ドナドナJCギャル
簀巻きにされて森の中を担がれているのは、メルヴィンという戦士をロリコン呼ばわりしたせいだった。
うん。どう考えても私が悪い。
痴漢冤罪で逮捕させた加害者みたいなもんだし。
あれって、マジで人生崩壊させるらしいしね。
そりゃ殴られて当然かも。
しかし、どんな勢いで殴ったんだ。
頬が人生で一番の痛みを感じているんですけど。
殴られることは初めてではないから泣きわめいたりはしないんだけど、女子を問答無用で殴りつけてくるなんて、あの人モテないね。
年上の男性にはイケメン度よりも包容力を求めるものですわ。
ちょっとイジられたからってガチギレはあきまへん。
そんなことを思っているとエノーラが近づいてきて、顔を覗き込んできた。
エノーラさんはやはり超絶美人。
ワンレンのサラサラ金髪に大きめ瞳。
さらには長いまつげ。
そしてローブというタイトな服装でより強調されるお胸とくびれ。
完璧だわ。
これは嫉妬するどころじゃない。
もはや神と崇めるくらいのレジェンド級女優クラス。
私はグルグル巻きにされているので実際にはできないけど、心の中で手を合わせて「ありがたや」と言って拝ませていただきます。
そんな女神エノーラさんは私の頬を見て悲しげな表情を見せた。
「メルヴィン、やりすぎですよ。こんな年端もいかない少女を殴るなんて。頬が青いアザになっているわ」
エノーラさんが私の頬に手を伸ばしかけた時、メルヴィンの声がそれを制した。
「ダメだ。甘やかせてはいけない。教養なき者には人権はないんだ。反省するまで私は手を上げ続ける」
おお、なんと恐ろしい。
今の時代、教育的指導ですら逮捕になるというのに鉄拳制裁が当たり前とは。
異世界と思われるこの場所はかなり文明度は低いかも。
文明度が低いと文化的生活も遠い。
文化的生活が整っていなければ娯楽も嗜好もない。
こりゃスイーツとか甘い飲み物とか期待はできそうにないな。
一日に三回のスイーツタイムを設けていた私、高木小波。
グミとチョコとマシュマロを心の安寧にしていた私。
果たしてこの世界で生きていけるのかしら。
私が暗い顔になったからか、エノーラはますます心配そうな顔になる。
「ほら、あなたが脅すから小波様がますます落ち込んでしまったわ。回復魔法をかけてもよろしくて?」
おお、なんとお優しい。
ますます惚れてしまうわ。
あなたが私を様付けで呼んでくださるのでしたら、私はあなたのことをエノーラお姉様とお呼びいたします。
お姉様、どうかこのふらちな私を癒やしてくださいまし。
私が悦に入ったところで、メルヴィンの野太い声が邪魔をする。
「するな。こいつには反省が必要だ。王都に着くまで痛がらせとけ。ほら、馬車についた。乗せろ」
くそ。お姉様との蜜月を邪魔しやがって。
つーか、馬車?
顔を上げるとマジで馬がいた。
茶色で黒毛。パンパンに膨らんだお尻と足。
競走馬はセクシーだと聞いたことがあるけど、これは確かにエロいかも。
しかし、臭い。
臭いだけなら我慢できなくもないかもだけど、その馬の後ろにある荷台はなんだ。
木で作られた牢屋みたいな形だ。
箱型で、入口が格子状にはめられた木製のドアがある。
メルヴィンはそのドアを開けて、「入れろ」と指示をした。
そして抱える男たちが中に入って私を床に転がす。
「何かあったら叫んで伝えろ。馬車は音がひどいから叫ばないと聞こえんから大声でな」
そう言うと男たちは降りてバタンとドアを閉めて鍵をかけた。
そしてゆっくりと馬車が動き出す。
サスペンションとかないみたいで、地面の揺れがダイレクトに振動として伝わってきた。
他の人たちは別の馬車に乗っているようで、複数の馬の足音が響いてとってもうるさい。
動き出して一秒で確信した。
これはたぶん酔うぞ。
吐いたらどうしようなどと考えながら私は天井を見ていた。
頬のズキズキも、振動のせいでますます痛くなってくる。
本当に手加減しなかったなぁ、さすが団長。
メルヴィンの一撃は重く、何時間たっても痛みが抜けないだろう。
それだけ恨みが深かったってことか。
性犯罪者ってレッテルって、それぐらいやばいことなんだな。
あとでちゃんと謝らないといけない。
謝罪としてエロいダンスでも踊って見せてあげれば、少しはテンションあげてくれるかな。
それで興奮してやらせろとか言われながら迫ってきたら殺すけど。
さて、そんなことはあとで考えればいい。
それより現状を確かめてこれからのことを考えないと。
私は床に転がされた情けない姿のまま、これからの対策を練るのであった。