ドラゴンマスター 第4話
あれから数日。私達は、コルトという街に着いていた。
私があの人と別れた街。
生まれ故郷の日本を離れて、この異世界に来て、3年。
みんなが知っている世界とは時空の狭間を越えた違う場所。
やっと戻ってきた。何かすごく懐かしい。
「どうしたんですか、マスター?」
私が感慨にふけっていると、シイルが不思議そうに聞いてくる。
「ん? ちょっとね。思い出してたのよ。久しぶりだから」
「昔来た事があるんですか?」
私は、頷いた。
「ええ。ここは私が1人旅を始めた場所だもの」
「そうだったんですか」
私たちはしばらくこの街を散策することにした。
何にも変わってない。あ、あの店まだあったんだぁ……
「ところでマスター、宿はどうするんですか?」
「そっか、もうそんな時間なんだね。すっかり忘れてたよ」
いつの間にか空が茜色に変わっていた。
ええと……確かこの街には1箇所しかなかったはずだから。
「ほら、ここよ」
「下が酒場なんですね」
「明日は早いから、今日は直ぐ寝ちゃおうか」
「そうですね」
扉を開けると恰幅のいい中年の男性が現れた。
前来た時の人とは違う人だった。しばらく来ないうちに店主が変わったらしい。
「いらっしゃいま……おや? お嬢さんたちだけかい?」
「ええ。一部屋でいいんだけど、空いてる?」
「あるにはあるんだが……」
渋い顔をして考え込む。
「今日は止めておいた方がいいぞ」
「どうして?」
「大きな声じゃ言えないが、実は今盗賊団と思しき連中が占拠しちまってるんだ」
ありゃま。先客が居たのかぁ。
「だから、身の安全は保証できない。それでもいいかい?」
「でも、野宿するよりましでしょ」
「分かった。だが、食事が済んだら部屋から出ない方がいいぞ。何があるか判らんからな」
「ありがと、おじさん」
夕方、食事をとる為に下におりると。
「うわぁ、これはまさしくとーぞくだぁ」
「ですねぇ……」
ごつい男たちが、酒場を占拠していた。
雰囲気からして、間違いなく、話に上がっていた盗賊団だろう。
とりあえず、目立たないように、カウンターの端っこに座ったんだけど。
「よう、お譲ちゃん達。こっちに来て一緒に飲まねぇか?」
案の定、声をかけられてしまった。
「どうしよっか」
「そうですねぇ」
私たちは相談する振りをして最終確認する。
『いい? 向こうから来るまで絶対に手ぇ出しちゃだめよ』
『りょーかいです、マスター』
『あ、それから、マスターって言うのも駄目。なるべく普通にして』
『判りました。いえ、判ったわ、ユミコ』
そう言って、ニッと笑うシイル。なんだか楽しそうだ。
「なあ、どうだい? こっちに来ないか?」
男はしつこく私達を説得してくる。
「どうしよっか?」
「そうね、楽しそうでいいかも」
シイルは言われた通り、演技をしてくれてる。これだったら心配ないかな。
「いいわ。そっちのテーブルでいいのね」
「お、話が判るねぇ」
「でも私たち、お酒は駄目なの。他のにしてくれる?」
それからしばらくの間、私たちは食事を共にした。
男たちは上機嫌で、酒を飲み干していく。
次々と食事が運ばれてきた。
羽振りがいいところを見ると、盗みに入った後のようだ。
「ずいぶんお金持ちなのね」
「なあに、今日は仕事がうまくいったからな。ガハハハハハハ!!」
……全く、人の物盗んどいてよく言うわよね。
「そういや、他の連れはどうしたんだ?」
「私たち二人だけよ」
男は、私の言葉に驚いて目を丸くする。
道中は、彼らみたいな盗賊がそこらじゅうにいるし、魔獣も多い。
普通は、女だけで旅なんてありえない。
「本当に、お前さんたちだけか?」
「ええ。まだ旅を始めたばかりなの」
シイルがね。
「そうか……なら、腕の立つ奴を紹介してやろうか?」
男の口元が緩んだのを私は見逃さなかった。
「ホント?」
「ああ、任せておけ。今夜、この場所に来てもらってもいいか?」
地図を見せられる。ここは街の外れにある廃墟だった。
もちろん人なんか住んでない。私は少し考えてからこう言った。
「……ええ、構わないわ。シイルもいいよね」
「もちろんいいわよ」
話がまとまると、男たちはそそくさと帰り支度を始める。
「おっともうこんな時間か。俺たちはこれから用があるから失礼するぞ」
「ええ」
「じゃ、またな」
そう言って奴らは店を後にした。
店には私たちと、酒場のマスター一人だけが残された。
マスターは心配そうな表情を向けてきたが。
「大丈夫ですよ。これでも、つい最近まで一人で旅していたんですから」
そう言うと、安心したのか、少し、笑顔を見せて、気をつけるんだよ、とだけ言ってくれた。
「よう、来たようだな」
深夜、その場所に行くと、あいつ等が居た。
暗くてよく判らないけど、10人……ううん、もっとかな。
「約束通り来たわよ。それで? その人は何処?」
「信じてのこのこ出てくるたぁ、お気楽なもんだな」
よく見ると、武装した盗賊達に囲まれていた。逃げ場は、無いみたい。
「マスター、これって?!」
シイルもようやく気がついたらしい。しきりに周りを警戒している。
「やっぱりね。こうなると思ったわ。最初から私達の体が目的だったのね」
私が言うと、男たちは驚いた。
「ま、まさか、気付いてたのか!」
「当たり前でしょ。あんな見え見えの古典的な手に」
誰が引っかかるもんか、と思っていたら。
「えぇっ! そうだったんですかっ? 騙したのね!」
「……」
気付けよ。
「くそ、てめえら、俺たちで遊んでやがったな!」
「なによ、そっちが悪いんじゃない」
「馬鹿にしやがって……いい度胸だ! オイ、お前達!!」
「おう! おい、お前、こっちに来い!」
チンピラの1人がシイルの腕をつかむ。と。
「がはっ」
自由な方の拳がチンピラの顔面を捉えた!
そのまま、男の身体は、後ろの2、3人まとめて廃墟の奥まで吹っ飛ばした。
「て、てめぇ……構わん、やっちまえ!!」
その掛け声を合図に、次々と私たちに詰め寄ってくる盗賊一同。
女2人にここまでする、普通?
「動けなくなりゃぁなんだっていい。ただし、殺すなよ。後で楽しめなくなるからな」
恐ろしいことを平気で言う。こりゃぁ本気出した方がいいかもね。
「シイル、変身だけはしないでね」
「了解です、マスター!」
私達は背中を互いに合わせて対峙した。
こうすれば、背後からいきなり襲われるということはない。
程なく、私達の魔法が完成する。
「フレアー!」
「氷刃!」
私の炎が、数人の男をふっとばし、シイルの氷が、人型オブジェを作っていく。
「くっ、こいつら魔法使いか!」
「今更気付いてもおそーいっ!」
勝負はあっさりとついた。
転がってる盗賊たちをビシッと指差して。
「私たちに勝とうなんて10年早いわよ!!」
んー、気持ちいいっ! 言ってみたかったのよね、こんなセリフ。
「くそっ、こんな小娘共に!」
「シイル、せっかくだから何か貰っていこうよ」
「そうですね、どれにしようかな」
あ、ちょうどいい大きさの金塊が。
「これ、貰ってくわね。じゃあね~」
「て、てめえら、覚えてろ!」
倒れてる盗賊を尻目にとっととトンズラすることにする。
こんな所に長居は無用だもんね。
続く