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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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選ばれた子

アンが連れ出されることに、あわてて同行するイレーネ。

「わーい、イレーネも一緒に行こうよ」

アンがそう言いながらイレーネに駆け寄った。


ママイメルダがアンを連れ出そうとしている。

引取り祭に連れて行く、と言っているが明らかに雨ごいの儀式に関係あるだろう。


しばらくイレーネのことを見つめたママイメルダ、

「そうね、あなたも一緒に来てちょうだい。もう一日くらいお祭りを楽しむといいわ」

そう言うと、10分後に玄関に来るように伝えた。


「アン、あなたもお着換えするわよ。お気に入りのぬいぐるみも持っていきましょう」

そう言いながら、アンを連れて孤児の部屋に入っていった。


イレーネも慌てて部屋に戻ると、荷物をまとめた。

と言っても、あの布袋だけだが。

いや、シャロンが持ってきてくれた、聖剣フリージアももちろん荷物に忍ばせた。


荷物を持ち玄関で待っていると、ママイメルダとアンがやってきた。

アンはいつもとは違う、よそ行きの服を着ている。

そして手には、小さなクマのぬいぐるみを抱えていた。

アンが眠る時にいつも一緒のぬいぐるみだ。

それを見ただけでも、今夜はここには戻らない、ということが分かった。


「えー、アンとイレーネだけ今日もお祭りに行くの?いいなー」

玄関に集まってきたほかの孤児たちが口々に言う。


「さあ、行きましょう」

ママイメルダにそう言われて、外に出るアンとイレーネ。


馬車に乗ると、アンと並んで座った。

ここからは、アンの側を離れない、アンの手を離さない。

この子を捧げものなどにはさせない。


引取り祭の会場に着くと、そこは昨日と同様多くの露店が並んでいる。

式典が行われた大きなテントは既に撤去されており、大きな広場に戻っていた。


その隅の方にいくつか並んでいるトレーラーハウスが並んでいる、この農地の管理棟のようだ。

ママイメルダに連れられ、トレーラーハウスの一つに入る二人。

ここは客室のようだ。


「ここで少し休みましょう、あとでまた迎えにくるわ。そうしたらお店に行ったりしましょう」

そう言うと、ママイメルダは部屋にイレーネとアンを残し出て行った。

その時、トレーラーハウスの外から部屋にカギをかけた。


ガチャっと鍵を閉める音を聞いたイレーネ。

「ここから出るなってか、閉じ込めるつもり?」

とつぶやいた。


その部屋には居間と寝室が分かれており、居間のテーブルの上にはお菓子が用意されている。

あと、いろいろな玩具もある。

アンはそれに興味津々だ。おかげで鍵がかけられた事には気付いていないようだ。


これからどうすればいい?

一人考えるイレーネ。


水路が復活すれば雨ごいの儀式は中止になるだろう。

水路の復活、それがいつなのか、問題はそこだ。


ママイメルダには事前に話しておこうか、それなら万一、満月が空の真上に来た時にまだ水路が復活していなくても、なんとかなるかもしれない。


しかし、イレーネはママイメルダに感じる不信感をぬぐいされずにいた。

ママイメルダ、いつも一瞬だけどとても冷たい目をする。

そして、いつも自分の行動を見張るように見つめている。


そのころ、別のトレーラーハウスでは、

ママイメルダが数人とテーブルを囲んで何か話し合っている。


「幼い子を生贄なんて、とても賛成できる行為ではないのですが」

一人の男が言う。

その言葉に無言でうなずく周囲の人々。


「雨ごいの儀式は急務です。次の満月までは待てません。このまま雨が降らなければ、作物はどうなることか。ここ夏の国で作物が枯れた、そんなことになったら連邦国でも立場は最下位となります」

ママイメルダの言葉に、渋い顔を崩さないほかの人々。


「雨ごいではなく、他の方法はないのか、農場には水路がある。枯れはててはいるが」


「水路ですって?昔の産物ですね。使われなくなって何年経つの?

ここに水を流さない国境沿いの悪党どもを放置している神々もどうかと思いますが」


「水路が復活すれば、農地だけではなく村や街にも水が通る。

もう水不足に怯えることはないのだが」

そう言ったのは、ルルカ村の村長だった。


「まあまあ、雨ごいの儀式の実施はもう決まったことだ。

儀式に捧げものは不可欠だ。捧げものに選ばれたあの子供、何んとも愛らしい子ではないか、

そんな子が生贄にされる姿なんぞみれば、天候を操る神々もすぐに雨を降らせてくれるだろう」


「あの子は選ばれた子です。孤児にとってとても名誉なことですわ」

顔色一つ変えず言い放つママイメルダ。

アンを捧げものにする、これはアンを拾ったときから決まっていたことなのだそうだ。


「こうい風習は早く廃止されるといいのだが。連邦国以外の普通の国々ではすでに禁止されている行為だ。イメルダ、あなたが以前いた国でもそうでしたよね。

あなたが10年間にここにやってきた時、行われた雨ごいの儀式を見てとても驚いていたではないですか。

自分の故郷ではとうに廃止されている、王の命により、と。

あなたの故郷であるアデーレ王国では、かなり昔に儀式と捧げものにが禁止されている」

と村長がママイメルダに言った。


「郷に入っては郷に従え、ということですよ。

それに、アデーレ王国のことは言わないでください。思い出したくもない」


重苦しい空気ではあったが、明日の満月の夜、月が空の真上に昇った時、

雨ごいの儀式を執り行う。

農場の脇にある、洞窟の中で。


立会人はここにいる全員。

そして、街から呼び寄せる神官たち。

神官が祈祷をあげ、そしてアンを生贄に差し出すのだ。


アンを洞窟に一人残して、洞窟の入り口を閉める。

そしてわずかな隙間から、洞窟の中にたくさんの火種を放り込む。

洞窟の中は火が回り、そこから漏れる煙が天に届いたとき、雨が降るとされているのだ。


雨が降ったのを確認すると、洞窟を閉じていた扉を開きなかから捧げものを取り出す。

そう、煙に巻かれもう動くことのないアンを。


それで一連の儀式は終了だ。


明日の夕方、日が落ちる頃イレーネを孤児院に戻そう。

そう考えるママイメルダ。

アンのことは祭りで里親が見つかり、引き取られていったそういうことにする。


「アデーレ国王か」

先ほどの会話でアデーレ王国について触れられたママイメルダ。


「故郷か」

イメルダはアデーレ王国で生まれ、育った。

それが、10年ほど前、この夏の国にやってきた。


イメルダはそのころの事を思い出していた。

小さなリリアの小さな手を握り、逃げるようにここに来た。

アデーレ王国、もう二度と戻りたくはない。


「私はあのころ、アデーレ王国の王女の侍女だった。

この先、ずっと王女に仕えるものだと思っていた。それなのに」


床に散らばる、おもちゃの宝石や花やリボン。

その光景がフラッシュバックのようによみがえる。

嫌な記憶。


「一生懸命に作ったんだよ」

泣きながら言う小さなリリア。


あの頃のリリアはちょうどアンと同じくらいの歳の頃だった。

「アン、ごめんね」

ママイメルダは小さく呟いた。

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