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第3部第11話

>Naomi

お城まで行くと、門の所には人だかりができていた。

扉の前に、数人の兵士が倒れていて、その周りに野次馬が集まってきていた。

「おい、どうした?! 何があった?!」

兵士は、カルスの呼びかけにも反応がない。

「一体、何が起きたんですか?」

近くに居た人に聞いてみた。

「ものすごい音がして、気が付いたら兵が倒れていた」

「直ぐに扉が閉じてしまったからわからんが……中は大変なことが起こっているみたいだぞ」


ますます不安になってきた。あの二人だから多分、大丈夫だと思う……うん、今は無事を祈るしかない。

「でも、どうする、カルス。扉が閉じちゃったんじゃ、入れないじゃない」

「大丈夫だ。王宮というものは、こういう時のために非常用の入り口があるものだ。そちらから入るぞ」


さっきの入り口から塀伝いに少し離れたところにある壁。一見何もないようだけど……

「ここだ。ここから入るぞ」

「へぇ~……」

カルスが手をかざすと、そこに扉が。すんなり開けて中に入る。

そこは、城の入り口の直ぐ裏手に通じていた。

なるほど、緊急脱出用の出口か。

「まだ誰も使っていないようだな……ということはまだお二方とも中にいるということか」

カルスはそうつぶやくと、扉を隠した。

「よし、行くぞお前ら。何がいるかわからんから注意しろよ」



城の中はひどい有様だった。

所々に兵士の屍が横たわっていた。

壁には穴があいていて、戦闘の激しさを物語っている。

「ヒドイわね……ここがホントにさっきまで居たお城なの?」

「あれ?! あの人は……」

あれは……スヴェンさん?!

騎士隊長である彼がこうもアッサリと倒されるなんて……

「隊長! しっかりして下さい!」

カルスが声をかけると反応があった。良かった……息がある……

「だ、大丈夫だ。ちょっと今は動けないが……たいした傷じゃない」

「何があったんですか?」

「何者かが侵入してきた。頼む、女王陛下をお守りしてくれ!」

「わ、判りました!」


吹き抜けの広間に来た。目の前の階段を上がれば謁見の間。

だけど、そこには見覚えのある小さな少女が。

「あ、来た来た。ここから先は通さないよっ」

青い髪のツインテール。ゴスロリ風の衣装。そして何より、体に纏った闇のオーラ。

「水迅のフィア?! やっぱり、あなた達だったのねっ?!」

まさしくそれはフィアだった。

私たちの姿を見つけると、腰に手を当てて悪戯っぽく笑った。

「こんにちは。久しぶりだねっ! 今度は負けないよっ」

「冗談じゃないわ。今日は貴女を相手にしてる暇はないの。そこを退いて」

ルビスですら魔力をごっそり奪われたんだ。まともに相手にしたら、命がいくつあっても足りない。

「駄目だよ、ディストに通すなって言われてるもーん」

「ディストって、ルビスが言っていた5将軍の?」

雷光いかずちのディスト。名前の通り、雷を操り、スピードも速いわ」

この中でただ一人、ディストに対峙した事があるシイルが教えてくれた。

「目の前にいるフィア以上に厄介な相手よ。ルビス様とサファイア様が心配です――来ますよ!」


「ねえ、遊ぼうよっ。あははははっ」

いつの間にかフィアは水の渦を自分の両手に発生させている。

「いっくよぉ! アクアスプラッシュ!!」

そのまま私たち目掛けて魔法を放つ。

「私に任せて!」

姉さんが素早く私の前に出て、魔法を唱えた。

「フレアー!!」

ジュゥゥゥゥッ

物凄い勢いで水蒸気になる。だけど、次の瞬間。

「あちあちあちっ」

「いやぁぁぁっ」

辺りに熱湯の雨が降り注いだ。

「姉さん、何やってるのよぉ」

「ごめんごめん……やっぱ全部蒸発させるのは無理かぁ……」

「うう~熱いよぉ」

あ。向こうも熱かったみたい。


「直美、鷹野さん、ここは私達に任せて先に行って」

「判った、ありがとう姉さん。さ、今のうち」

「はいっ」

「お、俺も行くぞ」

カルスも後に付いて来る」

「あ、待てぇっ」

「フィア、私達が相手よ」

「私に勝てると思ってるの? 出でよ、水竜アクアドラゴン!!」

フィアの背後に巨大な水の竜が出現する。

「竜は私に任せて下さい!」

「頼んだわ、シイル! 樋口さん、二人でフィアを止めますよ!」

「判ってる、これ以上好き勝手にはさせない!」



謁見の間……突如轟音とともに、壁が崩れ落ちる。

サファイアは反射的に玉座から飛び退る。

「な・・・何者ですか、あなたはっ?!」

土埃が収まると、サファイアの前に一人の男性が現れた。

「お初にお目にかかります、サファイア女王陛下。私、雷光のディストと申します」

「雷光の……魔王5将軍ですか?!」

前回の大戦の時ですら、コランダムの敷地に攻め込まれたことはなかった。

しかも、今回は王宮の、さらに王である自分の目の前にいる。最悪の事態。


「遂に……この国にも現れてしまったのですね」

「先の大戦では貴女とまみえる前に、あの勇者ニンゲンに封印されましたからね」

「……」

黒いオーラを纏っているディスト。

「一度貴女と戦ってみたいと思っていたのですよ。'蒼い彗星'は、どれ程の力なのでしょうか?」

にこりと笑ったかと思うと、次の瞬間、部屋全体に強烈な稲妻が走る。

「ぐッ……!?」

電撃の直撃を受けるサファイア。一瞬足がふらつくが、踏み止まる。

「おや。さすが、といったところですね」

(なんて威力……仕方がありませんね)

サファイアも、蒼い炎を体に纏う。身体全体から噴出す力に、ディストも思わず驚く。

「ほう……これはなかなか……ふふ、これでこそ壊しがいがあるというものですよ!」

「あなた達魔族は……絶対に許しません!」




数分後。

部屋に入ったルビスが見たものは、床に倒れ込む母親サファイアの姿だった。

「お母様っ?!」

「おや、ルビス王女じゃありませんか。またお会いしましたね」

「お前は……ディスト!? よくもお母様を!!」

ルビスは直ぐに炎を纏い、臨戦態勢に入る。

「貴女ごときが私に勝てるとでもお思いですか?」

「うるさい! フレアー!!」

烈火のごとく燃え盛る炎がディストの体を包み込む!

「その程度の炎は効きませんねぇ」

「嘘っ?!」

平然と立ち、顔には笑みさえ浮かべている。

「それでは次はこちらから行きますよ」

凄まじい稲光があたりを照らした。

「きゃあぁぁぁっ?!」

この力に、壁まで吹き飛ばされ、そのままズルリと倒れこんだ。

「やはり力を失っている貴女では相手になりませんでしたね」

倒れたルビスにゆっくりと近付いて行くディスト。そのまま頭を掴んで電撃を発する。

凄まじい衝撃がルビスの体を襲った。

「うあぁあああっ?!」

「亡き骸を持っていけばさぞゼクス様もお喜びになるでしょうね。くくく」




>Naomi

「ルビス! サファイア様!!」

私は自分の目が信じられなかった。

サファイア様とルビスが……負けちゃうだなんてっ

「むぅ。とんだ邪魔者が入りましたねぇ。あなたを殺すのは後回しにしましょうか」

ルビスの頭から手を離し、私の方にゆっくりと向かってくる。

「や、やめなさいっ、その子達には手を出さないで!」

ガスッ

「ぐっ?!」

蹴り飛ばされ、悶絶するルビス。

「ルビス!!」

「き、貴様。魔族か!」

カルスの足が震えている。

「こら、よくも二人を傷付けたわね! 私が相手よ!」

「雑魚が何を言っているのですか? それとも私に勝つ自信でも?」

「もちろん!!」

こうなったら、戦える私達がやるしかない。

「直美さん、私も手伝います!」

「ありがとう、鷹野さん」

「お、おい、相手は魔族だぞ。わかってるのか?!」

「大丈夫よ。見ていて」

奴は余裕の笑みを浮かべている。

「人数が増えたぐらいでこの私に勝てると思わないで貰いたいですね」

私は精神を集中する。オーブの力が私に流れ込んでくる。

「直美さん! それって……!」

私の髪が赤く染まっていく。体から魔力が溢れ出すのが自分でも判る。

「お前、その力……!」

「ほう。なるほど、少しはやるみたいですねぇ」

「行くわよ! 雷光のディスト! 覚悟しなさい!」

「それはこちらのセリフですよ、人間」

私とディストは同時に駆け出していた。





「思ったよりやりますねぇ」

「はぁ、はぁ」

あれから10分近く力出しっぱなしだ。向こうはまだ平然としている。

でも、こっちは限界ギリギリ。力の差がありすぎる。

「もうお終いですか?」

「そんなことないっ!」

もう一度集中。今度こそっ。

「フレ――」

がくん。

とたんに力が抜ける。髪の色が戻ってしまった。

「あ、れ?」

「ナオミ!」

「直美さん?!」

そのまま膝をつく。もう動くことも出来ないほど、魔力を消費していたらしい。

「おやおや。エネルギー切れですか」

気付いたらすぐ目の前に奴の姿が!


「かはっ」

腹を蹴られて息が詰まる。そのまま私は床を転がった。

「ゲホ、ゲホッ」

「さて、そろそろ終わりにしてあげましょう」

「直美さんから離れなさい! 閃光斬!!」

鷹野さんの衝撃波が奴に直撃する。でも!!

「なかなかですね。でも、このくらいでは私は倒せませんよ」

平然と奴はそこに立っていた。

「そ、そんな?!」

「お、おのれ魔族め!」

カルスも加わり、二人掛りで切りかかる。だけど。

「その程度ですか。雑魚は下がっていて下さい」

部屋に突然、稲妻が走り抜ける。

「ぐおああっ?!」

「きゃぁぁぁぁっ!」

二人は、奴の雷の直撃を受けて、崩れ落ちた。

「鷹野さんっ! カルス!!」

「さて。とんだ時間を食ってしまいましたね。そろそろとどめを刺してあげましょう」

そういうと、奴は私に近付いてきた。顔には笑みを浮かべたまま。

私は――恐怖で動けなかった。


と、突如、黒い風が吹いた。

「なにっ?! ぐあぁぁぁぁぁっ」

ディストの左腕が切り落とされていた。

ボトリと床に転がり落ちる。そのまま誰かの足に踏みつけられ、灰になる。

そこには、漆黒衣装の女性が……まさか。

「ふぅ……何とか間に合いましたね」

「の、ノエル! 貴様……!」

「この間のお返しですよ、ディスト。物凄く痛かったんですから」

「く……やはり、生きていたのですね」

「ふふ。私がそう簡単に死ぬと思いますか?」

魔族としての冷たい目。相手を見下すような笑み。でもなんか悲しげだった。

「裏切り者が……なぜ精霊や人間などに加担するのですっ?!」

「決して魔族を裏切る気持ちは無いですし、私自身、魔であることを誇りに思っています。

 けれど、これは別問題です。私は魔王ゼクスが何を企んでいるか知ってしまった。

 絶対にそれは阻止しなくてはなりません。だから私は精霊側に付きます」

「く……この借りは必ず……!」

そう捨て台詞を吐いて、ディストは闇に消えた。

「ノエル……助かったよ」

「お久しぶりです。大丈夫ですか?」

さっきとは違う、優しい微笑み。いつものノエルだった。

「あ、あのさ。どうでもいいけど、その格好、なんとかならない?」

彼女が今着ているのは、体にぴったりとフィットした光沢のある漆黒の衣装。

私は以前に2度ほど、彼女の姿を見た事があった。

一度は魔族として。2度目は人間に扮している姿だった。

その時は綺麗なお姉さんって感じだったけど、今はSM女王張りのお姉様って感じだ。

絶対鞭持ったら似合いそう。

しかも、前戦った時より、数段露出度がアップしている。どんどんハデになってるかも。

「これが、どうかしましたか?」

「いや、あの、なんていうか……布、少なくない?」

「別に。動きやすい方がいいですから」

「そういうあれじゃあなくて……」


ふと後ろを見ると、玉座の前にサファイア様が倒れている。

ルビスが必死に治癒魔法をかけていた。でも、ぴくりとも動かない。

「お母様ぁ!! 目を覚ましてください!!」

まさか本当に……ううん、だめ、諦めちゃ。

「ルビス、私も手伝う!」

「私も!」

「俺もだ」

そこにいる全員で魔力を集める。

「みんな……ありがとう」


続く


あとがき

「こんにちは。鷹野です。早いもので、今回で第11話ですね。

次の12話目でこの3部も最後となります。

さて今回は、危機一髪のところで私達を救って下さったノエルさんがゲストです」

「皆さんお久しぶりです。ノエルです。ゲストとしては初めてですね。

以前は、無理矢理このコーナー乗っ取ってましたから。

ヨーコには後で謝っておきたいと思います。許してくれるか判りませんけど」

「2部では、敵として出てきたノエルさんですけど、やっぱり強いですね」

「今回は完全な不意打ちでしたからね。普通に戦ったら、ディストには勝てません」

「そんなに強いんですか?」

「ええ。力は私達5人の中で最高です。もっとも、魔王の足元にも及びませんけど」

「そうなんですか……では私達に勝ち目は無いのですか?」

「それは……判りません。でも可能性が無い訳ではありません」

「本当ですか?」

「勇者が魔王を封印した時使用した伝説の剣が、まだどこかにあると聞いています。

それを見つける事が出来れば、あるいは」

「なるほど、伝説の剣ですか」

「ええ。かく言う私もこの剣で一度封印された身ですから」

「でも、その場所もそうですが、剣の存在自体、誰も知らないんでしょう?」

「ええ。だから伝説の剣なんです。私達魔族にとっては恐怖の存在ですね」


「はいはい、二人共。ネタバレトークはそこまでよ」

「あ、陽子さん」

ドキッ

「久しぶりね。ノ・エ・ル?」

「よ、ヨーコ……目が笑ってないんですけど」

「よくもあの時はやってくれたわね。覚悟はいいかしらぁ?」

「いやぁぁぁぁ」

ばたばたばた……バタン(扉の閉まる音)

「あ、出て行っちゃいましたね。ど、どうしましょう……まだ時間余ってるし」


▽数分後

ドォォン(何かの爆発音)

「こらぁ! ノエル! 覚えてなさいよ!!」

「はぁ、はぁ。なんとか撒けました」

「あ、ノエルさんが戻ってきましたね?」

「何で私、こんな目に……」

「日ごろの行いが悪いからですよ」

「……何か、言いましたか……?」

ギロッ

「い、いえ。そ、それでは次に行きたいと思います」

「そうね。物分りがいいじゃない、レーコ」

「(あんな目をされたら……)ノエルさんへの質問が届いています」

「あら。何でしょう」(わくわく)

「匿名希望さんからです。ノエルさんは、どうして魔王と知り合ったんですか?」

「私は、父が魔族、母が人間のハーフです……と言っても、実際そうなのかは判りません」

「誰か教えてくれないのですか?」

「私の幼少時代を知っている人はほとんどいないのです」

「そうなのですか」

「この魔力は父から受け継いだ物です。父も風属性の魔族でしたから。

 魔王には、私が人間達に捕まった所を助けて頂いたんです」

「命の恩人なんですか」

「両親は人間に殺されました。だから私はあなた達が憎くてしょうがなかった。

 こんな奴ら滅んでしまえばいいと本気で思っていました。でも、それは間違いでした。

 それを気付かせてくれたのは、ルビス様でした。今は、彼女が心の支えです」

「そうだったんですね」

「ええ。だからこそ、彼にはこんな事は止めて欲しいんです」

「その気持ちがあれば十分ですよ、きっと」

「ええ」

「私達も頑張らないといけませんね。ノエルさんの為にも」

「ありがとうレーコ。私今日は来て良かったわ」

「私も、会えてよかったです。魔族の方とこんなに話したのは初めてかもしれませんね」


「それでは今回はこの辺で。次回またお会いしましょう」

『さようなら~』


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