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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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全く知らない国の、全く知らない街の、全くしらない場所で

そこは、どう見ても「アデーレ国王」ではなかった。

アデーレ国王とは異なる仕様の建物が並ぶ街並み。

異国の空気だ。


ハンスとイレーネは、全く知らない国の、全く知らない街の、全くしらない場所に

呆然と立ち尽くしていた。


どうやらそこは街中の小さな公園らしい。

近くにあったベンチにとりあえず座る二人。


「ここ、どこなの?なんで私たち、ここにいるの?」

イレーネが不安げに言う。


「アデーレ国王ではありませんね」

とハンス。


そう言いながら、ハンスは周囲を見回し自分たちがどこにいるのか、何とか把握しようとしていた。

一方イレーネは動揺するばかりでガタガタ震えだしていた。


「気候は」アデーレ国王に比べると少し暖かい、新緑の香りがする。

「住人たちは」いわゆる庶民のような人々が歩いている。軍人や貴族のような特殊な人種は見当たらない。

「言葉は」人々の会話を聞くと、世界共通語、アデーレ国王と同じだ。

そろそろ夕方のようだ。日が落ちてしまう前にどこか落ち着けるところに行かないと。


ハンスがそう思いを巡らしていると、

「ねえ、なんでそんなに冷静なの?私たち女神に吹っ飛ばされてわけわかんない場所にいるのよ、

大ピンチよ。

そうだ、公使館に行って保護してもらいましょう。私王女だし、この国の政府が何とかしてくれるわよ」

とイレーネが言った。


「そうですね、でも行きかう人々が誰も貴女に気付かない。世界が愛するイレーネ王女に誰も気が付いていないんです。どう考えても、それはおかしいです」


「そんなことってあるの?私がこんな街中の公園に普通にいるなんて思ってないからじゃない?」


「とにかく、あそこに宿がある、そこで今日は泊まることにしましょう。この小さな街には公使館はないでしょうから、行くにしてももう明日になるでしょう」

ハンスがそう言って指さした先に、「INN」と書かれた建物が見えていた。


「そう、じゃあそうしましょう。私もうクタクタだわ。おなかもすいたし、宿で何か食べられるかしら」

そうイレーネの横で、ハンスは自分の靴を触っていた。


宿に着くと、フロントで何やら交渉するハンス。イレーネは傍にあったソファに座り込んでいる。

しばらくして、ハンスが鍵を一つ持ってイレーネの傍に戻ってきた。


「さあ、これは貴女の部屋の鍵です。そこの階段を上って3階の一番奥の部屋だそうです。

運ぶ荷物、と言っても貴女が持っているのはその小さなバッグくらいだけど、部屋を確認したらまた戻ってきてください。ここで軽く何か食べましょう」

と言って鍵をイレーネに手渡すハンス。


「私が泊まる部屋に私だけで行けってこと?誰かお付きの者はいないの?」

とイレーネが不満そうだ。


仕方なく、ハンスが一緒に行こうと階段に向かうと、フロントにいた男性が、

「この宿ではご結婚されていない男女の同室での宿泊をお断りしております。

お客様方はご夫婦ではないとのこと。殿方が女性のお部屋に行かれるのもご遠慮願いたい」

そう言って、ハンスを引き留めた。


「本来なら、お客様方の身分証をご確認させていただくところなのですが、

ハンス様が名誉の金貨でお支払いいただきましたので、免除とさせていただきました。

3階フロアは女性専用となっております。お嬢様もご安心してご利用ください」

とフロント係は言った。


「お嬢様ですって?私のこと。」

イレーネが言う。

それを遮るようにハンスが、イレーネに早く行くようにせかした。


「鍵の開け方、わかりますか?部屋を出るときも鍵をかけるのを忘れないで」

イレーネの後姿を見ながらハンスが言った。


しばらくして、フロントのあるロビーにイレーネが戻ってきた。

手にはちゃんと鍵を持っている。


「鍵、ちゃんとかけてきましたか?」

そう言いながら、イレーネをフロント奥にあるカフェテリアに連れていく。


「それくらい、出来るわよ」

イレーネがそう言いながら、ハンスと並んでカフェテリアに向かう。


カフェテリアのテーブルに座ると、ハンスがいつの間にか、パンとスープを持ってきた。

「さ、食べましょう。貴女はこんなところ来たことなんてないでしょ」

パンを食べながらそう言うハンス。


「あなただって、こんなとこ来たことあるの?ここアデーレ国王じゃないのに」

とイレーネ。


「こういう宿屋は世界共通ですからね。大体の勝手はわかりますよ」

そう言われてみると、ハンスは手慣れた様子だ。


「名誉の金貨って、手柄を立てた者に贈られるものだよね。そんなの持ってたんだ」

イレーネの問いかけに、


「うちに昔からあったんです。何かあった時のためにって靴に忍ばせていました。」

そう言って、靴のちょうど甲にあたる部分のベルトにコインが挟み込んでるのを見せた。


「で、私は3階の部屋に泊まるけど、ハンスはどうするの?」

鍵が一つしかないことが気になっていたイレーネが聞く。


「僕は雑魚寝部屋で寝ます。宿泊料、格安ですから。コインはあと数枚あるけどお金は倹約して使わないと。フロントの対応を見ていても、貴女のことを王女だとはわかっていない様子です。

これでは公使館に行ってもどうなることやら。

貴女が王女だと認識されていないここから、アデーレ国王に帰る方法を考えなくてはならないかもしれない。明日、まずは地理を調べて帰る道を探しましょう」

とハンス。


自分が王女として扱われない、生まれて初めての経験だ。

自分を見ても誰もひざまずかない、3階の廊下ですれ違った女性は、すれ違いざま、

イレーネに「ハーイ」と言ってほほ笑んだ。


自分が王女として崇められないこの状況、イレーネはなんだか快適だと思った。

堅苦しくない、自分がいつも感じていた、「重たい気持ち」から解放されているようだ。


食事を終え、雑魚寝部屋に行くハンスと別れ、また3階に向かった。


「なんか、自由って感じがする」

とイレーネは上機嫌だ。


部屋に入ると、

その部屋とは小さなベッドは一つとシャワーと洗面台があるだけの、

清潔だが質素な、今までイレーネが入ったこともないような部屋だった。


その小さなベッドの上に、イレーネの専属魔法使い兼妖精のシャロンが寝ころんでいた。




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