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第4部第15話


闇の中にそびえ立つ巨大な宮殿。その中の一室に魔族達が集められていた。

「あの女が……次の王、だと?! どういうことだ?!」

「本気か? ラウル! あの女は、人間の血が混じっているんだぞ!」

「お前、自分で言っている意味が分かっているのか?」

「そうだ、俺は認めんぞ!」

「ゼクス様を殺したのよ! そんな女に従えるわけないじゃない!」

魔族たちは次々にラウルに食って掛かる。

もちろん、彼がノエルの部下であると判っていての行動だ。

「決定事項だ。女王サファイアを殺したのはノエル様だ。彼女が次の王にふさわしい」

「俺は失礼させてもらう」

その中の一人がそう言って席を立つ。

「おい、何処へ行く。ノエル様が信用できないとでも言うのか」

「当たり前だ。信用など到底出来るものではない」

「俺も反対だ。ゼクス様を裏切った奴を許してはおけん」

「そうね。それに、そんな女が力を持っているとは思えないわ」

騒ぎが収まらなくなってきている。

実力行使もやむなしか、とラウルが思いをめぐらせていると。

「力を持っていない、ですか。随分と威勢がいいですね、貴方達は」

「の、ノエル様?! 」

背後から声が聞こえ、皆一様に振り返る

宮殿の吹き抜けの上部にボンデージ姿のノエルが立っていた。

突如として現れた彼女を前に、ざわつく魔族たち。

彼女はそこから飛び降り、地面にふわりと降り立った。

「本当に力が無いかどうか、試してみますか?」

そのノエルの言葉で、さらに周囲が騒がしくなる。

「俺は昔からお前が気に入らなかったんだ!」

「ちょっと魔力が有るからっていい気になりやがって!」

「よくも魔王様を殺したわね! この裏切り者!!」

あっという間に数人に囲まれるノエル。

『殺シテヤル!』

「愚かですね、いいでしょう。相手になりますよ」

黒い風が、吹いた。




数分後。平然とした表情で立つノエル。彼女の周りには複数の死体が転がっていた。

が、やがてそれも風化し、崩れ落ちていく。後には白い灰のみが残った。

「さて」

唯一生き残っていた女に歩み寄るノエル。鋭い眼光がギロリと光った。

「申し訳ございませんでした、ノエル様!」

女は震えながら詫びた。

「貴女様こそ、次の王に相応しいと存じ、ひっ……」

「現金ですねぇ。でもね――」

ノエルは女の顔を自分に引き寄せ、にっこりと笑った。だが、彼女の瞳は笑っていない。

「そういう人は、長生きしませんよ?」

ドッ


ノエルに貫かれた女は悲鳴を上げることすら出来ずに灰と化した。

「こんな所で命を無駄にすることは無かったでしょうに。残念ですね、ふふ」

自分の手に付いた血をぺろりと舐め取り、クスクス笑う。

魔族達は、そんなノエルの様子に恐怖を覚えていた。

静まり返る室内。


「こうなることは、予想はしていたの。私はあなた達とは違いますからね」

一呼吸置いて、再びノエルは話し始めた。

「私の目指すところはただ一つ。魔界の安定です。

世界は今までの戦いで疲弊し過ぎています。このままでは私達の安住の地はありません。

再び魔族の栄光と安定を取り戻すために私は死力を尽くします。

皆さん、私に付いて来てください」

周りに居た魔族達は、皆一様に地面に平伏した。

この瞬間、新魔王が誕生した。



「これで……良かったのよね」

過激な挨拶が終わり、周囲に誰も居なくなってから、ノエルはポツリと口に出す。

そこへ彼女の背後から、声がかかる。

「どうやら次の王はノエルで決まりのようだな」

「ツヴァイ……まさか、ずっと見ていたの?」

「まあ、な。事の結末を知りたかったからな」

あいかわらずですね、と言いかけてツヴァイの後ろを見て驚く。

「フィア?! あなたも居たの?」

「うん。かっこ良かったよ、ノエル」

そこには前と変わらない姿のフィアが立っていた。

「ありがと。でも、何か恥ずかしいわね」


「しかし、いまだに信じられんがな。お前にとっては恩人だろう?」

フィアがいるため、直接的な表現は避けたツヴァイ。

「……」

ノエルはそんなツヴァイの意図を理解したのか、途端に表情が暗くなる。

「ああ、そうだったな。悪い」

「いえ。もう私の中で区切りは付いていました。ただ」

ノエルは自分の両手をぎゅっと握り締める。

「今回のことで、私はとんでもない過ちを犯してしまったような気がして……」

「ノエルは魔族としての役目は十分に果たした。何か不満でもあるのか?」

「確かに魔族としてはそれで良いかもしれません。ただ、私の……」

「いや、あれはあれで良いんだ」

後の言葉をツヴァイが遮る。

「女王は自分の力の限界を知り、自ら命を絶ったに過ぎない」

「それは、そうですけど……」

「まあ、王女の気持ちは察するが……あの性格なら、すぐ立ち直るだろう」

「殺すなら今だけどね」

フィアの言葉に、ビクリとすくみ上がるノエル。

「ノエルは卑怯なことは嫌いだもんね」

「お前が言うと冗談に聞こえないが……フィアもだいぶいい具合に成長してきたな」

「ツヴァイ、あまりフィアに変なこと教えないでください」

「……まあ、お前に魔族らしくしろ、というのは酷な事かもしれないが、気にするな」

「ありがとう、ツヴァイ」

ツヴァイのフォローで、ノエルの顔に笑顔が戻る。



「さてと、俺はそろそろ失礼するよ」

「ツヴァイ、もう行くんですか?」

「ああ。そのうち反乱分子でも集めて、ひと悶着起こすのも面白いかもな」

ノエルは苦笑した。

「冗談はやめてください……でもツヴァイならやりそう」

「今はまだよしておいてやるよ。まあ、楽しみにしておけ」

「今は、ですか。何か怖いですね」

「じゃあな」

「元気でね。ツヴァイ」

ツヴァイが闇に消える。


「フィアはどうするの?」

「ん~、新しいご主人様でも探そうかなぁ」

フィアは自分の胸元をじっと見つめて、

「また大きくしてもらうんだ」

ノエルが思わず一言。

「不純な動機ですね……」

「いいでしょ、別に! 大人には分からない悩みなの!」


「ふふ、可愛いわねぇ。まだまだお子ちゃまねぇ、フィアは」

突然、聞いたことある声があたりに響く。

「セラ……」

「久しぶり、ノエル。ま、正直会いたくはなかったんだけど、ね」

二人の間に微妙な空気が流れる。

「セラ、私……」

「ストップ。それ以上は言ってもしょうがないわ。今はあんたが王よ」

「セラ……そうね、ありがとう」


少しの間があった後、セラが口を開く。

「しばらく休暇にするわ。何かネタが有ったら持ってきてあげるわよ」

「ありがとう……」

「やあねぇ、私とノエルの仲じゃないの」

ノエルの肩をバンバンと叩く。

憎しみを込めて思いっきり。

「セラ、痛ひ……」


「元気でね、二人共」

「またね、ノエル」

「時々憂さ晴らししてるかもしれないけど」

セラの言葉に苦笑するノエル。

「二人とも、罪のない人だけは殺めちゃ駄目よ」

「はいはい、判ってますよ、ノ・エ・ル・さ・ま」

「もう、セラったら」

「じゃあね」


皆が立ち去り、宮殿は静寂に包まれる。

ノエルは寂しさに囚われそうになったが、言い聞かせるように言った。

「さ、これからが大変ね。がんばりますか」




宮殿から少し離れた場所でセラとフィアは立ち止まった。

もうすでに彼女達の顔からは笑顔が消えていた。

「ふん、いい気なものね。なにが魔王よ、裏切り者が!」

セラは自分のポケットを探る。

「これさえあれば……」

取り出したのは黒く光る石が付いた指輪だった。


「よう、セラ」

「あれ、ツヴァイ、先に行ったんじゃなかったの?」

ツヴァイが待ってました、と言わんばかりに二人の前に現れた。

「なに、面白そうな修羅場が見れると思ったからな」

「あら、じゃあ、がっかりしたんじゃないの」

「まあ、な。だが、お前、許したわけじゃないんだろう?」

セラの顔が瞬時に歪む。


「当たり前でしょ! 本当なら殺したいわよ!」

「なら、何故今すぐ殺さない?」

「私はそこまで馬鹿じゃないわ。今行動を起こしたら、間違いなく反逆罪でしょ」

「目の前で圧倒的な力を見せ付けたからな。堂々と反対する奴は居ないだろうが」

「それに、悔しいけど今のノエルには勝てない。あんな力を隠していたなんて……」

「全くだ。今まで何故気付かなかったのか……」

「そうよね。ディストの時といい、ゼクス様の時といい、おかしいとは思っていたのよ」


ノエルの力は、セラやツヴァイの力を軽く凌駕していた。

元々の力に加え、ゼクスが覚醒させた力が上乗せされたからである。

しかし、そんなことを知らない二人は、今まで隠していた、という風にしか思っていないのであるが。


「だが、策がないわけではないのだな?」

「ええ、そうよ。それにアンタだって、隙あらばチャンスを伺っていたんでしょうし」

ニヤリとほくそ笑むセラをムッとした表情で睨むツヴァイ。


「で、ツヴァイ。アンタはこれからどうする気よ?」

「反対派の輩も多い。奴らの処理をしようと思っている」


「そうね、先ずは味方を引き入れて……あとは反逆者に、死を」

「お前は殺しを楽しむほうだからな。死刑執行人でもやってみろ」

「すでに死ぬことが決まってる輩を殺したところで、面白くも何ともないわ」

「そうか? 毎日殺しが出来るぞ。しかも合法でな」

「何言ってるのよ。死を目の前にしたときの恐怖、あれがいいんじゃない」

2人の殺害談義にフィアは付いていけてない。

「……ええと、つまり、ツヴァイとセラは、ノエルを殺しに行く、でいいの?」

「俺としてはノエルを殺すのはどうでもいいのだが」

「ツヴァイは黙ってて。大まかに言うとそういうことね。フィア、貴女も来なさい」

「え……でも……」

フィアは明らかに表情を暗くする。

今まで仲間だったノエルを殺すと言う罪悪感か。

それとも自分が死ぬかもしれないと言う恐怖感からか。

「フィア、貴女判ってないだろうから言うけど、ゼクス様はノエルに殺されたのよ」

「え……」

「おい、セラ!」

混乱しているフィアの目を、じっと見つめるセラ。

「今後のためにも本当のことを言うわ。フィア、よく聞いて」

セラは身体をかがめて、フィアと同じ視線になり、告げた。

「ノエルは私達を裏切って、ゼクス様を殺したの」

「そんな……なんで?」

「でも、大丈夫よ、フィア。ゼクス様は私が復活させるわ」

「ご主人様を復活させるの?」

「ええ、そうよ。そして、私の愛しいゼクス様を殺した、あの女を始末するの」

フィアの手をぎゅっと握り締めるセラ。その表情には決意がみなぎっていた。

「私も……ご主人様を殺したノエルは許せない」

フィアのその言葉に、満足そうに微笑むセラ。

(まだ彼女フィアの意識が残っているということは――うふふ、まだ希望はあるわ)

密かな想いを秘め、その憎悪に燃える瞳を漆黒の宮殿に向ける。

「待っていて下さい、ゼクス様……必ず復活させて差し上げます!」



そんな二人を横目に、ツヴァイは一人、そこから立ち去って行った……



第4部 完


あとがき

「こんにちは。脱サラならぬ脱魔族をした由希です」

「やっと4部を終えることができました、mです」

「前回はあとがきが無くて申し訳ありませんでした」

「まあ、色々あってね。今回は特別に当社比二倍で」

「とか何とか言って、本当はただ書くのが煩わしかっただけなんじゃないんですか?」

ぎく

「あ、図星ですね?」

バタン(扉の開く音)

「こらぁ、m!!」

「あ。直美。ルビス。丁度よかった。今あとがきを……へぶぅっ?!」

すぱーん(ダブルパンチが効いた音)

「い、いきなり何しやがる!」

「何しやがるじゃないわよ! 私がヒロインの筈でしょ? 何でこれで終わってるのよ!」

「お母様を返してください!」

「あれ? 言ってなかったっけ? 以前予告しておいたはずだけどねぇ」

「予告?」

「そう。結構前に新たな展開があるって言ったでしょ」

「あ~、そういえばなんとなくそんな気が」

「でもまさか、二つの国が同時に崩壊するとは思わなかったわよ」

「結論は最初のうちに考えてあったからね。やっとここまで書けたって感じだよ」

「でも、これで大団円ってわけではなさそうだね」

「セラ様、まさか魔王の復活を企んでいるとは思いませんでした」

「でも、今回魔族側の話がやたら多くなかった? 後半は殆どノエルさんの話になってたし」

「ノエルはこの作品の裏ヒロインだからね。前に言わなかったっけ?」

「初めて聞いたわよ、そんなの!」

「あ、そっか。あれは由希に言ったんだっけ。じゃ直美は知らなくて当然か」

「……それだったら……なんで1部から出してくれなかったんですかぁ」

「やあ、ノエル。いつからそこに?」

「最初から居ましたけれど、何か?」

「白々しいわね、アンタ……」

「いやぁ。ノエル。相変わらず刺激的な服装だねぇ」

「//////」(赤面)

「なんかノエルさんって、だんだん肌の露出が多くなってるよね」

「誰のせいですか? 一体」(ギロリ)

「さあ、誰でしょ?」

「貴方のせいでしょうが!!!」

「ぐは……」(撃沈)

「変態作者め……」

「ごめんなさい、ナオミ。私やっぱり人間って好きになれないわ」

「悔しいけど私も同感。こんな奴ばっかりだから駄目なんだよ」

『ハァ……』


「ところでノエル……よくもお母様を殺しましたね!」

ぎく。

「る、ルビス様?!」

「許しませんよ……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「は、はわわ……さ、さよなら~」

「あ、コラ、待ちなさ~い!!」

バタバタバタ……

「行っちゃった」

「魔王の威厳、まるでなし」

「まあ、これはこれで幸せかもしれませんね」

「そうね……」

「いつも通りじゃない」


「(ガチャリとドアが開いて)邪魔するぜ。お、直美も居たのか」

「和也! 来てたんだぁ!!」(抱き付いていちゃいちゃ)

「(むくり)あ~、キミタチ、用が無いなら帰ってくれる? 」

「(聞いてない)ねぇ、和也、今度どこか2人っきりで旅行にでも行こうよ~」

「ん、そうだな。それもいいかもな」

「ほんと~? うれしい~」(さらにいちゃいちゃ)

「まさか、前回mさんがあとがきを載せなかった理由って」

「言うな由希。言いたい事はよく分かる」

「何か空しいですね……」

「ああ……」(涙目)


「で、何で和也がここに居るんだ? 今日は呼んでない筈だが」

「しらばっくれるんじゃねぇ。4部は出すって言っただろ」

「出したじゃん」

「何だあの扱いは? 結局ほとんど出番なかったじゃねぇか」

「何言ってるんですか。最後美味しい所持って行ったじゃないですか」

「攫った本人が何を言うか。いい加減にしろ」

「いいのよ。細かいこと気にしちゃ駄目」

「よくねぇ!」

「由希の性格、段々壊れてきてるな。誰かが見たら悲しむぞ」

「誰かって、誰よ?」

「ゆ、由希さん……」

「ハッ……由美子さん?!」

「私、由希さんがそういう人だと思わなかった……」

「ち、違うの! これはmが!」

「馬鹿ぁぁぁ!! うわぁぁぁぁん」

バタン。

「あ~あ。行っちゃった」

「マジ泣きだったぞ……」

「わ、私、謝ってくる!! 森野さ~ん! 待ってぇ!!」

バタバタバタ……

「司会者が仕事放って逃げたら駄目だろ……」


「と言うわけで、今回もそろそろお別れの時間です。第4部楽しんで頂けたでしょうか?」

「結局最後は直美が締めるわけか。やっぱりしっかりしてるな」

「作者のお墨付きも貰った所で、それでは皆様、また次回~」

「私も出せ~」

「わ、姉さん!!」

「何とか間に合ったようね……危うく忘れ去られる所だったじゃない!」

「遅いぞ陽子」

「うるさいわね、私はルビスみたいに瞬間移動できないの!」

「まあまあ。それでは皆様、次回もよろしくお願いします! 水口直美でした~」


「m、ちゃんと続き書きなさいよ?」

「へーへー」



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