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シルフマスター第2話


数人の人に囲まれていた。全部で3人……いや、5人かな。

背中には二対の白い羽。シルフだ。私の存在に気が付いて集まって来たようだ。

一人の男性が私に声を掛けてきた。

「人間がなぜこんな所に居る?」

「なによ、居ちゃ悪いの?」

「いい迷惑だ。帰れ。それに、その竜をどうするつもりだ?」

どうやら、シイルを捕まえていると思われたようだ。

「マスターはそんな人じゃありません!!」

主人マスターだと…もう手なづけているのか」

「あのね、私は今回の引越しの手伝いに来てるの。この子は以前から一緒に居たのよ」

「そうですよ。もう契約も結んでいるんですから」

「何だとっ?!」

声を荒げるシルフの青年。

「私の役に立ってもらってるわ。ね、シイル」

「はい、私、優しくて強いマスターが大好きですから」

シイルが抱きついてくる。

「ありがとシイル」

そんな私達の様子を変な物でも見ているかのように見つめるシルフ達。

「と、とにかく、ここから立ち去れ。ここはお前達の来る所ではない」

「嫌だと言ったら?」

「力づくでも帰ってもらう」

そう言って私から距離をとった。

「結果は見えていると思うけど?相手にならないわ」

「何いっ?!」

「事実を述べただけよ」

「ま、マスター……」

心配そうに呟くシイル。

「大丈夫よシイル」

「面白い。やってやろうじゃないか」

「あ、ちょっと待って。その前にする事があるのよ」

そう言うと私は反対側の林に向かって叫んだ。

「あんた達、もう顔を出してもいいんじゃないの?」


木の陰から、大勢の人間たちが現れる。ざっと20人はいるだろうか。

「よく俺達がいる事が判ったな」

「あれだけ殺気出してればね。やっぱりあんた達、シルフ狩りの連中?」

私の言葉を聞いたとたん、顔を強張らせるシルフ達。

「どうしてシルフ達を狙うの?」

「何だ、知らんのか。シルフの羽は、かなりの高額で取引されるんだ」

自分達の私腹のために、犯罪を犯してもいいって言うの?

「そのシルフ達をこっちに渡してもらおうか。お前のような小娘に独り占めはさせんぞ」

「あんたたちと一緒にしないで欲しいわ。シルフ達には指一本触れさせないわよ!」

「けっ、大人しくしてりゃ、命は取らないで置こうと思ったのによ」

そう言って帯剣を抜くリーダーらしき男。それが合図となって、次々と剣を抜く人間達。

ああもう、鬱陶しいっ!

「やれ!」

リーダーの一声。一斉に襲い掛かってくる。だけど。

疾風エアカッター!」

私の腕から風の刃が発射され、男達を次々と吹っ飛ばしていく。

『ぎゃぁぁぁぁぁ』

全く態度が大きい割に弱っちいのよねぇ。

私のとなりにいた女性が驚いていた。

「そ、その魔法は?! 何故人間のあなたが風の魔法を?!」

「これは、私の師に教わったモノよ。最初から使えた訳ではないわ」


「嫌ぁぁぁぁ!!」

突然の悲鳴に振り返る。

そこには一人の大男と、そいつに捕まったシルフの少女が!!

「しまった! いつの間に?!」

あろう事か、少女は男の足に踏みつけられていて逃げる事が出来ないでいた。

「手こずらせやがって……羽は頂くぞ」

「だ、ダメぇっ」

ズシュッ

「ああぁぁぁぁああああああっ!」

無残にも背中から引き千切られる羽。

傷口から多量の血が吹き出す。そのままぐったりとして動かなくなる。

「き、貴様ぁ!!」

「なんて、事を! 許さない!!」

シルフたちは一斉に男を囲んだ。だが、男の方はまだ余裕の笑みを浮かべている。

「ふん、お前達も羽をむしられたいのか?」

「何だと?!」

「待って。貴女達は危ないから下がってて」

シイルが一歩歩み寄る。

「何だ、お前は」

「これから死ぬ奴に、名乗る名など無いわ」

「な、なんだと?!」

「さようなら」

ヒュオォォォォッ

猛烈な吹雪。シイルの魔法が発動された。男は一瞬で凍りつき、砕け散った。


「メル!! しっかりしろ!! メル!!」

倒れた少女に懸命に声を掛ける青年。

「傷が深いわね……ちょっと看せて」

「誰がお前なんかに!!」

「いいから看せなさい!」

「っ!」

私の声にビックリしたのかそこから後ろに下がる彼。

「傷口がひどいわね……まずは止血しないと……」

「マスター、羽、取り返しました」

「そうね……今ならまだくっ付くかも知れないわね」

「お、おい、どうするつもりだ? こ、これは……?!」

私の魔法で傷口が塞がる。

コランダムを出てくる前に、陽子さんから教わった治癒魔法キュアライトだ。

それによって、羽もとりあえずは元通りになる。

驚くシルフ達に、私は声をかける。

「応急処置よ。これ以上の事は出来ないわ。誰か専門の人、村にいる?」

「あ、ああ。今呼んで来る!」



それから丸1日が経過した。

メル、と呼ばれていた少女は仲間の治療のおかげで、なんとか一命を取り止めたらしい。

とにかく一安心よね。

私が、新しいシイルの家の手伝いをしていた時、突然シルフの長に呼ばれた。

シイルと一緒に、長の家(今は竜族の長の家)の扉を開ける。

「失礼します」

「おお、来ましたか。入りなさい」

そこでは、村長同士がお酒を酌み交わしながら話し込んでいたところだった。

「メルを助けていただいたようで」

「感謝されるべきではないわ。当然のことだもの」

「ふむ……」

「それに、嫌われて当然だもの。ホントなら私がみんなに謝らなくちゃ」

「いや、あなたには大変申し訳ないことをしましたな。さ、どうぞ一杯」

そういって、盃らしいものを手渡そうとする。

「お酒は、遠慮しておきます」

「ふむ。そうですか。残念だ」

本当に残念そうだった。


「でも、一体何時からこんな事が」

「あれは5年前のことでした。ある日突然魔族がこの村に攻め込んできたのです」

「そんな……どうしてこんな小さな村に?」

「理由は判りません。何かがこの村に在るという噂が広がったらしいのですが」

一体彼らは何を探しているんだろう?

「もちろん、戦闘能力に乏しい我々だけでは歯が立たない。そこで――」

「人間に協力を求めたわけね」

「そうです」

「それで、どうだったの?」

「多くの犠牲は出たが、何とか魔を退けることは出来ました。そこまでは良かった。

 確かに、人間達が居なければ我々は全滅を免れなかっただろう。

 だが人間達は我々に報酬を寄越せと言って来た。自分達のお陰だ、とな。

 数少ない良心的な人間達を除いて、全く見向きもしなかったくせに……」

机をバンッと叩く長。

「そういう奴等に限って、勝った途端に自己主張を始めるのは虫が良すぎる!」

「要求を呑んだの?」

「我々にもプライドがある。そう易々と勝手な注文に答えていく訳にもいくまい」

「ま、まさか……」

「そう、それからだ。段々と我々が迫害されるようになっていったのは」

私は声にならなかった。

落ち込む私の様子を見て、長はハッとしたらしい。

「ああ、失礼。貴女にはあまり良いお話ではありませんでしたな。申し訳ない」

「いえ、そんな……謝らなければいけないのはこちらの方なのに」

しばらく黙っていたシイルが口を開いた。

「ここでも、このような事が繰り返されていたんですね、長老」

「うむ。シイルは人間は嫌いか?」

「はい――でも、マスターは別です。マスターには友達のように接して貰っていますし」

シイルの笑顔。それだけでなんか救われる気がした。


「明日、出られるんでしたな。今度はどちらに行かれるつもりかね?」

竜の長が私に尋ねる。

「今、私が住んでいる街に帰るつもりです。シイルも一緒に」

「そうですか。どうですかな、この村に永住する気は?」

今はちょっと考えられないかな、やりたいこともあるし、ナオも居るし……

全部終わって、落ち着いたら、また考えてみよう。

「お気持ちはありがたいですけど、友達もいますし」

「そうですな。無理を言ってすまなかった」

「いえ。ところで、あの子の具合は?」

「はい、だいぶ良くなりました。もう話すこともできるでしょう」

私は思わず、ほうっ、とため息をついた。

やっぱり、あの場で直ぐに傷をふさいでくっつけたのが良かったのかな?

「良かった。私、様子見て来ます」

「マスター、私も行っていいですか?」

「いいわよ」

「では、失礼します」

「道中、お気をつけて」

「はい、お二人とも、お元気で」

「村長、またそのうちに伺います」

「楽しみにしているぞ、シイル」

「はい」


長の家を出た後すぐに、私たちはあの子の元に向かった。

「こんばんは。ケガのほうは大丈夫?」

「は、はい。おかげさまで……もう動けるようになりました」

「そっか。よかった~。心配してたのよ。羽の方も動くの?」

「はい。お二方、どうもありがとうございました」

私達に向かって、深々と頭を下げた。

「それで、あの、少しお話があるんですけど……」

そういって私たちを外に連れ出そうとする。

『??』

私とシイルは顔を見合わせた。



来た所は家の裏庭だった。

「で、何? 話って」

「あ、あの……お、お願いです、私と契約してください!!」

「へっ?」

「はい?」

私達は一瞬耳を疑った。

契約? それってつまり……連れ出して欲しいって事だよね。

「貴女様に恩返しがしたいんです。どうか、お願いします!」

お願いしたのは何度もあるけど、お願いされたのは、始めてかも。

シイルの方を見ると、明らかに不満そうだった。ま、当然か。

「あなたの周りの人は?」

「それは……まだ……」

顔を俯かせる。それはそうだろう。

いくら恩があるといっても人間についていくなんて許して貰える筈がない。

それに、あんなことがあった直後だ。下手をすると、裏切り者のレッテルを貼られかねない。

「出来れば、こっそり連れ出してほしいんですけど」

「大丈夫? 家族とか、友達とか、心配しないの?」

「多分。でも、いいんです。もう自分で決めたことですから」

少女のパッチリした瞳が、じっと私のほうを見る。

決意は固いみたいだけど。どうするかな……

「そっか……」

「明日出る時、部屋に置き手紙置いていきます」

「……」

私とシイルは顔を見合わせるしかなかった。


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