エルフの国と族長
ぶーちゃんが消えた後、気づけば私はまた寝ていた。
中途半端な時間寝ていたようで、目が覚めると気分が悪い。
しかも外はガヤガヤと騒がしかった。
揺れてはいないので馬車は止まっているみたい。
外の様子は気になるけど、眠気が勝って起き上がる気がしない。
馬車のそばに人がいっぱいいるみたいで、扉越しに女性の声が聞こえた。
「では、こちらにいっしゃるのですか」
「はい。ひどく暴れたので拘束しております」
そう答えたのは団長のメルヴィンの声。
いや、カッとなって殴ったのはお前だろう。
寝起きと事実無根でイライラしていると、入口を塞いでいた扉が開いた。
外は快晴のようで、あまりの眩しさに私は目をつむる。
そして恐る恐る目を開けた。
びっくりしすぎて心臓が止まるかと思った。
雲一つない快晴の下、ヨーロッパみたいな街並みが広がっていた。
道路はレンガが敷き詰められて舗装されている。
建物もレンガで作られているようで、軒先では物が売られたりもしていた。
人が多く、賑やかで、でもみんな同じようなローブを身にまとって統一感がある。
なるほど中世ヨーロッパのイメージそのもの。
とてもキレイな街だ。
電線もないので余計にキレイに見えた。
街は非常に発展していて、大通りには無数の馬車が行き交っている。
ここはエルフの街のようで、お店に出ている人は皆エルフ。
買い物をしている人もエルフで、子供にもエルフがいる。
子供のエルフは超かわいい。
一応、他の種族もいるみたい。
犬みたいな顔なのに二足歩行していたり、緑色の小人がいたり。
この世界にはいろんな種族が一緒に暮らしているようだ。
でも仲良く協力しているわけではないのかも。
犬みたいな種族はムチで打たれているし、緑の小人は首をつけられている。
奴隷みたいな制度でもあるのかもしれない。
そんな景色が広がっていた。
ぼんやりと街の様子を観察していると女性から声をかけられた。
「あら、起きていましたか」
一人の女性が荷台の外から覗き込んでいる。
とても綺麗な女性だった。
身長はたぶん一七〇センチくらい。
細身で真っ白なローブを着ている。
それだけでも目を惹かれるのだけど、もっとも目を奪うのはその髪の美しさ。
腰まで伸びたストレートの金髪。
空の下では透けているみたいに色素が薄い金髪。
その髪から耳が飛び出している。
十五センチくらいはある長さ。
私の耳も友達と比べたら尖っているけど、まったく比較にならないほどに長い。
それは私には異質に思えるけど、それでもトータルで絶世の美女だった。
「お姉さん、綺麗」
つい口から本音が。
慌てて口を閉じたのだけど、その人には聞こえていたようで嬉しそうに笑った。
「あら、ありがとう。お上手ね」
「いえ、本当です。私が男なら結婚したいです」
「あらあら。でも私、おばあちゃんなのよ。男性に興味を持たれる年齢ではないの」
なんと。こんなに美しい女性がおばあちゃんですと!
髪は綺麗、姿勢も美しい。
それに肌もきめ細かいし、唇もいい色。
エイジングケアの達人とお見受けした。
なんとしても、この方と仲良くなって美容談義できるようにならなければ。
新しい使命に私の心は震える。
その美しい貴婦人は団長をキッと睨みつけた。
「メルヴィン。この方はお客様だとお伝えしたはずですよ」
貴婦人の言葉に、メルヴィンと呼ばれた団長はひざまずいた。
「申し訳ございません、族長。この者は私に不敬を働いたのです。一時的に身柄を拘束させて頂いたのです」
うそつけ。
確かにロリコン呼ばわりは不敬だったかもしれないけど、もとはと言えばそっちが攻撃してきたからじゃん。
そうでなければさすがにロリコン呼ばわりはしなかったわい。
すべてメルヴィンが悪いんだ。
それにしてもこの美しい貴婦人が族長なのか。
見た目は二十歳後半から三十代前半。
こんなに若々しいのに長ってことは相当なやり手なんだろうな。
おばあちゃんって言ってたから、実は四十代なのかも。
お父さんも見た目は年齢に比べて超若かったから、そんな人もいるんだろう。
その若々しい族長さんは私に頭を下げる。
「突然お連れして戸惑っていることでしょう。驚かせてしまいすみません」
「めっちゃビックリしてます。私をここに呼んだのはあなたですか?」
「はい、そうです。込み入った事情があり、私たちはあなたをこの世界に召喚いたしました」
召喚。どうやらぶーちゃんと話していたことはビンゴだったみたい。
私はこの人に召喚されてこの世界にきた。
こんなにキレイで優しいのに、私を兵器にしようとしているのか。
人ってわからないものだね。
私がうんうんと頷いていると、族長は私に笑顔を向けてきた。
その笑顔には不思議と安心感がある。
「理解できないことが多いでしょう。詳しく説明いたします。場所を移しましょう」
そう言って族長は手にしていた長くて立派な杖の先を私に向けた。
ハラハラハラ。
おや、ロープがバラバラになった。
呪文とか言ってないのにすごい。
尊敬して族長さんを見ると、彼女はさらに優しく微笑んできた。
「これが魔法ですわ。ご安心ください。私たちはあなたに危害を与えるつもりはありません。協力していただきたいことがあるのですが、そのことも場所を変えて話しましょう。場所はこの者たちが案内します。では私は先に行っていますので後ほどよろしくお願いします」
そう言って族長は先を歩いて行った。
杖を持っているけど、背丈を超える重そうな杖。
きっと体を支えるものじゃないんだろうな。
その証拠に族長さんはすぐに見えなくなった。
足取りも軽いので、余計におばあちゃんには見えないんですけど。
私は首をかしげて馬車の荷馬車から彼女の背中を見つめていた。




