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運命の少女 第2話

夜。


ふと部屋の中に気配を感じ、目が覚める。


「――誰かいらっしゃるんですか?!」

「……へえ、私の気配を感じるなんて」

そこには一人の女が立っていた。


夢……ではない。侵入者? 物盗り?!

「どうやって入ったんですか! 出てってください!! 警察呼びますよ!!」


「それは無理」

「何故ですっ?!」

「この空間は完全に外部と切り離したわ。外に助けを求めることなんて出来ないのよ」

「そ、そんなことできるわけ無いじゃないですか」

「普通の人間ならね」

その女性は、恐ろしいほどにニヤリと笑った。

「あなた、一体何が望みなんですか! お金ですか?!」

「私の任務は、あんたのような力を持つ人間を抹殺すること」

力? 一体何を言って――

ヒュンッ


「っ!?」

女の手が私の身体をかすめ、手に持った刃物らしきものが、ベッドにザックリと突き刺さる。

「あら、上手く避けたわね。でも、次は無いわ」

こ、殺される!!

瞬間、部屋の隅においてある木刀が目に入った。とっさにそれをつかんで構える。

何とか追い払うことぐらいは出来るかもしれない。

「へえ、やる気? でも、そんなの無駄な抵抗よ」

剣なら多少自信がある。殺されるわけにはいかない!

次々と繰り出してくる一撃を、何とか受け流す。

「く、くそ! こいつ意外とできるわね、人間のクセに!」

いける! 今だ!!

「やァ!!」

ヒュゥッ

女の身体を捉えたと思った瞬間、私の刀が空を切った。

「なるほど……じゃあ、こちらも本気を出してあげるわ」

突然相手の身体が輝きだす。

「これを喰らって無事で居られるかしらっ!」

「……ッ?!」

一瞬何が起きたのかも分からず、声すら上げられなかった。

強裂な光に包まれたと思った瞬間、床に倒れていた。

「ぁ……く」

全身に激痛が走る。身体が痺れて指すら動かせない。

「どう? 私の電撃サンダスの味は? フフ……もう動くことすら出来ないみたいね」

女が余裕の笑みを浮かべている。その笑みは人間の物とは思えないほど恐ろしかった。

「さ、遊びは終わりよ。死になさい」

「嫌あぁ!」



パアァァンッ

「何っ?!」

その時、何かが壊れる音がした。

そこに見覚えのある人が立っていた。

「ひぐち……さん」

「た、鷹野さん……何があったの?!」

樋口さんは、私の姿を見て、驚いている。

「何者だあんたは?! 私の結界が破られるなんて!」

女の姿に気付いた樋口さんは、表情を険しいものに変える。

「お、お前は……魔族?!」

ま、魔族……?

「その力は……精霊の?! くっ、流石に分が悪いわね……」

そう呟くと、女は夜の闇に消えた。


「鷹野さん! しっかりして!!」

樋口さんが私を抱き起こしてくれる。

「どうして樋口さんが?」

「嫌な感じがしたの。とにかく間に合ってよかったわ。大丈夫?」

「はい、大丈夫です。ちょっと痛いだけですから」

本当は痛くて起き上がれない程だったけど、とっさにそんな言葉が出てしまう。

「あ、動かないで。早く治さなきゃ。治癒キュアライト!!」

光と共に私の傷が癒えていく。凄い……

「樋口さん――ありがとうございます」

涙が溢れてくる。

「とにかく、無事でよかったわ。ほら、もう泣かないで」

「はい……」

「でもビックリだな。こんな大きな家……鷹野さんってお嬢様だったんだね」

「そんなことないです」

「またまた謙遜して」

急に樋口さんが真剣な顔になる。

「あのさ、鷹野さん、また明日改めて来ていいかな?」

「え?」

「ホントは今説明したいんだけど、夜も遅いし」

時計を見る。日付はとっくに変わっていた。朝起きられるかな……

「そうですね。分かりました」

「多分今日は大丈夫だと思うけど、一応結界を張って置くから。じゃ、また明日ね」

「はい、今日はありがとうございました」

ベランダの窓から出て行った樋口さんを見ながら思った。

そういえば、どうやってここまで昇ったんだろう?


次の日、言われた通りに彼女が屋敷に来た。

門の前に出て出迎える。そこに彼女が立っていた。

「いらっしゃい。さ、どうぞ」

「おじゃまします。なんか変な感じがするよね」

「え? そうですか?」

「だって昨日も来てるのにさ、正門から入るのは初めてなんだもの」

「そういえばそうですね。さ、どうぞ」

「うわーおっきい家!! やっぱり凄いなぁ」

吹き抜けを見上げながら樋口さんが感嘆の声をあげる。

「有難う御座います。でも、ただ広いだけですよ?」

「ご両親は?」

「父は仕事に行って今日は留守です。母は……私が小さい頃に病気で亡くなりました」

「あ、ごめん、変なこと聞いちゃった」

「いいんですよ。気になさらないで下さい」

「いらっしゃいませ。樋口陽子様ですね?」

突然メイド服の女性に声をかけられ、樋口さんが驚いていた。

「貴女は?」

「あ、紹介しますね。家に住み込みで働いてもらってる片品桐花かたしなとうかさんです」

使用人の桐花さんは、私より3つ年上の大学生。

母が亡くなる前に身寄りのない彼女を引き取ったらしい。

それ以来ずっと家に住んでいる。小さい頃は良く遊んでもらったなぁ……

「初めまして。樋口陽子です」

「話は伺ってますよ。同じクラスの方だそうですね。ゆっくりして行って下さい」

「あ、はい。どうも」

「後でお食事をお持ちしますね」

そう言って桐花さんは奥の部屋に消えた。

樋口さんは、颯爽と去っていく桐花さんの後姿を見てポツリと。

「……ここ、日本だよね……」



一息ついたところで、昨夜の件を詳しく聞くことになった。

「あの、昨日のことで気になっていたんですが、魔族って……」

「この世界を支配しようとしてる人達の事よ」

「何でそんな人たちが。誰も気がつかないなんて」

「私たち人間には無い能力を沢山持ってるの。それに、魔族は気配を消すことが出来るわ」

「そうなんですか……彼らは何者なんですか?」

「あいつらは人間とは違う存在。彼らはこの世界を支配しようと企んでいる危険な連中よ」

世界の支配――なんか、どんどんスケールが大きくなっていく。

「早速本題に入るけど……私はね、鷹野さんに協力してもらいたいの」

「私に?」

「ええ。あなたの魔力で私を助けてほしいのよ」

「魔力――ですか」

「そう、私はね、あなたが私と同じ、ううん、それ以上の魔力を感じたのよ」

「私の体にそんな力が……でも、信じられません」

「最初は私もそうだったの。でも、昨日の一件で確信を持ったわ」

昨日の……

私の脳裏に記憶が蘇る。鋭い目付き。刃物。切り裂かれたベッド。電撃。

「この場所が知られてしまった以上、あいつはまた必ずやって来るわ」

私の背中に寒いものが走る。

「それまでに何とかしておかないと」

「でっ、でも、一体どうするんですか?」

「鷹野さん、あなたに魔法を教えるわ」

魔法……


「自分の力を上手く制御できるようになれば魔法を使えるようになると思うの」

「でも、私なんて……」

「お願い鷹野さん、その力を私たちに貸して。一緒に魔族たちと戦って欲しいの」

「……分かりました」

どこまでできるかわからない。でも何故かこのときは、やってみよう、という気になっていた。

「ありがとう鷹野さん」

と、彼女の後ろに殺気を感じた。

「樋口さんっ!!」

ヒュンッ

間一髪。樋口さんは竹刀の一撃をかわしていた。

「ほぉ。今のを避けるとはなかなかですな。御見それしましたぞ」

「師範!! 何なさってるんですか!」

「ほっほっほっ。これは失礼」

「び、ビックリした……鷹野さんのお師匠様かぁ」

「樋口陽子様ですな。ようこそ」

「もう……私のお客様なんですから」

「あんな風に気配を消すことが出来るなんて……すごいですね」

陽子さんは感心した様子だ。

「では、私はこれで」

「はい、お疲れ様でした」


「……お嬢様って、なんか違うなぁ」

「別棟にある道場で、毎朝稽古をつけてもらっています」

「そうなんだ……ん? 道場……そっか、よしっ」

突然樋口さんが、何かを思いついたらしい。

「ねえ、普段どんな稽古してるのか、ちょっとだけ見せてくれない?」

「構いませんけど」

一体何をするんだろう?


シンと静まり返った道場。

ヒュッ! ヒュンッ!

タン、タンッ、

そこには、木刀が風を切る音と、私の足音だけが響く。

しばらく無心で木刀を振り続けた。


演舞が終わると、樋口さんが拍手をしてくれる。

「うわぁ……かっこいいなぁ」

「そ、そうですか?」

「うん、やっぱり凄いよ」

人に見られるのはめったにないから少し恥ずかしい。

「あの、それで、これにどんな意味があるんですか?」

「じゃあ、構えたまま、両手の方に意識を集中してみて?」

「は、はい」

と、突然私の手の中に光が生まれる。

こ……これは?!

「そのままゆっくり剣の方に意識を向けて……」

数秒後、私の持っている木刀全体に光が行き渡る。

「今よ、振り下ろして!!」

言われるまま、おもいっきり振り下ろした。


ドンッ!!


光が道場の壁にあたり、大きな音を立てる。

そこには、人一人通れるほどの大穴があいていた。

「う、嘘……」

「あらら。ちょっと力が大きすぎたかもね」

私は、そのまま床にへたり込んでいた。


その後私達は、師範にこっぴどく怒られる事になったのは言うまでも無い。


続く

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