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第4部第2話

>Naomi

数日後の学校の帰り道、私は姉さんに尋ねた。

「ところで姉さん、この宝珠、周りの魔力に反応するって言ってたけど」

「そうね、大体半径1km位近くに来ると、その宝珠が反応するわよ」

なるほど、魔力探知機みたいな感じなのかな?

「それに、今の直美なら、それより先に感じる事が出来るはずよ」

「そうなの?」

「だって、ルビスの力、手に入ってるんだから」

姉さん……

私のそんな気持ちを察したのか、姉さんが少し考えてから、呟いた。

「ん……やっぱりちょっと悔しいかな。でもやっぱり直美が適任だと思う」

「本当に?」

姉さんは軽く頷いた。

「あの時も、直美がいなかったら、私……」

姉さんが言いかけた時、突然私の胸元が光りだす。

「わ?!」

「言ってる側から来たようね。何処だか分かる?」

「え……そんなの分からないよ」

「感じるのよ。意識で。うまく説明できないけど……感覚的なものかしら」

「とりあえず、やってみるね」

私は目をつぶって、力が感じてくる方向を探す。

私の耳には風の吹く音とその魔力の鼓動が混ざり合って聞こえてくる。

……聞こえた! 家の方だ!!

「あ、直美! 待って!」

私は迷わず駆け出す。その間にも、力はどんどん大きくなっていく。

ここだ!! ここを曲がれば……


しーん……


「あれ? 誰もいないや」

そこは、何も無いただの公園。近くに人の気配は感じられない。

「おかしいなぁ……」

「はぁっ、はぁっ」

送れて姉さんも到着する。

「直美……あんた、足速いのよ……」

「あ、ごめん。つい……」

「で? 誰かいた?」

「それが……何も無いんだけど……見失っちゃったみたい」

「そう。でも、近くにいるはずよ。探しましょ」

「そうだね……わ?!」

突如、上空が輝きだした。

何?何が起こったの?

『ひゃぁぁぁぁぁ?!』

どがっ

「はぐぅっ?!」

あ、姉さんが潰れた……

姉さんの上に折り重なるように3人が乗っかっている。姉さんかなり苦しそう……

乗っているのは、ユミちゃん、シイル、と、誰?

「むぐーっ、むむーっ」(重いー! 退いてぇ)

「あ、ごめんなさい、陽子さん! 今どきますから! シイル、早くどいてあげて」

「は、はい、マスター! 大丈夫、ヨーコ!? ごめんね」

「し、死ぬかと思った……森野さん達だったのね」

一人、まだ気を失っているのがいる。さっきの知らない少女だ。

「やっぱりテレポートは慣れないとだめね」

ユミちゃんが苦笑しながら、彼女の体を揺さぶる。

「メル、起きて、着いたわよ」

「はぇ~……あ、着いたんですか、ご主人様?」

『ご、ご主人様ぁ?!』

私と姉さんはあまりに突然の事でびっくりした。

「紹介するわ。羽精霊シルフのメルよ。ほら、挨拶して」

「は、はい。メル=プリーツです。よろしくおねがいします」

金髪、金目が眩しい。尖った耳がピクピク動いてなんともかわいらしい。

「こちらこそ、よろしくね」

彼女と挨拶をかわし、今度はユミちゃんに声をかける。

「お帰り、ユミちゃん、また新しい人の主人になったんだ」

「まあね、色々あってね。向こうで契約したの。ほら」

そう言って、左腕をまくってみせる。

シイルの竜の紋章の隣に小さい羽のような形の紋章が刻まれていた。

「この紋章が刻まれている限りは、私が命じない限り、彼女の背中の羽根は消えてるの」

「私、ご主人様に命を助けられました。だから、何かお役に立ちたくて」

何か自信なさげだな。守ってあげたくなるオーラと苛めたくなるオーラ両方を発している感じ。

一通り挨拶が終わると、彼女は辺りを気にし出した。

「ほら、そんなにキョロキョロしないの」

「すみません。でも、ご主人様の街って、なんか凄いですね……建物も大きいし」

そう言って、俯く。

確かに、ずっと森の中に居たんだもんね。驚くのは当然だろう。

「まあ、直ぐに慣れるわ。心配しなくても大丈夫よ」

「はい……」

「じゃ、今日は帰ろうか、日も暮れるし」

「そうね。あ、それから陽子さん、ごめんなさい」

「いいわよ。気にしなくても。じゃ、またね」

別れる頃には辺りはすっかり日が落ちていた。

今日は空気が澄んでるらしい。珍しく星が沢山出ていて、とても綺麗だった。





闇の世界の最深部。その中心にその男はいた。

その人物こそ、全世界を混沌に陥れようと企んでいる、魔王ゼクス、その人である。

魔王のはらわたは煮えくり返っていた。

(おのれノエルめ……我の邪魔をしおって……)

殺したと思っていたノエルが邪魔をしたせいで、コランダムを落とし損ねたからである。

(まさか生きているとは思わなかったが……まあよい。今一度切り刻んで灰にしてくれるわ!)


「失礼いたします、お呼びですか、ゼクス様」

現れたのはツヴァイだった。少し緊張した面持ちで魔王に頭を垂れる。

『どうした、ツヴァイ。随分と遅かったではないか』

「も、申し訳ありません」

『ふん、まあいい。お前を呼んだのは他でもない、ノエルの事は知っているな?』

「は、はい。しかし、あのノエルが裏切るとは……いまだに信じられません」

ツヴァイは、さも、今さっき知った風な口を利く。

ノエルを逃がしたのはここにいるツヴァイ自身なのだが、口が裂けても言う訳にはいかない。

『今、フィアを偵察に行かせてある。こちらに戻っているようだ』

「そ、それは本当ですか?」

ツヴァイは驚いた。何故わざわざ出て行ったのに戻ってくるのか。

(何を考えている、ノエル? 今戻るのは自殺行為だぞ?!)

困惑しているツヴァイに、魔王は冷酷な言葉を告げる。

『ツヴァイ。ノエルを消して来い』

ノエルは、ツヴァイにとって気心が知れた間柄だ。

向こうがどう思っているのかは知れないが、それなりに仲良くはやっていた。

ツヴァイは、ノエルが、魔王自ら保護してくれた、と語っていたことを思い出していた。

(そんな女でさえ、捨て駒にしてしまうのか、ゼクス様――いや、魔王ゼクスという男は――)

「し、しかし――」

思わずそう呟いて、しまった、と思う。

あたりの空気が震えだしたからだ。

『何だ、貴様……まさか、できぬとでも申すのか?!』

「い、いえ。決してそのような事は……ただ、不安はあります」

『――ほう、何だ』

「ディストの力を持ってしても殺すことができない女です。私では、力不足です」

幾分、空気が緩む。

(助かった……)


『ふむ……自分の力は把握しているな。だが、あんな男よりも貴様のほうが役に立っている』

「は、ありがとうございます」

ツヴァイは思いがけず褒められ、素直に礼を言った。

(まあ、俺も正直ミスが多いが、殺されずに置いて貰えている。認められてはいるのだろう)

『付いて来い。セラを迎えにいく』

「は」




『ツヴァイ、貴様はここで待っていろ』

「は」

二人が向かったのは牢獄だった。

そこには鎖で四肢と首を繋がれた、セラの姿があった。

元々着ていた服は、もはや服の役目を果たしていないほど、切り裂かれ、肌が露出している。

身体全体に打ち付けられたであろう、鞭の跡、殴られた跡、乱暴された跡が残っている。

あの一件以来、ツヴァイはセラと初めて会う。

だから、まさか牢屋につながれているとは思わなかったのだ。

(罪人扱いとはな……恐ろしい方だ。女にも容赦というものがまるでない……)


セラは、魔王の姿を見つけると、途端におびえた表情になる。

「ぜ、ゼクス様……」

『ふん、反省はしているか?』

「……はい。申し訳ありませんでした」

『なんだ、何か言いたそうだな?』

魔王の眼光が鋭くなる。

「ゼクス様、今一度チャンスを! 次こそ人間どもを……きゃあぁぁぁぁっ?!」

セラの身体に電流が走る。

「ぁ、あ、が……あぁぁっ」

『少しも反省していないではないか、セラ』

がくり、と身体の力が抜ける。目はうつろだ。

魔王は首元の鎖を掴み、無理やり引き上げる。

『あれほど自信があると言っておきながら、この始末。まだ我の意に反するつもりか?』

「あ、ぐ、そ、そんなことは、ありませ、んぅっ」

『貴様はここで死ぬまでそうしているつもりか? それが良いというのなら、我は止めん』

魔王はそれだけ言うと、セラの鎖から手を離し、扉に向かって歩き出す。

セラの目が、サッ、と絶望の色に変わる。

ついに、その金色の瞳からは大粒の涙が。

「す、みません、でした、ゼクス様、それだけは、それだけは、お許しをっ」

その声を聞き、ようやく歩みを止める。そして振り返らずにセラに告げた。

『……ふん、まあいい。我もそこまで鬼ではない――ツヴァイ。入れ』

「は」

「え……っ」

セラは瞬時に理解していた。

見られてはいけないものを見せてしまったことを。

『セラ、ノエルが戻ってくる。歓迎してやれ。仲が良いのであろう?』

もちろん、ゼクスはノエルとセラの関係悪化を知っている。

あえてその事に触れることでセラの感情を逆撫でするのが狙いだ。

その狙いは見事に的中し、セラの表情が一変する。

「私はあの女の事など知りません……あんな女の事など……ッ!!」

その様子を見て、ゼクスはほくそ笑んだ。

『セラ、今度はしくじるな。分かっているな?』

「は、は! 必ずや!」


魔王が牢から立ち去る。

ここでようやく、ツヴァイが入ってくる。

「よう。いい格好だな、セラ。しかし驚いたな」

「ツヴァイ……覗きに来たのね! 変態!!」

彼女は、彼の姿を見たとたん、怪訝な表情で顔を背ける。

まるで、見られて欲しくないかのように。

先ほどの姿とは打って変わっていつもの強気なセラに戻っていた。

(女というのは恐ろしい生き物だな……まあ、この方がセラらしいか)

ツヴァイはつくづく、そう思った。

「おいおい、それが鎖を外しに来た者に対する言葉か? だったら、この鍵、もういらないな?」

「ちょっ、ツヴァイまでそういうことを言うわけ?!」

「全く、お前って奴は……心配しなくてもちゃんと開けてやるよ」

「当然でしょ! 早く助けなさいよ!」

セラのつっけんどんな態度に、ツヴァイは半ば呆れ気味だ。

「……こういうときでも素直じゃねぇな」

「う、うるさいわね! 別に、いいでしょ! あんたには関係ないんだからっ」


カチリ、と音がして枷が外れる。

「きゃ……」

そのまま下に落下するセラ。もはや自分では立ち上がる事も出来ないほど、疲れ切っていた。

「おい、大丈夫か……おっと」

「痛っ! ちょっと……もう少し丁寧に扱いなさいよ!」

「あ、悪い」

慌ててセラの体を抱きかかえるツヴァイ。


もにっ。


「ちょ、ちょっと、何処触って……ド変態!!」

パァァァンッ

「ぐおあぁぁぁっ?!」

平手打ちで華麗に吹っ飛ぶツヴァイであった。


「……元気じゃねぇか」





(しかし、酷いもんだな。ここまでなるには相当だぞ)

ボロボロになっているセラを見て、ツヴァイは思った。

それを感じ取ったのか、セラがぽつ、ぽつと語り始める。

「……最初はディストだったわ。この鎖はディストに付けられたモノよ」

「セラ、お前……」

「その後はゼクス様。後は日頃私に恨みがあった奴にまでやられたわ。

 私は悔やんだわ。人間なんかに負けるはずがないっていう慢心があったのかもしれない。

 ここから出たら、あの女たちを殺して、絶対ゼクス様に認めてもらおうと思った。

 そう思ったら、どんな辛い攻めにも耐えられるもの」

セラの目からは再び涙が溢れていた。

「またゼクス様に愛して頂きたい! その為なら、私はどんなことだってするわ!」

ツヴァイは、セラの言葉に耳を疑った。

(ここまでされて、まだあの方に遣えようとする気が判らん)

セラは、少し上目遣いにツヴァイを見やる。

「……てっきり、あんたも来ると思ったのに」

「俺は、拘束された無抵抗の女を抱くのは趣味じゃない。傷付けるなんてのは論外だ」

セラは目をぱちくりさせる。

「なんだ? どうした?」

「へぇ、あんた、ただの変態かと思っていたのに。意外ね」

「どういう意味だ、そりゃ……」



ツヴァイは、歩けないセラを負ぶって牢を出る。

「で、あいつは何時来るの?」

(もうあいつ呼ばわりかよ……女同士の喧嘩は恐ろしいな……)

「今、フィアが偵察に行っている。連絡があるまで休め。その身体じゃ、どうにもならん」

「……そうね、あんたの言うとおり、休ませてもらうわ。でも大丈夫かしら、あの子」

セラが不安なのも無理はない。まだ精神が幼い彼女にどれだけの事が出来るのか。

ツヴァイが考え事をしていると、背中から寝息が聞こえてきた。

「セラ? 寝たか……」

ツヴァイは苦笑する。

その気がないとはいえ、ツヴァイにしてみたら、裸同然の女を背負っているわけである。

背中越しにセラのやわらかい感触が当たり、ツヴァイの理性を削り取っている。

いささか警戒心が無さすぎではないだろうか。

「やれやれ……気を許されているのか……それとも……いや、やめるか」

(しかし、セラがそこまで想っているとは知らなかったな……それにセラが他人の前で泣くとは)

ツヴァイは複雑な心境だ。

魔王は、セラも捨て駒にしか思っていないのだろう。ノエルのように。

(俺もそうなのだろうな……まあ、考えるのはやめておくか。俺らしくもない)

「……とにかく、今はやれるべきことをするだけか」

セラの部屋に着いた。そっとベッドに寝かせる。

「寝ている顔は綺麗なんだがな」

「――ぜくす、さま……うれしい、です」

セラの寝言に、ツヴァイは溜め息。

どんな夢を見ているのだろうか。想像が付いてしまう。

ツヴァイは、セラに布団を掛け、そっと部屋を立ち去った。

「……ゆっくり休め、セラ。良い夢を」






続く


あとがき

「こんにちは。あとがき担当のユキです。最近、mさんの書くペースが落ちている気がしますが」

「仕方ないだろ。色々あったんだから。今後はなるべく更新早くすると思うから」

「早く話進めて、私出してよ。もう待ちくたびれたわ」

「悪い、もうちょっと先になりそうなんだよ」

「どうして?」

「まあ、色々あるからさ」

「ふうん、色々ねぇ」

「……」


「まあ、前置きはこのぐらいにして、今日のゲストを呼びたいと思います。森野由美子さんです」

「こんにちは、森野です」

「こんにちは、由美子さん」

「ユキさん……なんか、初めて会った気がしないね」

「下の名前で呼び合っているあたり、後で会うのがバレバレだが」

「仕方ないじゃない。もう考えてあるんでしょ? この展開」

「まあな」

「私達の話って、もう決まってるの?」

「まあ、ストーリーは決まってるけど……まだそこまで考えてないよ」

「早く書きなさいよ」

「まあ、焦らずに。この章は物語のキーとなる所だから」

「もしかして、魔族に何か動きが?」

「それは次回までおたのしみと言う事で」

「……期待しないで待ってるわ」

「では、早いですが今回はお時間です。‘いつになるか分かりません’が、次回……」(どさっ)

「ユキさん?!」

「では、また次回~」

「m、あんた、鬼だわ、やっぱ」


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