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第3部第5話

>Naomi

アルカド村を出た私たちは、林の中の小道を西に進んでいた。

「ここから先は、私たち精霊の国になります」

何もない場所で前を歩いていたルビスが急に立ち止まって言った。

「とにかく、余計な行動は謹んで下さい。特にシイル」

「はい」

「あなたが竜族だとバレたら、身の安全は保証出来ません。承知しておいて下さい」

「わ、分かりました……」

「では、行きますよ」

遂に私達は精霊の国に足を踏み入れることになるんだ。


しばらく行くと、大きな門が現れる。ここが入り口らしい。

二人の門番が目の前で槍をクロスさせている。

さしずめ門番A・Bってとこかな。

「何者だ、お前らは! ここが何処か判っているのか!」

彼らは目の前にいるルビスが、誰だか判らない様だった。

「部外者が勝手に入ることは許さんぞ! 早々に立ち去れ!」

「無礼者! 私の顔を忘れたのっ!?」

ルビスの一喝。とたんに彼らの表情が変わった。

「る、ルビス様……ですか!?」

驚いている。信じられないといった表情だった。

「早く道を開けなさい!」

「し、しかし、その髪の色は……ルビス様は赤毛のはず。我々を惑わせているのだろう?」

そりゃそうだ。ルビスの髪は黄色がかった茶髪。判らないのは無理もない。

たぶん彼らは赤い髪の姿しか見たこと無いんだろう。

ルビスが私の首に下げてある宝珠を見せた。

「これでも駄目ですか」

「そ、それは、まさしく王家に伝わる宝珠オーブ……!」

途端に慌てふためく門番A&B。

「も、申し訳ありません! おい、早急に王宮に知らせろ! 急げ!」

「はっ!」

慌てて駆け出す門番B。

「申し訳ございません! 大変失礼致しました! どうぞお通り下さいませ!」

敬礼して微動だにしなくなる門番A。



>Yohko

「ナオミ、一緒に来て下さい。正式な継承者として、お母様に紹介します」

「うん、判った」

ルビスと直美は、先に王宮に向かうらしい。

あの事件が無かったら、継承者は私になっていたかもしれない。

そう考えると、ちょっぴり悔しかった。

でもまあ、私を助けてくれたんだから、やっぱり直美が適任かもね。

「じゃあ、他の皆には後で来て貰う事になるけど……あ、そうだ。あなた、名前は?」

未だに不動の敬礼をしている兵士にルビスが声を掛けた。

「は、カルス=トライデントと申します」

「じゃあ、カルス、この子たちを宿に案内してあげて。私は一足先に戻りますから」

「は、承知致しました」

こうして、直美とルビスは一足先に王宮へ向かった。

直美達が先に去った後、残った私達はカルスという門番に案内を任せることになった。

でも、なんか頼りないのよね。この人。

「ルビス様に直接命令して頂けるなんて。しかも、名前も覚えて頂けた……」

一人、感動してるし。

「生きててよかった……」

「その程度で、大げさねぇ」

「何を言うか。あんな身分の高い方となんか滅多に会えないのだぞ」

まあ、確かに、王女様に会えるのは珍しいか。

日本みたいに、いつでも雑誌やテレビで顔を見られるわけじゃないからね。


「そう言えば、見たところお前ら人間のようだが……なぜルビス様と一緒に居るんだ?」

彼にとって見れば、当然の疑問だろう。

「しかも、どうして髪の色が変わって……それに、継承者とは一体?」

どうやら、かなり混乱しているらしい。

「後で全部話してあげるわよ。とにかく、早く案内してよ」

「何だ、その態度は! それが我々に接する態度か!」

「あのね。そんなの関係ないじゃない」

「そうよ。だいたい、ルビスは王女だけど、あなたはただの門番でしょ」

「ええい、ルビス様と呼べ!!」

怒られた。

「……と、とにかく、我々精霊は、お前ら人間が生まれる遥か昔から、この地を統治していた」

しばらくの間、カルスの精霊の歴史についての講義が延々と続いた。


「つまりは、絶対的に貴様等人間よりは歴史がある。故に我々の方が地位は上だ」

「確かにね。でも、それだけじゃ理由にならないわ」

「ねえ、この国は身分が高ければ偉いの?」

森野さんが質問する。何が聞きたいんだろ?

「その通りだ」

「だったら少なくとも私達のほうが身分は上になるはずよ」

「な、何故、そうなる?」

「簡単よ。私達、彼女の世話係だもの。付き人って言ったほうが適切かな」

ああ、なるほど。さすが森野さん、頭いい!

「そ、そんな見え透いた嘘を……」

彼は明らかに動揺していた。

「嘘だと思うなら、聞いてみるといいわ」

「つまり、王宮にいる侍女と同じ立場ってことよね」

「いっぱしの門番である貴方よりは間違いなく上ってことになるわよね」

「ぐっ」

すると、ここまで会話に参加しなかったシイルが、はじめて口を開いた。

「マスター、この人には頭下げなくていいんですね」

「そういう事よ」

「くそ。なんでこんな人間の小娘が、俺より上なんだ……」

あ、落ち込んだ。

「まあまあ。良いこともありますって。元気出してください」

「慰めなどいらん。ほっといてくれ」

「鷹野さん、こんな奴にいちいち丁寧語使わなくってもいいのよ」

「でも、この人に見捨てられたら、私達、どうすることも出来ませんよ」

「ふむ。その手があったな」

げ。

「ちょっと。それ本気?」

「安心しろ。命令は絶対だ。俺は貴様等の為ではなく、ルビス様の為に働かせてもらう」

なんか、腹立つなぁ、その言い方。

「文句があるなら置いて行くぞ」

「あ、ちょっと待ってよっ」


「へえ~……結構いい街じゃない」

「当たり前だ。お前らの街と一緒にするな」

今まで通ってきた、人間の街より発展している感じだ。規模が二周りくらい大きい。

カルスの言う通り、この世界は、精霊たちの方が地位は上なのだろう。

でも、やっぱり私たちの世界と比べると、生活レベルはかなり低い。

中世~近代のヨーロッパをイメージすればわかりやすいかな?

街を囲む高い城壁といい、石造りの家々といい、いかにもファンタジーな世界だ。

(多分、私達のほうがいい暮らしだよね)

(そうね、でもそんな事彼に言わない方がいいわ)

「おい、そこで何こそこそやってるんだ?」

「嫌ねぇ、なんでもないわよ」

「全く。人間の考える事はよく分からん」



『おい、聞いたか。どうやらルビス様が帰って来たらしいぞ』

『ホントか? 生きていらっしゃったのか』

『ああ、だが髪の色が違うらしい』

『何だ、偽者じゃないのか』

『それは分からん』

『あ、それ俺も聞いたぞ。どうやら人間たちを連れているらしい』

『人間だと? そんな奴ら連れてどうするんだ』



「結構話題になっていますね……というか、伝わるの早くないですか?」

「仕方ないわよ。そういうもんでしょ。ウワサって」

そうこうしている間に目的地に着いたらしい。カルスの足が止まる。

「ここがお前らの宿だ」

意外と大きい宿らしい。これなら安心かな。

「シャワーぐらいあるんでしょうね」

「当たり前だ。ここは他の国の来賓の方々がお使いになる所だ。お前らには勿体無い」

「あ、バカにしたわね」

「こんな設備があるのはここぐらいだ」

やっぱり。こういうところは少ないみたい。

いくら精霊の街といっても、衛生状態は、日本よりは良くないらしい。



「全く、なんでルビス様がここまでお前らの事を大切にするんだか」

「あのね……私達が普段どんな暮らししてると思ってるのよ?」

「何だ、ウサギ小屋じゃないのか」

「何よそれ! 馬鹿にしないで貰える?!」

カルスの言葉に森野さんが切れた。慌てて止めに入る。

「ちょっとこんなところでケンカしないで」

「おっと、俺としたことが。思わず公務を忘れる所だった。じゃあ、俺は戻るぞ」

「あれ? 中まで案内してくれるんじゃないの?」

「あのな、俺にだって仕事はあるんだ。いつまでもお前らに付き合っている暇はない」

いちいちムカつく奴ね、こいつは。

「こいつを見せれば宿泊費はタダ……というより王室持ちだ」

そう言うと、カルスはさっきルビスから渡されたらしい書面を私に手渡してくれた。

ルビス直筆らしいけど、相変わらず記号の羅列で意味がわからない。

所々に、魔法陣で使う文字が書いてあるのがわかる程度。

一番下に書いてあるのがルビスの名前だろうけど、それ以外はさっぱりだ。

「何かあったらまた呼びに来るからな」

そう言ってカルスは帰っていった。



部屋はなかなかのものだった。国務で使用するだけあって、かなり広い。

そして、今は私たち以外使っている人はいないらしい。ほぼ貸しきり状態。


「どうしよっか、これから。ここにいても暇だし」

「そうねぇ……一応街一回りしてみる?」

「でも単独行動は止めた方がいいと思いますよ、迷ったら帰ってこれるかどうか」

「多分すぐルビスとナオが呼んでくれるよ。それまで待ってよ」

「マスター、折角だし、お風呂入りましょうよ」

「賛成」

「そうね。昨日は入れなかったし。いいかもね」


髪とか汗でベトベトだったんだよね。早く入りたい。

日本人は恵まれている、とつくづく思う。


私たちは、そのまま宿の奥にあるという浴場へと向かった。



続く


あとがき

「こんにちは。あとがき担当の鷹野玲子です。

 やっと精霊の国に到着しました。女王様ってどんな方なのでしょうね。

 今から会うのがとても楽しみです。

 今回は、精霊の国の門番をしていらっしゃいますカルスさんに来て頂きました」

「カルスだ。よろしく頼むぞ」

「よろしくお願いします」

「他の奴も、お前みたいなのばかりだといいんだけどな」

「はぁ」

「なんだ、その顔は」

「い、いえ別に」


「精霊さんってどんな姿かと思ったんですけど、私達とそんなに変わらないのですね」

「意外か」

「ええ。私達の国だと、伝説上の生物ですから」

「ふむ。まあ、案外近くにいるのかもしれないぞ」

「え、そうなんですか……」

「お前らが人間だと思っていた奴の中に、精霊が居るかも知れんな」

「と言っても、区別はつかないと思うんですけど」

「まあな。普通の人間には絶対無理だ」

「判ったら今頃は世界中で大騒ぎですね」

「俺達の国でも大騒ぎだ。人間なんかに所在がバレたら、ろくなことは無いからな」


「ところで、最初ルビスさんと会った時に、随分と喜んでいらっしゃいましたね」

「当たり前だ。あんな身分の高い方と話が出来ただけで、幸せに思うぞ」

「そうですか。では、そんなカルスさんには喜んで頂けるかも知れませんね。

 ルビスさん。どうぞ」

「なにっ?!」

「こんにちは。レーコ、カルス」

「急に呼ぶことになっちゃってすみません。来て下さってありがとうございます」

「いいんですよ、レーコ。私もヒマでしたし」

「あ、ル、ルビス様……」

「うふふ。そんなに緊張しないで下さい。ここは本編ではないのですよ?」

「は、はい……」

「カルスさん、私の時と大分態度が違う気がするのですが」

「き、気のせいだろ」

「そうですかぁ?」

「ふふふ。まあ、いいじゃないですか、レーコ」

「ところでカルス、私が国を出たときはまだ門番ではなかったのですか?」

「は、はい。今年の春に配属になったばかりです」

「そう。これから大変だと思うけど、頑張ってね」

「勿体無いお言葉、ありがとうございます」

「そんなカルスさんからルビスさんに質問があるそうです」

「お、おい、頼んで無いぞ、オレは」

「あら、なんでしょう」

「あ、あの、よろしいのですか?」

「遠慮なんていらないわ」

「そうですか……では、最初にお会いした時、なぜあのような髪の色だったのでしょうか」

「……」

(沈黙)


「あの、やはり失礼な質問だったでしょうか?」

「いいえ。魔力を失っていた、とだけ答えて起きましょうか。ふふ」

「ルビス様ともあろう方が、そんな……」


「さあ、この話題はここまでにしましょうか」

「そうですね。折角ですから、皆でどこかに食事にでも行きましょうか」

「ホントですか?」

「ええ。構いませんよ。庶民的な物が食べたいですね。丁度お腹も空いてきましたし」

「ルビスさん……すっかり向こうの生活に馴染んじゃったんですね」


???

(一人訳がわからないカルス)


「なんかお城の食事って、綺麗過ぎて……これって贅沢ですか?」

「そんなこと無いですよ」

「カルス、どこか美味しいお店知りませんか?」

「あ、はい、でしたら取って置きの所があるので、ご案内します。

 多分仲間もそこにいると思いますが。驚くでしょうね」

「そうですね。楽しみです」


「では、皆さんとはここでお別れです。お相手は鷹野玲子と」

「門番のカルス」

「ルビスがお送りしました。それでは、次回またお会いしましょう」

「ルビスさん、いつもと性格キャラ違いませんか?」

ギク。


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