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第3部第4話

>>

突如として、村の上空に赤い光が現れる。

「な、何だ? 何が起こったんだ!?」

全く予想していなかったためか、皆、慌てふためく。

広場の中央に光が降下して、輝きを放つ。

そして、光が消えると、そこには一人の女性が立っていた。小さな少女を抱き抱えたままで。



>naomi

突然現れたルビスに、村の皆は驚いていた。

あっという間に広場には、ヤジウマが集まってくる。

「な、何者だ? あんたは?」

『私はルビス。炎を司っている精霊です……』

「せ、精霊……だって!?」

突然の訪問、しかも本物の精霊登場に戸惑う村人たち。

『私を呼び出したのは、貴方達ですね?』

ゆっくりとした喋り。でもその言葉には力が込められている。

普段のルビスからは想像もできない、神々しさ。

精霊ってやっぱり特別な存在なんだと感じる。ルビスが王女様だからというのもあるかもしれないけど。


『随分と前から私達に贈り物をして頂いていたようですね』

「は、はい、5年程前から」

と言うことは少なくとも4人は被害に遭っているということになる。

「セリカ!」

「お母さん?」

人ごみの中から、少し痩せた女性が出てくる。少女の母親らしい。

ルビスは近付いて来た母親に腕の中のセリカを渡して、尋ねた。

『毎回このような少女を?』

「はい。お護り頂いているせめてもの御礼をと思いまして」

ルビスの顔が曇る。

『そうですか。でも、私はそのような話は聞いていません』

「な、何ですって? それは本当ですか?」

ざわめきが起こる。そして、ルビスが1枚の服を取り出して、続ける。

『あの籠の置かれていた周辺を探索させて頂きました。これはどなたの服でしょうか』

土で汚れていはいるが、レースが所々に施された可愛いワンピース。

周りにはいくつもの遺留品らしきものが残っていた。

その中で、かろうじて服の原形をとどめていた物を持ってきた。

「そ、それは……私の……娘の物だ」

一人の中年男性が名乗り出た。

『いつ頃の事ですか?』

「丁度1年前です……」

『私達の為にこのようなことが行われているのは、心が痛みます』

村人は皆黙り込んでしまった。

「くそ、なんてことだ! 私は、何てことを!」

地面にうずくまる男性。周りの人たちが慰めているが、怒りが収まらない。

そして、声を上げて泣き始める。

「一体誰が、こんな非道なことを……」


いたたまれなくなって来た。ルビスの心も限界っぽいので私たちも会話に加わることにする。

「おそらく犯人は、精霊の国と言う話を聞きつけ、この国に移住してきた住民です」

「そして、精霊の仕業に見せかけて次々と少女を誘拐します」

「自分の慰みものにした後、証拠を隠す為に殺害したのね、きっと」

「そして、その犯人は、今も堂々とこの村の中で生き続けているとしたら?」

私たちの説明にさらにざわつく人々。

「何だと、俺達の中にいるって言うのか」

「そうよ。そして、私達はその犯人たちを知ってるわ」

「何っ、だれだ、そいつは?」

「あの時私たち、籠の近くに張り込んでいたんです」

「犯人は、あなたね」

私は一人の青年を指差す。彼は、籠を運んでいた張本人だ。

「まさか、ラグナス、お前が……」

この男の名前はラグナスというらしい。


「おいおい、まさか、この小娘の言い分を信用するんじゃないだろうな」

「しらばっくれるな! 娘を返せ!」


「ラグナス……どっかで聞いたことがあるような……」

「シイル、それ、ほんと?」

「判りません。でも、何か嫌な予感がします」


次第に村人たちに詰め寄られていくラグナス。

「し、知らねぇなぁ、証拠を出せ。俺がやったって証拠など存在しないだろう」

「証拠ねぇ。いいわ。出してやろうじゃないの」

「ここにバッチリ映ってるわ」

そう言って姉さんがデジカメを取り出す。

「何だね、それは?」

「これは‘記録の箱’と呼ばれるものです」

そのままじゃん……姉さんセンス無いよ。

「こっちの世界を記録するつもりが、まさか、こんな形で役に立つとは思わなかったわ」

そこに映し出されている物に村人たちは皆息を飲んだ。

「こ、これは……」

籠が置かれる。精霊が現れる瞬間。そして、その後すぐに籠に近付く一人の男。

男は、籠を開けようとするが、中に何も入っていないのを確認すると、ものすごい勢いで村に戻っていった。

鮮明に映し出された映像を見ると、一斉に非難が集中する。

「これは、どういう事だよ!」

「説明しろ! ラグナス!」

「ちっ……」

「あなたはこうして毎回犯行を重ねていたのね」

「もう観念しなさい」

遂に諦めたのか、彼が口を開く。

「ああ、そうだよ。確かに犯人は俺だ。よく見破ったじゃねぇか」

逃げられないと悟ったのか、自白をした。

「私の娘を返せ! この殺人鬼が!!」

さっきの男性が掴み掛かる。だけど。

『ふ、くくく……言ってくれるなぁ。たかが人間風情が』

そう言うと彼の背中から漆黒の翼が!

「こ、こいつまさか!」

続いて、牙が伸び、爪が伸びる。筋肉が盛り上がり、着ていた服が引き千切れる。

「うわあぁぁっ! バケモノだぁ!!」

「に、逃げろぉっ」

散り散りに逃げていく村人たち。

『やっぱり……魔族でしたのね』

『まさか本物の精霊に会えるとは思わなかったぜ。折角上手くいってたのによ』

対峙する二人。

その時、シイルが思い出したように叫んだ。

「思い出したわ! あのときにディストと一緒に襲ってきた魔族よ!」

『ほう……あの村の竜族もいたのか。丁度いい。全員まとめて地獄に送ってやる』

シイルを見て、ニヤリと笑う。もう人間であった時の面影は何処にも無かった。

『よくも私たちの顔に泥を塗ってくれましたね。許しません!』

「仲間の仇、取らせて貰う!」

『ふん、貴様らにも楽しませてもらうぞ。ククク』

『ふざけないで! 覚悟しなさい!』

ルビスが身体の周りに炎を纏う。

こうして戦いの火蓋が気って落とされた。



炎舞フレアー!』

ルビスの炎が魔族に襲い掛かる。

だけどやっぱり少し威力は弱いみたい。炎の渦がいつもより心なしか小さい。

『威勢のいいわりにはこんなものか! これでも喰らえ!』

奴の爪がルビスの腕を切り裂く!

『きゃあっ?!』

白地の旅服が切り裂かれ、真紅に染まる!

「ルビス! 援護するわ!!」

魔法を唱え始める姉さん。ルビスと同じくらいの炎が立ち上がる。

『そうはいくか!』

突然、奴の身体が半透明のガラスのようなものに包まれる。

「何? なんなの?」

姉さんの炎が魔族に届く瞬間、そのガラスが光る!

「きゃぁぁ!」

姉さんが炎に包まれる。何が一体どうなってるのっ?

『ククク……自分の魔法に焼かれる気分はどうだ?』

射反リフレクトの魔法?!』

魔法が跳ね返るなんて……これじゃ、手も足も出せないじゃない!

『俺には魔法は効かんぞ。さあ、どうする?』

スッ

突然目の前に影が出来る。

「私が相手です」

「鷹野さん?!」

『ほう……これはまた、貧弱そうな小娘が出てきたな』

ニヤリとほくそえむ魔族。

「これ以上の悪事は許せません。私が相手です!」

『その根拠の無い自信はどこから来るのだ……まあいい。貴様から楽しませてもらうぞ!』

鷹野さんは、木刀を居合抜きの体勢で構え、魔族と対峙する。

そういえば、あの時どうやってツヴァイを倒したんだろ? ずっと気になってたんだよね。


『そんな棒っ切れで俺を倒せると思ってるのか?』

「やってみなければ分かりませんよ」

精神集中を始めると同時に、彼女の体から青いオーラが。

そのオーラが木刀に纏い、それが光り始める。

「魔法剣っ?!」

シイルが叫ぶ。

『ほう、魔法剣だと。面白い……』

「いきます!!」

凄まじい衝撃波が魔族を襲った。凄い……これが鷹野さんの力なの?

『ぐ……ぐおぉっ』

その勢いで奴の身体が押されていく。だけど致命傷には至らなかったようだ。

『なかなかだな。だが、この程度か』

奴は光を放っている木刀を素手で掴み取っていた。

「そ、そんな?!」

『では、俺に傷を付けてくれたお礼に、お前から始末してやる』

そう言って奴は鷹野さんに襲い掛かった。

鋭い爪の一撃。避け切れなかった鷹野さんの腹部に食い込んだ。

「くふ……ッ?!」

血を吐く鷹野さん。あっという間に制服が真っ赤に染まる。

「鷹野さん!!」

これって、かなりヤバイよ!

『死ね、小娘』

「ふふ」

突然、鷹野さんの口元が緩んだ。

『貴様、何がおかしい!』

「シイルさん! 今です!!」

「何ぃッ?!」

背後には剣を持ったシイルの姿が。

『し、しまったぁっ!!』

ザンッ

『ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ』

魔族の背をシイルの剣が貫いた!!

『ぐおおぉぉっ!!』

剣が刺さったまま、もがき苦しむラグナス。奴の周囲から、魔法の効力が消えた!

「今です! ルビス様!!」

『フレアー!!』

『があぁぁぁぁっ!』

断末魔の悲鳴。ルビスの炎に焼かれた魔族は、あっという間に灰になっていく。

シイルは残った灰から剣を抜く時、ぽつりと言った。

「仇はとったよ。みんな……」




「大丈夫、鷹野さん?!」

直ぐに、私と姉さんが駆け寄った。

「はい、何とか。そんなに深くはないみたいですし」

「全く……無茶するんだから」

「すみません……」

文句を言いつつも、治療する姉さんの顔には笑みがこぼれていた。

「鷹野さん、今の技……いったい何?!」

「私の力を剣に乗せて放つ技……みたいです」

みたいですって……そんな他人事みたいな。

閃光斬せんこうざんと名付けました」

「輝く光を放つ斬撃、で閃光斬ね……」

「実際は樋口さんに教えてもらったんですけれど」

ちょっと姉さん、いつの間に何やってるの?!

「相変わらずすごい威力ね。それでも効かないんだから、魔族は侮れないわ」


「見直したわ。なかなかやるじゃない」

シイルがいつの間にか様子を見に来ていた。

「あ、シイルさん、助かりました……」

「あそこで私が飛び出すのを予測してたんでしょ」

「はい。ちょっと、怪我したのは予定外なんですけどね」

見ると、彼女が持っている木刀にヒビが入っていた。掴まれた時に割れたんだろう。

「新しいの買い換えないといけませんね。でも、同じもの、売ってるでしょうか?」


その時、様子を見ていた村人たちが出てきた。

「ルビス様ぁ!!」

ルビスに駆け寄る一人の少女。そのまま抱きつく。

なんか、いい雰囲気なんですけど……

「助けて頂いてありがとうございます。お強いんですね」

『そんな事ありませんよ』

少女がふとルビスの腕を見る。彼女の腕からは今もなお血が滴っていた。

「お怪我は……大丈夫ですか?」

『これ位なんともありません。それより、無事で何よりです』

何か、ルビスに全部手柄奪われた感じだよね。

シイルが寂しそうにそれを見ていた。

「私も頑張ったんだけどな……」

それを見たユミちゃんが、ちょっと涙ぐんでいるシイルの肩をぽんぽんと叩く。

「シイル、あなたには私がついてるから。ね」

「マスターっ……ありがとうございますぅ」



その後私達は、村人たちと一緒にせめてもの弔いとして、少女達のお墓を作った。

「まさか、魔族の仕業だったとは。なんとお礼を申してよいのやら」

ルビスは首を振った。

『いいえ……むしろ、私達の存在の所為で貴方達にご迷惑をおかけすることに……』

「いやいや、これでこそ、毎年生贄を出していたかいがあったと言うもの」

「そうです。感謝するのはこちらの方です。天国の娘達も、これで報われることでしょう」

『ええ……』

明らかに落ち込んでいる。声をかけようとしても上手い言葉が見つからない。

我慢できなくなったのか、姉さんがルビスに近付く。

「ルビス。元気出して。あなたのせいじゃないわ」

『でもこの子たち……何の罪も無いのに……私達がもっと早く気づいていれば……』

ルビスはしばらくお墓の前でじっと手を合わせていた。

『どうか、もし来世生まれ変わる時が来たら、今度こそ人生を全うして下さい――』

私達はただ祈った。

天国で幸せに暮らせるように、と。


続く



あとがき

「こんにちは、鷹野玲子です。今回は珍しくシリアスな終わり方でしたね。

 少女達の冥福をお祈りします」


「さて、それでは、今日はゲストも居ない事なので、この辺で……あら?」

「失礼しまーす」

「あら、あなたはこの物語の作者の……」

「ども。はじめまして。作者の‘みやび’ことmです」

「そういえば、あとがきに登場なさるのは初めてなんですね」

「こういう所に作者が出るのもどうかと思ってたんで。今まで控えてたんだけど」

「苦肉の策というわけですか。mさんらしいですね」

「何か言ったか?」

「いえ……と、ところで、mさん、今日はどうしたんですか?」

「折角、玲子が司会をしているんだから、君の話をしようと思ってね」

「私の話、ですか?」

「そう、玲子は、元々は‘令’という名前で考え付いたんだ」

「どうして今の名前に変えたんですか?」

「何かイメージと合わなくて。君を“令嬢”というにはちょっと違う気がするし」

「どうしてですか?」

「最初はもっとコテコテのお嬢様で出す予定だったんだけど、性格を変えることになってね」

「はぁ」

「お嬢様=わがままのイメージを君に付けたくなかったからね。かなり素朴になったけど」

「喜んでいいのでしょうか?」

「一番のお気に入りは君だから。君の名字借りてるし。昔は、君の名前をHN(ハンドルネームで使ってたんだぞ」

「へ、変態さんですぅ」

「し、失礼な! なんで俺が変態なんだよ!」

「だって、男の人が女の人の名前使って喜んでるなんて」

「喜んでる訳じゃないが、いいじゃん別に、減るもんでもあるまいし」

「減りますよ! 気持ち悪いですよっ!」

「まあ、それは置いといて。とにかく、玲子は自分の理想の女性像だから。

 美人で、優しくて、ちょっと天然で、でも芯はしっかりしてる。だから君が一番気に入ってるんだよ」

「でもそれって、ルビスさんにも当てはまりませんか?」

「彼女の場合は、書いてるうちに段々とあの性格が出来上がってしまったんだ。だから君とは出来方がちょっと違う」

「言い訳ですね、それ」

「否定はしないよ。結局は自分の理想をキャラに押し付けているだけ。どの登場人物も、現実ではありえないからね」


「それにしても、今回の話は唐突でしたね」

「実は後から付け足した話なんだ。いきなり精霊の国に行っても面白くないし。

 魔族を登場させて、シイルの因縁も表現できたし、展開を発展させることもできた。書いて良かったと思うよ」

「でも、いつも思うんですけど、必ず誰か死んだり怪我したりするのは何故なんですか?」

「だって、その方が物語として盛り上がるじゃない。

 どこかの時代劇みたいに、ヒーローは全く怪我もせずに余裕で勝っちゃうんじゃ、面白くもなんともないじゃん。

 やっぱり、追い詰められて、最後に大逆転~ってほうがスッキリすると思わない?」

「それは確かにそうですけど……やってる方は大変なんですから」

「そりゃそうだ。そこが狙いだもん。女の子が苦しんだり、痛みに耐えてるの見るの好きだから」




※あくまでヴァーチャルの世界で。誤解しないでね。実際にやると犯罪だよ※




「それで、私怪我したんですか……凄く痛かったんですけど……」

「血みどろの女の子が苦しみながら戦ってる姿なんか、すごく絵になるし、いいよね?」

「陽子さんとルビスさんにも怪我させるなんて」

「ついでに玲子の刀も折っちゃった」

「う、どうしよう……刀が無いと、もうあの技は使えないんですよね……」

「ふっふっふ」

「お、お願いです! あの木刀だけは戻してください!」

「ん~、どうしよっかなぁ……」

「お願いします!!」

「よし、分かった。その代わり玲子、君には新しいストーリーを書くというのはどうかな?」

「え?」

「よし、それでいこう」『鷹野玲子 IN 精霊の国(一人で)[仮]』

「えええええっ?!」

「あ、それから、木刀戻すけど、威力半減ね。ヒビ入りだから」

「ちょっと、それ約束が違うじゃないですかぁ!!」

「楽しみだなぁ。どうやって君を苦しめてあげようかなぁ……」

「や、やっぱり変態さんです!」


「あ、それから言い忘れてたけど、これからしょっちゅう来るから。よろしく~」

「ええええっ?! ちょっと、どういう事ですかぁ!!」

「では、そろそろ帰ります。皆様、お騒がせしました~」


「あ……嵐のように去って行きましたね。

 お見苦しい点が多々あったことをこの場を借りてお詫びします。スミマセンでした。

 随分長くなってしまいましたね。それではそろそろ締めたいと思います。

 お相手は鷹野玲子でした。さようなら~」




「それより、私これからどうなっちゃうんですかっ?!」



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