犠牲になったカラコン
ソフィアとの謁見が終わった。
そこで決まったのは以下の通り。
・私はここでは客人として滞在する。
・私は魔王との対決にそなえて、魔法の習得と鍛錬を行う。
・ソフィアとは時間があれば一緒に話をしたり、食事をしたりする。
・イケメンエルフのブレンダンは週に一回私と会ってお話をする。
・私のお世話は基本的にメルヴィンとその配下が行う。
最期の項目はメルヴィンは近衛騎士団の長で、ソフィアの客人ということで元々彼が責任者だったらしい。
メルヴィンも基本的には忙しいので、お世話はメルヴィンの配下のエノーラを中心に、メイドのエイダ、パトリス、ペネロビ、ソニアが面倒を見てくれる。
エノーラは洞窟であった超絶巨乳エロエルフだから覚えているけど、メイドの子たちは幼いエルフだからか、みんな同じ顔に見えちゃう。
慣れるのに時間がかかりそうだ。
ソフィアの部屋を出て、私とメルヴィンは廊下へと戻った。
ブレンダンはソフィアのところに残るらしい。
イケメンと離れるのは残念ではあるけど、さっきのお誘いを本気にされても困るので助かったといえば助かった。
それにしても草原から家に戻ったので外出から帰った気分になったんだけど、厳密には部屋から部屋の移動なんだってさ。
実際に草原から戻っても靴には泥一つついていなかった。
風も大地もすべてソフィアの魔力で作られたものだから、たとえ裸足でも泥はつかなかったんだって。
魔法ってすごいね。
その魔法を、これから私は習って会得していくことになる。
ギャルの外見のせいで魔法の発揮も習得も難しいらしいけど、日焼けも茶髪も徐々に落ち着くし、カラコンは外せば終わり。
いずれはありとあらゆる魔法を習得して、いずれくる魔王との決戦の時には兵器として活躍するらしい。
世界人類みんな友だちピースフルな人生を目指していた私にとっては真逆な人生となりそうでガッカリしている。
しかし、胸の奥に秘めたギャル心はたとえソフィアであっても消し去ることはできない!
従わなきゃいけない時は従い、あらがう時は何が何でもあらがう。
メリハリをつけていかないとただの言いなりで人生が終わってしまいそうだ。
私は頬を叩いて、少し気を引き締めた。
せっかく私が覚悟を決めたという時に思念が聞こえてきた。
「そういえば、先程のミノタウロスを倒した代償をもらっていなかったな」
げっ。まだ私から物を取るんかい。
てか、私の体を後払いするって約束で契約したんだから追加徴税は違法でしょ。
「いいや。我もお前が死ぬまで飲まず食わずは耐えられん」
いや、さっき喰ってたじゃん。
ミノタウロスというデカブツ。
「まずい。腹は膨れても心が満たされん」
おいおい。
食後にスイーツ欲しがる女子かよ。
デブるぞ。
「いやだ。何か食わせろ」
わがままだなあ。
それじゃ、靴下とか?
「ふざけるな。もういい。勝手に食う」
子供か!
抗議の心の声も虚しく、一瞬、目の前が光に包まれる。
え、まぶし。
あれ、なんか目がスースーする。
「瞳の鱗、実にうまい」
こいつ、カラコン食いやがった!
マジかよ、ギャルの魂を食うな!
ああ、ショックでかし。
さらば、大きな茶色の瞳。
光ったのが周囲にもわかったのか、私を先導するメルヴィンが振り返る。
「どうかしたのか、おっ!」
なんか歓喜の声をあげてる。
なんだよ、初めてだな。そんな嬉しそうな顔。
「よく見せろ」
そう言って私の顔を両手で掴みやがった。
「やめろ、変態、ロリコン!」
ばたばたと暴れるけど、すんげえ力で全然離れねえ。
メルヴィンはじっと私の目を見つめ、そしてうっとりした表情でため息をつく。
「目の色の淀みがなくなった。綺麗な水色だ。なんと素晴らしいことか。これでいっぱしのエルフに近づいたということだ。説得が功を奏したのか。さすがはソフィア様だ」
てめえ。ソフィアのおかげと思ってんのか。
なんかムカつく。
まあ、カラコン自体、今日外せばもう使えないからいいんだけど。
でも無理やり剥がされて、意図せず喜ばれたのがムカつく。
まったく、異世界人も悪魔もムカつく奴ばっかだ。