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リヴァノール第7話 魔法は派手に

「いくよ、リュート!!」

「来なさい、アイリ! 返り討ちにしてあげますわ!」

短剣の切っ先を向けるアイリさん。

対するリュートさんは、大きな両手剣をどっしりと構えている。

いつのまにやら、騒ぎを聞きつけたギャラリーが集まってきた。

この学校は、暇な人が多いのだろうか?


しかし、リュートさんにアイリさんが勝てるとは到底思えない。

端から見ると無謀とも思える。

「やァ!!」

キィン

アイリさんの攻撃をあっさりいなして、リュートさんは牽制する。

「そんなヘナチョコ攻撃では、当たりませんわよ!!」

「この~!」

「あまいですわ!」

アイリさんはさらに攻撃を仕掛けていく。でも、殆どの攻撃を平然と避けられている。

完全にリュートさんの挑発に乗っちゃってる……このままじゃ彼女の負けは明白だ。

「アイリさん、もっと落ち着いて!」

私の声にリュートさんのほうが反応した。

「部外者は黙ってて頂けませんことっ!?」

「スキありぃ!!」

「くっ?!」

剣をいなした直後。リュートさんの胸元に、明らかな隙が。

「もらったぁ!」

アイリさんの回し蹴り。

剣を支えにして、くるりと一回転。

「っ!」

リュートさんが顔をしかめる。

直撃はしなかったけど、軽くかすったのかもしれない。

「うわっ、と」

避けられると思っていなかったのか、勢いで前につんのめるアイリさん。

ビュンッ!!

リュートさんの斬撃を、紙一重でかわし、カウンター気味に、剣を突き出す。

キイィィィン


再び鍔迫り合い。今度はアイリさんの方が若干押してる。

「くっ、アイリ……貴女、強くなりましたのねっ!」

「リュートの腕がなまったんじゃないの?」

ぴくん。

リュートさんのこめかみが引きつる。

必死で怒りを抑えようとしている感じだ。

「ねえリュート、本気出してよ。あ、それとも、今ので精一杯かなぁ?」

ぶち。

リュートさんの何かが音を立てて弾け飛んだ。

「わ、私を馬鹿にしましたわね!!」

突如、彼女の足元が輝きだす。

「へっ?」

ズドォオン!

「うわぁぁっ?!」

リュートさんの奇襲が炸裂。炎に包まれるアイリさん。

「けほっ……よくもやったなぁ!!」

「今のは、ほんの挨拶代わりですわ、アイリ」

腰に片方の手を当てて見下すように剣を向けるリュートさん。

「全く……水のくせに炎を使えるんだもん、参っちゃうよ」

そんな事をぼやきつつも、アイリさんは何か嬉しそうだった。

「炎の家系の貴女には、あまり効かなかったようですわね」

「当然だよ。リュートの炎なんかヌルイもんね」

その一言に、リュートさんの表情が、さらに歪む。

「本物の炎はこんなもんじゃないよ。水のリュートは見たことないでしょ?」

「……アイリ、そこまで言うのでしたら、貴女も出して御覧なさい!」

一瞬嫌そうな顔をするアイリさん。

「貴女の魔力量は把握していますわ。貴女に扱える筈がありませんわ!」

リュートさんは、アイリさんが魔法を使えることをまだ知らない。

「いいよ……そんなに見たいなら、見せてやろうじゃないの!」

そういうとおもむろに魔法を唱えだす。

「な、何ですのっ?」

リュートさんは、明らかに動揺している。

『燃え上がれ! フレアー!!』

掛け声とともに巨大な炎が発射され、辺りは火の海と化した。

燃え盛る炎が、意思を持った生き物のように、動き、リュートさんに襲い掛かる!

「きゃぁぁぁぁっ!!」

リュートさんは、あっという間に炎に巻かれ、もがき苦しむ。

炎が収まる。地面は真っ黒に焦げ、黒煙が上がっている。

中心にいるリュートさんからも、白煙が上がっていた。

剣を杖代わりに、地面に突き立て、肩で息をしている。

かなりのダメージがあったのかもしれない。


「くっ……アイリ、貴女……いつの間に?!」

「これが本物の炎だよ。水のリュートじゃ、こんなのを出すことは出来ないでしょ?」

「……ふ、ふふふ、やってくれましたわね……これでこそ、アイリですわ……」

苦しそうな表情をしながらも、笑みがこぼれるリュートさん。

本当に、この二人は、仲が良いのだと、私は改めて感じていた。



ふと気付いたら、周りがざわついている。

「なんだ、今の炎は……あれが魔法か?!」

「魔術クラスでもあんなのを出せる奴はそうはいないぞ!」

「何者なの、あの子は?!」


「これ、本当は大会まで隠しておくつもりだったんだけどね」

周りのざわつきを気にすることも無く、アイリさんは自分の腕に炎を絡ませる。

「やっぱ、リュートにどこまで通用するのか知りたかったし。でもね」

そこまで言うと、アイリさんは自分の炎を消し、落ちていた剣を拾った。

「リュートとは剣で戦いたいよ。分かるよね?」

リュートさんはしばらく黙り込んだ後。

「あなたのその考え、賛成しますわ!!」

剣を構えるリュートさん。彼女の眼光は最初のそれとは明らかに違っている。

「そうこなくっちゃ!!」

「正々堂々と勝負ですわ」


「ちぇ。やっぱり勝てなかったか。剣技じゃ敵わないや」

数分後。傷だらけのアイリさんがそこにいた。

それだけリュートさんが本気を出した、ということなのだろう。

私は、チラッとアイリさんのほうを見た。苦笑しながら首を左右に振っている。

話すな、というジェスチャーだろう。

「……二人とも、失礼しますわ。」

それだけ言い残してリュートさんが背を向けた。

何重にも出来た人垣を分けて校舎に入っていく。

それを見送る私と、アイリさん。

周りの人たちは、まだ何かざわついている。

その時、後ろから声がかかった。


「――よぅし、それじゃあ時間だから終いにするぞ。最後にいいモノも見れたしな」

「先生、見ていらしたんなら止めてくださいよ」

「いや、つい仕事を忘れてしまってな」

いつの間にか先生も見入っていたらしい。

「しかし、リュートだけでなく、お前も魔法を覚えていたとは」

「意外ですか?」

「いつの間に覚えた? 一朝一夕で覚えられるものではないだろう」

私とアイリさんは苦笑するしかなかった。




校舎の廊下に一人佇むリュート。

壁に寄りかかり、座り込む。

「なんて威力ですの……危なかったですわ……」

アイリの魔法の威力は思っていたよりも強力だった。

リュートはすでに、立つことも出来ないほど、体力を消耗していた。

実際、もう少し長く魔法を浴びていたら……

「強くなりましたのね、アイリ……」

リュートは焦っていた。玲子もアイリも確実に強くなっている。

なのに自分は――

「私、このままではいけませんわ……でも――」

一人考える。だが、良いアイデアは思い浮かばない。

「一体どうすれば……」

彼女には、相談できる相手もいない。

その事が余計に彼女を追い詰めていた。




コンコン。

「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」

ある休日の昼下がり。聖堂の掃除をしていると誰かがノックした。

「あ、はい。今開けます!」

慌てて戸を開ける。

「あの、ちょっと道を尋ねたいんですけど……」

立っていたのは、私の知ってる人だった。

「よ、陽子さん?!」

「あ、あれ……鷹野さん?!」

そう。そこに居たのは、向こうの学校で一緒だった樋口陽子さんだった。

お互いにびっくり。そして抱き合った。

「久しぶり。元気だった?」

「はい。陽子さんも。でもびっくりしましたよ」

「一人で来るの初めてだからね。そっか、ここ、鷹野さんの教会だったんだ」

「はい、ここにお世話になっています」

「髪が伸びたから判らなかったわよ」

確かに、あれから少し髪が伸びて、肩に届くくらいになっている。

陽子さんは聖衣を着て十字架を下げている私をまじまじと見つめた。

「もうすっかり一人前のシスターじゃない」

「そ、そんなことないですよ」

改めてそんなこと言われると、こっちが恥ずかしくなる。

「それに、立派な教会じゃない。どこに寝てるの?」

「2階の部分に部屋があるんです」

「へ~。いいなぁ」

陽子さんはしばらく天井を見回していた。

「ところで、今日はお一人なんですか?」

陽子さんには直美さんという双子の妹さんがいる。

これが本当にそっくりで、髪型以外は殆ど見分けが付かない。

「まあね。直美も来たかったらしいんだけど、試験があるから私だけで来たの」

「そうなんですか」

「私だけじゃ来れないから、森野さんに魔力を借りてだけどね」

森野さんというのは、陽子さんのお友達で小さい頃にこの世界に居たらしい。

時空を自由に行き来できる凄い人で、ここには彼女に連れて来て貰った。

「ところで、宿題はどうするんですか?」

「ああ、そんなのこっちでやるの。その荷物も持ってきたのよ」

と言って、大きなバッグを下にズシリと下ろした。見るからに重そう……

その他にも、一際大きいスーツケースが横たわっていた。

「何が入ってるんですか、それ?」

「こっちの生活で必要なもの一式持ってきたわ」

一体どこに泊まるんだろう。

「宿にずっといるつもりなんですか?」

そう聞くと、陽子さんはにっこり笑った。そしてこう切り出す。

「あのね、これからお城行こうと思うんだけど、鷹野さんも行く?」



「あれは……」

その時、リュートは、偶然教会から出てくる玲子の姿を目撃していた。

リュートは玲子が教会に住んでいるということを思い出していた。

「一緒に居るのは……見慣れない顔ですわね。友人かしら」

見たことの無い少女が隣にいる。両手には見るからに重そうな大きな荷物が。

「あんなに大きな荷物を持って……宿は確か、逆方向ですわね。怪しいですわ……」

どこへ行くというのか。リュートは後をつけてみることにした。


――数分後。

「この方角には……王宮しかない筈。まさか?!」

いつの間にか大通りに並ぶ家も少なくなり、高い石造りの塀が立ちそびえる。

2人は、王宮の正門に居る兵士と少し言葉を交わした後、門の中に消えた。

「王宮関係者?! そんな筈は! いえ、でも、ありえますわね……」

元々王女と知り合いなのだ。王宮に自由に入れてもなんら不思議ではない。

あの女の正体がわかるかもしれない。出来ることなら、後を追いたい。

だが、リュートは通行証を持ち合わせていない。諦めるしかなかった。

「仕方ありませんわね……でも、必ず尻尾を掴んで見せますわ!!」


続く


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