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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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「結婚の認定試験」

ずらりと並んだ神々、そして女神たち。

その前に、ハンスとイレーネが立っていた。


「試験の結果を言い渡す」

神の一人が言った。


進み出たのは女神アフロディーテ。

そして、声高らかに、


「不合格です。希望なら再試験を。希望しないなら、アデーレ王国は神々により吸収されます」

こう言い放つと、他の神々や女神たちとその場を去ろうとした。


「お待ちください、神々よ。不合格とはどういうことなのだろうか」

その場に同席していた、イレーネの父、セレウス・ファン・アデーレ国王が去ろうとしていた面々を

引き留めるように言った。


イレーネとハンスは、「結婚の認定試験」を受けていた。

これは、神と女神が各国王族クラスの婚儀を認めるといういわば「儀式」だ。


結婚の決まった若い王族が、神と女神の前に進み出てその許しを受ける。

「試験」という名はついているが、何かを試されるようなことはない。

神も女神も、結婚する二人の姿をみるだけで「結果」を言い渡す。


女神の代表が進み出て、

「合格を言い渡す。末永く幸せに」

と言い、周囲は拍手と歓声に包まれるのだった。


ここ何年も、いや皆が知る限り、「合格」以外の発表は聞いたことがなかった。

それだけに今回、イレーネとハンスに伝えられた「不合格」には、

王も王妃も、同席していた侍従や女官たちも動揺を隠せない。

王妃ソフィアは顔を覆い泣き出している。


国王の問いかけに、立ち去ろうとしていた神、そして女神の数名がその場に残った。

「不合格」を告げた試験委員会代表の女神アフロディーテもそこにいた。


「イレーネ王女と勇者ハンスの結婚に何の障害があるというのだ。

姫は16歳、正当なアデーレ国王の後継者だ。

勇者ハンスは規定に従い実施されたロードレース大会の優勝者だ。

そんな二人のどこが不合格だと」

と、国王が女神アフロディーテに詰め寄るように言った。


アフロディーテが静かに語り始めた。

「アデーレ国王よ、そなたのイレーネ姫の伴侶は勇者から選ぶ、それは我々も把握している。

このハンスは確かに勇者の血筋だ。しかし、勇者としての才覚はみじんも持ち合わせてはいない。

いくら血筋は正当でも、これではこの者を勇者とは認められない」


「それではなぜ、この者がロードレース大会に優勝したのだ。

あれは正しき勇者のロードレース大会だったはず。真の勇者が1位をとるべきものだ」

と国王。


その言葉に、顔を見合わせるハンスとイレーネ。

イレーネの差し金で不正がおこなわれた、そんなことが国王の耳に入ればただではすまされない。


「お父様、あのレース各所に係員が配置されていたから、ズルなんかできるわけないじゃない。

それに勝負は時の運、とも言うじゃない」

イレーネが慌てて国王に言った。


その様子を見てすべてを察した女神アフロディーテ。

「王女イレーネ、貴女のほうが大問題です。このまま女王になるには問題がありすぎます」

というと、イレーネのほうを向き

「わたくしが何を言いたいかは、あなたが一番よくわかっているわよね。

自分の心によく問いかけることね」

そう小声で言った。


「確かに王女はまだ未熟だ。それで再試験というのはどうすればよいのだ?」

と国王がアフロディーテに聞く。


「再試験は再度我々が判定します。その時までにハンスは真の勇者に、イレーネは本物の女王の気質が備わっていることが合格の条件です」


「その時までというのは、いつまでなのだろうか?」

と国王。


「次の再試験は1年後。ここ聖地の女神の聖堂で。

1年後、ここに来られなければ、アデーレ国王は現国王をもって国は終結。神々が管理します。

それから、次また不合格でも同じことです。よろしいですね」

とアフロディーテが再試験の概要を伝えた。


ここで、イレーネとハンス、二人で再試験を受ける意思表示をしなければならない。

これは二人に課せられている試験なのだから。


「イレーネよ、国の未来がかかっているのだ」

と国王がイレーネ姫に言う。

姫は不貞腐れたように下を向いたままだ。


「わかったわよ、再試験受けます。」

とイレーネが言うと、

「わたしも、再試験に挑みます」

とハンスも同様に言った。


「1年後に向けて特訓を」

「姫の家庭教師を全員入れ替えろ」

国王と侍従、女官たちが早くも1年後を見据えて騒いでいた。


「何よ、あんたのため、あんたの故郷のためって思ってここまできたのに、なんでこの有様なのよ」

イレーネが不満げにハンスに言う。


「僕だって、想定外ですよ。僕が本物の勇者でないことくらい見ればわかるでしょ。

不正に罠なんか仕掛けた貴女が悪いんです。自業自得ですよ」

ハンスもまさかの不合格にいら立っている。


「それに僕は1年特訓したって立派な勇者になれる自信なんかこれーっぽちもないですからね、

それじゃ困るでしょ、すべてを白状して勇者を選び直すんですね」

とハンスはイレーネに言う。


「白状できるわけないでしょ、バレたらそれこそ何人が処罰されるか。

あなたには勇者になってもらうわよ、覚悟してよね」

とイレーネ。


「へーそんなこと気にするようになったんですね。

他人の処罰なんかに興味ないのかと思ってましたよ」


「なによ、人を冷血動物みたいに言わないでよ、もしそうだったらあなたの逃亡を邪魔したりしなかったわよ」

このイレーネの言葉にハンスは少しだけ感動した。自分のことを少しは考えてくれたんだ、と。

ならば、1年努力してみてもいいかな、そうも思った、ほんの少しだけ。


しかし、イレーネの反撃の矛先は、女神アフロディーテのほうに向いていた。

「だいたいにさ、なんで私たちだけ不合格にするのよ。この前試験受けた従兄のアデライと

西部の国の第八王女、フィオネだって性格悪いじゃん。

アデライなんか、クソ野郎だしフィオネも下心丸出しだし。

なんであの二人が合格で、私たちが不合格なの?」


そんなイレーネの言葉にも女神アフロディーテが動じることはない。

凛としたままだ。


「ここでさっきの、間違い、やっぱり合格ってならないの?」

とイレーネ。


「そうしてよ、それならみんなが幸せなんだから。それですべて上手くいくんじゃん」

イレーネの懇願に

アフロディーテは答えようともしない。


「もう、聞いてるの?

こんなに頼んでるのに、無視なわけ?女神だからって偉そうに、

もう、マジ頭きた、このくそばばあ」


言ってしまった。

女神に対して、こんな暴言を。


その瞬間、女神アフロディーテが右手を高く上げたのが見えた、

と同時にハンスとイレーネはその場から消えていた。


ハンスとイレーネ、二人だけで、全く知らない国の、全く知らない街の、全くしらない場所に立っていた。

「ここはどこだ?」

ハンスが周囲を見渡したが、そこは明らかに「アデーレ国王」ではなかった。













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