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精霊の扉 第7話

冬休みに入った。今年受験の私たち三年は、朝から補習。

でも、姉さんはもう推薦される事が決まってるのよね。

ああ、頭がいいって羨ましい……


「あれ? 誰だろう?」

夕方帰ると、見慣れない黒い革靴<ブーツみたいなモノ>があった。

姉さんのじゃないし、母さんはこんなブーツは履かないし。姉さんの友達かな?

「ただいま~って……な?!」

部屋のドアを開ける。と、そこには……

『んっ……』

触れ合う唇と唇。そこには熱~いキスシーンが展開されていた。

ばんっ

慌てて戸を閉める。

なんだったのよ、今のは?!

一人は姉さんと、もう一人は、赤い髪の……

恐る恐る戸を開ける。


姉さんと一緒に、見覚えのある人がこちらを向いたまま固まっていた。

「ルビスさん……だよね?」

『――ええ。こんにちは、ナオミ。久しぶりね』

「み、見た?」

姉さんが恐る恐る聞いてくる。

「うん。ばっちり」

真っ赤になって黙り込む。二人とも、そういう関係?


「魔力の補填?」

「ええ、時々力を分けて貰ってるの。ルビスが私の守護精霊というのもあるけど」

姉さんが首元からネックレスを取り出す。

そこにはなにやら宝石のような赤い石と何かを形取ったらしいオブジェが付いていた。

「これが私がルビスに守護してもらっている証、宝珠オーブよ」

力の受け渡しには、その人の体液を媒介にするので、この方法が一番手っ取り早いらしい。

それにしても突然だったのでかなりビックリした。

『守護って言ってもいつも傍に居られる訳ではないので時々こうしているんです』

ルビスさんは、少し恥ずかしそうだった。


「それに、今回はこの間の事もあるしね」

『この間? 何かあったんですか?』

「ええ、実はね……」

私たちは、神社の一件をルビスさんに話した。とたんに顔が曇る。

『そうですか。ついに彼らが動き出しましたか』

「ルビスさん、知ってるの?」

『ええ、おそらくその男は魔王ゼクスに仕える五将軍のうちの一人でしょう』

いきなりスケールがとんでもなく大きくなった。

「ま、魔王?」

「五将軍?」

魔王は、巨大な闇の力を使い、ルビスさんたち精霊を何百年にも渡って苦しめていた。

その魔王は、最近まで封印されていたが、どうやらそれが解けてしまったらしい。

彼らは、その魔王の周りに仕える側近で、氷、水、風、炎、雷、の属性を持つ上級魔族。

その力は、精霊の力を遥かに凌ぐほど強大らしい。


『奴らは、私たちの世界の秩序を乱し、魔物を生み出した諸悪の根源です』

「そうなんだ。でも、どうしよう。私たち、完全に目を付けられちゃったね」

「そうね……」

そう、あいつに顔を覚えられてしまった以上、また襲われるのは確実だろう。

姉さんと私はふさぎ込んでしまった。

『私の力をナオミにも少し分けましょう。そうすれば、彼らに対抗できるはずです』

「ほんとに?」

そう言った後、私はさっきの場面を想像した。

うわ~、ムチャクチャ恥ずかしいよ、それ。

「でも、ルビスの力は大きすぎるわ。直美の身体が持たないかも」

『少しずつやれば大丈夫ですよ。じゃあ、ちょっと広い場所に移りましょうか』


夕暮れの中、私たち三人は神社の境内にいた。

「ルビスさん、どうするの?」

『まず私の手を握ってください』

言われたとおりにルビスさんの手を握る。

その細く華奢な手は、思ったよりずっと、力強くて暖かかった。

私たちを中心に、大きな魔法陣が広がっていく。半径五メートルくらいはあるかも。

ルビスさんが、何か言葉をつむぐ。同時に、私の手の中に段々と光が集まって来た。

これがルビスさんの力……体中でその力を感じ取れる。

「恥ずかしいから、目、閉じてていい?」

心臓が高鳴っている。女同士とはいえ、キスなんてしたことないからかなり緊張している。

『ふふ。では、いきますよ』

段々ルビスさんの顔が近付いてくる。そして、私が目をつぶったその時だった。


「ほう、貴様か。こいつらに力を授けた精霊は」

『っ?!』

私たちは同時に、声のした方向に振り向いていた。

奴だ。奴が鳥居の上に立っていた!

『あ、あなたは……氷剣ひょうけんのツヴァイ!』

ルビスさんが声を上げる。

「その通りだ。貴様、俺を知っているのか?」

「あいつを知ってるの?」

『ええ、彼が魔王五将軍の一人、氷剣のツヴァイ。氷を自在に操る、恐るべき力の持ち主です』

氷の魔人か――

『実際会うのは初めてですが、噂では、一晩で街を丸ごと廃墟にしたと聞きます』

あいつ、そんなに強かったんだ……

「ねえ、直美……よく無事だったね、私たち……」

頷くだけで、声にならなかった。


「人間に加担するとはな。だが、我々の計画は着実に進んでいる。諦めろ」

『あなた達の好きには、絶対にさせません!』

二人が距離をおいて対峙する。

「我々の邪魔をするというのか?」

「これ以上の悪事は見逃すわけには行きません!」

ルビスさんは男を睨み付けた。

「我々魔族に逆らう輩は生かしてはおけん! 死ぬがいい!!」

奴の体から青白いオーラが噴き出し、辺りの気温が下がり始める。

そして、次の瞬間、氷の粒が私たちに襲い掛かってきた!

「くっ?!」

直撃は免れたけど、服があちこち切り裂かれた。

「氷の刃?!」

まともに直撃したら、命に関わる!

『二人とも! 危険だから下がって!』

緊迫状態になったことで、ルビスさんの口調が少し変わる。

「直美、離れるわよ! 巻き込まれたらひとたまりもないわ!」

私と姉さんはそそくさと端に寄った。

『この世界を貴女達の好きにはさせない! 覚悟しなさい!』

普段のルビスさんとは違い、赤いオーラを纏って、私たちを庇う様に前に出る。

その姿がとても勇ましく、格好良く見えた。


「ふん、精霊風情が。この俺の氷に勝てるのか?」

奴が氷を発射すると同時に、ルビスさんも炎の魔法を発動させる。

氷と火の魔法が二人の間で炸裂する!

その瞬間、ルビスさんの炎が勝って、魔族に襲い掛かった。

「なにぃぃぃっ? ぐあぁぁぁぁっ!!」

燃え盛る炎が魔族の男を巻き込む。

「熱ッ!」

すさまじい爆風と熱波が、私にも向かってきた。

「お、おのれ……ぐおおぉぉぉッ!!」

炎に巻かれた魔族は、もがき苦しんだ後、膝から崩れ落ちた。

ルビスさんってムチャクチャ強かったんだ……


灼熱の炎が収まってなお、黒く変色した地面からは、まだ煙があがっている。

精霊って、こんなに凄い力を持っているんだ!

「ば、馬鹿な?! こ、この俺がこんな小娘になど!」

体からぶすぶすと黒い煙をくすぶらせる魔族。

氷の属性だからだろうか、かなりのダメージを受けているようだった。

「ルビスッ、そんな奴、やっつけちゃえ!!」

姉さんの応援が飛ぶ。その瞬間、奴の顔色が変わった。

「る、ルビスだと! ま、まさか! しかし、その赤い瞳は……!」

『相手が悪かったですね。さあ、観念しなさい!』

「な、なるほど、それならこの強力な炎にも納得がいく。ゼクス様にお伝えしなくては!」

そう言うと、ツヴァイは消え始める。

『あっ、こら! 待ちなさい!!』

ルビスさんの炎が届く直前、奴は完全に闇に消えた。

『逃がしてしまいました……厄介なことになりましたね……』

「ルビスって一体何者? 一撃でやっつけちゃうし、名前聞いただけで逃げちゃったし」

姉さんの質問にしばしの沈黙。

『私は……ただの精霊です。今はそれ以上聞かないで下さい』

「それじゃ答えになってないよ」

『少し待って頂けますか? そのうちに、全てを話す時が来ますから』

「うん、分かった。ルビスがそう言うなら」

結局、ルビスさんはそれ以上口を開かなかった。


続く


あとがき

「さて、前回はすぐに終わってしまったからな。

 改めて自己紹介しよう。私がツヴァイという者だ」

(今回初めて名前が出たからっていい気になって)

「なんか聞こえたような気がするが無視するとしようか」

ドンドンドン!(何かをたたく音)

「ええい、うるさい、少し静かにしろ!!」


(出せ~!こっから出せ~!!)

※前回捕まって、氷の中に閉じ込められたルビス。


(こら~聞いてるの? このへっぽこ魔族!!)

「(部下に)おい、ちょっと大人しくさせろ」

「はっ」


(ちょ、ちょっとなにす……ひゃわぁぁぁぁ?!)※感電


「雷の魔法、サンダスだ。しばらくは全身がしびれて動けまい」

(ひ、卑怯者っ)



「さて、やっと静かになったな。気を取り直して……

 さあ、我々がついにこの世界を征服する時が来たようだな。

 我々とゼクス様の邪魔をする奴は、完膚なきまでに叩き潰してやるから覚悟しておけ!」

『そうはさせません!! フレアー!』

「ぐあぁぁぁぁっ!?」

『全く、あとがきを乗っ取ろうったってそうはいきませんよ!』

「き、貴様……いつの間に!」

『さっきの雷で、氷……割れましたよ』

「な、何ぃ! く、くそっ」

『さあどうしますか? 相手になりますよ?』

「ちっ、今日のところは見逃してやる! 覚えてやがれ!!」

『あっ、待ちなさい!! 全く、逃げ足だけは速いんだから……

 皆さんごめんなさい。私が油断したばっかりに……

 でも、これで状況がかなり厳しくなりましたね。

 次回からどんなことが待ち受けているのでしょうか?

 では、今回はこの辺で。お相手はルビスでした。それでは~』


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