灼熱のルルカ村
夏の国に来たハンスとイレーネ、さっそく暑さにバテてしまいました。
春の国のホッピイ農場から農場主の妻、ミーリアの移動魔法により、
夏の国にやってきたイレーネとハンス。
どうやらここは「ルルカ村」というところらしい。
そして、そのルルカ村の入り口付近で、ハンスとイレーネは暑さのあまりその場にうずくまっていた。
太陽は照り付け、きびしい日差しを遮るものはなにもない。
ここはとにかく暑いのだ。
「あの、どうしたんですか?大丈夫ですか?」
そんな二人に声をかけてきたのは、たまたま通りかかったこの村の住人と思われる子供たちだった。
「あの、暑さにやられてしまって。
どこかに宿はないでしょうか、せめて日陰でも」
とハンスが言うと、
「それなら、私たちの家にいらっしゃいませんか、すぐそこです」
と子供たちの中で一番年長と思われる少女が言った。
子供たちが持っていた、飲み水をかけてもらいそれから頭には布をかけてもらって、
子供たちと、子供たちの「家」に向かった。
子供たち、一番年長の少女と男の子が二人、小さな女の子、の四人。
「私はルナ、あっちがマルクとジェフ、それからあのチビがアン。
貴方たちは旅人ですね、わざわざこの村に来るってことは農業関係の方?」
一番年上の少女が言った。
「あ、僕はハンス、それから」
「私はイレーネ、よろしくね」
この子供たちもイレーネを見ても何の反応もない、彼女がアデーレ王国の王女イレーネだとは思っていないようだ。
「あの、あなたは勇者なの?」
ハンスの剣を見た、ジェフが言う。
「僕、勇者になりたいんだ、僕は勇者の家系だし」
ハンスが返答に困っていると、ジェフが話し始めた。
「ハンスはどんな勇者なの?武道系?それとも戦術系?
僕は、両方を兼ね備えた勇者になりたいな。目標は聖地専属の勇者テセウスだよ」
「どっちなのよ?」
とイレーネがからかうようにハンスに聞いた。
「僕は、えーっとそうですねえ、頭脳系かな」
とハンス。
「え、そんなのがあるの?私はね、フローレンスみたいなオールマイティな女勇者になりたいわ」
とルナが口をはさんだ。
「ルナは勇者の家系じゃない、だから無理ですよー、大人しく村の学校の先生にでもなるんだね」
とマルク。
「あなたたちって、兄弟じゃないの?」
似たようなテイストの服を着た4人、年齢的にも見た目は兄弟だ。
で、顔立ちはみなまったく似ていない。
イレーネがそう言ったときには、村の中央あたりまで来ていた、
そこには、長い塀に囲まれた古びた建物がある。
「さ、着いた、着いた」
ジェフがそう言いながら、建物につながる門を開けた。
一番小さなアンが、イレーネの手を引き門の中に入っていった。
他の3人とハンスもそれに続いた。
門から建物の間にはちょっとした広場があり、そこには花壇やベンチがあった。
「わーおかえり」
と建物から子供たちが飛び出してきた。
「あー暑かった、きょうもすごいお天気だよ」
マルクがそう言いながら中に入る。
「外は暑いから早く中に」
ルナに促され、イレーネ達も建物に入っていった。
そこは程よく室内の温度が調整されており、心地よい室温だ。
「ねえ、ねえ、この人たちだれ?」
室内にいた小さな子たちが、イレーネとハンスを取り囲む。
「ねえ、どこから来たの?」
「何しに来たの?
「どうやって来たの?」
質問攻めは終わらない。
「そんなに一度に聞かないの。この人たちは農業関係の旅人よ、明日は引取り祭だから。
暑い中、外にいたから少し休ませてあげて」
ルナがそう言いながら、小さな子供たちを遠ざけた。
そして、
「ここで休んでてください、チビ達には来ないように言っておきますから」
と別室に案内してくれた。
「ルナ、ここがあなたたちの家なの?ここって」
そうイレーネが言うと、
「ここ孤児院なんです。私たちはここで暮らす孤児。
私は両親が国境沿いで内乱に巻き込まれて死んだので3歳からここにいます。
マルクとジェフは隣の村の出身です。3年前の大洪水で村が浸水してその時に二人とも家族を亡くしました。アンは一昨年、ここの門の前に捨てられていたんです」
「そんなんだ」
ハンスは同情したように言う。
「でもここでの暮らしは快適ですよ、みんな仲良しだし院長先生のママイメルダはとても優しいし、
ママイメルダ、今日は引取り祭りの準備で農地に行ってるんです。
暗くなるまで帰ってこないんだけど、帰ってきたら聞いてみますね、あなたたちがここに泊まれるかどうか」
とルナ。
そして
「何か食べるものを持ってくるわ、少し待ってて」
そう言うと部屋から出て行った。
「ここに泊まるの?」
「いや、出来れば宿を探したいですね」
ルナがいなくなるとイレーネとハンスはヒソヒソと話した。
とりあえず炎天下の中途方に暮れていたところを、ここに連れてきてくれた、それには感謝する、
が、ここに居座るのもいかがなものか。
部屋の外からは子供たちの元気な声が響いていた、そして部屋をバタバタと走り回る足音が響く。
とにかく騒々しい。
「着替えとか、日用品とか買わなければいけないし、村にも商店くらいあるでしょう。
ルナに買い物にいってそのまま宿を探す、そう言いましょう」
ハンスの言葉にイレーネが頷くと同時ににドアが開いた。
そこにはルナともう一人、イレーネと同年代と思われる少女がいた。
「さ、これ食べて」
ルナがテーブルにパンとフルーツ、そして飲み物を並べた。
「あ、私はリリア、ママイメルダの娘よ。ママの助手なの。
今日はママイメルダの帰りが遅いから、私がママ代行。ルナたちには村の入り口の通便受け取りまでお使いにいってもらったの。
ルナとマルクだけで、って言ったんだけどジェフとアンも付いて行っちゃって。
なんせ、暑いから外に出るときは大変よ」
リリアと名乗った少女はそう言いながらハンスとイレーネをじっくりと見ていた。
「で、あなたたちここに泊まるの?ママに聞いてみないとわからないけど、
私から言えば、ほとんど大丈夫よ」
と続けた。
「あの、それなんだけど。暑さにやられてたところ、ここに連れてきてくれてありがとう。
本当に助かったわ。でも、泊めてもらうのはさすがに厚かましいよ。
この村の宿屋を教えて。あと商店も」
とイレーネが言った。
その言葉を聞き、顔を見合わせるリリアとルナ。
宿屋だって。
「この村に宿屋はないわよ、旅人が来ることもあまりないし。
少し先に街があるからそこならあるかな。
あと商店も。以前は週に一度市が出てたんだけど、この暑さで中止になってるの」
とリリア。
「そもそも、ここにはなんで来たの?
農業関係の人なら、この村に知り合いとかいるんでしょ?」
リリアの話だと、この村の郊外には農地が広がっており、春の国から移動してくる作物をそこで栽培する。
その受け取りの日に行われるのが「引取り祭り」だ。
それに合わせて、農業関係者が訪れることがあるが、滞在するのはほとんどが街でこの村に来るといえば村に知り合いがいることがほとんだそうだ。
「じゃあ、街まで行くことにするよ。この村から歩いてどれくらいだろうか?」
ハンスの問いかけに、
「歩いても行けるけど、この暑さの中歩いたら倒れるよ。乗合馬車が一日一便出てるけど、
今日のはもう行っちゃったから明日まで待つしかないね」
とリリア。
「そうか、それなら仕方ない。申し訳ないが今晩一晩、ここに泊めてもらえないだろうか」
とハンスがすまなそうに言う。
「最初から泊まってって言ってるじゃん。大丈夫だよね?」
ルナがリリアを見ながら言った。
「大丈夫よ、ママは泊めてくれるわ。
私たち、そろそろ夕食の準備があるから。
あなた方はここで休んでいて。夕食が出来たら呼びに来るね」
そう言って、リリアとルナは部屋を出て行った。
「今日のところは泊めてもらいましょう。それしかない」
そう言ってハンスは椅子に座り込んだ。
イレーネもソファに横になった。
二人ともとても疲れていた。少し歩いただけなのに。ホッピイ農場で働いたいた時の方が重労働だった。
それなのに。
暑さの中で過ごすことは体力の消耗が激しいようだ。
二人とも、そのまま眠ってしまっていた。
「ごはんだよーー」
どれくらい時間が経ったのだろう、外が薄暗くなっている。
イレーネ達の部屋に子供たちがなだれ込んできた。
「ねえ、ねえ、ご飯の時間だよ、早く行こうよ」
その中にはアンもいた。
アンとほかの子供たちに連れられて、廊下の先にある食堂に行った。
そこには長いテーブルが3列並んでおりその両脇に子供たちが座っていた。
「あ、来た来た、まずは座って、いただきます、しないと子供たちがお腹すかせちゃってて」
とリリアに言われ、空いていた一番隅のテーブルに座るイレーネとハンス。
する食堂の前方に一人の女性が現れた。
「さあ、みなさん今日もお夕食の時間となりました。
食材に感謝して、おいしくいただきましょう」
と女性が声をかけると、
「いただきまーす」
と大きな声がし、子供たちが皆食事を始めた。
「あ、イレーネ、ハンス、こちに来て」
リリアに言われて、部屋の隅に行く二人。
「ねえ、ママこの人たち旅人なんだって。村の入り口で動けなくなっていたところをルナたちが見つけたの。街まで行きたいみたいなんだけど、今日はもう行けないじゃない、だから今夜はここに泊めてあげて」
とリリア。
「ルナたちを外に出したの?この炎天下になにをやっているの。」
と強い口調でリリアに言うイメルダ、だがすぐにイレーネ達の方を向き、
「ルルカ村にようこそ。わたくしはこのルルカ村孤児院の院長イメルダです。
どうぞ今夜はこちらにお泊りください。リリア、お部屋を準備して。2部屋よ」
と先ほどとは打って変わって穏やかに言った。
「ありがとうございます。助かります」
そういうハンスを横目に、イメルダはイレーネを凝視していた。
「あなた、お名前は?あとお幾つなのかしら」
「イレーネといいます。16歳です」
イメルダはイレーネの言葉に「そう」とほほ笑んだ。
席に戻り、食事をするイレーネとハンス。
その二人を、いやイレーネの姿をイメルダがじっと目で追っていた。
「ここで会うことになるとは、イレーネ王女」
イメルダは心の中でそうつぶやいた。
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