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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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春が終わる

春の国で、春が終わろうとしています。


イレーネ達が街に「お買い物」に出かけた休日の後、

農場はハンスの言った通り、にわかに忙しくなってきた。


イレーネたち働き手たちにはその日の夕方、夕食と一緒に翌日の作業内容が伝えられるが、

日に日に量が増えていった。


「うわあ、明日の業務、こんなにあるよ」

養殖と一緒に渡された、明日の業務内容が書かれたメモを見ながらルイザが驚いたように言う。


「そろそろ仕事も佳境だね、ルイザはここに来るのは初めてなんだよね。

あと少しで春が終わるからそれまでは忙しいよ」

とビオレーヌ。


「春が終わる」

この前、ハンスもそんなことを言っていたっけ。

春の国なんだから、ずっと春なんじゃないの。

春が終わるってどういうことなんだろう。


イレーネには疑問だったが、ここ「春の国」の民ということにしてある手前、気軽に聞くことも出来ない。

「ビオレーヌやジョセフィンは前にもここに来てるの?」

イレーヌが二人に聞いた。


「そんだよ、私は去年から。去年15歳になって公に働ける年齢になったから」

とジョセフィン。


ということは、この春の国でも15歳に満たないものは働くことが出来ないのだ。

13歳だというルイザはなぜここに来ているのだろう。

他の二人はそのことを気にしている様子もない。


「本土の人たちは規制が多くて大変だね。その点、離島はいいよ。

年齢制限ないし、春も終わらないもん」

ルイザが言った。


翌日、仕事の休息時間にハンスと会ったイレーネがそのことを聞いてみた。

「春が終わる」その意味と、

「離島と本土の違い」について。


「イレーネ、アデーレ王国には四季がありますよね、ここは神直営国家の四季連邦国です」

そう言ってハンスが説明を始めた。


ここ春の国は春しかない、しかし春の始まりと春の終わりごろではだいぶ気候がちう。

まだ寒さの残る、ピンとした空気が漂う頃から、

暖かみが増し日差しが暑いと感じる寸前になったら、そろそろ春は終わりだ。

春が終わると、また春の始まりに戻る。

それを繰り返しているのが、春の国。

ということなのだそうだ。


「じゃあ、私たちもそろそろ次の国に移動しなくてはいけない、ってこと?」

シャロンが春、夏、秋、冬、この4つの国を通ってくるように、と言っていたのを思い出した、

イレーネ。


「そうですね、今この農場で育てている食物たちも近いうちに夏の国に移動させます。

それが済めばここでの仕事もおしまいです。そうしたら、僕たちも夏の国に行きましょう」


それにしても、ハンスは色々なことをよく知っている。

この農場に来てからというものイレーネはハンスのことを以前ほど「ポンコツ」だと思わなくなっていた。


それどころか、豊富な知識を持ちこの農場でとても頼りにされている存在となっているハンスの姿を、

誇らしいとまで思うようになっていた。


「貴女の同室の子、離島から来ているんですね」

ハンスは、今度は離島と本土について話し始めた。


春の国の海沿には幾つかの離島がある。そこはもともとは別の国だった地域だ。

神直営国家となる時に、春の国に併合されたのだ。


春の国、本土とは文化の違う島も多い。それぞれの島の独自も文化は尊重されており、

ルイザの出身地、ポンデ島もそんな島の一つだ。


「気候の違いまでは知らなかったな。春が終わらない、春の国っていうのもあるんですね」

とハンス。


ハンスが言うには、離島から名門魔法学校への進学はとても珍しい。

かなり優秀でないと叶わない。

それも13歳で。


「ルイザは相当有能な魔法使いなんですね」


「だって、私の専属魔法使い、アゼリアの孫だもん。優秀よ」


ルイザをアゼリアの関係を聞いたハンス。

「貴女が人として誇れるような人、になればアゼリアの魔法も必要なくなりますね。

そうすればアゼリアの状態も良くなるでしょう」

そうイレーネに言った。


その通り、なのだが「人として誇れる人」そんな人物になれるのか、

イレーネには全くその自信がなかった。


農場では益々作業は多忙を極めるようになっていた。

作物の「夏の国」への受け渡しがもう目前だ。

働きに来ていた人々も、来週には皆この農場を去る。


イレーネと同室の3人も、そろそろ荷物のかたずけを始めていた。

ビオレーヌとジョセフィンは地元に帰り、ルイザはそのままルビア魔法学校に行くという。

なんとか入学金のめどがついたようだ。

当面の生活費は、兄と姉がこっそりと援助してくれるそうだ。


「これから、みんなお給金をもらうと思うけど、気を付けて」

とビオレーヌ。

この時期、働き手はもらいたての賃金をもっているし、農場の事務所にも金を置いてある、

それを知っている盗賊や強盗団が襲撃してくることがあるそうだ。


「それから、農場の出来立ての作物、苗なんかも狙われるの。

奪った物を夏の国に売り払うんだって」


言われてみれば、このところ農場の警備員がに明らかに増えていた。

農場の事務所や作物だけでなく、イレーネたちの宿舎付近も見回りをする警備員がいた。


その時、外で物音がするのが聞こえた。

誰かの大声、ドタドタという足音。


「ドア、鍵しまってるよね?」

とビオレーヌ。


入り口のドアを確認しようと近づいたジョセフィンが、ドアをけ破り入ってきた男たちに

その首ねっこをつかまれていた。


「おい、ここは姉ちゃんたちのへやか、まずが金をだしてもらおう」

部屋に乱入してきた男のうちの一人がそう言った。


どいつもこいつも、いかつくて野蛮そうな、一目で「盗賊」とわかる連中だった。

イレーヌは驚きながら、ふと窓をみると外には火の手がいくつも上がっているのが見えた。


間違いない、盗賊団がこの農場を襲撃したのだ。





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