第4部第12話
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精霊の王都、コランダム。そのあちこちで火の手が上がる
街の中には沢山の魔族が出現していた。
勇敢にも戦っている者もいるが、ほとんどは逃げ惑うばかり。
街は一瞬にして地獄絵図と化した。
その様子を眺めている二人の魔族――セラとツヴァイ。
2人は街の外壁の上に立ち、その様子を伺っていた。
「どうやら始まったようだな」
「そうね」
「さて、久し振りに俺も一暴れするか」
壁を降りようとするツヴァイにセラは声をかけた。
「あ、私は別行動するから」
「構わねぇが……お前、何か企んでないか?」
「秘密」
ツヴァイは心底呆れた。
「ん?」
その時、ツヴァイは眼下の広場に見覚えのある顔を見かけた。
セラも下を眺める。そこには魔族たちと懸命に戦う、2人の少女の姿が。
「ルビス! 先にお城に行って! こいつらは私が何とかするわ!」
「ありがとう、ヨーコ。恩に着るわ」
駆け出すルビス。それを追おうとする魔族達に陽子は声を掛けた。
「こら、あんた達の相手は私よ! 」
たちまち周囲を取り囲まれる陽子。
「フレアー!!」
炎が勢いよく立ち上がる。それに巻き込まれた魔族が次々と灰と化していく。
「さあ、束になって掛かってきなさい!!」
「……ずいぶんと元気ねぇ。あの子達って、やっぱり苛めがいがあるわぁ」
「セラ……お前とことん性格ひねくれてるな」
「何か言った? ツヴァイ?」
「い、いや、何も……せ、セラ、首、首絞め……ぐは」
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何匹倒したかは判らない。陽子は一向に減らない魔物の数に焦りを感じていた。
「やぁっ!!」
ショートソードの一太刀によって崩れ落ちる下級魔族。
「くっ、どこから湧いてくるのよ、こいつらは!」
「お答えしましょうか?」
「っ?!」
気が付くと、陽子の周囲は闇に取り囲まれていた。
「こんにちは。はじめましてですね。樋口陽子さん?」
突然物影から人影が現れた。
「ど、どうして私の名前を?」
「私は……マナ。勝負です、樋口さん!」
少女の髪がざわりと動き、陽子の足元が砕け散る。
「なんて破壊力……!」
陽子は、一旦体勢を立て直すために、後ろへ跳ぼうとして、固まった。
「なっ?! 動けない?!」
「逃がさねぇぞ」
陽子の後ろにもう1人少女が。
「紹介するわ。私の友達のトモよ。彼女は影を操るの」
「もうすぐ王宮が陥落するぜ。まあ、アタシらには関係ないけどな」
「そんな事、絶対ないわ! サファイア様はそんな簡単にやられる方じゃないもの」
「魔王がこの国に来てるんだ。さすがの女王も殺されるな」
魔王、という単語に、陽子の顔は青ざめる。
「じょ、冗談じゃないわ! だったら余計早く助けに行かないと!!」
眞奈美はクスリと笑った。そして、彼女の髪が再びざわめく!!
「しまっ……!」
「つかまえたぁ」
髪の毛で四肢を絡めとられ、陽子は身動きが取れない。
「私をどうするつもり?!」
「別に何もしやしないさ。アタシらは関係ないからな」
「最も、私達の力じゃ、精霊に守られている貴女には敵わないけどね」
そういって、眞奈美は陽子の緊縛をするり、と解いた。
「私達は、あなたの足止めを言い渡されただけ。もう周りに魔族は居ないわ」
気が付くと、あれだけ騒がしかった周囲が静かになっている。
言葉通り、周囲には誰も居なかった。
「……どういうつもり?」
「個人的な罪滅ぼしですよ。早く城に行った方が良いわ」
「もう手遅れかもしれないけどな」
「そんなこと無い!! 待っていて下さい、サファイア様!!」
陽子は駆け出した。
陽子の姿が見えなくなったとたん、がっくりと膝をつく友子。
「トモ! あなた、体が!! やっぱり、無理してたのね?!」
慌てて眞奈美が駆け寄った。その体は既にかなり冷え切っている。
「だいぶ魔力が弱ってきちまっててな……正直隠し通すのはきつかったぜ」
「早くユキさんかセラさんに看て貰わないと!!」
眞奈美の言葉に首を振る友子。
「いや、所詮延命処置にしか過ぎねぇさ。元々死んだ体だからな」
「どうして……」
「マナ、色々、迷惑掛けたな。地獄で待ってるぜ」
「嫌ぁ!! トモ!! いかないで!!」
眞奈美の腕の中で、友子の生気がなくなっていく。
そして、力が抜けて動かなくなる。
「トモ――!!」
廃墟の町に彼女の悲鳴だけが木霊した。
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静寂に包まれていたコランダム城が轟音とともに揺れる。
「何だ?! どうした!!」
「隊長!! 魔族です!!」
「何だとっ!!」
「くそ! なんとしてもサファイア様をお守りしろ!」
「はっ!」
スヴェンは、謁見室に駆け込んだ!
突然のことで、サファイアは椅子から立ち上がる。
「何事ですかっ?!」
「サファイア様!! 大変です!! 魔族が……ぐはぁ?!」
「スヴェン?!」
背後から魔法を受け、壁に叩きつけられるスヴェン。
「く……何者です?!」
「久し振りだな、サファイア。いや、“蒼い彗星”。聖魔大戦以来か」
入り口にたたずむ漆黒の甲冑を身に付けた1人の男。
「貴方は、魔王……ついに……ついにここまで?!」
「貴様への長年の恨み、果たす時が来た」
と、魔王の後ろに、見覚えのある漆黒の女性。
その姿を見て、サファイアは愕然とした。
「の、ノエル?! 貴女、まさか!!」
そこには、あのノエルが立っていた。虚ろな目をして、焦点が合っていない。
サファイアの狼狽した姿に、魔王が反応する。
「ほう、なるほど。貴様の入れ知恵だったか。だが、ノエルは我の人形だ」
「貴方と言う者は……! それが他人の上に立つ王の言葉?!」
「ふん、強いものが上に立つ。下の者は従う義務がある。それはこの国でも同じであろう?」
魔王の言っていることは正論だ。だが、部下を物の様に扱って良いものではない。
サファイアは魔王の態度にはらわたが煮えくり返る思いだった。
「王女は留守のようだな。まあいい。そのうち見付かるだろう」
「こ、この国を、貴様ら魔族に渡すわけには行かない!」
スヴェンは床に落ちていた自分の剣を拾い、魔王に猛然と突っ込んでいく。
だが、切っ先が魔王に届く直前、
「ふん、死にぞこないが。やれ」
ザンッ
「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
「スヴェン!! 嫌ぁぁぁぁ!!」
ノエルの一撃。彼の体は鎧ごと胴から二つにされ、血飛沫と共に床に転げ落ちる。
「ふん、死に急ぐとは愚かな。もっとも、統制が執れた軍なら勝手に動かれることもないがな」
「ああ……なんてことを……」
「ご苦労だったな、ノエル。お前は傍で見ていろ」
魔王はノエルをねぎらい、後ろに下げさせる。
「はい……ゼクス様」
サファイアは履物を脱ぎ捨てると立て掛けてあった剣を手に取り、構えた。
「私は……絶対に貴方を許さない!!」
「最期まで我に刃向かうつもりのようだな。ククク。面白い」
魔王はニヤリと笑い、漆黒の大剣を構える。
「この城が、お前の墓標だ、サファイア。地獄を見るがいい!」
次の瞬間、両者の剣が交錯した。
幾度となく繰り返される、つばぜり合い。
しかし、サファイアは、魔王の剣の重さでしだいに押されていく。
「どうした。長い平和で腕が落ちたか。それとも“彗星”の力はこんなものか? 」
「うるさい!」
「やはり貴様はあの女が居なければこの程度か」
キィン!!
サファイアの剣がはじかれる。
「くっ、しまッ?!」
ザンッ!!
「ぐっ?!」
サファイアの脇腹を剣が凪ぐ。純白のドレスはたちまち真っ赤に染まった。
「さて、どうしてやろうか。貴様には特に世話になったからな。直ぐに殺すのも勿体無い」
「ふざけ、ないで!!」
サファイアはの手から灼熱の炎が放たれる。だが。
「ふん、ぬるいわ」
「そ、んな?!」
炎は魔王の手前でかき消される。
そして暗黒の光球が凄まじい勢いで発射された。一直線にサファイアに向かっていく。
「ふ、防ぎきれないっ! きゃぁぁ?!」
ミシッ……メキメキッ
サファイアの全身の骨が悲鳴を上げた。
「ククク……重力に押しつぶされる気分はどうだ?」
「がはっ……」
彼女の口から多量の血が吐き出される。
ガッ
「ぐぅっ?!」
おもむろに近付き、倒れたサファイアを踏み付ける。
肋骨がメキリと折れた。
足にさらに力を入れる。
「あああぁッ!!」
悶絶するサファイア。もはや抵抗することもできない。
魔王は足を離し、血で染まったドレスを引きちぎり始めた。
「な、何をするの?! 止め、嫌ッ!」
嫌がるサファイアの体を押さえこむ。
「少々楽しませてもらうぞ。ククク」
次々とドレスを破り、段々とサファイアの柔肌が露になっていく。
そして、無理矢理唇を奪った。
「んんっ……」
ガクリと力が抜ける、サファイアの身体。だが、次の瞬間!
「ぐぁぁぁぁっ?! き、貴様!!」
突然、喉が焼けるような痛みが魔王を襲った。
思わずサファイアを突き飛ばす。
「……油断したわね、ゼクス。切り札は最後まで取っておくものよ?」
「それは……その呪文は魔封じの……ッ!!」
魔法陣が完成する。その光に包まれ、魔王が苦しむ。
「や、やめろ!! うがぁぁぁぁ!!!」
「思い出したわ。確か、貴方の身体はすでに破壊されていた筈……」
サファイアの足元に、それは蠢いていた。
『オ、オノレ……ヨクモヤッテクレタナ……!!』
「なるほど。思念体となって、蛇に取り付いていたのね」
体長20mはあろうかという大蛇がサファイアを威嚇していた。
『コロシテヤル!!』
牙を剥き、サファイアに襲い掛かる。が、その刹那。
『グアァァァッ?!』
何者かに大蛇の尾が分断された。
『ノ、ノエル!! キサマ……!!』
サファイアの背後には、いつの間にか風を纏ったノエルが立っていた。
「魔力が失われたあなたには、もう従いません――」
ノエルの指から、指輪がポロリと外れた。
「――さよなら――ゼクス様」
そう呟き、魔法を発動させる。すさまじい突風があたりを駆け抜ける。
『グギヤァァァァァァァァ!!』
端末魔の悲鳴。バラバラに分断される体。
そして、そのまま灰になり、崩れ去っていった――
続く
あとがき
「こんにちは。由希です」
「毎度お馴染み、mです」
「mさん、私今回、出番が全くないんですけど」(ナイフをちら付かせて)
「……いやその、危ないから止めて貰える?」
「それに水口さんも出てないですし」
「今回は流れ上難しいからね。おあずけ」
「いい加減早く完結させてください。待ち続けるのは疲れましたよ」
「じゃ、由希クビにして本編に出すのやめようかな」
びくっ
「そ、それだけは勘弁してください~」
「さて、由希の弱みを握ったところでこのへんで……」
「終われるか~!!」
ドカッ
「ぐはっ……」(沈黙)
「み、水口さん?!」
「先生。こんな人放っといて続けましょうよ」
「そうね。あれ? あそこに居るの、ツヴァイじゃ……」
「あ、ホントだ。ずいぶん落ち込んでるみたいだけど?」
「……ゼクス様……どうしてお亡くなりに……」
「あ~、コリャ重症だわ」
「放っとこうか」
「そうですね」
「って、オイ貴様ら!」
「何よ、落ち込んでたんじゃなかったの?」
「普通こういう場合は何か言うだろうが」
「何かって、何よ」
「もっと気の効いた言葉の一つ掛けてくれてもいいだろう」
「別に。だってあんたなんかに興味ないもの」
ぐさ。
「そうね。私が尊敬しているのはセラ様であってあなたじゃないわ」
ぐさぐさ。
「――」(涙目)
「あ、泣いたぁ」
「追い詰められると弱いわねぇ」
「ああ、ゼクス様……これから私らめはどのようにして生きていけば……」
「いっそのこと、ノエルさんみたいに魔族辞めちゃえば?」
「何を言うか。由緒正しき魔の血筋をここで絶やすわけには」
「由緒正しきって……魔族に血筋なんかあったんだ」
「失礼な奴だなお前は。ここに居る俺を誰だと思っている?」
「卑怯で韋駄天な弱虫魔族」
「あ、あとよくセラ様の尻に敷かれてるわよね~。女性に弱いのかしらん?」
「……き~さ~ま~ら~!! 2人まとめて氷のオブジェにしてやる!」
「わ~!! ツヴァイが怒ったぁ!!」
「くらえ! アイスブラスト!!」
「ひゃぁぁ!! そ、それでは皆さんこの辺で! み、水口さん、逃げるわよ!」
「は、はいっ!!」
「こらぁ~待ちやがれ!!」
猛ダッシュで逃げる由希と直美。二人を追いかけるツヴァイ。
倒れたまま取り残されるmであった。