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脳内反省会

 洞窟を出ると、そこは大自然に囲まれていた。

 日本の穏やかな自然ではない。


 例えるならば、動物アニメで出てくるジャングルみたいなそんなイメージ。

 ぶっとい木々が造林されることなく無秩序に生え、わさわさとした葉が空を覆っている。

 その木には共生関係だと思われるツタやコケがびっしりと取り付き、触っただけでツルに巻き取られそうだ。

 木の根には赤や青、紫といったカラフルで巨大なキノコも生えている。


 絶対に毒だろ、こいつら。


 私は周囲を観察しつつ運ばれる。

 残念ながら運ばれている。

 完全に捕獲されて。


 全身をロープでガチガチに縛られ、丸太のようにえっさほっさと持ち上がられていた。

 屈強なイケメンに担がれるのは悪くない。

 想像力を駆使すれば、お姫様だっこされているという妄想もできなくはなかった。

 ただ、殴られた頬が痛すぎて、どんなに妄想してもすぐに現実に引き戻されるのだけど。


 なぜ、こんなボロ雑巾みたいになってしまったのか。


 考えれば考えるほど自業自得だ。

 私の数少ない欠点の一つ、口の悪さが災いしてしまった。

 どうせしばらくこうして運ばれるだけなのだから時間はある。

 その間は何があったのかを回想して反省するとしよう。


 私はギャル。

 後悔はしないけど、ちゃんと反省はできる前向きポジティブな女子なんだから。

 そう思い、木漏れ日の先のピッカーンな青空を見ながら脳内反省会と言う名の回想が始まる。


 腕の炎が消えた後の戦士のエルフは満身創痍だった。

 このままじゃやけどで死ぬんじゃないかな。

 そう心配した時だった。


「民を守りし傷ついた勇者に神の癒しを与え給え」


 超絶エロエルフの言葉で光った黒焦げのエルフはすぐに傷を回復させた。

「エノーラ、助かる」

 戦士のエルフはそう感謝の言葉を送った。


 なるほど、超絶エロエルフはエノーラという名なのか。

 あとで友達になろう。


 それにしても、すっかり彼らの言語がわかるようになった。

 あまりにも突然理解できるようになって驚いているんだけど、彼らの言葉は実はお父さんから教わったことがある。


 記憶の中のお父さんは言う。


「いいかい、小波。この言葉はきっと君を救う。だからちゃんと記憶して心の大事なところにしまっておくんだよ。そしてお風呂に入る時に繰り返し練習するんだ。人前ではダメだ。誰にも知られてはいけない言葉だからね」


 そんな話を一緒にお風呂に入った時に何度も聞かされた。

 その時の私はお父さんのデカい股間の方が気になって話半分に聞いていたけど(勃起はしていなかったけど超絶にデカかった)、何度も繰り返し話してくるから全部覚えた。


 小三になってからは一人でお風呂に入るようになって一人で練習している。

 それは今日まで毎晩続けてきた習慣だったので、コツを掴んだ今は母国語みたいに理解できた。


 だから私は何のためらいもなく、彼らの言葉で語りかける。


「ねえ。私には戦う意思はないの。だから暴力はやめてくんない?あの炎の腕も、もう出さないからさ」


 その言葉で彼らは私に注目した。

 その顔は誰も彼も複雑そう。

 警戒している人もいれば、怯えている人もいる。


 そりゃそうだ。

 向こうがドッチボールみたいな炎を投げつけてくるだけなのに、私の炎は超巨大火炎放射器だもんね。

 ビビるのも無理はないよ。


 私の言葉に最初に反応したのはさっき黒焦げになった戦士のエルフだった。

「お前の言葉を信用しろと?」

「お前ってやめてよ。私は高木小波。小波って呼んで」

「誰がお前の名を呼ぶものか」

「でも、私は仲良くなりたいからあなたたちを名前で呼ぶわ。親しき仲は呼び方からってね。エノーラさんの名前は覚えた。超絶巨乳美人で素敵で可愛い名前!」

 名指しされたエノーラは驚いた顔を見せた。

 そして優しげな顔で微笑んでくる。


 おお、やっぱり美人。

 しぐさもかわいいじゃん。


 あまりの美しさに見惚れてよだれが出そうになったけど、戦士のエルフが現実に引き戻してくる。

 戦士のエルフは仲間の方を振り返って叫んだ。


「惑わされるな!こいつは闇に落ちた者だ。甘い顔をしているとつけ込まれるぞ」


 むっ。なんだかバカにされている気がする。

 闇ってなんだよ。

 闇ってことは影で悪いことをしているってことでしょ。

 私、ギャルだけど悪いことしてないし。

 そりゃ、たまに大学生のふりをして夜にカラオケ行ったり、譲ってもらったチケットでライブに行ったりはしたけどさ。

 それくらいで悪い子なんて言われる筋合いはないっつーの。


「ちょっと。私、何も迷惑かけてないよね。なのに炎ぶつけてきたり、悪口言われたりしてかなりムカつくんですけど。何か文句があるんだったらはっきり言ってよ」


 そう言うと戦士のエルフはすげー睨んでくる。

 マジびびる。


「お前の存在そのものが悪だ。なんだ、その姿は。魔術に重要な髪はくすみ、魔法の発動に大切な瞳を濁らせ、さらに神聖魔法に関わる肌に劣化をもたらしている!その姿は闇に落ちた者としか言いようがない。お前は誇り高きエルフの血を穢しているのだ!」


 あー、なるほど。

 言っている意味はさっぱりわからんけど、どうやら生活指導の先生と同じ価値観なわけね。


 学生たるもの、清く正しく清純に。

 髪は真っ黒ストレートしか許さん。

 人工的な日焼けなど不埒の極み。

 カラコンを入れて人との区別を作るな。

 女の子はおしとやかで大和撫子にならないといけないのだ!


 そんなロリコン目線の頭の固いデブハゲ思考と同じなわけですね。

 バカらしい。クソじゃん。

 こっちは生まれた時からずっと異端なんだよ。


 子供の頃から金髪碧眼。

 耳だって長い。

 生まれたままで過ごしてきたら、圧倒的多数からのいじめや偏見の目にさらされてきたんだ。

 幼稚園の時なんか、大人の言う事に従っておしとやかに過ごしてみたら「ぶりっ子!」って指さされていじめられたんだぞ。


 それに対処してきて今の私があるんだ。

 それなのに大和撫子になれというバカげた上から目線の大人の命令に従うもんか。


 幼稚園の嫌な思い出が蘇ったついでに、もっと嫌な記憶まで蘇ってきた。

「きみぃ、お人形さんみたいでかわいいねえ」

 そう言いながらよだれを垂らして近づいてくるキモいおっさい。

 うわ、超絶トラウマが。


 ぞぞ、と鳥肌が立つと同時に、戦士エルフの言い草が怒りに火を注いでイライラのマックスを迎えた!

 私は戦士のエルフを指さしながら叫んだ。


「うっせえ!このロリコン!黙りやがれ!」


 戦士のエルフは顔をひきつらせながら仰け反った。

「な、なにを言う」

「うっせえ!てめえが言っている押し付けは完全に幼女趣味のいかがわしい妄想だ!生まれたままの姿が美しいだとぉ?子供で性欲を満たそうとする下卑た目線をこっちに向けんな!このロリコン!黙れロリコン!」


 うむ。言ってて完全に冤罪だ。

 被害妄想も甚だしい。


 しかし、言ってしまったので後には引けない。

 それに若干の快感。これがいわゆるSなのかな。

 大人の男性を悪しざまに糾弾するのはなんかちょっとだけ感じちゃう。


 快楽の余韻に浸りながら、「ロリコン!ロリコン!」と連呼していると、周囲は疑いながらも洗脳されてきたみたい。

 私が叫ぶたびに周囲の、戦士のエルフを見る目が冷たくなってきた。


「そんな性癖があったとは」

「子供をそんな目で」

「メルヴィン団長、さすがにそれは」

「軽蔑します」

 男女問わず、ボソボソと非難の声が聞こえだした。

 

 けけけ。ざまー。

 メルヴィンって言ったっけ。

 私に刃物を向けるからこうなるんだ、ばーか。

 偉い立場なのに転げ落ちてて草。


 そう思って笑っていたところ、急にメルヴィンが振り向いた。

 そして目があう。

 その瞬間、察した。


 あー、これ、殴られる奴だわ。


 マジギレしてる。

 直感でそう気づくくらい、目に血がほとばしっていた。


 次の瞬間、メルヴィンの姿が消えた。

 消えたと思ったら黒い影が目の前に現れ、強烈なフックが右頬に。

 そして目の前が真っ白になって気絶したのだった。

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