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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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あと二日

シャロンとハンスが消えた後は。

シャロンが

「満月まであと三日」

と書置きをした翌日。


イレーネは、シャロンが去った後、今後について考えた。

そう、考えた。ベッドに横になりながら。


引取り祭の屋台を駆け回りながら巡り、

強盗と格闘し、それから。


「あと三日」

そう思ったあたりから記憶がなくなっていた。

気が付けば朝だった。

部屋の外はもう騒がしい。


「まずい、寝ちゃった」

慌てて起き上がり、支度を整え食堂に向かった。


昨日の朝と同じ光景。

子供たちはもう食堂にやってきて席に座っていた。


リリアに手招きをされて、彼女の隣の席に着くイレーネ。

今朝はママイメルダの姿が見えない。


「ママイメルダは?」


リリアに聞いてみると、


「もう引取り祭の会場に行っちゃったわ。

今日は中日だから、昨日と違って届いた作物の査定をしなきゃいけないの。

ママは作物と引取り祭の評議員だから」


ということだそうだ。


「中日って、引取り祭っていつまでやってるの?」


「明日までだよ。明日が満月だから。

月が姿を現したら、供物をささげて豊作を祈るの。それで祭りは終わりだよ」


「明日が満月なの?」


イレーネが驚いてリリアに言う。


あと三日の言葉通りなら、満月は明後日、そう思っていた。

「妖精の数の数え方、いい加減なんだから」


シャロンの数の数え方がどうであろうと、明日が満月のようだ。

イレーネの知る限り、儀式は満月の夜、月が空の真上に来た時に執り行われる。


それまでに、ハンスが交渉を成功させて、農地に張り巡らされている水路に水が流れれば問題はないはずだ。


「ねえ、ハンスはどうしたの?」

リリアの言葉で我に返るイレーネ。


ハンスの姿もない。

シャロンが無事に連れ出したようだ。


ハンスがいない事の言い訳、どうしよう。

「ハ、ハンスは、昨日相当疲れていたからまだ寝てるんじゃないのかな」

と苦し紛れに言った。


「そっか、じゃあ後で部屋に朝食届けておくね。

今日は安息日だからイレーネもゆっくりするといいよ」


そういうリリアに、

「あ、ちょ、朝食なら私が届けておくよ。

ハンスは寝てるところを起こされると、ものすごく機嫌がわるくなるからリリアに怒り狂うかもしれない。

だから私が行くね」


「そう、じゃあお願いするわ」


リリアからハンスへの朝食を受け取ると、イレーネは2階の左奥のハンスの部屋に向かった。


「ハンス、まだ寝てるの?朝ごはん持ってきたよ」

と声をかけながら、ドアを開ける。

イレーネの部屋も、この部屋もドアにカギは付いていない。


部屋の中にハンスがいないのはわかっていたが、

イレーネの様子を遠くからリリアが見つめているのがわかった。


「私は女優、ハンスがいるってフリしないと」

そう心で思いながら、

イレーネはハンスの部屋に入った。


とりあえず、ドア付近にあったワゴンの上に朝食の包みを置いた。

思った通り、そこにハンスの姿はなかった。

部屋から、窓に掛けてシャロンの形跡がある。

一緒にここから国境付近に行ったのだ。


そして、部屋を見回すイレーネ。

ハンスの部屋はとても整理整頓されている、

シャロンと突然出かけて行ったのに、ベッドは整えられており机の上にある本や紙類もきちんと揃えて置いてある。


もし、今、誰かに自分の部屋を見られたら、とても恥ずかしい。

イレーネは散らり放題の部屋を思った。

荷物はほぼなく、ここに来て日も浅いのになんであんなに散らかっているのだろう。


仕方ない、部屋をきちんとしよう。

そう思って、ハンスの部屋を出ようとした。


その時、テーブルの横に置いてあった新聞に目をやった。

「王室ジャーナル」

そう書いてある。


アデーレ王国発行の王室ジャーナルだ。

発行日は、昨日。

最新号ではないか。

シャロンのお土産だ。なんでハンスだけに。


その王室ジャーナル最新号をこっそりと持ち出したイレーネ。

部屋から出てくるのを、たぶん遠くから見ているリリアに見つからないように、

服の下に隠した。


自分の部屋に戻るやいなや、王室ジャーナルに目を通した。

今週の王室行事、今週の国陛下のご予定、

王宮で国民を招いての晩餐会が催されたようだ。


なつかしいアデーレ王国の話題。

今週のイケメンコーナーに、ハンスと同じバロウ村のマルクが載っていた。

来週はセレントシティのアイル・ファイン。

記事に添えられている二人の写真を見ると、ほんの数か月前、勇者ロードレース大会の時と比べてなんだか凛々しく男らしくなっている。


そういえば、アイルという名、ホッピイ農場の人事担当者もアイルだった。

アデーレ王国では、アイルという名は勇者の家系の男子に付けられることが多い。


「あの人も勇者だったのかな」


そんなことを思いながら、記事を読み進めていると、


「今週のイレーネ王女」

と見開きに大きな記事が掲載されている。


王女が花嫁学校で、お菓子を作って、「ご学友」とティーパーティーをしているという記事だった。

バラ色のほほと輝く瞳、ブロンドヘアをお団子にまとめてエプロンを付けた

イレーネ王女が、ケーキのデコレーションをしている写真、

焼きたてのマカロンをオーブンから出そうそしている写真、


そして、数人の「ご学友」とソファに座り、ティーカップを持ちながら、出来立てのマカロンを頬張っている、という写真。

が載っていた。


「魔法使いの奴ら、偽造者写真作っちゃって」

これらすべての写真は、王室配下の魔法使いによって作られた精巧な偽物だ。

普通誰にも見破ることはできない。


「このご学友たち、みんなめっちゃ可愛い。魔法使いの趣味なん?

かわい子ちゃん好きというなら、お父様専属のロナウドの作かな」


アデーレ王国、自分の国。以前は思ったこともなかったが、

この国が愛おしい。早く帰りたい。

イレーネはそう思った。こんな気分になるのは初めてだった。


王室ジャーナルを読み終えよう、としたとき紙面下の方に小さな記事を見つけた。


「ソフィア王妃、体調不良」

このところ、国王妃、ソフィア王妃の体調が悪く、いくつかの公務を欠席している、

という記事だった。


「どうしたんだろう、お母様は身体は丈夫なんだけど」


イレーネはこの記事を読んでも、いつも元気な母がどうしたんだろう、という不思議に思う気持ちしか浮かばなかった。


母の身を案じたり、心配したりする、そんな気持ちにはならなかった。

今までも一度も感じたことはない。


「ハンスがいたら、お母様が心配じゃないんですか?とか言われるんだろうな」

と苦笑いした。

自分の感覚が少し普通とはズレている。

この頃はやっとそんな自覚が芽生えていた。


今日は安息日、孤児院の子供たちもリリアもイレーネも、それぞれ部屋で静かに過ごしていた。

そこにママイメルダの声が響いた。


「アン、アンはどこにいるの?」


慌てて部屋を出るイレーネ。

そこにはママイメルダに手を引かれたアンがいた。


「さあ、アン、あなたとてもいい子だったので特別に今日も引取り祭に連れて行ってあげますよ」

とママイメルダ。


「私も一緒に行かせてください。お願いします」

イレーネは咄嗟にそう叫んでいた。

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