リヴァノール第11話 誓いは永久に
爆音と同時に落ちてきたのは、さっき別れた筈のアイリさんだった。
「大丈夫ですか、アイリさん?!」
「あ……あははは……びっくりした~……あ、いたたたっ!」
落ちた時に、腰をしこたま打ったらしい。
「どこに行ったんですか?」
「謁見室に入ったら、いきなりだもん。まともに吹っ飛ばされちゃった」
謁見室って、確か3階……
天井を見上げる。大きな穴が上の階まで続いていた。
「そういえば、この上が丁度そうだったか。しかし、よく無事だったな」
「勢いに押されて吹き飛ばされちゃったけど、炎の魔法だから助かったよ」
炎の魔法……ということは、まさか?!
「その魔族、赤い髪をした女性じゃなかったですか?」
「へぇ、レーコ知ってるの?」
「知っているも何も、セラじゃないですか……」
その名前に、陽子さんがビクリと反応する。カルスさんも顔色が変わった。
「お、おい、セラってまさか」
「そうです。紅蓮のセラですよ」
「あ、あの人が、紅蓮の……?!」
ショックだったようだ。その場にしゃがみこんで小さく震えている。
ノエルとツヴァイが来ていれば、当然彼女も来ていることは予想していた。だけど。
「だけど変ね、いつものセラだったら……」
陽子さんが私の気持ちを代弁する。
彼女の性格なら多分今頃私たちと鉢合わせしているだろう。
「ああ、追って来なかった所を見ると、死んだと思ったのかも知れねぇな」
「別の目的があるんではないでしょうか。陽子さんが去った後のようでしたし」
「と、とにかく一旦王宮から離れるぞ。まだ居るかも知れないからな」
カルスさんの一言で、私たち4人は王宮を一旦後にすることにした。
魔の気配が消えたことで、街の中もいつもの平穏さを取り戻していた。
門の前で皆と別れた私は、学園に行ってみることにした。
「ここも、酷いですね」
思わず呟いてしまった程、門が崩れてしまっている。
でも、人的被害はあまり無かったようだった。
あれだけ人が居ればなんとかなってしまうのかもしれない。
それに、王宮と反対側に会ったのも、被害を少なくさせた要因だろう。
人込みの中に、見覚えのある顔を見つけた。リュートさんだ。
彼女も私を見つけたらしい。声を掛けようとしたが、向こうの方が早かった。
「レーコさん、ちょっとよろしいかしら?」
「は、はい」
人垣を掻き分け、無人の校舎の中に入る。
「しばらく学園は封鎖するらしいですわ。当然といえば当然ですわね」
「ええ……」
あれ? リュートさん、もしかして……
私は、彼女に違和感を覚えていた。何か凄く辛そうな……
「ふふ、貴女にはお見通しのようですわね」
そう言って、彼女はスカートをたくし上げる。
やっぱり……包帯が……
左足を庇っているように見えたのは、気のせいではなかったようだ。
「こういう結末になったのは残念でしたけど」
立ち止まって私に向き直る。彼女は笑顔だった。
「まだ決まったわけではありませんわ。そうでしょう?」
「リュートさん、足、診せて下さい」
「どうしてわざわざ貴女に……」
「いいから診せてください」
「判りましたわよ、見せればよろしいんでしょう?」
無理やり同意させ、包帯をはがしていく。
「痛っ!! ちょっと、もう少し優しくできませんの?!」
傷口は、かなり深かった。彼女の魔力では、止血だけで限界だったのだろう。
「相当、無理してたんですね」
「余計なお世話ですわ。大体、貴女に見せたところで……え?!」
私の治癒魔法が彼女の傷口を塞いでいた。
「もう、大丈夫ですよ」
「……全く、相変わらず、お人よし、ですわね」
リュートさんの瞳からは、涙が溢れていた。
「アイリには、黙っておいて頂けますこと?」
「それで、貴女はこれからどうなさるんですの?」
「判りません。もう教会にいる意味も無くなってしまいましたから」
私の言っている意味が理解できたようだ。彼女の表情が少し暗くなった。
「そう。では、自分の家に帰るのかしら?」
「家には……二度と戻らないと思います。そのつもりで出てきたんですから」
「あら、そんなに自分の国がお嫌い?」
そこまで言いかけて、話題が変わった。
「そういえば、私貴女の出身をまだ聞いていませんわ」
「しゅ、出身?」
「そうですわよ。幾ら少数民族とはいえ、あなた達人間の生活範囲位は把握していますわ」
どうしよう……異世界から来たなんて言えないし。
「で、貴女の出身は? そんなに遠い所ではありませんでしょう?」
「……」
「レーコさん? どうなさったの?」
「私の口からは、まだ言えません」
「言えないって、一体どういうことですの?!」
「近い内に判ると思います。そうすれば、その理由も判ります」
「ちょっとレーコさん! きちんと説明して頂かないと!」
「私、引越しの準備がありますから」
ちょっと悪い気もしたけど、まだ知られる訳にはいかなかった。
変に誤解されそうだし、言ったところで現状は変わる事もないだろうから。
荷物をまとめて、簡単な挨拶をすませた私は、アイリさんの店に向かった。
「レーコ、待ってたよ」
「すみません、暫くお世話になります」
「いいって。ウチの父さんも店の仕事手伝ってくれれば構わないってさ」
「助かります」
「それはお互い様だよ。レーコがいれば、それだけで売り上げアップ間違い無しだって」
「そうですかぁ?」
「ま、とりあえず、後片付けからかな?」
・・・
・・・・・・
数日後。
穏やかな午後のひと時。
「さ、うちのハーブで入れたお茶だよ。どうぞ」
「あ、すみません、ありがとうございます」
「ふぅ~……」
「……」
穏やかに暮れて行く夕暮れ。空が次第に茜色に染まっていく。
「も、もう一杯いかが?」
「あ、頂きます」
「……」
「お客さん、来ませんねぇ……」
「そうだねぇ……今日はちょっと少ないかな」
「その台詞、ここ数日聞いている気がしますけど」
「あ、あはははは」
することが無いので、二人でまったりと黄昏ることにした。
「こんにちは」
「わ」
いきなり声を掛けられ、びっくりした。
「あ、陽子さん」
「なんか……暇そうねぇ」
ぐさっ。
「まあ、こんな所じゃ仕方ないか。裏通りだもんね」
ぐさぐさ。
「……」
あ、アイリさん凹んでる。
「と、ところで、今日はどんなご用件ですか?」
「今日は買い物じゃないのよ。これから王宮に来れる?」
「はい、大丈夫ですけど」
「ごめんね。ルビスが呼んでるんだ。来て貰える?」
「いいですけど。あ、アイリさん……」
「……」
その途端、どよーん、落ち込むアイリさん。
「いいなぁ……私も行きたいなぁ……」
「あ、あのね、二人一緒に来て貰いたいんだけど」
途端に顔が明るくなる。
「え、ホント?! 行っていいの?」
「もちろん。アイリ=クリスティアさん」
「え、どうして私の名前を……言ったっけ?」
「いいえ。ルビスに聞いたの。あなたも呼ばれているのよ」
途端に目をキラキラさせる。
「ルビス様が?!」
陽子さんが頷く。一体私たちに何の用だろう?
「あと、リュート=ミシュラルって人を探しているんだけど。知ってる?」
私とアイリさんは顔を見合わせた。
エピローグ
街の外れにある墓地――その一画に彼女のお墓は作られていた。
「ルーナさん――」
花を手向け、手を合わせる。
「私、あなたにお世話になったこと、決して忘れません……」
ふと、後ろに気配がした。
「ここに居たのか、お前」
「カルスさん、どうして、ここに?」
「まあ……なんだ、お前と同じだ」
彼の手にも花束が握られていた。
「そうでしたか……」
辺りを見渡すともう夕闇が迫っていた。
「では、私はこの辺で」
「いや、途中まで送ってやるよ。もう大分日が落ちてきたからな」
二人で歩きながら、自分たちのことを色々話した。
あっという間に時間が過ぎて行く。
「そういえばお前、今度騎士団に配属されるんだってな」
「ええ。まだ仮配属ですけどね。学校もまだ卒業してませんし」
「そうか、あそこにはこの間までルビス様が居たところでもあるしな」
「え、そうなんですか?」
「ああ。ルビス様がお前をお気に召されている証拠だろう」
突然彼が歩みを止める。
「カルスさん? 」
振り返る。真剣な眼差しの彼が居た。
「どうか、したんですか?」
「な、なあ。こんな場所でなんだが、その……なんだ」
じっと瞳を見つめあう。
ドクン……
段々胸が高鳴っていく。
彼は言葉を濁したが言わんとしている事は、はっきりとわかった。
「……」
長い沈黙。自分の鼓動の音だけがはっきりと聞こえる。
どうしてそうしたかは判らない。
気が付いたら瞳を閉じていた。
唇に触れる感触。そして、そのまま抱きしめられる。
彼の身体は、とても暖かかった――
魔法学園リヴァノール END