰れば間に合うはずだ」
ハンスは雨ごいの儀式を気にしているようだ。
水路が通っても、儀式が行われれば元も子もない。
「俺も連れて行ってもらえないか、ルルカ村に。」
とロバンナ。
「ロバンナも行くとなると移動魔法は無理だよ。私がバテちゃう。
どうしようか、馬車でもあるかな?」
ロバンナに同行してもらえれば、水路の今後のことについて直接話をしてもらえる。
もう雨ごいの儀式など必要なくなると。
しかし、移動魔法が使えないとなると満月が空の真上に来るまでにルルカ村戻れるかどうか。
「じゃ、馬車を使おう」
そう言って馬車の準備をさせるロバンナ。
その様子を見たシャロンが
「あの馬に魔法をかけられるよ。すごく早くはしれる魔法」
馬車はシャロンによって魔法をかけられた馬に引かれ、フルスピードで街道を走り出した。
その中にはハンスとシャロン、そしてロバンナ。
あまりのスピードに最初は口もきけないハンスだったが慣れてくると、周囲を見回す余裕もできた。
「ほー、兄ちゃん、いいなずけを村に残してきたのか。その娘、身代わりとして儀式の生贄になりかねないような嬢さんなのかい。そりゃ全力で守らじゃいなんなあ」
いつの間にか事の次第をシャロンから聞いていたロバンナ。
ハンスはいいなずけ(イレーネ)を助けるために水路を復活させ儀式をやめさせるのだ。
なんといい青年ではないか。
これぞ好青年の鏡だ。
ロバンナ一人納得して頷く。
「おい、ハンス坊、そのいいなずけ、名前はなんというんだ?」
ロバンナはまだ酒が抜けていないのかしつこく聞く。
「いいなずけ?いいなずけってなんですか?」
そう言いながらハンスはシャロンに、
「どんな話をしたんですか?僕のいいなずけって。イレーネが怒りますよ。
それにイレーネには身代わりにだけはなるな、って言ったのあなたですよね。それなのにイレーネが身代わりだって。」
と言い返した。
「だって身代わりになるって言った方が同情してもらえそうじゃん。
それにさあ、いいなずけって言ったらイレーネのことになるんだ、ハンス。ふーん」
とシャロン。
「私はいいなずけ、って言っただけでそれがイレーネだなんて一言も言ってないし」
と続けた。
「さすがはイレーネの専属魔法使いですね。イレーネと同じくらい性格悪い」
とハンス。
「誰かを守りたい、そう気持ちは大切だ。相手がどう思っていようと。そういう気持ちがお前を強くしてくれる」
一瞬、真剣なまなざしでそう言ったロバンナだったが、すぐに、
「で、そのイレーネちゃんってのは可愛いのか?」
とデレっとした表情になっていた。
「見えてきたよ、ルルカ村だ。水路を水が流れるのと同じくらいのスピードだよこの馬車」
と外を見ていたシャロンが叫んだ。
そのころ、ルルカ村隣接の農場、そこに設置されているとあるトレーラーハウス。
外側からかけられている鍵が開けられた。
そのガチャっという音を聞き、ドアを見つめるイレーネ。
「もう準備は出来ている」
そう言いながら、アンの手をしっかりと握っていた。
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