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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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シャロン再び

ハンスとイレーネ、これからどうする、そんなときに助っ人登場。

「なんだか逃亡に失敗した気分だわ」

孤児院に戻り、用意してもらっていた寝室でイレーネはつぶいやいた。


そもそも祭りの最中、街と祭り会場を往来する人々はかなり多い。

それなのに、会場から街への馬車に乗客はハンスと自分の二人だけ。

強盗だと言って襲ってきたあいつら、剣の扱いはまるっきり素人、ガタイがいいだけで本物の盗賊には見えなかった。

それから、普通、御者が一番先に逃げ出す?

しかも、馬を連れて。


自分たちを置き去りにしようとした、としか思えない。

そんなことが頭をよぎった。


その時、

「ねえイレーネ、お風呂に行こうよ」

と廊下からリリアの声がした。


リリアと大きな浴槽につかるイレーネ。

確かに、とても気持ちがいい。そして疲れが取れる気がする。

それでも、みんなと一緒の入浴、これには抵抗があった。


リリアより先に風呂から上がり、部屋の戻ったイレーネ。

部屋のドアを開け、ベッドに倒れんだ。


すると、そこに何かいる。

小さくてふわふわした何かが。


イレーネは安堵したようにほほ笑むむと、その小さななにかを踏みつけないように、

そっと体の向きを変える。

そこには、イレーネの専属魔法使いの妖精シャロンが寝ていたのだ。


「また寝てる。ここまで来て疲れたのね」

イレーネはシャロンが春の国に来てくれた時も、眠っていたのを思い出していた。


その時、シャロンの目がパッチリと開いた。

そしてイレーネを見ると、


「イレーネ!よかった、会えて。イレーネの気配が色んなところをうろうろしているから、

定まりにくくて大変だったよ」

と言った。


「そういえば、今日は随分と移動していたわ。

シャロン、各国1度だけのお出ましね。アデーレ王国はどうなってる?何かあった?」

春の国でもここ夏の国でも、アデーレ王国のことはほとんど話題にもならず情報もなく

新しいニュースなど知る由もないのだ。


「そうだね、イレーネ王女は花嫁修業中ってことになってるよ。

時々王室ジャーナルに記事が出てるけど、あれはフェイクニュースだよね、

イレーネ、マカロン作りなんかやってないでしょ?」

どうやら、イレーネは花嫁学校パレ・ロワイヤル・ド・レイデイで、料理や菓子を作ったり、

エレガンスに磨きをかけたりしているらしい。


「まったく、農作業したり強盗団と戦ったり、辻馬車泥棒やっつけたり、

こっちは大変なのに。

その記事、どこのお嬢様よ」


「イレーネ王女だよ」

とシャロンが大笑いをした。


イレーネが、農作業だって?

土の上を歩くのさえ嫌がっていたイレーネが。


「私たちが育てた作物が、今この夏の国に来てるのよ。

ここでもっと大きくして、秋の国に運ぶの。

今日はその引取り祭だったのよ」

ここまで話すと、イレーネは急に表情を変えた。


「それでね、今大変なことになってるの」

そう言うと、


春の国からの作物を受け取った、ルルカ村郊外の農地は干ばつが続いていて、

このままだと作物が育たない。

雨を降らせるために、雨ごいの儀式をするようだが、その生贄として

ここの孤児院の子供がささげられる。


ハンスが言うには、国境付近の水路を通せばここまで水が流れるはずだ。

自分が交渉をしに行く、と言っているが、

ハンスと二人で話せていない、

と今の現状を話した。


話を聞いたシャロンが

「やっぱり」とつぶやいた。


「このあたりの気候がここ数年おかしいんだよ。

女神が気象レーダーで確認しているけど、日照り続きだったわりに、

3年ほど前には、大雨で水害が起きいくつかの集落が水に流されて、大きな犠牲が出た。

聖地の天気をつかさどる神や女神に変わった様子はないんだけどね」


「神と女神が召し上げた国なのに、そんなことが起きるんだ。

それより、ハンスを国境まで連れていけない?

国境付近でせき止められている水路を開けば、雨ごいの儀式は回避できる。

ハンスなら、交渉できそうな気がするの」

というイレーネに、


「知ってるかもしれないけど、この四季連邦国の国境付近って、かなりヤバい地域だよ。

ハンスは人はいいかもしれないけど、勇者としてはマイナスランク。

荒くれ者たち相手に太刀打ちできるとは思えないけど」

とシャロンは否定的だ。


「それでも、雨ごいをやめさせたいの、ここの孤児のアンという子が犠牲になるの。

そんなの見過ごせない」


その言葉を聞いたシャロン。

「わかった、イレーネ。

それじゃあ、私がハンスを国境沿いまで連れて行く。その代わり、イレーネ、何があっても

アンを守るんだよ」

と静かに言った。


イレーネが誰かのためにここまで強く言う、そんなことは今まで決してない事だった。

今までの、イレーネ王女なら、生贄になるアンに、

「責務を全うせよ」

くらいのことを言いかねなかった。


「じゃあ、ハンスを連れて国境に行ってくる。

イレーネ、何かあったらアンを連れて逃げること、いい?イレーネ、自分が犠牲になろうなんて思っちゃだめだよ。王位継承者は簡単に死んではいけないんだ」

今のイレーネなら、アンの身代わりになる、そう言いかねない、とシャロンは思った。


「それでさ、ハンスの聖剣シュバなんだけど、ハンスに持たせるね。

なんかイレーネになついているようだけど。さすがに国境付近に行くのに剣がないって無謀すぎるから」


「なに、じゃあ、私にはいざっていう時、丸腰で戦えって?

それにハンスにシュバ持たせたって、全く役に立たないよ」


不満げなイレーネに、シャロンが一振の剣を差し出した。

シュバに比べると、ずっと細くて軽そうな剣だ。


「これは聖剣フリージア、これをイレーネに授けるよ。

これなら扱いやすいでしょ」


シャロンからフリージアを言われた剣を受け取ったイレーネ。

シャロンの言う通り、軽くて鋭くて持った瞬間、その手になじんだ。


「でも、イレーネは勇者ではないから、剣を持つのは特例だよ」

シャロンがそう言ったその時、


「ねえ、イレーネ、お風呂場に忘れ物してきたでしょ、入るわよ」

とリリアの声がしドアノブがまわされた。


慌ててドアに駆け寄るイレーネ、しかしリリアは既に部屋に入ってきていた。


「もう、イレー急いで部屋に戻っちゃって、これ忘れ物」

そう言ってイレーネの洗面道具とタオルを渡した。


イレーネが恐る恐る、部屋の中を振り返るとそこにはもうシャロンの姿はなかった。

新しくイレーネに授けられた聖剣フリージアはベッドの寝具に隠されている。


そして、イレーネにしか見えない、シャロンの魔法の文字が浮かび上がった。

キラキラとした金粉が宙に浮かび、文字になった。

そこには

「満月まであと三日」

そう書かれていた。




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