第4部第11話
>
薄暗い石造りの小部屋。四肢を鎖で繋がれ、1人の少女が吊るされていた。
「負けて帰ってくるなんて、どういうことかしら、ユキ」
鋭い眼光がギロリとにらむ。
「せ、セラ様、っあ、く」
金属性の棒が、由希の腕を、足を、お腹を、打ちつける。
「あ、がっ、ぐっ!!」
「何のために苦労したと思っているの? 貴女は私の顔に泥を塗ったのよ!」
「あぁっ! セラ様! 申し訳ありませ、んぐっ?!」
由希の喉を思いっきり締め付けるセラ。
もはや仕置きというより、拷問に近い。
「謝れば、すむと思ってるの?! この役立たず!」
強烈な一撃を何度も受けて体から力が抜けていく。
鎖が軋んで、じゃらりと音を立て、由希の手首を締め上げる。
「セラ。そのぐらいにしておけ」
「……あらツヴァイ。いたの?」
一瞬、ピタリ、と止まって鋭い目つきのまま顔を横に向ける。
「少し前からな。もう十分反省しただろう?」
そう言ってツヴァイは由希の鎖を解く。
「は、はい……申し訳ございませんでした……」
その様子を見て、セラは溜息ひとつ。
「まあいいわ。代わりはいくらでも居るの。判ってるわね?」
まともに返事をすることもできず、フラフラと由希が部屋を出ていく。
セラは不満顔のままツヴァイを見やる。
「……あんたって、ほんと女に甘いわよねぇ」
「客観的に判断したまでだ。あのままだとお前、壊れるまでやりかねんからな」
「何言ってるの。ああいう女がいいんでしょ? あんたは」
顔を赤面させて横を向くツヴァイ。
「あ、照れたな、可愛いわね、ツヴァイは」
「う、うるさい! それにお前、ゼクス様にやられた時は嫌ではなかったのか?」
「いいのよ、やられるのは嫌だけど、やるのは気持ちいいから」
「そうか? むしろやられている時の方が悦んでい……ぐは」
「――あんたは、ほんっとにデリカシーってものがないの?!」
床に転がっているツヴァイを見、セラはポツリと呟いた。
――私だって、ゼクス様がいらっしゃらなかったら――
>Naomi
姉さんが出掛けた次の日、うちのポストに手紙が投函されていた。
切手が貼られていないところを見ると、そのままポストに入れられたものらしい。
『本日深夜0時に駅前の百貨店にて待つ 由希』
由希さん……
その下には一言。
『私なりのけじめをつけたいの』
ごめんね、姉さん。私、死んじゃうかもしれない。
夜11時半を回ったところで、家を出た。
今夜は満月かぁ……
空の月が夜道を照らしているお陰で、あまり不安は感じなかった。
流石にこの時間になると、明かりが付いている家は少ない。
数分で駅前商店街に着いた。ここの一番奥にある大きいビルが目的の百貨店だ。
深夜の商店街って、薄暗くて怖いな。
店に着く頃には、いつの間にか月は雲に隠れ、辺りは暗闇に包まれていた。
改めてビルを見上げる。明かりがついている様子がない。
別に変わった様子はない。何か拍子抜けだ。
罠があると思ったから、一応剣を用意しておいたけど。
一歩足を踏み出す。
私のことを待っていたかのように、扉がゆっくりと開く。
これもやっぱり魔力の成せる業だろう。
入って来い、ということらしい。
「……よし」
意を決した私は、中へと足を踏み入れる。次の瞬間。
「あっ」
やっぱりというか、なんというか。扉が再びしまる。
押しても引いてもびくともしない。見事に閉じ込められてしまった。
「先に進むしかないか」
満月が雲の切れ間から顔を出す。ガラス越しに光が店内に差し込む。
それ以外の明かりは、非常口の緑色のランプのみ。
なんか不思議な感じ。
私はしばらく店内を散策した。
そういえば、由希さんの能力って、なんだっけ?
確か、どこからともなく、ナイフが飛んできたような……
なんか、凄く嫌な予感がするんだけど。
階段を上がって3階に着いた時、正面から声が掛かる。
「来たわね、水口さん」
月明かりが逆光で、表情まではよくわからない。
「私達、やっぱり戦わなければいけないんですか?!」
「今更何を。ここに来た時点で貴女は私と戦わなくてはいけないの」
周りの商品が揺れ始める。
周りの商品?
ふと見回すと、そこは台所用品コーナー。ずらりと包丁やナイフが並んでいる。
「えっ?!」
「私の力は、物を自由に動かす力、浮遊よ! これがどういう意味か判るかしら?」
月明かりが、刃物の先端でキラリと光る。
その陳列棚が、がたがたとゆれ始めた!
「まさ、か!」
「やっと自分の置かれた状況に気が付いたようね?」
「冗談じゃない!!」
ヒュン ヒュン!!
「くっ!」
キン、キィン!!
次々と飛んでくる刃物。それを剣で打ち落としていく。
だけど数が多すぎる。いくら落としてもきりが無い。
ドッ
「うわっ?!」
足元に数本の包丁が突き刺さる。
それでバランスを崩してしまう。
だめっ! 避け切れないっ!!
「あぐっ!!」
左腕に果物ナイフが刺さって貫通した。
激痛で気を失いそうになったけど何とかこらえた。
「っつ……まず」
容赦なく次々と飛んでくる刃物の数々。
痛みに堪えながら何とか避ける。時々足とか腕とかを刃が掠めていく。
「ふふ。次は心臓を刺してあげるわ……なっ?!」
「何度も刺されてたまるかぁ!!」
飛んでくる刃物の間をすり抜け、閃光を放つ。
だけど、ぎりぎりの所でかわされる。
「っ、と。なかなかの魔力ね。でも、そんな直線的な攻撃じゃ」
気付いたら、直ぐ目の前に足が迫っていた。
「駄目、ねっ!!」
「がはっ!」
みぞおちに重い衝撃を受けて、後ろの棚もろとも壁に叩きつけられた。
「げほっ、げほっ!」
そのまま棚に下敷きになる。
まずい。非常にまずい。
身体を動かそうと思っても、言う事を聞かない。
全身を強く打ちつけたせいで、骨と筋肉が悲鳴を上げている。
身体全体から血が流れている感覚がわかる。
「そんなところに隠れてもムダよ。早く出てきなさいな」
何とかしなきゃ……何とか……
目の前の棚が大きな音を立てて崩れた。私の視界が開ける。
あ、あれは……!
まだ、終わってない!
「閃光!!」
「まだそんな力が残ってたのね。でも、それも終わりみたいね」
私の放った光は目標からかなり大きく反れた。
「さあ、覚悟はいいかしら? 終わ――」
「当ったれぇ!!」
「なっ?! がはっ!」
私が放った光の玉が先生の背中を直撃した!
「そ、そんな?! なんで後ろから?!」
私は渾身の力を込めて魔法を放った。
「追い討ちの、フレアー!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
>Yohko
コンコン。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
コランダムに来たは良かったけど、いきなり道に迷った。
とりあえず近くにある教会の戸をノックする。
「あ、はい。今開けます!」
「あの、ちょっと道を尋ねたいんですけど……あ、あれ?」
立っていたのは、私の知ってる人だった。
「鷹野さん?!」
「よ、陽子さん?!」
そう。そこに居たのは、鷹野さんだった。
お互いにびっくり。そして抱き合った。
「久しぶり。元気だった?」
「はい。陽子さんも。でもびっくりしましたよ~」
「一人で来るの初めてだから道に迷っちゃって。そっか、鷹野さんの教会だったんだ」
「はい、ここにお世話になっています」
鷹野さんは聖衣を着て十字架を下げている。
「もうすっかり一人前のシスターじゃない」
「そ、そんなことないですよ」
恥ずかしそうに照れる。
「あのさ、これからお城行こうと思うんだけど、道、教えてくれない?」
目の前にそびえ立つ巨大な城。城門を抜けると、お目当ての人が待っていてくれた。
「ルビス、久し振り」
「元気でしたか、ヨーコ?」
「うん、ま、私は大丈夫だったんだけどね……」
私はフィアがまた現れたこと、新たな魔族が出現したこと、和也さんのことをかいつまんで話した。
「そうですか……実は、こちらでも予断を許さない状態なんです」
ルビスが俯く。
「今は大会があるんでお祭りムード一色なんですが……魔族が来ているという情報もありまして」
ルビスの言う大会というのは、年に一度精霊達が集まって行われる武術大会の事らしい。
鷹野さんも特別に出場しているんだって。
「これが終わった後が正念場ですね。一応警備だけは強化してありますけど」
確かに、何が起こるかわからないもんね。
と、私はルビスが外行きの服を着ていることに気が付いた。
「あれ、何処か行くの?」
「これからお忍びを兼ねた見回りの時間なの。ヨーコも大会見に行ってみる?」
「それって逆じゃない?」
「細かいことは気にしないでください」
大会会場は、たくさんの人で、凄い熱気だった
「うわぁ~」
「凄いでしょう? 私も昔、参加したことがあったのよ」
「へぇ~」
「年に一度のお祭りだもの。やっぱり楽しまなきゃ。ね」
ルビスは本当に楽しそうだった。
突然大きな歓声が上がる。どうやら勝負が決まったらしい。
「勝者!リヴァノール学園、リュート=ミシュラル!!」
ドン、ドン。
同時に近くで大きな音が聞こえた。
「花火かな?」
「いえ、違う! そんな、まさかっ?!」
「ルビス?」
さらに大きい音がした!
会場の壁が崩れ落ちる。そこから現れたのは。
『うわぁぁぁ! なんだぁっ?!』
『きゃぁぁぁぁ?!』
一瞬にして歓声が悲鳴に変わる。たくさんの化け物達が出現した!
「ルビス! これって?!」
「魔獣よ! ヨーコ、来るわ! 気を付けて!!」
続く
あとがき
「こんにちは、水口直美です。激しい戦いの末、何とか魔族を倒すことが出来ました」
「ま、まだ死んでないわよ!」(ボロボロ)
「瀕死の癖に、しゃしゃり出て来ないで下さい!今回は私が司会なんですから!」
「そういう貴女も、腕が真っ赤ですよ?」(つんつん)
「痛っ?!」
「それにしても、2人とも派手にやり合ったなぁ」
「命掛かってるからね。真剣なのよ」
「ほう、由希。それでは今までは真剣ではなかったと?」
「い、いや、決してそんな事はないでございますですよ」
「誰だよ、お前は」
「でもさ、あれだけ店の中滅茶苦茶にしておいてよかったのかなぁ」
「あ、その点は大丈夫」
「どうして?」
「ここに由希が居るだろ?」
「散らかった商品の復元ぐらい私に掛かればすぐ戻せるわ」
「なるほど……掃除とかするの、楽そう」
「さて、そろそろこの4部も佳境に近付いているわけだけど」
「私としては、魔王に操られたノエルさんが気掛かりだな」
「コランダムもとうとう魔族の侵攻を受けてしまったしね」
「ルビスと姉さん……大丈夫かな?」
「もうこうなったら、セラ様たちに頑張って貰うしかないですね」
「由希……まだ魔族でいる気でいるのか」
「諦めが悪いなぁ、先生は。私に負けたせいで、セラに会えないんでしょ?」
「う、うるさいわよ! 放っといて!」(しくしく)
「あ、泣いた」
「セラ様ぁ! 見捨てないでくださいぃぃ」
「こんな由希は置いといて、次は重大な事件が起こる予定だから刮目して読んでね」
「重大な事件? 何だろ」
「魔族ユキ、セラの仕置きの為、死す。とか」
「殺すなぁ!!」
「さ、というわけでそろそろ終わりの時間となりました」
「こらぁ、そこで終わらせないでよ!!」
「お相手は、水口直美とm氏、それからエセ魔族ユキさんでお送りしました~」
「さようなら~」
「エセって言うなぁ!」