精霊の扉 第6話
「よーし、この間の試験結果を返すぞ。成績上位の者は、廊下に貼り出すからな」
教室の中が一気にざわつく。
「今回の試験は、高校模試に似た問題を出した。点数の低かった者は良く復習しておけよ」
先生の言葉が耳に痛い。
結局あの後、勉強どころじゃなくて、散々だったもんなぁ。
予想通り、点数は酷かった。何とか赤点だけは免れたけど。
「高校入れんのかな、今のままで……」
思わずため息が出る。
あれ? 廊下が騒がしいような。
「おおっすげ~! 全部1位じゃん」
「学年トップ? 信じらんない!」
「一位独占? こいつ何者だよ?!」
<総合一位“樋口陽子”>
姉さん、凄すぎ。ホント何者?!
「何位だったの?」
姉さんが興味津々といった様子で聞いてくる。
「ぴったり100位……」
120人中だけど。
「いいじゃない。キリが良くて」
「……」
何か今思いっきり馬鹿にされた?
「一応私の妹なんだから、もう少し出来て欲しいわね」
「しょうがないでしょ。勉強嫌いなんだもん」
「よお。双子なのにえらい違いだな」
また例によって、和也が突っかかってきた。
「うるさいわね。いいじゃないのよ!」
「まあまあ、和也さん」
「あ、すいません」
「……」
なんか、すっごいムカつく。
「何で和也は姉さんといると急によそよそしくなるのよ」
「いや、だってさ、まだ会ってからそんなに経ってないわけだし。それに……」
そこで途切れる。
「何よ?」
「……それに、お前とのほうがぜんぜん話しやすいしな」
それって、なんか複雑なんですけど。
「ところで、あれから特に変わったことは無いのか?」
「う、うん、まあね」
ルビスさんの事は黙っておいたほうが良いだろう。
姉さんを見ると、私を見ていた。どうやら同じ考えのようだ。
「そうか。でも注意するに越したこと無いからな」
「分かってる。気を付けるわ」
「じゃ、気をつけて帰れよ」
「うん、分かった」
「さようなら、和也さん」
「じゃ、また。陽子さん」
絶対この二人デキてるだろ。
いつもの学校の帰り道……になる筈だった。が。
「どうしよう直美……」
突然姉さんが立ち止まった。
「どうしたのお姉ちゃん?」
「私たち、囲まれてるわ」
「えぇ~っ!」
いつの間にか、大勢の魔獣たちに見つかっていたらしい。
「五体……六体……ううん、もっとね」
姉さんが冷静に周囲を分析している。
「参ったわね。こっちは二人しかいないのに」
「でも、私にはぜんぜん分からない。どうして?」
「うまく気配を消してるわ。それにまだ実体化してないから、魔力がないと見えないの」
「そうなんだ……」
どうしよう……相手は複数。しかも私は最近やっと魔法が使えるようになった程度。
足手まといにしかならない。姉さん一人でもかなり厳しい状況だ。
「さっきからずっとこっちを伺っているわ。人気のないところで襲うつもりね」
一体どうしたら……あ、そうだ!!
「お姉ちゃん。私にいい考えがあるよ」
「ほんと? 一体どうするの?」
「逆に待ち伏せしちゃおう!」
数分後……私たちは神社にいた。そう、魔法陣がたくさんあるあの神社にね。
私たちは、境内の中央に互いに背を向けて立った。
ザワリと空気が動く。予想通り。
「来たわよ」
「うん。判ってる」
『グガァァァァァァッ!!』
魔物たちが四方八方から一気に襲い掛かってきた!!
「今よ!!」
「おっけー!」
私と姉さんの魔法が同時に発動する!!
『フレアーッ!』
ゴォォォォォォッ!!
巨大な炎が辺り一面に広がる!
『グギャァァーーーーーッ』
まさに一網打尽。魔物の大群は断末魔と共に瞬時に塵と化していた。
「やったあっ」
「こんなにうまくいくとは思わなかったわ」
「魔法陣残しといて正解だったね。お姉ちゃん」
「そうね。でも、よくこんな作戦思い付いたじゃない」
「へへーん」
褒められちゃった。認めてもらったみたいでなんか嬉しい。
「でもお姉ちゃん、どうして普通の人は襲われないんだろ?」
前の一件から、ずっと気になっていた。
こんなに大きな魔物が現われているんだから、ニュースになっていてもおかしくはない。
でも、未だにそんなことは噂にもなっていない。
「それは私にも分からない。でももしかしたら、誰かが後ろで糸を引いているのかも」
姉さんが少し考えて、そう言った時だった。
『ほぅ。良く判ったな』
突然どこかから声がした。
「だ、誰っ?!」
私は辺りを見回したが、それらしい姿は確認できない。
『精霊の匂いがすると思って来てみれば……これは面白い物が見れたな』
「直美! あそこ!」
見ると一人の男が宙に浮いていた。
「う、浮いてる?!」
髪の色は銀髪で長く、瞳の色は金色に輝いている。
そして、身体の周囲に黒いオーラのようなものが見えた。
『確かに奴らを操っていたのは私だ』
「あなた何者? 名を名乗りなさい!!」
『貴様らに名乗る名などない』
くっ、偉そうに!
『貴様らには守護精霊がついているようだな。だからあいつらが反応した訳か』
「あなた、上級魔族ねっ?!」
『その通りだ』
魔族だって? こいつが?
「あなたね。最近化け物を放している張本人は!」
『だったら……どうする?』
「あなたを倒すっ!!」
って、ちょっと姉さん! なに魔族に喧嘩売ってんのよ! 勝てっこないじゃない!
『ほおぅ。面白い』
私はとっさに身構える。
『と、思ったが、用があるので失礼するよ。命拾いしたな、お前達』
そう言ってそいつは消え始める。
『次に会ったときは、覚悟しておけ。クククク……』
「待ちなさい! 逃げるの?」
数秒後。
男の姿は掻き消え、神社は、また普段の静寂を取り戻した。
「お姉ちゃん、挑発しすぎじゃないの?」
「何言ってるの。怖がったら余計つけあがられるわ」
「じゃあ、実際に戦って勝つ自信でも?」
しばしの沈黙。
「……ない」
ずる。
思わずコケた。
「それじゃあ意味ないじゃない!!」
「まあ、とりあえず無事だったんだからいいじゃないの」
「よかないっ!」
続く
あとがき
「ルビスです。6話をお届けしました。ついに出て来ましたね。上級魔族」
『ふん、精霊がこんなことをやっているのか。地に落ちたな』
「あ、あなたは……えっと確か、まだ名前が無いんですよね。ご愁傷様」
『う、うるさい!』
「それに、人間相手に戦わず逃げるなんて。あなた実は弱いんじゃないんですか?」
『くっ、どこまでも俺をコケにしやがって……本編では覚悟しておけ!!』
「名無しのごんべさんに言われたくありませんよ~♪」
『きっ、きさまぁ~殺す!!』
「ちょ、ちょっと、こんなところで魔法なんて?! そ、それでは皆さん、また」
『逃がすものか! くらえ!!』
「きゃぁぁぁぁ?!」(こきーん)←氷漬け
『ふ。他愛もない……これでこのあとがきは我々のものだな』
「じ、自分で地に落ちたとか言っておいて……やりたかった……だけじゃ……」
『細かいことは気にするな……っておい、もう終わりかよ。待てぇ! まだ何もして……』