表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/157

コランダム 第3話

深夜――

城の中をコッソリと動く人影……

だが、その姿を彼が見落とす筈がなかった。

「ルビス様……ですか?」

突然声をかけられて、ぎくり、とする。振り返るとそこには……

「す、スヴェン……」

騎士隊長のスヴェンだった。

ルビスはばつが悪そうに俯く。

「こんな夜遅くに、どこに行かれるのですか?」

「べ、別にどこでもいいでしょ……」

平然を装うが、声が裏返った。

そんな彼女の変化を彼が見逃すはずも無かった。

「まさか、またあのような男の所に行くのですか」

「か、関係ないわ」

「あの男は人間の血が混じっている。あまり親しくされませぬよう」

スヴェンの思わぬ一言に、困惑するルビス。

「どうして……私は、そんなの気にしてないわ」

「ルビス様はお気になさらずとも周りにいるものはそうは思いません」

精霊たちの中には、他民族である者をあまり快く思っていない者も多い。

「わ、判ったわよ……と、とにかく、お母様には内緒にしておいて」

「心得ておりますよ。ですが、毎回それでは不信がられます。いずれ……」

「い、いいのよ。とにかく、スヴェンが何とかして」

そう言うとルビスは、2階の吹き抜けから、ふわりと飛び降りた。

そしてそのまま門の外へ走っていく。


「……難しい年頃ですね」

いつの間にかスヴェンの後ろには、サファイアの姿が。

「さ、サファイア様!?」

見られてはいけない人物に見つかってしまった。

「も、申し訳ございません!!」

スヴェンは叱責を覚悟した。

「ふふ、構いません」

だが、サファイアはにこやかな笑顔を浮かべたままだった。

「それに、私も若い頃は、かなりの無茶をしましたから」

「サファイア様……」

「あの時の私は、今のあの子に似ているの。ですからこれを責めたりは……クシュッ」

「サファイア様、お部屋に戻りましょう。風邪をひきます」

温暖な地域といえど、夜は冷える。くしゃみをしたサファイアにスヴェンが上着をかけた。

「スヴェン、今日のことは知らなかった事にしておいてください」

「しかし、よろしいのですか?」

「ええ、型に嵌った考え方は良くありません。親としても好きにさせてあげたいの」

「承知いたしました」


ルビスは一軒の家のテラスに上がっていた。

窓を軽くノックする。

「こんばんは、ディル」

外開きの窓が開く。お目当ての人物が顔を出した。

「ああ、ルビスか。城の方は大丈夫なのか?」

「ええ、多分スヴェンが何とか……」

ディルと呼ばれた青年は、少し困った顔をする。

「そんなに無理して会いに来てくれなくてもいいんだぞ」

「でも……」

「気持ちは嬉しいけどな。そのうち立場が危うくなるんじゃないのか?」

「私は大丈夫よ」

その自信は、一体どこから来るのか。

「まあ、時間はたっぷりあるんだ。俺はいつもここに居るし」

「うん……」

ルビスはそのまま窓の桟に腰をかける。

「ねぇ、ディル」

「うん?」

「貴方は、人間達の住む国に居た事はあるの?」

「少しだけな」

「どんな感じ?」

「ここと大して変わらないさ。人々の生活なんて」

ルビスは、この街の外にはまだ出たことがなかった。

その為か、街の外からやって来た彼に惹かれるものがあったようだ。

「強いて言えば、ルビスみたいに力を持つものは少ないってことぐらいか」

「そう……」

「行ってみたいのか?」

「そうね、機会があればだけど。でも、どうかしら」

城を抜けるだけで大変な今の状態では、街の外に出るなんて出来るわけがない。

「良ければ、後で俺が連れてってやるよ」

「えっ、いいの?」

「ああ。何時になるかは分からないけど。そのうち、な」

今のルビスには、その答えで十分だった。

「ねえ、ディル……今日はこのまま泊まって行っていい?」

上目遣いでディルの瞳をまっすぐに見つめる。

彼は少し困った顔をするが、すぐに笑顔になる。

「どうせ何を言っても泊まるつもりなんだろ?」

そのままルビスの体を抱き締める。

「……好きよ、ディル」

そして二人は唇を重ねた……


(ディル……)

墓地の一角――

小さな石碑の前に佇み、手を合わせるルビス。

「珍しいわね、こんな所で」

後ろから声をかけられる。ルーシィだった。

「ルーシィ……」

振り向いたルビスの顔は、なぜか涙で濡れていた。

「ちょ、ちょっと、どうしたのよ?!」



――――

「彼は、人間と精霊の混血だったの。だから、周りがみんな反対してたわ」

「ふぅん……ルビスにそんな人が居たとはね」

「昔の話ですよ。思い出したら、ちょっと涙が出てきました」

「で、これがその人の?」

ルビスは頷いた。

「転居して来たルーシィは知らないと思うけど、前にちょっとした内乱があったの」

「内乱?」

「ええ、守堅派と穏健派の対立はルーシィも知っていると思うけど・・・」

守堅派は、古い伝統にこだわり、他民族を認めようとしない。

逆に穏健派は種族の壁を取り払い、新しいことはどんどん取り入れようとする。

この二つの派閥は絶えず争いを繰り返し、時には血が流れることもあった。

「あ、そういえば、聞いたことがあるわ。私達がリヴァノール入る前でしょ?」

「そうよ。ディルはその混乱の最中に、亡くなったの」

「そうだったの……」

「原因は明らかにされなかったけど、私が彼の元を尋ねた時には、もう……」

ルーシィは何も言わず、ルビスの話を黙って聞いていた。

「それからなの。私がリヴァノールに入ろうと思ったのは」

話している間に、ルビスの瞳からはまた涙が溢れていた。

「私、もっと強くなりたい。彼のためにも……大切な人を守るためにもっと力が欲しい!」

「ルビス、その気持ちがあれば、十分でしょ」

ルーシイは、ルビスの体を優しく抱きしめた。

「さ、もう行きましょ。サファイア様との約束があるんでしょ?」

「え、どうしてルーシィがそれを?」

「私も王宮に来るように言われてるのよ。ルビスがどっかで油売ってたら連れて来て欲しいって」

「……」


「お久し振りです、サファイア様」

「そうですね、ルーシィ。いつもルビスの相手をしてくれて感謝していますよ」

ルーシィは少し緊張気味だ。

「それで、本日はどのような御用ですか?」

「実はね、2人にして貰いたいことがあるの」

「え……それは、任務ですか?」

「ええ、貴女達にとって、城外での初任務になりますね」

初任務、と聞いて、胸を躍らせるルビス。

「どんな内容なんですか、お母様?」

そうルビスが質問すると、サファイアはニッコリと微笑んだ。

「二人共、‘時空の扉’と言う場所を知っているかしら?」

「時空の扉ですか? いえ、存じ上げません」

「どういった所なのですか?」

二人にとって初めて聞く場所だった。

「そうね、一言で言うなら‘世界を繋ぐ場所’かしら」

「世界を……」

「繋ぐ?」

訳が判らなかった。一体どういう事なのか。

「ここ以外にも、違う世界があると言ったら?」

「この、‘ガイア’以外にも、ですか?」

「ええ」

二人は、サファイアが言ったことが信じられなかった。

「リヴァノールで習ってた時も、そんな所出てなかったですよ、お母様」

「そうね、一応、国家機密ですから」

「どうして秘密なんですか?」

「他の世界の方が紛れ込んだりするのを防ぐためですよ、ルビス」

「はぁ~、なるほど……」

一人納得しているルビスを横目に見ながら、ルーシィが質問する。

「それで、私共は、何をすれば」

「今、任務中の者が、5日間の休暇に入るの。その間の警備をお願いしたいの」

「5日間ですか。承知しました」

「お母様、ところで、その扉は何処にあるのですか?」

「この街を出て、ずっと西に行くと海の手前に小高い丘があるのは分かりますね?」

「は、はいぃ」

ルーシィの声が裏返った。

「どうしました? ルーシィ?」

「あ、い、いえ、何でもありません……」

サファイアは特に気にする様子もなく、続ける。

「その洞窟の中にあるの。扉、と言っても結界で守られている遺跡みたいな物よ」

「お母様、そこって、西果ての洞窟ですよね?」

ルビスが知っている知識を披露する。だが、それは余計な一言だった。

「あら、ルビス、詳しいのね。どうして貴女が知っているのかしら?」

ギクリとするルビス。

「あ、あの、前、学校で……」

「そうです、あそこは魔獣が沢山居て危険だから、近付かないでって」

ルーシィも慌ててフォローする。だが、サファイアは。

「ふふ。二人共、私が知らないとでも思っていましたか?」

「え」

「学園から聞いているわよ。魔獣の群れを二人だけで倒してしまったんでしょう?」

『……ごめんなさい』


西果ての洞窟の入り口――二人はその場所に居た。

「全く、ルビスが余計なこと言うから……」

王宮を出てくる時からずっとルーシィの機嫌が悪い。

「ごめんねルーシィ。まさか、お母様が知ってるとは思わなかったから……」

「でもまさか、また此処に来るとはね」

「懐かしいね、ルーシィ」

「嫌よ、もうあんな思いするの」

あからさまに不快感を露にするルーシィ。

「でも、魔獣の気配、しないよ?」

「そうね。それに、静か過ぎない?」

魔獣がいるにしては、辺りは不気味なほど静まり返っていた。

「もしかして、私たち運が良いのかな?」

「さあ?とにかく、結界の中に入るまでは、油断しちゃ駄目よ」

「判ってる」

そして二人は、ポッカリと口を開けている洞窟の中に消えた。


続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ