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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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援軍、シャロン

全く知らない国の、全く知らない街の、全くしらない場所にある小さな宿屋。

その質素な客室。

ここにアデーレ国王、次期女王、イレーネ王女が宿泊する。


ハンスと別れ、一人で階段を上り廊下の突き当りの部屋行く。

鍵を開けて中に入ると、そこはもう寝室だ。


宮殿の自分の部屋は、まず居間があり、それからなんだかわからない部屋、その奥に寝室があった。

客室にしても、寝室しかない、なんてありえない。


地方や他国に行ったときに泊まったところも同様だ。

ドアを開けて、いきなりベッド、なんて部屋を見るのは初めてだった。


「私、女神に何か変な魔法でもかけられてるのかしら」

そう思いながら、部屋に入りベッドにめをやると、そこには


「え、シャロン?」

思わず声を上げるイレーネ。


そこにはイレーネの専属魔法使い兼妖精のシャロンがすやすやと眠っていたのだ。


「ねえ、シャロン、来てくれたの?私たちに何が起きてるの?」

イレーネが矢継ぎ早にシャロンに問いかけるが、シャロンは眠ったままで一向に起きる気配がない。


ぐっすりと眠っているシャロンの寝顔をみたイレーネは、これ以上起こすのをやめた。

シャロンがもし、「移動魔法」を使ってここまで来たのだとしたら、相当な体力を消耗しているはずだ。

それなら、しばらく眠らせてあげよう、そう思った。


この移動魔法、イレーネがハンスと散歩した際に、侍女かシャロンがハンスを城外に「飛ばす」ように仕向けようとした際、使うはずだった魔法だ。


この魔法自体は、優秀な魔法使いなら使うことが出来るが、今では女神だけに使用が許されている。

理由は、魔力の消耗が激しく、使った本人へのダメージが大きいため、自在に回復魔法を使うことが出来る女神以外には使用は適さない、とされたのだ。


シャロンが寝ている横に、そっと体を横たえるイレーネ。

シャロンと二人でもこのベッドでは狭い。

気を付けないと落ちそうだ。


それでも、イレーネはシャロンを真ん中にして、自分は隅のほうで横になった。

そして、シャロンの負担も考えず気軽にハンスを「飛ばして」と頼んだことを後悔していた。


「シャロン、ごめんね」

小さくつぶやいた。

いつの間にか、イレーネも眠りについていた。


「ねえ、ねえ、ねえ、イレーネ、起きてよお」

シャロンの声で目が覚めたイレーネ。


窓の外がもう明るい。

いつの間にやら朝になっていた。

でも、ここはアデーレ国王ではない、知らない街の、小さな宿屋なことに変わりはなかった。


「シャロン、来てくれたんだ、ねえ、ここどこなの?」

改めてイレーネがシャロンに聞いた。


「うーん、まずは落ち着こうか。ハンスはどこ?どうせ二人に話さないとならないからね」

シャロンはそう言うと、イレーネの姿を見た。


イレーネはとりあえず、来ていたドレスを脱ぎ、下着姿で眠っていたのだ。

髪もぼさぼさ、これでは外にも出かけられない有様だ。


「ハンスとは、1階のロビーで待ち合わせることになってるのよ」

イレーネはそう言い、部屋を出ようとしたがシャロンに止められた。


「イレーネ、その姿じゃ外に行けないよ。鏡、見て」

そう言って、洗面所の鏡の前にイレーネを連れて行った。


洗面台には最低限の、アメニティが用意されていた。

顔を洗い、髪をとかし整えてドレスを着る、今までのイレーネが自力ではやったことのない事だ。

すべて侍女がやっていた。

王女は自分でそんなことはしない、それが当たり前だ。


しかし、今そうはいかない状況になっていることを知っているシャロンは

あえてイレーネに自分の身支度は自分でするように促した。


イレーネもここに侍女がいないことは理解しており、すんなりとシャロンの指示に従った。

しかし、これがまだしばらくは続く、そうは思っていないようだ。


ハンスと合流したイレーネとシャロンは、ひとまず外の公園に移動した。

シャロンの話が他人に聞かれたら厄介だ。

公園の片隅で、シャロンが魔法を使って3人をテントで覆った。

これで、周囲に見えも、声が聞こえたりもしない。


「で、私たち、どうなっちゃったの?」

イレーネがハンスが用意していたパンをかじりながら言う。


「じゃあ、説明するね」

そう言ってシャロンがハンスとイレーネの身に起きていることを話し始めた。


あの「結婚の認定試験」で不合格を言い渡され、挙句の果てに女神アフロディーテに暴言を吐いたイレーネ。

あの試験の主任試験管であったアフロディーテは神、女神の中でも礼儀作法に厳しい。

そんなアフロディーテに「くそばばあ」と言ったのだ。


「アフロディーテは姫にあるまじき言葉だって激怒していたよ。

それで、自国で追試までの期間を過ごすことを許さないって。

で、ここに飛ばされてきたってわけ」

とシャロン。


「で、ここがどこかって知りたいんでしょ。ここはね、神直営国家連邦の春の国だよ」


神直営国家、それは神々によって吸収された国家のことだ。かつては王や皇帝が納めていたが何かの理由があって、神に召し上げられたのだ。

アデーレ国王も次の試験でイレーネたちが合格できなければそうなる運命だ。


「それで、春の国にいつまでもいられるわけじゃないよ」

シャロンが続けた。


「わかってるよ、1年後の再試験までには聖地に行けってことでしょ」

とイレーネが言うと、


「それが、違うんだよね。春の国の春が終わる前に、次の夏の国に行くこと。夏の国で夏が終わる前に秋の国に行くこと、それから」

シャロンが続けようとしたとき、


「それから、冬の国に行くの?それで冬が終わる前にどこに行けばいいの?」

とイレーネ。


「冬の国で冬が終わる前に、必ず聖地に戻ること。それで1年が経っているはずだから」

シャロンが言った。


「ということは、神直営国家、四季をすべて通って聖地に行くということですね」

とハンスが初めて口をはさんだ。


ハンスは神直営国家のことを知っていた。

その中には四季を司る国々があると聞いたことがあった。


「聖地に戻るときには、ハンスは勇者らしく、そして」

そこまでシャロンが言うと、またイレーネが遮った。


「私は、次期女王としてふさわしい王女になっていろってことでしょ」

と。


それに対して、

「いや、違うよ、イレーネ、君は人として誇れる人になっていなくてはいけないんだ」

とシャロンが首を振りながら言った。


それを聞いたイレーネは複雑な心境だった。

王女として、また次期女王としての自分が否定されたような気分になった。


「やっぱ、私の性格、直せってことか」

そうつぶやいた。


「でも、イレーネの性格を直すほうが僕が勇者として認められるより簡単なことかもしれませんよ」

とハンス。

「僕は、勇者になれる自信なんかこれーっぽっちもありませんからね」

と笑顔でいうハンスになぜか安心させられたことに、イレーネは気付いていた。


「こうなっちゃったら仕方ない、じゃあ、頑張って四季の国横断するか、ねっ。

シャロンって援軍も来てくれたことだし」

とイレーネがハンスとシャロンに言った。


「あの、私はずっと一緒にはいられないんだ。ここに来られたのはアフロディーテの配慮、君たちに事情を話してくるようにって。でもすぐに戻らないと」


「え、そうなの、一緒にいてくれないの?」

とイレーネが寂しそうに言う。


「あ、あとこれ」

シャロンはそう言うと、ハンスに剣を手渡した。

ハンスの勇者の剣、ロイヤル剣シュバだ。


「この剣は必ず君の力になってくれるはずだ」

そう言って。


そんな3人のやり取りを聖地で、女神アフロディーテが見ていた。

女神の手鏡を通じて。


「思ったより元気そうじゃない。まあ、1年間頑張ることね。

イレーネ、あなたの呪い、このまま国にいたら一生逃れることはできない。

この1年の旅であなたがどうこれに打ち勝つか、私も楽しみだわ」

アフロディーテが優しく微笑みながら、手鏡の向こうに見えるイレーネに語りかけた。

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