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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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アン

アンとイレーネ。

引取り祭の会場の農地に設置されているトレーラーハウス。

その一つに「閉じ込められている」アンとイレーネ。


イレーネはアンに悟られないように、部屋の中を見回した。


居間にはたくさんのおもちゃが用意されていた。

画用紙やクレヨン、お人形、おままごとセット、

まるでここに小さな女の子が来ることを想定していたかのようだ。


備え付けのキッチンには、ビスケットやカップケーキ、氷の入った大きな容器には何種類かのジュースがある。


居間の奥にある寝室を覗いてみると、天蓋付きの小さなベッドが一つ。

ピンクのベッドカバーにフリルの付いたクッション。

出窓にはピンクと白のレースのカーテンがかかっていた。


「まるでプリンセスのお部屋だねえ」

とイレーネ。


「ねえ、イレーネ、お絵かきしようよ」

居間からアンの声がした。


居間のテーブルに、アンとイレーネが座り画用紙に絵を描く。

アンは絵を描くことが好きなようで、どんどんと色んな絵を描く。


「これはね、イレーネとハンスだよ」


「それから、これはねママイメルダとリリア」


「あとこれは、」


そう言って、女の子の絵を見せるアン。


「アン、でしょ」

とイレーネ。

その絵には、今日アンが着ている、かわいいワンピース姿の女の子が描かれていた。


ふふふ、と笑いながらアンはどんどん絵を描く。

しばらくお互いに無言で、ただ絵を描いていた。


「今度はどんな絵を描いたの?」

アンが、描き終えた画用紙をテーブルに置いたのをみてイレーネが言う。


「これは」

アンは表情を硬くしていた。


その絵を見たイレーネは言葉を失った。

そこには、暗闇の中で立ちすくむ女の子が描かれていた。

今までの絵とは打って変わって、真っ黒な背景、女の子は灰色だった。


「この絵はなんだか悲しい感じだね」

とイレーネが聞く。


「これはね、明日の私だよ」

とアンが言う。


ー別のトレーラーハウスー

先ほどまで、ここで明日の雨ごいの儀式についての打ち合わせが行われていた。

明日の立会人となる村の村長や街の要人たちは既に引き上げ、部屋にはイメルダひとりだ。

イメルダの手には、アンに関する報告書が握られていた。


アン、

一昨年、ルルカ村の孤児院に捨てられた子。

門の前に捨てられていた、ということにはしてるけれど、それは少し違う。

アンの養父母がこの子を連れてきた。


「うちではもう育てられないので」

そう言って。


「この子には魔力がないようだ。この年で魔力が現れなければ、もう魔法使いになれる可能性はないでしょう。魔法使いの一家である我が家ではもう育てることが出来ません」


養父母の話だと、実の両親を相次いで病気で失ったアンの魔法使いの才能を感じて引き取った。

アンの両親はともに優秀な魔法使いだったから。

しかし、一向にアンには魔力が現れる気配がない。

魔法使いを育てる一家である以上、このままこの子を置いておくことが出来ないので孤児院に。

ということだ。


それ以来、アンは孤児院で育てられる孤児となった。

そして、孤児のリストにはいつも名前が一番上に書かれていた。

孤児のリスト、孤児が必要となった際、選ばれる者の優先順位を現したリストだ。


孤児が必要となること、それは。

捧げもの、生贄、人質などがほとんだだった。


ーアンとイレーネの部屋ー


「この絵が明日のアンなの?」


アンの描いた絵をみたイレーネ。

明日の事、それは雨ごいの儀式、そして捧げものにされるアン。


「明日、私は イケニエになるんでしょ。

私を捧げて、雨を呼ぶんでしょ」


「なんでそれを?」


「ママイメルダが話しているのを聞いちゃったの」


ママイメルダの話を聞いた、そんな機会があったのだろうか。

イメルダにしても、このことはアンに知られてはいけないことくらいわかっているはず。

聞かれるようなところで話はしないはずだ。


アン、あなたのことは私が守る、

イレーネがそう言うよりも早く、


「イレーネは助けに来てくれたんだよね、あとハンスも危ない国境にいってるんだよね」

とアンが話した。


「アン、あなた、人の言葉が聞こえるの? あ、遠くにいる人が話していることとかが」

そういうイレーネに、


「そうだよ、いつもじゃないけど。あと、何をしているかもわかるよ、いつもじゃないけど」

とアンが答えた。


「アン、魔法使い、なの?」

これは、魔法使いのなせる業だ。


「うーん、魔法使いになれないからって、私は孤児院に捨てられたんだよ。パッパとマンマに。

でも、マミイは本物の魔法使いだったんだよ」


「パッパとマンマ?養父母のことね。アンはマミイのことを覚えているの?」


「マミイはいつも笑っていたよ、そして、アンが困らないように、って死んじゃう前に私に何かの魔法をかけたんだよ」


それはきっと、魔力を封じる魔法だろう。

イレーネにも魔力がある。魔法使いになるための鍛錬をしていないので、魔法は使えないが他人の魔力を感じることはできる。


普段のアンに魔力を感じることはなかった。

しかし、今は、時々アンの中にある秘めたる力を感じる。

ものすごい魔力だ。


アンには魔法使いとしての素質が備わっているようだ。

それをマミイ、アンの母は自分が死ぬ間際に封じた。

孤児となるアンが膨大な魔力を持つことを案じたのだ。


きちんとした教育を受ければ、この子は素晴らしい魔法使いになる。

「ルビア魔法学校に行ければいいのに」

イレーネは思った。


ここからアンを連れ出し、ルビア魔法学校に入れる。

そうできればいい。


「ねえ、今度はこっちので遊ぼうよ」

絵を描くのに飽きたらしいアンは、ビーズ細工が作れる玩具を持ってきた。


ビーズを使ってアクセサリーが作れるこの玩具はここでも、アデーレ王国でも女の子に人気だ。

しかし、アンには少し難しかったようだ。


「うまくできないよ」

そう言って不満そうなアン。


「じゃあ、これどう?」

とイレーネはブレスレットを作ってアンの手首に通した。


「わあ、きれい。ねえこれと同じのイレーネも作って。お揃いにしようよ」

アンが手首を見ながら嬉しそうに言う。


「お揃いか」

ホッピイ農場の仲間とお揃いで買った髪飾り。

イレーネには特別な品だ。


「じゃあ、お揃いでもう一つ」

そう言いながら、アンに作ったものより一回りサイズの大きなブレスレットを作った。

そして、手首にはめた。


二人でお揃いのブレスレットをはめた手首を並べてみる。

まだ小さなくて細い手首のアン。


「アン、あんたのことは私が必ず守るから、安心してね」

そう言うと、イレーネはアンの手を握った。


「うん、イレーネとハンスがいるから大丈夫だって言ってるわ」


言ってる?誰が?

そう思ったイレーネがアンに問いただそうとしたとき、


ドアの鍵が開けられる音がした。

「アン、さあお祭りに行きましょう」

そう言いながらママイメルダがドアを開けて入ってきた。


アンの手を引き、部屋から連れ出すママイメルダ。

祭り会場の入り口まで来ると、

「じゃあ、イレーネはここで孤児院に戻りますよ」

とアンに言った。


入り口付近には数台の馬車がいた。

そのうちの一つが孤児院まで行くのだそうだ。それに乗るようにイレーネに促すママイメルダ。


すると、アンが

「なんでー、イレーネも一緒じゃきゃ嫌だ。今日も一緒に寝るんだよ」

そう言うと、

「わーんわーん」と声をあげて泣き始めた。


イレーネにすがり付き、泣きじゃくるアン。

周囲を通る人々が足を止めて、様子をうかがっている。


「じゃあ、私も帰るー」

まるで駄々をこねる幼子のようなアン。


ママイメルダはなんとかアンをとりなそうとしたが、全く無駄だった。

わんわんと泣き続けるアン。

このままでは、明日の儀式に影響が出かねない。


「じゃ、イレーネ、あなたも残って」

とイレーネに言うママイメルダ。


「イレーネも一緒よ。それならいいでしょ」

とママイメルダに言われるアン。


「イレーネ、ずっと一緒だよね」

と、しゃくりあげながらママイメルダに念を押した。


イレーネは自分を見つめるママイメルダの視線が、いつになく鋭く嫌悪に満ちていると感じていた。

それでも、これでアンの側にいられる。


やっと笑顔になったアン。

イレーネの手をしっかりと握っていた。


イレーネも、

「何度でも言うわ、これから先、アンの手を絶対に離さない」

そう心に誓っていた。

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