ドラゴンマスター 第6話
剣士がじりじりと詰め寄ってくる。
私はもう後ずさりする事しか出来なくなっていた。
と、背中に硬い物が当たる。どうやら壁際まで追い詰められてしまったらしい。
「どうやらこれまでのようだな。残念だがお別れの時間だ」
剣が振り上げられる。
「ま、ちやが……れ」
え?
「な、なにっ」
「シイル!!」
「よ、くも」
体から血を噴き出しながらも、ヨロヨロ立ち上がるシイル。
「貴様、まだ生きていたのかっ!」
「よくも……やりやがったなァッ!!」
あ、シイルがキレた。
怒りが頂点に達したらしく、あっという間に竜化した。
『オォォォォォッ!!』
こうなると、もう手が付けられない。
「ド、ドラゴンだとぉっ?!」
『人間の分際で、よくも私の肌に傷をつけてくれたなぁっ』
「ちょ、ちょっと待てえっ! 聞いてないぞ、こんなのっ」
『この代償は払ってもらう! 覚悟しろぉ!!』
どがぁぁっ
一瞬にして地面がえぐられる。
「ぎゃぁぁぁぁっ!!」
『グガオォォォッ!』
「ひぃぃぃぃっ?!」
ブレスで地面が凍りつく。
「た、た、頼む、何とかしてくれぇ」
剣士が腰を抜かしながら私に許しを請う。
でも、今更そんな事言ってももう遅い。私は涼しい顔で彼に言い放ってやる。
「どうやら彼女の逆鱗に触れたようね。諦めなさい。しばらくはどうしようもないわ」
『ガアアァァァッ』
「うわぁぁぁっ……わ、悪かったっ。俺が悪かっ……ぐはっ」
あっさりと沈黙する哀れな剣士。
「うわ、凄……」
あ、いけない。見てる場合じゃないってば。そろそろ止めないと!
「シイル、そのぐらいにしておきなさい!!」
「ひゃはははは。死ね死ねぇ」
「……」
完全に我を忘れてるわね。
仕方がない、強制的に戻すしかないか。
私は魔法を完成させる。
次の瞬間、シイルの姿は人間形態に戻った。どうやら成功したみたいね。
「シ、イ、ル?」
「はははは、は? はっ! ま、マスター……?」
私の顔を見たとたん、引きつった笑顔を浮かべるシイル。
「うふふ。シイルちゃぁん。命令無視とは、いい度胸じゃなぁい?」
「あ、あぅぅ、マスター、目が笑ってないですよぅ……」
「全く、暴走すると手が付けられなくなるんだから」
「す、すみませんっ」
周りは酷い有様だった。
至る所の地面は深く陥没し、草木はまるでオブジェのように凍りついている。
遺跡、周りにあらかじめ結界張っておいて正解だったな……
「ま、助かったからいいけどさ。一応お礼は言っとくわ。ありがと」
「そ、そんな。私こそ全然役に立てなくて」
顔を真っ赤にして照れる。ほんと同一人物じゃないみたい。
「そうだ、傷のほうは大丈夫?」
「は、はい。何とか」
「ちょっと診せて」
かなり傷は深かった。人間だったら生きてるかどうか……
「流石に今回はだめかと思いました」
「やっぱり、竜族ってタフなのね」
「だけど、いくら私でも、あんなの何度も喰らったら勝てませんよ」
珍しくシイルが弱気なことを言う。それだけこの剣士が強かったということか。
「それにしても、どうしよっか、この人」
傍で転がってる剣士を見る。
「そうですねぇ。人間の癖に強かったし」
どうやら、シイルは人間を軽蔑……というか毛嫌いしているようだ。
ドラゴンってもっと人間に親しい感情を持っていると思っていたのに。
「シイル、一応、私も人間なんだけどさ」
「私、マスター以外の人間は認めてませんから」
「……」
どうしてこの子は人間が嫌いなのだろうか。そんなことをふと思ったりする。
過去に起きた出来事。おそらくそれがトラウマになっているのだろう。
シイルや、あの村の住民たちに一体何があったのだろう。
「あ、気が付いたみたいですよ」
「ん? 俺は一体何を……? うおっ?!」
シイルの姿を見て跳ね起きる。
「気分はいかが? 剣士様?」
にこやかな笑顔を向けるシイル。
「最悪だぜ、全く……そうか、お前に負けたんだったな」
「まあ、そんなに気を落とさないで。必ずいいことはあるわ」
「しかし、竜を従えてるということは、まさか」
剣士は信じられないといった表情を見せた。
「そうなるわね」
「こんな小娘が……世の中には末恐ろしいこともあるものだ」
「なによ、それっ」
「ところで、こんな遺跡どこで知ったんだ? こんな所にあるなんて知らなかったぞ」
「ここは、魔法による結界が貼ってあるの。普通の人には見えないのよ」
「なるほど、通りで誰も知らないわけだ」
既に太陽は、天高く上っていた。
「マスター、そろそろ行きませんか?」
「そうね、大分時間くっちゃったし」
「なあ、頼む、俺も連れて行ってくれ」
言うと思った。
「駄目。それに、もう無いわよ」
私は結界をかけ直し、彼の視界から遺跡を消した。
もちろん、私の目には、ちゃんと見えている。
彼が周りを見渡す行動で、結界がかかったかどうか確認できた。
「いつの間に……一体何をした?!」
「簡単な事よ。初めからここには何も存在しなかった。そうでしょ?」
「そうか……まあそうだったな。だが、口惜しいな」
本当に残念そうだった。財宝でも眠っているとでも思ったのだろうか。
「そうだ、まだ2人の名前を聞いてなかったな」
「由美子よ。で、こっちがシイル」
「憶えとくよ。俺はブラッドだ」
お互いに握手をする。
「機会があったらまた会いましょ」
「そうだな、そん時はもうちっと強くなってるぜ」
「これ以上強くなってどうするのよ」
「それもそうか。ハハハハ」
なんかすっかり和んじゃったな。
「さてと、帰るか。結局ただ働きだぜ」
「あ、そうだ。これ」
私は、昨日盗賊団から拝借した金塊を一つ、渡した。
「いいのか?」
「うん、まだあるし。これは口止め料も兼ねてるけど」
「恩に着る。それから、悪かったな。痛かっただろ」
私の後ろにいるシイルに声をかける。
「気にしないでいいわ。大丈夫よ」
「じゃ、またな。楽しかったぜお二人さん」
そう言うとブラッドは背を向ける。
「またね。ブラッド」
私達は、彼の背中が見えなくなるまでずっと見送っていた。
「なんだかんだで結構いい人でしたね」
「そうね」
続く