ドラゴンマスター 第7話
階段を下り、通路を通って行くと、古びた扉が現れた。
「この先に、私の生まれ故郷があるの」
「いよいよですね」
「そうね。3年ぶりになるのかな」
街の様子もすっかり変わってるんだろうな。
「それにしても立派な扉ですね」
そう言って手を掛けようとする。
「あ、待って!」
が、遅かった。
バチッ
「へっ?」
シイルと扉の間でスパークが起こる。
バチバチッ、バリバリバリッ
「ひゃわぁぁぁっ!?」
「結界があるから駄目よ、シイル」
「そ、そういう事は早く言ってくださいよぅ……」
ギギギィイィィ……
「開いた!!」
ふう、どうやら結界の解除は成功したようね。
その時部屋の奥で声がした。
「よく扉を開けられたわね」
「誰っ?」
「待って、シイル」
駆け出そうとするシイルの腕を、ガシッと掴む。
「え?」
部屋には誰も居ない。でも、私は声の主が誰か解かっていた。
部屋の中央には、一段高くなっている台座がある。その中央に刻まれている魔法陣――
「久しぶりね、ユミコ。何時以来かしら?」
魔法陣が輝き、中心に女性が現れる。でも実体はない。
シイルが台座に近付き、不思議そうな顔をする。
「これは、魔法映像ですか?」
そう、これは魔法でできたいわば虚像――魔法陣の向こうには、彼女が居る。
「リディア……いえ、師匠。お久しぶりです」
久しぶりに見るあの人は……ちっとも変わっていなかった。
「リディアでいいわ。待っていたわよ。ずいぶん強くなったみたいね」
「そんなっ、あなたに教わらなかったら、私」
「あの、師匠って?」
「うん、魔法の基礎を教えて貰ったから」
「そうだったんですか」
リディア=サークウェル。
私の魔法のお師匠様で、高位の魔術士であり、召喚士。
そして、この‘時空の扉’と呼ばれる施設の管理人――
3年前、この人に引き取ってもらえなかったら、今の自分は無かった。
「ところで、この子は?」
「ほら、挨拶は?」
「あ、はい。初めまして。白竜のシイルといいます」
シイルの言葉に、一瞬驚いたような表情を見せたリディア。
「そう、よろしくね。私はリディア=サークウェル。ここの管理人よ」
「よろしくお願いします」
珍しくシイルが頭を下げて挨拶した。
「ユミコ、ところでこれからどうするの?」
リディアが意識的に話を変えたのが判った。
「これからシイルと故郷に戻ります。そこに全てがあるような気がするから」
「そう、気を付けてね。私はもうあなたの面倒は看てあげられないけど」
私は、今までのお礼を簡単に言った後、こう尋ねた。
「また来てもいい?」
「もちろん、いつでも。お土産話もね」
「はいっ」
「あ、そうそう。最近魔の活動が活発になってきてるらしいわ。気を付けてね」
「うん。教えてくれてありがとう」
「これで私の役目は終わりね。後は自分で頑張りなさい」
「はい、師匠、本当にありがとう、ござい、ました」
視界が霞む。もう限界だった。
「もう私はあなたの師ではないわ。これからはただの知り合いよ」
次の瞬間、魔法陣の輝きが弱まり始める。
……じゃあね。
そんな彼女の声が聞こえた気がした。
「元気でね、リディア……」
「マスター、泣いてる?」
ぽかっ
落ち着いてから、改めて見渡すと、もう既に、遺跡の中は元の静寂に包まれていた。
「そんじゃ、私達もそろそろ行こうか」
「あの、マスター」
「何?」
「あの人、私の事知ってたんですね?」
やっぱりシイルも気付いていたようだった。
「他の人間はともかく、あの人は信用できると思いました」
「それは、私の師匠だから?」
「判りません。でも直感で思ったんです。この人なら大丈夫だって」
少しシイルはうつむき加減で。
「わたし、人間に対する考え方、間違ってたかもしれません」
「大丈夫よシイル、何か悩みがあったら私に話して。力になれるかもしれないから」
シイルの身体を、私はそっと抱きしめてやった。
「ありがとうございます、マスター」
「さ、行くわよシイル」
「はいっ」
私達は手をつないで、瞳を閉じた。
私の故郷へ……日本へ――
エピローグ
あれから数ヶ月後。
「ほら、由美子ちゃん、朝よ。起きなさい」
「ふぁ……おはよう、おばさん。あれ? シイルは?」
「あの子ならもう店に行ってるわよ」
「嘘? 早っ」
結局私達は叔母さん(お父さんの妹さんの従妹の家)に預けられることになった。
こっちに着いたら、さっそく警察に頼んで親戚を探してもらった。
わずか2日で見つかるなんて、さすが日本の警察は凄い! と感心してしまう。
シイルは孤児院の友達ということにしておいた。
さすがに、ねぇ……
「うわー、なんて高い建物! あ、あの乗り物かっこいい!!」
「ちょっとシイル、あんまりキョロキョロしないでよ。見っとも無い」
「だって、こんなの見たことないんですもん」
思った通り、シイルは街の様子に大変驚いていたけど、気に入ってくれたようだ。
ちょっと緑が少ないのが難点ではあるけどね。
でも、向こうの金隗が日本でも通用したなんてビックリ。
質屋に入れたら、けっこうな値段で買ってくれた。
おかげで路頭に迷うことは免れたけど。
こんなことならもっと持って来れば良かったな。
シイルはこっちでは竜の姿になることは出来ないらしい。
変身するには自然の力が必要と言っていたので、緑が壊されているこの国では多分無理だ。
アマゾンの奥地とか行けばもしかしたら変身できるかもしれないけどね。
そんな彼女は、叔母さんの店の手伝いをしてる。
慣れなくて戸惑うことも多いらしいけど、なんとか頑張っているようだ。
私は、何とか受験に合格し、春から高校に行くことが決まった。
英語は向こうの言葉と似ているし、数学も計算の順序そのものは同じだから助かった。
ちょっと国語がだめだったのは日本人として恥ずかしいけど、まあ、3年も居なけりゃ当然よね。
え? 何で中学卒業してないのに、受験できるのかって?
まあ、そこはリディアが色々弄くってくれたお陰、かな?
しばらくこういう生活も悪くないかな。
なんて思ってたんだけど、そうもいかなかったのよね。
高校に入って、1ヶ月もしないうちにまたもや転機がやってきたわけだけど……
ま、その話は次の機会にでも。
じゃ、またね。
あとがき
「さ、まずは挨拶から」
「は、はい。こんにちは。シイルと申します。よろしくお願いします」(オドオド)
「こんにちは。由美子です。今回は私とシイルの話をお届けしましたぁ。
そういえばこんな感じで出会ったのよねぇ、私たち」
「懐かしいですねぇ」(しみじみ)
「そうね。でも、あなた態度変わりすぎよ」
「だってマスター、とっても強かったから……」
「シイルだって強かったじゃない」
「そ、そんな。私なんかマスターに比べればまだまだですよ」(顔を真っ赤にして照れる)
「でも、シイルが女性だと知った時にはビックリしたわ」
「私たちは、竜形態の時は攻撃的になるので、ちょっと言葉が悪いです」
「そういえば最初、私の事キサマ呼ばわりしてたわね」(ジロッ、と睨む)
「(ギク)だ、だって、まさか人間なんかに負けるなんて思ってなかったんです」
「またそうやって私たちのこと軽蔑する! やめなさいっていつも言ってるでしょ!!」
「ご、ごめんなさい~」(シクシク)
「さて、今回は特別にゲストの方がいらっしゃってます」
「マスターに見事に負けちゃったダインさんで~す★」
「こらぁ! そんな紹介の仕方があるかぁっ!!」
「そうよ、失礼でしょ。シイル、謝りなさいよ」
「お前はいい奴だなぁ。それに比べて」
「な、なによっ」
「昔っから、性格変わってないなぁ。もっとヒドくなったか?」
「ふん。いいんですよ、どうせ私なんか」(いじいじ)
「そんな事言っちゃかわいそうでしょ。ああ、もう。ほら、シイル、機嫌直して」
「マスタぁ~」(涙目)
「俺が欲しいぞ。こんな優しいマスター」
「ユミコ様は、強くって、優しくって、最高のマスターです」
「そんなことないってば」(照)
「こんなマスターに従えるなんて、私、幸せです。嬉しすぎます」
「いいなぁ。譲ってくれ。シイル」
「い・や」
「(クスクス)仲が良いのね二人共」
『どこが!』
「ほら、そろそろ行くわよシイル。
それでは、皆様、またどこかでお会いしましょう。さようなら~」
「あ、ちょっと待ってください! 置いてかないでぇ!!」




