リヴァノール第2話 バトルは命がけに
指定された場所は、学校の中心部にある中庭だった。
普段は生徒達の憩いの場になっているらしい。
「待っていましたわよ。レーコさん!!」
ドーン!!
って言う効果音が聞こえるくらいのイメージでリュートさんが立っていた。
長剣を地面に突き刺して仁王立ちしている姿は怖い。はっきり言って、怖い。
それよりも驚いたのはギャラリーの数だ。100人……もっといるかも。
「あらら、ちょっと広まりすぎたか。でも、これで舞台は整ったわよ。レーコ」
「アイリさん! なんて事してくれたんですかっ?!」
「口コミでこれだけ広がるのもどうかと思うけどね……」
全く、人の気も知らないで……
「制限時間は今から予鈴まで。どちらかが降参か動けなくなれば勝ち。それでよろしいですわね」
冗談じゃない。下手をすると怪我だけですまないかもしれない。
背筋に寒いものが走る。
「あらレーコ、転入そうそう面白いことやってるわね」
「ミラさん! 呑気に見てる場合じゃないですって!!」
「あら、私を含めて、皆貴女に興味あるんだもの。当然よ」
私は少し横目でミラさんを睨んだ。
「大丈夫よ、怪我をしても優秀な魔術師がいるから」
そういうことじゃなくて……
仕方がない。自分の力を試す良い機会だと割り切るしかないか。
私は、ゆっくりとリュートさんの元へ近寄っていった。
「さあ、いきますわよ!」
「わ、ちょっと!」
急に始まった決闘に、私は慌てる。そのまま横にバランスを崩してふらつく。
その瞬間、さっきまで私がいたところを剣が薙ぐ。
「上手く避けましたわね。やはり甘く見ないほうがよろしいのかしら」
「甘く見て下さいよぉ!!」
ヒュンッ、と音を立てて、剣が私の耳元を通り過ぎる。
「わっ?!」
胴を狙った攻撃。身体を回転させて何とか避ける。
「ひゃあっ!!」
今度は足元。自分の剣でいなす。
次々と攻撃を繰り出してくるリュートさん。私はそれを避けることしか出来ていない。
「私をおちょくっていらっしゃるの?!」
「ち、違いますよ!」
せめて攻撃するきっかけがつかめれば……
そういえば、カルスさんが何か言っていた気がする。なんて言ったんだっけ??
私は彼の言葉を思い出していた。
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『相手を攻撃するポイントは3つだ。
まずは相手の動きを良く見るんだ。それでタイミングを計る。
そして、必ず人それぞれ癖を持っている。それを見極めれば必ず勝機が見出せる。
あとは、隙を狙って攻撃するだけだ。どうだ、簡単だろ』
『簡単じゃないですよぉ!!』
『なあに、慣れれば大丈夫だ。よし、今日から相手の動きを良く見ることだけ考えろ』
『ええ~』
『他の事は考えなくていい』
『……』
そうだ、ずっと練習してたんだ。私にだって……
「試合中に考え事ですの? ずいぶん余裕ですわね!!」
ヒュン!!
剣が私の足元を通り抜ける。
ピッ
「っ痛!!」
太ももが切り裂かれていた。血が滲み出てくる。
「ふふふ。油断禁物ですわ。次は心臓を一突きにしてあげますわ!」
……駄目だ。このままじゃ、ジリ損だ。何とか活路を見出さなきゃ。
「いきます。リュートさん!!」
「あら。やっとやる気になったようですわね。でも、もう遅いですわ」
『まずは相手の動きを良く見るんだ。それでタイミングを計る』
動きを良く見て……
ヒュッ
っ、早い! これじゃ、懐に入り込むのは難しい!
「お、おいこれは……!」
「ああ、なかなかやるじゃねえか!」
私が善戦するのを予想していなかったのか、ギャラリーがざわつき始める。
「頑張れ、レーコ!!」
アイリさんの応援が耳に入ってくる。
『必ずそれぞれ癖を持っているはずだ。それを見極めれば必ず勝機が見出せる』
右? いや、左だ!
『あとは、隙を狙って攻撃するんだ!!』
見えた!! 今だ!
「やぁぁぁっ!!」
キィィィィィン!!
私の一撃がリュートさんの剣を弾く。
「くっ?!」
ザンッ
数メートル離れた場所に剣が刺さる。
『おおっ!!』
観衆がざわめく。私が勝つなんて、考えていなかっただろう。
「勝負ありましたね」
喉元に剣を突きつける。すると、リュートさんの顔が歪んだ。
「く、私をここまで追い込むなんて……だけど……ね!」
「きゃぁぁ?!」
突然、身体に衝撃が走り、力が一気に抜ける。前のめりに体が傾く。
「レーコ!!」
アイリさんが駆け寄ってきた。
地面に倒れ込む寸前、彼女に受け止められる。
「ちょ、ちょっと、レーコ! しっかりして! 大変!! 早く治療室に!」
「リュート!! 貴女!」
ミラさんが叫ぶ。ギャラリーが騒ぐ声が聞こえる。
「私、これで失礼しますわ」
そう言うとリュートさんはすたすたと歩いて行く。
憶えているのはそれまでだった。
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「私が、剣を落とすだなんて……」
試合後。リュートは誰も居ない教室の中に居た。
ただ両手を見つめて立ち尽くすのみ。リュートのプライドは激しく傷付いていた。
彼女の手には、剣が弾かれた感触がまだ残っていた。
「私の剣がまるで通じなかった……当てることすら出来ないなんて……一体あの女は……」
リュートは自分の剣技に誇りを持っていた。
また、クラスの誰にも負けたことがなかった。
だが、あの人間の女には敵わなかった。
ただの人間であるわけが無い。今回のことではっきりした。
「……調べてみる必要がありますわね……」
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眼が覚めた。視界が徐々に戻ってくる。目の前に顔が浮かぶ。
アイリさんだ。
「レーコ! 良かった……気が付いたね」
「ここ、何処ですか?」
「救護室だよ。決闘の事は憶えてる?」
「ええ……」
どうやらミラさんと二人でここに運び入れてくれたらしい。
「どこか痛む?」
「いえ、大丈夫です」
私は、リュートさんの放った魔法を、至近距離でまともに受けたらしい。
その割には、傷らしきものは見当たらなかった。かなり高度な治癒魔法をかけてくれたらしい。
「でも凄いよ。あのリュート相手に」
「でも……」
「全く、素直に負けを認めればいいのに。往生際が悪いわよねぇ」
「アイリさん、それは違います」
「レーコ?」
「本当なら、私の負けです」
実際の戦いだったら、確実に殺されていた。
「今回の事は、凄く勉強になりました。やはり、どんな時も気を抜いてはいけませんね」
「やっぱりレーコって凄いなぁ。私だったら絶対そんな風に考えられないもん」
「そんな……わたしなんて、まだまだ……」
実際自分の力不足を痛感した。こんなことじゃ、皆の足を引っ張ってしまう。
「そうやって自分を飾らない所も凄いと思う。やっぱり友達になって正解だったよ」
アイリさんはそう言って笑っていた。
続く




