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運命の少女 第5話

「沙耶乃さん! 何処ですかっ?!」

薄暗い公園の中を探す。そのうちに、強い波動を感じた。

こっち?!

ベンチのところまで来た時、私は言葉を失った。

目に飛び込んできたのは、血まみれで地面に倒れている沙耶乃さんの姿だった。

「いやぁぁぁ! 沙耶乃さん!!」

倒れた沙耶乃さんの側にたたずむ女。

「おや、もう一匹餌が舞い込んだようね」

「餌、ですって?!」

「この子、少し抵抗したから、ちょっといたぶってあげたの」

なんてことを!

「よくも沙耶乃さんを! 許さない!!」

「素直に血を吸わせてくれれば、痛い思いすることなく逝けたのに、馬鹿な子ねぇ」

血を吸うって……吸血鬼?!

そんな私の心の変化を相手は見逃してくれるはずも無かった。

「ふふ。今頃気付いても駄目よ。さあ、私の新しい下僕よ!」

そう合図をすると、沙耶乃さんがムクリと起き上がった。

だけど、その瞳に光は無い。

『ご主人様……お呼びですか』

「殺すのもなんだし、この子も下僕にしておこうかしら?」

『仰せのままに――』

冗談じゃない!!

「沙耶乃さん、やめて下さい!! 」

「無駄よ。もうその子は私の命令しか聞かないわ」

逃げようとしたけど、足の痛みで上手く避けられない。

あっという間に捕まり、信じられない強さで押さえ込まれた。

「私です!! 鷹野です! 分からないんですかっ?!」

『さあ。あなたも私のお仲間になりましょう』

ズブリ。

沙耶乃さんの歯が私の肩に食い込んだ

「うあ、ぁあああっ……」

「あらあら。可愛い声出すわねぇ」

ずず……ずずずず……

血を吸われる毎に、力がどんどん抜けていく。

「あ、やぁぁぁぁっ」

あら、なかなか頑張るわねぇ。もっとやっちゃって頂戴。

さらに深く食い込んで来る感覚。私の視界が真っ赤になっていく。

そのまま地面に倒れる。体が……動かない。

「やっと堕ちたようね。さぁ、覚悟はいいかしらぁ? ふふふ」



「そこまでにしてもらおうか、化け物め!!」

だ、誰?

声がした方を向くと、そこには一人の青年が。

「何者だっ、お前はっ」

「沙耶乃を返してもらう」

沙耶乃さんの知り合いらしい。

「何も武器も無いくせに、どう戦うつもり?」

「武器ならあるさ」

そういうと、彼はポケットからなにやら取り出した。

それは、細い小さな棒切れのようなものだった。

「何かと思えば……そんな物で? ふ。笑わせるわね」

「それはどうかな?」

棒が輝きだす。あれって魔法剣みたいだけど?

「き、貴様?!」

動揺する吸血鬼。

光はいつの間にか、剣ぐらいの長さにまで伸びていた。


「さて、沙耶乃を傷つけた罪を償ってもらおうか」

「面白い。やってみるといいわ」

対峙する両者。

私はその隙に沙耶乃さんの所まで這って行った。

吸血鬼の戒めが解け、その場に倒れこんでしまっている。

「沙耶乃さん!! しっかりして下さい!!」

返事は無い。

どうしよう……陽子さんなら何とかできるかもしれないのに。

勝手に涙が溢れてくる。何も出来ない自分がすごく悔しい。


ドォォォンッ

大きな音がした。その方を向くと地面が大きく削られている。

「く、これほどとはッ!」

すごい。あの人吸血鬼相手に押してる…

「次は外さない」

「くそっ……覚えてなさいよ!!」

あ、逃げちゃう!!

と、突如突風が吹き荒れる。

「な?!」

その風が渦を巻き、中から一人の女性が。まさか?!

「久しぶりね、リリア。私を覚えているかしら?」

「あ、あなた様はッ?!」

「相変わらず人間の血しか吸ってないの?」

「ノエル様! お久しぶりですっ」

「チッ、仲間が居やがったか」

あの魔族?! なんてタイミングが悪いの?!

「ノエル様、私の新しい下僕を差し上げますわ。どちらも生きのいい小娘です」

そして、突如割り込んできた男性のほうをチラッと見て。

「ちょっと邪魔者も居ますが、すぐに片がつきます」

やっぱり、殺されてしまうのかもしれない。

だけど、次に発せられた言葉に、私は耳を疑った。

「いえ、その子達に手出しは無用ですよ、リリア」

え?

「い、今なんと?」

「聞こえませんでしたか? その子を殺すなと言ったのですよ?」

「ノエル様! なぜですっ?!」

「状況が変わったの」

「し、しかし」

「それに、彼が狙ってるとしたら、なおさらだわ」

一体どういう事だろう? 殺されるんじゃなかったの?

「帰ったら彼に伝えておいて。もうあなたの指図は受けない、と」

「まさか、あなた様が魔族を裏切るなんてッ!!」

「私の元に来るつもりがないのなら、早く行きなさいリリア。私の気が変わらないうちにね」

「ふ、ふざけないで! とても尊敬していたのに! 裏切り者!」

「残念ね。私に勝てるとでも?」

どっ。

黒い魔族の腕が吸血鬼の胸板を貫く。

「……あ」

そのまま腕の中に崩れ落ちる。倒れる直前、支えられて抱きかかえられる。

「これで……良かったんですよね、ノエル様?」

「リリア?! あなた、わざとっ?!」

「ノエル様……私、最期は、あなた様の、目の前で――」

「リリア……どうして」

ざぁぁぁっ

灰となる吸血鬼。一瞬の出来事だった。

「何で、逃げなかったの……」

その灰を握り締めながらポツリとつぶやく。

やがて、その灰も空気に溶けて何も残らなくなった。



「どうして……助けてくれたんですか?」

「巻き込んでしまって、ごめんなさいね」

未だ気を失っている沙耶乃さんに優しく口づけをする。

「んっ――」

すると、あっという間に沙耶乃さんの顔に、血の気が戻っていく。

「これは……一体」

驚いている青年を尻目に、帰ろうとする彼女。

「では、私はこれで。また会うこともあるでしょう」

「待ってくれ。あんたの名前は?」

「私はノエル。黒い風を操る者です」

そう言うと解けるように消えていく、魔族ノエル。

「黒い、風、か」

彼がポツリと呟いた。

私は彼女が消えた場所をしばらく眺めていた。


魔族が帰った後、彼が声をかけてきた。

「沙耶乃が偉い迷惑をかけた。すまない」

「そんな。それより、沙耶乃さん無事でよかったですよ。ところであなたは?」

「あぁ、悪い。自己紹介がまだだったか。俺は高輪吹人たかなわふくとだ」

「私は鷹野玲子と言います」

話を聞くと、彼は沙耶乃さんと同居しているらしい。

名字が違うということは、許婚という事だろうか?

「そういえば、あんた、昼間沙耶乃と対戦していた人だな」

「はい。負けちゃいましたけど」

「いや、あんたは強かったって沙耶乃が言ってた」

「そんな。私なんて、まだまだです」

沙耶乃さんはベンチの上で寝息を立てている。

「まだ眠ったままだな」

「ええ。でもすぐ目覚めると思いますよ。顔色もいいみたいですし」

「そうだな。ところで、時間はいいのか?」

「あ、そういえば、もうこんな時間ですね」

時計の針は9時を回っていた。あまり遅くなるとお父様がうるさいかも。

「では、私はこれで。沙耶乃さんによろしくお伝えください」

「帰り道気をつけろよ」

「はい」

「まあ、あんただったら心配すること無いか」

「ふふ。なんですか、それ。それでは」

「ああ。またな」

手を振ってくれる。私もそれに答えて駅に向かった。


後日、沙耶乃さんから手紙が届いた。

『拝啓


お久しぶりです。先日はどうもありがとうございました。

それから、私のせいでご迷惑をおかけしましたことをお詫びします。

また是非対戦してみたいと思っています。次はどの大会に出られるのでしょうか?

決まったらお知らせしていただけると幸いです。あ、それから、吹人さんも元気です。

あんなぶっきらぼうな人ですけど、いい人なんですよ。

あ、そうだ。今度うちにいらしてください。ささやかながらお持て成ししようと思っていますので。

何かまとまりの無いお手紙になってしまいましたね、すみません。

最後に、お体に気をつけて下さいね。それでは、またお便りします。


敬具』





エピローグ

あれから一週間。私は陽子さんの寮の前にいた。

約束の時間はとっくに過ぎている。もう出てきてもいいはずなのに。

部屋の前に行く。ドアノブを回すとカチャリと開いた。鍵が閉まっていない。

「なんて無用心な」

部屋に入る。どこからか風が吹いていた。ふと前を見ると窓が開いている。

そこから風が吹き込んで、カーテンが揺れていた。

「陽子さん? いますか?」

返事は無かった。部屋の中は、もぬけの殻。どうして?



『すっかり遅くなっちゃいましたね』

『ごめんなさい。引き留めてしまって』

『樋口さん、泊まっていかれますか?』

『ありがとうございます、桐花さん。でも、すぐ近くが寮ですから』

『じゃ、明日寮の前に3時半ぐらいでいいですか?』

『わかった。じゃ、またね~』


昨日は夜の11時ごろ別れた。もう4時をとっくに回っている。

陽子さんが約束をすっぽかすとは思えない。

一瞬不安が頭をよぎるが、すぐに思い直した。

そんなことない。彼女は強いんだから。

「あれ? 水晶が」

突然私の水晶が輝きを増した。どんどん光が強くなる。と、突然光が砕け散った。

「く、砕けた……何、これ?」

と、ベランダのほうで何か光った。なんだろう?

赤く光っているそれは間違いなく陽子さんのものだった。

「これは陽子さんのペンダント?何でこんな所に……まさか、何かあったんじゃ」

と、机の上にクラス名簿が乗っていた。

そうだ、自宅に行っているのかもしれない。もしかしたらそこにいるのかも。

「陽子さんの自宅の住所は……あ、あった。結構近くですね……よし」

私は窓とドアの鍵を確認すると、彼女の家に向かった。


ここから私の生活が大きな分岐点になるとはまだこのときは思いもしなかった。



運命の少女 END 

次回でようやく本編復帰です。

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