JCギャル、洞窟で目覚める
ピチョン、ピチョン。
なんか水音してる。
あー、もう、誰か水道の蛇口をちゃんと閉めなかったな。
ちぇっ、ぐっすり寝てたのに。
どうせ私のせいにできるからって、いい加減なことばっかしているからな、ここの住民は。
私、高木小波は召使いでも奴隷でもないっつーの。
でも放置していたら、またババアがうるさく怒鳴りつけてくるんだろうな。
さすがにうぜえ。
まったく、お父さんとお母さんがいなくなってから不幸への道を猫まっしぐらに進んでいる。
お父さんのお母さん、つまり祖母、厳密に言うとババアの家に引き取られたのはいいものの、ババア、叔母夫婦、いとこたちからすっかり奴隷扱い。
朝早起きして家中の掃除と洗濯。
学校から帰ったら買い出しに料理。
寝る前に皿洗いや風呂掃除。
本当にこき使われてる。
友達がいなかったら今の生活が嫌になりすぎて、家出でもして歌舞伎町あたりでなにかをしゃぶっているのかもね。
さて、冗談ばかりも言ってられない。
絶望を乗り切るためにも友達と楽しく過ごして今日をいい日にしなければ。
そんなことを考えながら、掛け布団を掴んで起き上がろうとした。
むく。
起き上がれたことは起き上がれたんだけど。
「あれ?掛け布団がない」
布団を掴むつもりで伸ばした手はスカッと空を切った。
いや、違和感は掛け布団がないことだけじゃなかった。
「背中が痛い。私、床で寝ていたっての?なんでよ、まったく」
そう思って床と思ったそこに手が触れた時、ジャリっとした感触に驚いた。
「げっ、床じゃなくて地面じゃん!しかも、ここは岩場?つーか、洞窟にいんの?うわっ、水も滴ってる。てか、いたっ!背中痛い痛い!」
背中一面、やけどしたみたいに痛い。
どうやらゴツゴツした地面が背中に傷をつけたっぽい。
もう、なんなのよ。
真っ暗だけど、ところどころロウソクの火のような揺らぐ明かりがある。
薄らぼんやりだけど、周囲の状況は確認できた。
それで上下左右が石の壁で覆われていることがわかった。
だけど、なんでこんな場所で寝てるのよ。
ん?なんか地面が光っている。
まるで私を囲うように青白い光が円になってる。
しかもただの円じゃない。
円の縁には梵字のようなよくわからない文字。
そして円に収まるように星みたいな印があった。
なんじゃろか、これは。
しかし、それもだんだんと消えていく。
消えゆく光の中で地面の状況がかろうじて浮かび上がっているので地表の様子はよく分かる。
寝ていた場所はゴツゴツと尖った部分も多い。
それが背中に傷をつけていた。
くそっ、キレイな背中だったのに傷が残ったらどうしてくれる。
せっかく容姿だけは可愛く生まれたってのに。
生まれながらの透き通るような金髪(目立つので茶色に染めたけど)、キメの細かい白い肌(ギャルなので日焼けしてるけど)、神秘的な水色の瞳(以下略で茶色のカラコンつけてる)。
胸がないのでパット入りブラなのはご愛嬌。
まったく。
そう思って髪を撫でると。
「うおっ!耳がなげえ!」
ひょっこりと突き出した耳。
手のひらぐらい長くなっている。
「くそ。幼稚園の時から短くなって、ようやくイジられなくなったのに」
そう、子どもの頃は耳が異様に長かった。
幼稚園の時はよく男子に引っ張られ、ファンタジー映画やRPGにふれる年齢になると「エルフだエルフ」と言われてからかわれた。
ただ年齢を重ねるごとに耳が小さくなったので安堵していたのに。
ふざけんなとしか思えない。
まあ、欠点もいくつかはあるけど、全体的に私はかわいいと思う。
外見の良さがダサい服で見劣りしないように服装だって気をつけている。
今日だって先輩に譲ってもらったブラウスに自分で可愛い刺繍をしたやつを着てるし、スカートはお母さんが履かなくなった(履けなくなった)ものを自分で補修したのを履いてるもん。
その上に羽織っているコートだって、古着屋で値切って値切って値切りまくってなけなしのお金で買ったやつだし!
そんな可愛いことに努力を惜しまない私の肌を傷つけるなんて!
神様でも許さないっ!
「誰よ!私をここに連れてきたのは」
怒りの勢いで叫びながら顔をあげたら、びっくりして心臓が止まりそうになっちゃった。
私の声に反応したのか、大勢の足音が響いてきたのである。