新しい仲間
農場の生活も慣れてきたのかな、イレーネ。
ハンスはすっかりなじんでいる様子です。
ホッピイ農場はこのあたりでは小さな農場だ。
大規模な農場となれば、働く人員もけた違い、数百人単位だという。
それに比べると、ここホッピイ農場で働くのは、もともとこの農場の労働者に加え、
ハンスたちのようなお期間限定の者が10数名加わる程度だ。
労働者同士、皆顔見知りになるしある意味、アットホームな環境だ。
そのアットホームな雰囲気をまったくありがたいと思っていないのがイレーネだった。
自己紹介で口から出まかせのウイノカ学園の学生と言ってしまったためか、
「新入りのあの子は、ものすごいお嬢様」
という噂があっと今に広まった。
「現に、貴女はお嬢さまではないですか」
ハンスがそう言って笑う。
ハンスは、つなぎのズボンに麦わら帽子をかぶり、足は長靴。
すっかり農作業をする恰好をしている。
それがなんだか、サマになっているのだ。
それどころか、ハンスは農業についてとても詳しく、この農園での作業責任者からもアドバイスを求められていた。
「なんか、ハンスってすっかり頼りにされてる」
とイレーネがつぶやく。
ここでは、作業の合間など自由に誰とでも会うことが出来た。
ハンスとは頻繁に、お互いの状況を伝えあった。
学生、ということにした設定に文句をつけることも忘れなかった。
そんなある日、イレーネたちがここに来て数日後、人事担当アイルが一人の少女を伴い、
イレーネたちの部屋を訪れた。
「新しく仲間になる、ルイザです。到着が遅れましたが今日から皆さんと同室になります」
アイルに言われて、ルイザが部屋に入ってきた。
ルイザを取り囲む、ビオレーヌ、ジョセフィンそしてイレーヌ。
「ルイザ、今日からよろしくね」
そう言いながら、ルイザの荷物ほど気を手伝うビオレーヌ、ジョセフィンはルイザの使うベッド周辺を整えている。
イレーヌはというと、何をしたらいいかわからずその場にただ立っていた。
「そこのお嬢様、何もしなてボケっとしてるなら夕食取ってきてよ」
とジョセフィンが言う。
食事は、農場の大きな食堂でとることもできたが、部屋に運んで自室で食べることも出来た。
イレーネたちは夕食はいつも部屋でとることにしていた。
「じゃ、食堂行って取ってくるね」
そう言って、イレーネが部屋を出た。
「あ、私手伝います」
そう言い、ルイザがイレーネの後を追った。
イレーネとルイザ、二人並んで食堂に向かう。
「あの、あなたは何歳なの?」
何か話さないと気まずい感じがして、イレーネが口を開いた。
「あ、私は13歳です。それから私は春の国の離島、ポンデ島から来ました。
天候が悪くて船が出なくて、ここに来るのが遅くなっちゃったの」
ルイザは明るくそう言った。
「そうなんだ、ここにはバイト?お金のため?それとも学校の課題か何か?」
春の国ではどうだかわからないが、アデーレ王国では15歳未満の者は公には働くことができない。
学齢期、ということで優遇され家庭の事情などでどうしても資金が必要な時には、
将来の労働を担保に貸し出してもらえる。
「お金のため、かな。私魔法使いになりたいんです。公認魔法使いになるためには魔法学校をに行って卒業しないといけないので、その費用を稼ぐためにきました」
とルイザ。
魔法使いになるためには、ルイザの言う通り魔法学校を卒業する必要がある。
卒業と同時に全世界共通の公認資格が取得できるのだ。
「そうなんだ、将来のことちゃんと考えてるんだね。魔法学校にはいつ頃入学するつもりなの?」
全世界的に通常の魔法学校は15歳くらいで入学し、18歳で卒業、その後「プロ」の魔法使いとなる。
「実は、ルビア魔法学校に合格していて、授業料は卒業まで免除される特待生なのですが、入学金と当面の生活費が足りなくて。ここで予定通り稼げれば、春の終わりの入学に間に合います」
とルイザ。
ルビア魔法学校、世界でも有名な名門校だ。
アデーレ王国の魔法使いにもここの出身者が大勢いた。
「優秀なんだね、特待生だなんて。将来が楽しみだ」
イレーネが関心して言った。
魔法使いになるには、なにをおいても才能が必要だった。持って生まれた自身にある「魔力」の量が重要だ。一定の魔力を持つものが、鍛錬を重ねることで魔法使いとして成り立つことが出来るのだ。
「ありがとうございます。うちは代々魔法使いの家系なんです。兄も姉も公認魔法使いです。
春の国の政府中枢で働いています。
私の純正な魔力は魔法使いになれるぎりぎりの量だったので、あまり期待されていなくて。
それに兄と姉が一人前の魔法使いになったから、私は魔法使いを目指さなくてもいいんじゃないか、それに私の分まで魔法学校の学費は払えないって言われて。
でも運よく特待生になれたので、渋々進学を許してもらったって感じかな」
とルイザ。
「なんでそんなに魔法使いになりたいの?」
イレーネにも持って生まれた、魔力があった。
鍛錬すれば魔法使いになることも出来る量だ。でも、魔法使いになろうとは思わなかった。
努力なんかしたくないから。そして魔法使いになる、そのものが無用だったから。
「魔法使いになればたくさんの人たちを助けることができるんですよ。
素晴らしいじゃないですか。
私のおばあちゃんはとても優秀な魔法使いで、どこかの国の王様に見いだされて、その国のお姫様の家庭教師をしていました。その国に行ってから、おばあちゃんは一度も戻ってこられないけど、お姫様のお手伝いをしてるそうです。
お姫様の力になってるんですよ、すごいでしょ、私のおばあちゃん」
そういうルイザの言葉に、イレーネは思うことがあった。
「あなたのおばあ様、なんというお名前なの?」
「おばちゃんの名前はアゼリアって言います」
そうだ、私が人前に出るときだけでも、をなんとか
「笑顔を絶やさない」
「バラ色のほほと大きな瞳をした」
「愛らしくて」
「世界中の民が恋をするような」
姫になるように魔法をかけてくれている、あのアゼリアだ。
とても優秀な魔法使い。
でも、イレーネにこの魔法を施していいるため、ずっと寝たきりにになっている、
あの宮廷魔法使いのアゼリアの孫がこのルイザなのだ。
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