リヴァノール第8話 栄冠は誰の手に
「久し振りね。ヨーコ。元気そうで安心したわ」
「ルビスも相変わらず変わってないわね~」
お互いを懐かしむ2人。
後で聞いた話だけど、ルビスさんは陽子さんの守護精霊らしい。
それなら、二人が似た魔法を使う事も納得がいく。
「ちょっと向こうで色々あってね……」
陽子さんの話では、再びあちらの世界に魔族が出現しているようだ。
この国も危ないのかもしれない。
「それでルビス、お願いがあるんだけど……これから1ヶ月ぐらい泊めてくれない?」
「えぇぇっ?!」
頬に手を当てて大声を上げるルビスさん。こんな姿始めてみるかも。
「夏休みなのよ。向こうは」
「……そういえば、もうそんな季節でしたね……でも、いきなり言われても……」
「もちろん、タダで泊めて貰うつもりはないわ。出来る事があれば手伝うし」
陽子さんが頼み込んでも、ルビスさんは悩んでいるようだった。
「確かに、私にとってあなたは身内よ。でも、お城に住ませるには色々と問題があるの」
「大丈夫。召使いとして雇ってくれてもいいから」
「ヨーコ、それでは貴女が……」
「私は平気だよ。他の人の前では目立った事はしないから」
ルビスさんはしばらく考えていたけど、観念したように口を開いた。
「そう……分かりました。そこまで言うのなら仕方ありませんね」
「ありがとーございますっ、ルビス様っ。」
「全くもう……調子いいんですから」
陽子さんの言葉に苦笑するルビスさんだった。
「私ね。この城でも電気使えるようにしたいの」
部屋に入ると、陽子さんがこう切り出した
「あら、いいわねぇ」
「でも……発電所も電線もないのにどうするんですか?」
私がそう言うと陽子さんはバッグの中から何かを取り出した。
「じゃーん」
それは太陽発電用のパネルだった。
パネルからは細い銅線のようなものが出ている。
「それ、わざわざ持ってきたんですか?」
「まあね。お城のランプ暗すぎるから。これを使えば、蛍光灯も使えるし」
「でも、それ小さすぎませんか? 確か屋根一枚くらい必要なはずでしょう?」
「そんなことないって。秘密裏に使うのには丁度いい大きさだよ」
この世界には科学の概念は存在しないから、ばれないようにする必要があるらしい。
「でも、どうするんですか? 絶対怪しまれると思うんですけど」
「大丈夫。修理を装ってこっそり取り付けちゃえばいいんだよ」
陽子さんは、まかせてと言わんばかりに自分の胸をぽんっと叩く。
「こういう事得意なんですよね、陽子さん」
「ま、大した事は出来ないけど、設置と修理位だったら材料が揃ってれば出来るわよ」
彼女にはつくづく感心させられる。やっぱり凄い。
作るって言う発想が出てくるだけでも凄い。
「先ずはサファイア様の部屋ね。ルビスもスタンドあったほうがいいでしょ」
「助かるわ」
「それと私の部屋に引っ張るから」
「ちょっとヨーコ、言っておくけど貴女の部屋じゃないのよ、分かってるの?」
「いいじゃない、それぐらい。ルビスのケチっ」
陽子さんの性格って、こんなだったっけ?
「はぁ……それじゃ、早速ヨーコには買い物を頼もうかしら」
「分かったわ。約束だもんね」
そういって陽子さんは立ち上がる。私もそろそろ帰ろうかな。
「私、お店知ってるので、案内しますよ」
「ホント? じゃお願い。どうしようかと思ってたところだったから」
「じゃあね。レーコ。ヨーコは日没までには帰ってくるのよ」
「分かったわよ。じゃ、いこうか、鷹野さん」
「はい。それでは、ルビスさん。また来ますね」
「待ってるわ。またね」
ルビスさんが手を振る中、私はお城を後にした。
歩きながら、陽子さんに大会のことを話した。
「へぇ~。大会かぁ~」
「来週から始まるんです。陽子さんももしよかったら見にいらしてください」
「そうね。どうせすることないし。いつ出るかは分からないの?」
「ええ。当日にならないと……」
「そっか。残念。多分お城の雑用やってから行くことになると思うし」
「そうですか……」
「絶対勝ってね。応援してるわ」
「ありがとうございます」
話が弾んでいるうちに、目的の場所に着いた。
「着きましたよ。陽子さん」
「あ、ここかぁ。前カルスに剣買って貰った所だよね」
「ええ」
「あれ、でも閉まってるわよ?」
入り口には鍵か掛かっていて、準備中の文字が。
「大丈夫ですよ。ここ、友達の家ですから」
私は呼び鈴を鳴らす。アイリさんが顔を出した。
「すいません、今日は休みなんですけど……あれ、レーコ」
「こんにちは、アイリさん。ちょっとお店見せてもらっていいですか?」
「全然いいよ。あれ?」
私の隣に立っている陽子さんを見て、彼女は一瞬止まった。
「あなた、レーコのお友達?」
「初めまして。陽子といいます」
「私はアイリ。よろしく。ところで、レーコとどういう関係なの?」
異世界の情報や陽子さんの素性は明かさない方がいいだろう。
そう思った私たちは、誤魔化すことにした。
「今日からルビス様のお手伝いをすることになったの」
陽子さんがそう言うと、アイリさんは納得したらしい。
「そっか。頑張ってね。応援してるから。でもいいなぁ。お城かぁ……はぁ……」
また現実逃避しちゃった……目の焦点が合ってない。
「アイリさん? もしもーし」
私が声を掛けると、顔を真っ赤に染めて慌てふためく。
「あ、ご、ごめんなさい。さ、どうぞ」
店に入ると、アイリさんは早速準備に取り掛かる。
「それで、今日は何をお求めですか?」
「紅茶に入れる香草を買って来てって言われたんですけど、どれがいいのかな?」
「あ、じゃあ、この月光草の葉なんかがお勧めですよ」
「月光草?」
初めて聞く名前だ。
「はい。リラックス効果もありますし、今巷で5つ星の人気なんです」
「ふぅん……じゃ、それを1ヶ月分」
「あとは何か買うものはありますか?」
慣れた手つきで作業しながら陽子さんに尋ねる。
「そうねぇ。じゃ、こっちで必要なものいろいろ買い揃えておこうかな」
「陽子さん、すっかりショッピング気取りですね。いいんですか?」
「大丈夫よ。お金ならあるから。さーて、何を買おっかなー」
「……」
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ドン、ドンドン
数発の花火が上がる。今日は年に一度の都市対抗大会の日。
ガイア中の精霊たちがこのコランダムに一同に介する唯一の日でもある。
試合は、午前中に予選を行い、成績が良かった4校が優勝を競う。
それとは別に個人戦もあり、私とアイリさんはこっちに出場する。
私とアイリさんは出場の受付を済ませて会場に向かった。
先ずは自分の試合相手と開始時間をチェック。私の試合はどうやらまだ先らしい。
と、スケジュールを見ていたアイリさんが気付いた。
「あれ、もううちの学校試合始まるじゃない。レーコ、早く!!」
「あ、待ってくださいよ!!」
会場に着くと、もう試合は山を迎えた所だった。
「あれ、もうやってるよ」
「ちょっと遅かったですね……」
『これより、大将戦を執り行なう。両者前へ!』
審判らしき人に言われて左右から選手が出てくる。
屈強そうな男の人と、もう一人は……
「あ、リュートさん、大将なんですね」
「ちぇ、生意気に~」
『始め!』
合図に、駆け出す両者。
何度かつばぜり合いをしていくうちに、段々リュートさんが押していく。そして。
キィィィィィン
乾いた音がして、弾かれたのは男の剣の方だった。
『勝者! リュート=ミシュラル!!』
大歓声。あっという間に決まってしまった。
「早っ!!」
「さすがリュートさん……やっぱり強いんですね」
「うん、ミラさんが言うには、リュートに叶う人はあまり居ないってさ」
やっぱり格が違う。
「でも、そのリュートにレーコは勝ったんだもん。自身持たなきゃ」
「それを言うなら、アイリさんもね」
「ふふっ」
自然に笑みがこぼれる。
「あ、ごめん、そろそろ時間みたい」
「ついに来ましたね」
「うん。じゃレーコ、頑張ってね」
「ええ。アイリさんも」
アイリさんは、手を振りながら駆けていった。
彼女を見送ったら直ぐに後ろから声がして振り向く。
「どうやら、順調みたいね」
私は目を見張った。
「る、ルビスさ……ムグ?!」
叫んだところをそのまま手で口を塞がれた。
「だめですよ、せっかくこうして変装したんだから」
ルビスさんは指を左右に振って、ダメダメという仕草をする。
「変装って……ただ髪縛って、帽子被っただけじゃないですかっ」
私は小さな声で言い返す。
「大丈夫。平気だから」
よくこれでばれないと思う。知っている人が見たら一発だ。
「あ、これから街で出遭った時は、私のことをティアナって呼んでくださいね」
「ティアナさん――ですか?」
「お願いね、レーコ」
「……」
大丈夫かなぁ?
「あ、それから、アイリには内緒にしておきましょうね」
「は、はい……」
「あら、そろそろ彼女の試合が始まるみたいね。楽しみだわ」
そう言ってルビスさん、もといティアナさんは、会場に目を移した。
『勝者。アイリ=クリスティア!』
ワァァァァ
沸き立つ歓声。
ものの数分で決まっちゃった……
「へへ~。見た見た? 今の試合?」
アイリさん実は、やっぱり強いんじゃないだろうか
「なんか今日は体が調子よくて。これなら結構上まで行けそうだよ」
「あれ?」
「ん?レーコ、どうかした?」
ルビスさんの姿が見えない。さっきまで隣に居たのに。
「いえ、さっきまで知り合いの人と一緒だったんですけど」
「別の試合見に行ったんじゃないの?」
そうかもしれないけど、何か嫌な予感がする。
「それにしても声も掛けずにどっか行くなんて、失礼だよね~」
「そ、そうですね……」
気のせいだといいけど……
ついに私の出番が来た。
会場はすでに満員だった。
「凄い人……」
思わずそうつぶやいた。人の多さに圧倒されそうだ。
この国での初めての実践。しかもこんな大舞台。
剣を握る手に力が入る。
相手は大柄な剣士風の男性。
精霊ってスラリとした人ばっかりをイメージしてたから、少し笑えた。
「レーコ、頑張って!!」
アイリさんの声援が聞こえた。
「お嬢さん、手加減はしないぞ。話じゃ、優勝者は王宮で働けるらしいからな」
なるほど。この大会には選考という意味合いもあるらしい。
「私も……全力で行きます」
『始め!!』
私は号令と同時に駆け出した。
こうなったら先手必勝!!そのまま相手目掛けて剣を振り下ろした。
「やぁっ!!」
剣同士がぶつかり合う。だけど、あっさり弾かれて後ろに下がった。
(くっ、やっぱり力じゃ叶わない!!)
少しだけ剣に魔力を込める。
これで少しは対等に戦えるかもしれない。
ガキィィィ
2度目の鍔迫り合い。
今度は何とか互角に持ち込めた。
と。
ぱき。
「なにぃぃぃっ?!」
相手の剣が音を立てて砕け散った。
「あれ? ちょっと魔力が多かったかな……?」
「信じられん……お嬢さん、その細身でドコからそんな力が……」
「あ、あははははは……たまたまですよ……」
「むぅ、明日からもう一度鍛え直さなくては」
それ以上鍛えなくてもいいと思うけど。
「やったじゃん、レーコ。順調だね」
戻った私を笑顔で迎えてくれるアイリさん。
「でも、喜んでもいられないんですよ、アイリさん」
「え? どうして?」
まだ気付いてないのかな。鈍いなぁ……
「アイリさん、次は私と当たる事になるんですよ?」
私が次の対戦相手に勝った場合、次はアイリさんとやることになる。
「あ、そっか……次はレーコとなるかもなんだっけ」
途端に彼女の顔が曇る。でも、すぐに笑顔に戻った。
「勝っても負けても、恨みっこ無しだよ」
「ええ。じゃ、会場で」
「うん。また」
握手。そのままお互い背を向けた。
2回戦の相手は見た目私より年下の少女だった。
「今あなた、私のこと見てバカにしたでしょ?」
「え? そんなつもりじゃ……」
「言って置くけど、甘く見ない方が身の為だよ!」
何か強がってる気がするのは気のせいだろうか。
「いっけ~!!!」
ドォォォォン!!
私の足元が砕かれる。
「……ッ?!」
「まだまだいくよ~!」
開始早々から攻撃魔法連発してくる彼女。
ふと見渡すと、競技場の床には、所々削れてボコボコになっている。
多分一回戦も魔法のゴリ押しで勝ったんだろう。
無理に近付くのは危険と判断した私は、一旦リング際まで引き、体制を整える。
「逃げるしか能が無いのかしらぁ?」
相手が挑発してくる。私はそれを無視して魔法剣を発動させた。
多分アイリさんはスタンドのどこかに見に来ているだろう。
私の技を見てなんて思うかな……普段だったら喜んでくれるんだろうけど……
また攻撃魔法が飛んできた。
それを魔力を帯びた剣で軽くあしらってやる。
「ま、魔法を跳ね返した?!」
「次はこちらからいきますよ!閃光斬!!」
ズガァァァン!!
「きゃぁぁぁ?!」
彼女の近くで大爆発が起こる。
少女が付けた物よりさらに深い溝が、彼女の近くに刻まれる。
「さ、もうこれであなたの魔法は通じませんよ。どうしますか?」
近づいて剣を向ける。
途端に、少女の顔が恐怖に染まる。目には涙を浮かべながら。
何か、私がいじめているみたいに見えるかもしれない……
「う、お、覚えてなさいよ!!」
そういうと少女はスタコラと出口の方に走って行った。
「……えーと?」
横を向く。顔を向けた先で、やや困り気味の表情の審判が、私の勝ちをコールした。
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ついにこの時が来た。
「レ-コ……まさか、あんな技を隠していたなんて!」
「ごめんなさい。でも、アイリさんに知ってもらいたかったら」
「レーコらしいな。ま、これでお互い小細工無しで勝負できるね」
「ええ」
私達は、お互い握手した後、剣を構えた。
続く