JCギャル、拾われる
十四年前の冬の日、高木夫妻はひとつの奇跡に遭遇した。
深夜の住宅街の路地は寒風が吹きすさみ、夫婦は身を寄せあって帰路を歩いている。
夫婦がうつむくのは寒いからだけではない。
高木夫婦には仕事がなかった。
高木夫婦にはお金がなかった。
高木夫妻には粗末な部屋しかなかった。
高木夫婦には家族がいなかった。
高木夫婦には子供がいなかった。
それでも夫婦は幸せを望んでいた。
幸せな家庭を求め続けた夫婦だったが、その日の二人は沈んでいた。
決まりかけていた仕事がなくなり、かつて家族だった者から絶縁状まで届き、唯一の心の支えであった未来の子供も生まれる見込みがなくなった。
夫は妻に言った。
「別れよう。君は君の幸せを求めたほうがいい」
それに対して妻は笑顔で答えた。
「あなたといるのが一番の幸せなの」
そう言い合って夫婦は笑った。
しかし、二人の心は絶え間ない試練の連続で限界に近かった。
このままでは共倒れしかねない。
二人にはその予感があった。
この危機を乗り切るためにも、せめて希望があれば心の支えになるのに。
二人がそう強く望んだその時だった。
突如、二人が歩む先の地面に青白い光が生まれた。
円状に輝いているので、初めはマンホールが光っているのかと思った。
だが、それがマンホールではないことはすぐにわかった。
なぜなら五芒星が浮き出ていたから。
そして、その印から強い光が放たれる。
目にも眩い、強い光。
夫婦は目をつむり、お互いをかばい合うように抱き合っていた。
何が起こるかわからない未知との遭遇に怯えながら。
だが次の瞬間、妻は夫の手を払って前に出た。
「あそこに赤ちゃんがっ!」
夫は目を細めながら前向く。
眩しい光源に小さな姿があった。
まごうことなき、生まれたばかりの子だった。
眠っているのか、動いてはいない。
夫は妻をかばいながら一歩ずつ前に足を進める。
二人に未知なるものへの恐怖はあった。
だが、目の前に救わなければならない命がある。
その使命が夫婦を動かしていた。
恐る恐る近づき、夫婦は赤子に手を伸ばした。
五芒星が発する光に触れた時、ビリッと痛みが走ったが夫婦の手は止まらなかった。
夫婦は赤子を取り上げた。
赤子は眠っている。
胸は確かに動いていた。
妻が抱きかかえ、夫が妻を光から遠ざける。
赤子が離れたからか、光は電池が抜かれた電球のようにすぐに消えた。
そして光が消えると同時に、赤子は火が付いたかのように泣き声を上げる。
まるで光が赤子を守っていたかのようだ。
夫にはそう思えた。
妻は赤子をあやすのに夢中だ。
まるで自分が産んだ子供のように愛しい眼差しで赤子をあやしている。
その時、夫は冷静であった。
彼はじっくりとその赤子を観察する。
夫の目にはその赤子は異常に思えた。
生えた髪は薄い金色。
そして異常に尖った耳。
普通の赤子には見えなかった。
しかし、その赤子をあやす妻の顔は幸せそうだった。
その幸福感がすぐに夫までもを包み込む。
こうして赤子は夫婦の子供となった。
子供を切望していた夫婦の生活は喜びに満ちたものとなった。
その幸せは夫婦が不慮の事故に巻き込まれるまで続くのであった。