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リヴァノール第4話 ライバルは高慢に

リュートさんが立ち上がって、ゆっくりとスヴェンさんの前に立つ。

そしてそのまま切っ先を向けて叫ぶ。

「スヴェン様!! 勝負ですわ!!」

「よろしい。君の実力を見せてもらおう」

リュートさんはかなり殺気立っている。

あれから彼女とは口を利いていなかった。

何度も話し掛けようとしたけど、ずっと無視されている。

私への怒り? それとも自分に? 相当頭にきているのだろう。

「レーコ、これチャンスだよ。いくらスヴェンさまでもリュート相手じゃ」

「そうですね。それに、彼の動きが判るかもしれません」

そう言うとアイリさんはきょとんとした顔になる。

「え? 動き?」

「ええ。人にはそれぞれ癖があるんです。それを見極める事が大事なんですよ」

受け売りですけどね……

「そっか……レーコはさっきから、ずっと動きを読んでたんだ……」

アイリさんの目つきが、真剣なものに変わる。


「参ります!!」

リュートさんは、自分の背丈ほどの長さの両手剣を低く構える。

そのまま一直線に剣を振り下ろす。

それを軽く避けるスヴェンさん。

「くっ……」

勢い余って前につんのめる彼女。だけど、すぐ体勢を立て直す。

右から、左から鋭い一撃が繰り出される。今までの人とは明らかに違う剣さばき。

だけど、スヴェンさんはまだ余裕があるらしい。

逆にリュートさんは、もう息が上がってきている。


「どう? レーコ、何かわかった?」

「いえ。さっきから見ているんですが……全然隙がありませんね」

「むぅ……そっか」

「それに、リュートさんの方も、前と動きが違いますね」

「そうかな? 私には同じに見えるんだけど……」

「今、もし彼女とやったら、私勝てないですね」

「え」

今と同じ条件で、この間みたいに決闘になったら、間違いなく勝てないだろう。

それだけリュートさんの動きは洗練されている。

相当特訓したんだろう。プライドがあるから、人前で努力している姿を見せないのかもしれない。


そうしているうちにも時間は刻々と過ぎていった。残り時間はほとんど無い。

「はっ!」

リュートさんの鋭い一撃。それもまた、後ろに飛んで避けられる。

その時、私は違和感を感じた。

(あ、あれ? もしかして)

次の一撃。

間違いない。私は確信した。

「アイリさん。あのですね……」

「え?」

私はそっと彼女に耳打ちをする。

「……そ、それ、ホント?」

「おそらく。成功するかはわかりませんが、やってみる価値はあると思います」

「判った。信じてみるよ。レーコのこと」

その後直ぐに勝負がついた。

「やぁっ」

一閃。

「さすがだな……合格だ。」

「ありがとう……ございます」

息を切らしながらお辞儀をするリュートさん。

スヴェンさんの頬に、赤い筋が刻まれていた。

やっぱりリュートさんは凄い。

彼女は、そのまま私の方をチラッと見た後、直ぐに建物の中に入っていった。

何が言いたかったんだろう……


「お願いします」

アイリさんの番だ。

「言って置くが、私は手加減はしないぞ」

「はい。行きますっ」

始まりと同時に駆け出す両者。

アイリさんの武器は、短めのショートソードだ。

小さな身体を生かして、素早く立ち回るのが彼女の戦法なのだろう。

小回りを利かせて、スヴェンさんの懐に入れば、アイリさんにも勝機が見えてくる。


それから、彼は、左足を怪我している。以前魔族達にやられた傷がまだ完治していないはず。

傷を庇う為に重心が少し右寄りになっている。彼の動きが機敏だから今まで忘れていた。

さっきまでの余裕は感じられなくなっている。

アイリさんには、足元を狙ってみるようにアドバイスしておいた。

さすがのスヴェンさんといえども、40人以上の相手をするのはかなり大変なんだろう。

そして、さっきのリュートさんとの戦いでかなりの体力を消耗している。

スヴェンさんの足元を剣が薙ぐ。そこに、大きな隙が出来た。

そこにアイリさんの蹴りが、がら空きの腹目掛けてまともに入る!

かに思えた。だけど。

ガシッ

「ひゃわぁぁぁぁっ?!」

スヴェンさんはアイリさんの足をひょいっと掴むと、そのまま逆さまにぶら下げた

「ふむ。いい蹴りだ。だが、こんなものじゃ私には効かないな」

「絶対いけたと思ったのにぃっ!」

ドサッ

「きゃっ!!」

手が離される。背中から地面に落とされ、悲鳴を上げる。

「アイリさん! まだ時間ありますよっ! あきらめないで!!」

「よ、よーしっ、今度こそっ!!」

顔をしかめながらゆっくりと起き上がり、遠くに落ちている剣に向かって駆け出す。

スヴェンさんはその様子を見て、満足そうに微笑んでいた。



「ふむ、なかなかよかったぞ」

「はぁ……はぁ……あ、ありがとう、ございま……した」

もう、ヘトヘト。そのまま地面に転がるアイリさん。

結局、アイリさんは、スヴェンさんから1本取ることは出来なかった。

「ふぅ……やっぱり駄目かぁ……」

落ち込むアイリさん。だけど、スヴェンさんから思いがけない言葉が。

「いや、君は合格だよ。アイリ=クリスティア」

「ごう、かく……えっ?!」

「君の足を掴んでしまったからな。本来ならあそこで終了だ。なかなか良い物を持っている」

褒められて、アイリさんは少し恥ずかしそうだ。


「さあ、これで試験終了だ」

「え?」

そう言って、チラッとアイリさんの方を見る。

「レーコは私の動きを読みきっているのだろう? もう私に勝ち目は無い」

うわぁ……バレバレだぁ。


次は私の番だと思って、気持ちを高めていたから、少し残念。

「レーコとは是非、完全な状態で一戦交えてみたい」

「そんなっ、リュートさんの前にお相手していたら、判りませんでした。まだ実力不足です」

「いや、それも実力のうちだ。相手の動きをよく読むのも大事だからな」

スヴェンさんに誉められるなんて。

「さあ、今日はもう終わりだ。後々、正式に発表があるだろう」

「はい」

「お疲れ様でした」


「凄いよ……私。レーコに感謝しないとね」

「そんな事ないです。それに、アイリさんだって」

「え?」

「言われた事をすぐに実行できたじゃないですか」

アイリさんの運動神経はかなりのものだと思う。

武術というのは、言われたから、教えられたから、直ぐに出来ると言うものではない。

「そうなのかなぁ? あんまり自分で思った事はないけど」

彼女は少し考えた後、私に言った。

「でも、レーコのアドバイスがなければやっぱり合格しなかったよ。ありがと」



その日の放課後、合格者一覧が張り出された。私のクラスからは私を含めて3人。

もちろんほかの二人はアイリさんとリュートさんだ。

私達は明日からレベル2のクラスに行くことになる。

ルーナさんは、「おめでとう」なんて言ってくれたけど……

私はまだまだ力不足だと感じた一日だった。


<総合レベル2>

扉を開けると、そこに見覚えのある顔がいた。

「あ、リュートさん」

「……一体何の用ですの?」

やっと話してくれた。

「あ、あの、また同じクラスですね……よろしくお願いします」

「……」

「リュートさん?」

「言っておきますが、私はまだあなたを認めたわけではありませんからね!!」

そのとき、私たちの後ろから明るい声がする。

「やほ~、リュート、レーコ」

「あ、アイリさん、おはようございます」

「おはよ、レーコ。また一緒だね」

「はい」

私たちをよそに、隣でリュートさんが固まっていた。

「あれ? どしたの、リュート」

「アイリ……あなたも受かりましたのっ?!」

「まあねぇ」

リュートさんは信じられない、と言う表情をし、アイリさんは、どうだと言わんばかりに胸を張る。

「私、正直貴女を見くびっておりましたわ……」

「何よ、それぇ? 私だって、やるときはやるんだから」

「まあ、何にせよ、貴女の血は伊達ではない、ということですわね」

ふっ、とリュートさんの表情が緩む。

これが、幼馴染だけに見せる表情なのかもしれない。

なんだかんだ言っても、アイリさんは、リュートさんにとってなくてはならない存在なのだろう。


「アイリ、いつの間にそんな強くなりましたの? 正直驚きですわ」

「私なんかギリギリだよ。レーコなんかスヴェン様の動き、完全に……」

「な、なんですってっ!」

「あ……っ」

慌てて両手で口を押さえる。けど、遅かった。

「私があれだけ苦労しても、傷一つしか負わせることが出来なかったというのに!」

彼女の顔が見る見る歪む。

「それを貴女は見切ったとおっしゃるのね!!」

「あ、あの、だからそれは……」

「……分かりましたわ、そこまでおっしゃるのでしたら、私と勝負しませんこと?」

しょ……勝負って……

「より早く、上のランクで卒業できたほうが勝ち。これで宜しいですわね」

「いえ、あの、だから……」

「私、絶対に負けませんことよ。それでは、失礼しますわ」

一方的に言い残して、彼女は教室を出て行った。

微妙な沈黙が辺りを支配する。


「……ごめん、レーコ。私こんなつもりじゃなかったのに」

「いいえ。アイリさんのせいじゃないです。遅かれ早かれ、いずれこうなったと思います」

「そうかなぁ?」

「ええ。それに、これはリュートさんに認めて頂けたという事ですから」

「レーコってほんとにお人よしだよね。ま、それがいい所なんだけどさっ」



続く


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