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精霊の扉 第3部第1話

>Naomi

あれから数ヶ月。魔族達はプッツリと姿を消していた。

「直美、どうしたのよ。元気ないじゃない」

「あ、姉さん……なんか、毎日平和だなぁと思って」

「贅沢ねぇ。でも、そうね……確かに物足りないかな」

溜め息をついて窓の外を眺める姉さん。

私達は、急に周りが静かになったせいで、何ともいえない脱力感に襲われていた。

「彼らもまさかヨーコを取り返されるとは思ってなかったのでしょう」

声のした方を見る。いつの間にか玄関にルビスが立っていた。

「あ、ルビスお帰り。お母さんの手伝いに行ってたんじゃなかったの?」

「今日は早番ですからね~♪」

そのまま冷蔵庫に向かう。取り出したのは缶チューハイ。

ぷしゅ。

「え? ちょ、ちょっとっ」

「んぐ、んぐ」

止める間も無く一気にそれを飲み干す。

「は~ぁ、やっぱり仕事の後の一杯は格別ねぇ♪」

「こんな時間からお酒飲むなぁ!!」

「嫌ねぇ、食事ですよぅ」

食事って、アンタ……

「さすがに仕事中に飲むわけには行きませんからね」

「当たり前でしょ!」

ルビス達精霊は、お酒が魔力の源。

一国の王女である彼女は元々とてつもない魔力の持ち主だった。

だから、回復に時間がかかるんだよね。早くしたいその気持ちは分かるけどさ。

ルビスの髪の色は徐々に赤味を増しつつある。でもまだ本調子には程遠い。

でも、昼間から飲むこと無いと思うけどな。一応酔っぱらう訳だし。

「ふう、ヨーコ、もう一本無い?」

「有りません!」

「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか……」


空き缶を机の上に置いたルビスが、突然真面目な顔になる。

「でも、これで終わる筈がありませんよ。今ごろ、何処かで力を蓄えているんでしょう」

「確かに、あいつらシブトイもんね」

姉さんが同意する。

「そこで、ですね。私、一度故郷に戻ろうと思うんです」

「え、そんな」

「帰っちゃうの?」

彼女の思いがけない言葉に私達は驚いた。

「ええ。やっぱり、皆が心配ですし」

「そっか。そうだよね」

「寂しくなるわね」

そう、彼女にも家族はある。仲間もいる。ずっとこの世界にいるわけにはいかない。

今の暮らしに慣れていた所為で、すっかり忘れていた。

「そこで、相談があるんです」

「相談?」

「ユミコに付いて来て貰いたいのです。今の私では、精霊の国まで行く力は無いですから」

「何で私や姉さんじゃなくてユミちゃんなの?」

「貴女達の中で一番魔力が高いのは、あの子でしょう?」

なるほど。確かに。

「そうね。彼女と戦っても正直勝てるか判らないわ」

姉さんが納得した様子で答える。

「それに。慣れているからというのもありますけど」

そっか。向こうにいた事があるんだっけ。

「でも、二人だけじゃ……ねえ、私達もついてっちゃ駄目かなぁ」

ルビスはちょっと考えていたけど、すぐにこう答えてくれた。

「“人間”は、かなり立場低いですよ。それでもいいですか?」

「構わないよ。ルビスの何かに役立ちたいんだもん。それくらい平気だよ」

「判りました。じゃ、早速呼んでください」

「ありがと、ルビス。じゃ、ちょっと待ってね」

私はポケットから携帯を取り出した。


数分後、チャイムが鳴る。

「突然呼んで悪かったね」

「いいよ。私もヒマだったしね~。それに、もしかしたら師匠に会えるかもしれないし」

「どうでもいいですけど」

ルビスが視線を後ろへ移す。

「何でシイルとレーコも一緒なんですか」

「こ、こんにちは」

ユミちゃんの後ろに隠れるように二人が後ろから顔を出した。

「私は常にマスターと一緒に居なきゃいけないんです」

「あの、宗教にちょっと興味あって……」

まあ、二人とも強いからいいけどさ。

「遊びに行くんじゃないんですよ?」

ルビスは呆れ顔だ。

「って言うか、鷹野さん、制服のままだよ。いいの?」

「ええ。学校に行くって言って出てきましたから」

お嬢様って、結構面倒だな……

「鷹野さんと知り合いだったんだね。ユミちゃん」

「家が、すぐ近くなんです」

「挨拶に行ったんだ。しばらく会えなくなるからね。付いて行くって聞かないもんだから」

「すみません……」

「まあ、仕方ありませんね」


「で、すぐ出るの?」

「そうですね、早い方が」

「置手紙でも置いておいたほうがいいんじゃない?」

うちの親は放任主義だから、あんまり心配はしないだろうけど、突然居なくなると驚くだろうしね。

「そうですね……では、と」

「ルビス、ちょっと待った」

「はい?」

「そんな記号みたいな文字、読めるわけないでしょ」

紙の上には文字やら図形やら記号やらさっぱりわからないものが並んでいる。

精霊文字らしいけど、私にはさっぱりわからない。

「姉さん、読める?」

「ほんのちょっとはね。でも、英語の字だけわかっても単語の意味がわからないでしょ。そんな感じ」

すると、隣から声がかかった。ユミちゃんだ。

「ルビスさん、私が代筆してあげよっか」




「――これでよし、と。ところで、この近くに、広い場所はありますか?」

「そうねぇ……公園ならあるけど?」



辺りはすっかり暗くなっていた。

公園に大きな魔法陣。その中心に6人。

小さな街灯だけが辺りを照らしている。

中心にルビス。彼女を囲むように私、姉さん、ユミちゃん、シイル、鷹野さん。

「みんなからちょっとづつ魔力貰いますね」

そう言うとルビスは魔法の詠唱に入った。彼女の体が赤いオーラを発し始める。

魔法陣が青く光り出す…ここからは未知の世界だ…

精霊の世界って、一体どんな世界なんだろう…


続く


あとがき

「やってきました第3部。こんにちは。水口直美です。

 3部は、私が司会やることになったから、みんなよろしく」

「えぇ~」

「ブーブー」

「ちょっと、何でそこでブーイング来るのよ?!」

「だって、あとがきまで直美にやらせたら、私達の出番がドンドンなくなるじゃない」

「しょうがないなぁ……判ったわよ。じゃあ、誰がいいと思う?」

「出来ればやってない人がいいかな」

「じゃあ、鷹野さん」

「え? わ、私ですか?」

「賛成ぇ~」

「えぇぇ?! わ、わ、私、そ、そんなの私できませんよぉ!」

「いいからいいから」

「はうぅ」

「じゃ、ちょっとやってみて」


「み、皆さん初めまして。鷹野玲子です・・・……」(しばしの沈黙)

「で?」(期待する目)

「あ、その、えっと」(オドオド)

「ほら、時間が無いから早く早く」

「え、えと……今日は、二人のゲストに来て貰っています」

「こんにちは、水口直美です」

「どうも、樋口陽子です。今日はよろしくね」

「お二人共、今日はよろしくお願いします」

「よろしくね」(何とか大丈夫かな?)


「改めて見ると、本当に二人ともよく似てますね」

「まあね。一卵性だし。よく間違えられるよ」

「私の方が、30分だけ早かったのよ」

「姉さん、それって自慢にはならないと思う」

「でも、どうやって区別すればいいですか? 声もそっくりですし」

「普段はポニーテールにしてるけど。姉さんはあまり縛ることはないよね」

「そうね。髪形で見分けるのが一番いいかもね」

「ところで、直美さんが身に着けているそれ、一体何ですか?」

「あれ? 鷹野さんにはまだ言ってなかったっけ?」

「この宝珠はね、ルビスの力そのものなんだよ」

「ルビスさんの?」

「そうよ。ルビスに認められた人だけが持つことができるの。一種の契約みたいなものね」

「そうなんですか。でも、それ、最初は陽子さんが持ってたんじゃ」

「!!」

「何で、直美さんが持ってるんですか?」

「……」

「あ、あれ? 陽子さん? どうしたんですか?」

「いいんだ、どうせ、私なんて……私なんてぇ」


「(小声で)だめだよ、鷹野さん。それだけは禁句なんだから」

「あ、ご、ごめんなさい」

「姉さん、そんな落ち込んでも仕方ないでしょ」

「そ、そうですよ。元気出してください。いいことだって、きっとありますよ。ね。ね?」

「ほ、ほんとに?」(涙目で顔を上げる)

※哀願するような目

「う」(そんな顔で見られても)

「や、やっぱりただの慰めなのね」


「ちょ、ちょっと姉さん!」

「うわあぁぁぁぁぁぁん!」

バタン!

「……」

「……」


「行っちゃった」

「そうですね」


「あ、こんな事してる場合じゃないって。ごめんね、鷹野さん、最後、締めといて」

「え? あ、あの……ちょっと」

「姉さん、待ってったらぁ!」

「……」(ぽかーん)

「え、ええと……その、ゲストが帰ってしまわれたので、この辺で。

 そ、それではまたお会いしましょう……お相手は、鷹野玲子でした」

(ぺこり)


「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ!! 直美さん!」

※あわてて後を追いかける玲子。後にはただ静寂が残るのみ。

 


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