マフーバの提案
ハインはエイダの腕を取り、首に剣を当てている。
残りの二人はエイダが逃げ出さないようにハインの背後に控え、後の二人は少し距離をあけて周囲を警戒している。
さて。私はどう動くべき?
その一。
彼らの言う通りに屋敷に戻って誰かを呼ぶ。
メルヴィンがいたから彼が来るのかな。
しかし、そうなると。
うん。嫌な予感しかしない。
ハインが言ってたみたいに、彼らエルフは自尊心の高い人々。
上から目線の彼らが穏便な方法を取るはずがないじゃん。
最悪、ハインたちは殺される。
死を目の前にすれば、ハインがエイダを害する可能性は充分にあると思う。
ハインが死ねば、捕らえられたというゴブリンの人たちも不幸のまま。
超絶バッドエンド。
後悔しか残らない最悪の結果。
平和の使者とも言うべきギャルの取るべき選択肢じゃない。
では、その二。
エノーラと協力してエイダを救い、ハインたちを降伏させる。
お、めっちゃいい案じゃない?
これなら少なくとも、この場にいる全員が助かる。
ウィンウィンのハッピーハッピーじゃん。
問題はエノーラがハインたちを殺さずにいてくれるかってことだね。
エノーラはなんだかんだ近衛騎士団の副団長。
責任感も強いと思う。
ましてや、直属の部下が拘束されたとなると、あの温厚な巨乳美人でも怒り狂うかも。
優しい人ほど、怒らせると怖いしね。
過去に優しい人を怒らせた経験がある、軽はずみ女王の私が言うのだから間違いない。
なんとかエノーラと話をして、穏便に収めることはできないかしら。
「それは無理だ」
マフーバがそう断言をする。
いや、ちょっと待ってよ。
そんなの話してみないとわからないでしょ。
「エノーラにそのつもりがないということだ」
どういうこと?
「エノーラはこの事態に気づいておる。息をひそめ、ゴブリンたちの隙を伺っておる。すでに魔法の発動の準備を整え、ハインに向けて放つタイミングを図っているのだ」
おお、もう臨戦態勢かよ。
さっきの魔法の練習でわかったけど、エノーラは色んな魔法をそつなくこなしている。
きっと、いざ戦闘が始まると音もなく攻撃を繰り出し、ハインたちを殲滅するに違いない。
エイダは助かるだろう。
だけど、ちゃちな武器しか持っていないハインたちはなすすべがないな。
私は、ハインたちも助けたい。
理不尽に侵略され、無理やり仲間を連れていかれるなんて。
仲間は金より大事な絆。
仲間を奪うなんてそんな横暴、絶対に許されてはいけないもん!
でも、魔法もろくに使えない私ではどうしようもない。
誰かが死ぬのを指を食えて見てろっての?
そんなの、絶対に嫌だ!
はあ、というため息が聞こえた。
マフーバが呆れているらしい。
「では、我が手を貸そう」
いや、ちょっと待って。
あんたが暴れたらハイン死ぬじゃん。
しかも下着しか身に着けてない私から何か取るんでしょ。
私の下着をひん剥こうってわけ?
あんたもロリコンなの?
上と下、どっちを取る気?
「失敬なことを言うでない。お主の体に魅力はない」
ぶっ殺すぞ?
「お主が別世界の人間を自分の力で呼び出せばよい。お主の魔力から生み出すのであれば我は代償は要求しない」
え、マジ?
そんなことできるの?
ロリコンって言ってごめんね。
でもどうすれば。
「では我がエノーラのように教授してやる。ただし、お主の力は未完成がゆえに不安定だ。誰が来るのかはわからんぞ」
つまり、ガチャね!
望むところ。
私、くじ運はいいのよね。
私は目を閉じて集中する。
この窮地を助けてくれる誰かを呼ぶために。