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ドラゴンマスター 第3話

次の日、言われた通りにシイルと丘に上がる。

もう対戦相手は到着しているようだ……って、ちょっと待って、あの人は?!

「あなた昨日の……」

「よう、また会ったな」

そう、ダインとかいう彼だ。シイルが複雑そうな顔をする。

なるほど、シイル、だから昨日あんなに反応したんだ。

「なあ、シイル、そんなに心配するこたぁない」

「で、でもっ」

彼は、にっと笑って。

「俺はこいつを殺めようという気はないからな。ただ、どれだけ強いのか。それだけだ」

「由美子よ。よろしく。ダインさん」

「ああ、よろしくな」

お互いに握手をする。

「悪いが手加減は出来ない。大怪我しちまうかもしれないが、恨まないでくれよ」

「私も、全力でいくわよ。その方がお互いスッキリするでしょ」

「けっこう強気だな。自信あるじゃないか」

どうやら気に入って貰えたらしい。

「まあね。どんな勝負だって、勝機はあるもの」

「なるほど、そりゃそうだ」

そう言ってダインは頷く。

「おっと、もうこんな時間だ……じゃあ、またな」

そう言うと彼は控えの方に消えていった。

「マスター、彼は私よりも強いです。気をつけてくださいね」

「そんなに強いの?」

「村で彼より強い方は居ません。強力な電撃を操り“雷の申し子”と呼ばれています」

「……」


もしかして、私とんでもなく無謀な戦いをしようとしてるんじゃ……



会場は大勢の人で溢れ返った。あ、この場合は竜か。

どうやら村長も来ているらしい。

「ダインー、そんな奴やっつけちゃえ」

「ダイン様ー、がんばってぇ」

「人間なんかに負けるんじゃねーぞ」

あちこちから彼への応援が飛ぶ。ああもう、うっとおしいっ!

完全なアウェーだからなぁ。

「マスター、ファイトです!」

応援してくれるのはシイルだけか。


「おい、聞いたか、“マスター”だってよ」

「恥ずかしくないのかしらね。あの子」

うわ、今度はシイルを罵り始めた。


「シイル、気にしちゃだめよ」

「は、はい、ダイジョブです……」

口ではそういうものの、出るのはため息ばかり。

おもいっきり気にしてるようだった。

私はシイルにそっと囁く。

「大丈夫。絶対勝つわ。そのためにはあなたの応援が必要なの」

「マスター……」

「さぁ、最初の命令よ。私を一生懸命応援して」

「は、はい!」

「じゃ、行って来るね」

「頑張ってください!マスター」

良かった……シイルが元に戻った。

正直、誰も応援してくれないとかなりキツイ。やっぱり心の支えは必要だ。



『始め!!』

試合開始。合図と同時に魔法を唱え始める。

こういう不利な戦いの時は先手必勝に限る。

「なるほど。魔法が使えるのか。面白くなりそうだな……では、こちらも行くぞ」

彼の姿があっという間に竜の姿に変わっていく。


『ォオオォォォォォッ!!』

雄叫びと共に、巨大な竜が姿を現した!

すごーい。ムチャクチャかっこいい! なんて見とれてる場合じゃないってば!

すぐさま魔法の詠唱を再開する。程なくして私の魔法が発動した。

「フレアー!」

彼目掛けて、火柱が立ち上がる。

『くっ……なかなかやるじゃねーか。人間のくせによぉ』

こ、言葉が……さっきとまるで別人なんですけど?!


『じゃ、こっちもいくぜぇ!』

彼の口から発射されたそれが私の頭上で弾ける。

「ひあああっ?!」

何とか避けたが、あんなもの喰らった、それこそ命がいくつあっても足りない!

『おらおらぁっ、逃げてばかりじゃ勝てねえぜ!』

「くっ、口から電撃出すなんて反則よぉっ!」


私はとっさに魔法陣を地面に描く。そんなことを知らずに竜は私を追いかける。

彼がそこを通り過ぎる瞬間!!

「フレアー!!」

ドガァァァァッ!

「ぐあぁぁぁぁっ」

「よっしゃ、直撃ぃ!」

「やった! マスター! その調子です!」

『ぐ、貴様ぁ……』


う、ヤバイ……怒らせちゃったかも。でも、勝負だもんね。負けるわけにはいかない。

その瞬間、彼の姿が掻き消える。

「え、嘘……何処ッ?」

「マスターっ、上です!」

爪が目の前に迫っていた!!

「うわっ!!」


私の右足を掠めて、爪が地面に突き刺さる。

軽く当たっただけかと思ったけど、パックリ裂けて出血していた。

すぐさま次の一撃が。

なんとか転がって直撃は避けたけど……かなりヤバイ状況だ。

足がうずく。体が震える。


『どうした? もう降参か?』

「そ、そんなわけないでしょっ!」

『まだまだいくぜ!』

また電撃かっ!

慌てて避けた……つもりだったが、傷の影響で足に力が入らない。

次の瞬間、私は雷の直撃を受けていた。

「う……あぁぁ――ッ!」

何とか両足で踏ん張って、倒れずには済んだ。

でも、爪が直ぐそこまで迫って来た。

(避けられない!)

ぞぶり。

そのまま、まともにお腹をえぐられる。

喉の奥から熱い物が込み上げてきた。

「かはっ……」

「マスター!!」

そのまま、翼で弾き飛ばされてしまう。

ま、まずい……このままだと……

『どうした、キサマの力はその程度か?』

「げほっ、う、るさいっ」

『これで終わりだ!!』

そう言って電撃を放とうとして……


竜の足元が輝きだした。

『な、なんだと?!』

間一髪……なんとか間に合った。

『な、なに、こ、これは、ま、まさかッ?』

千載一遇の大チャンス。絶対に逃すもんか!

「切り裂け! 疾風エアカッター!」

『グガァァァァァッ!!』

「や……やった…」

沢山の空気の刃が竜の身体を切り刻んでいく…

全身から血を吹き出し、そのまま地面に崩れ落ちて動かなくなる。

同時に観客がざわめいた。

「やったぁ、マスター、すごーい!!」

「すげぇっ! ダインに勝っちまった!」

「何者なんだあの娘はッ?」

所々から聞こえる賞賛の声に、手を振って答えたりして。

でも、ほんとよかったなぁ、勝てて。

安心したせいか、急に傷口が痛み出した。

「ッ痛ぁ……」

「マスター!大丈夫ですか?」

うずくまった私を心配してか、シイルが駆け寄ってくる。

「平気よ。それより、彼の傷の方が心配だわ。早く手当てしてあげて」

そう、私の放った魔法は、魔族でさえ一撃で倒せる代物なのだ。

それをまともに受けた彼はおそらくかなり危険な状態のはず。

「でもマスターだってこんなに血が……とにかく、止血しないと!」

「大丈夫よ、慣れてる、わ……あ、れ?」

急に視界が霞んでくる。

「ま、マスター?!」

あ、これは、やばい、かも――


シイルに受け止められたのまでは覚えている。

次に目が覚めたときは、シイルの部屋のベッドの上だった。

「マスター!! 良かった、目が覚めて……」

「ずっと傍にいてくれたのね。ありがと、シイル」

「信じてました。マスターが勝ってくれるって」

抱きついてきたシイルの頭を、そっと撫でてやる。

「私、マスターに選ばれて良かった……それで、あ、あの……」

上目使いに私の眼をじっと見つめるシイル。

「私に、従者の誓いをさせてください」

「従者の……それって――んんっ」

顔を近づけてきたかと思うと、そのまま唇を奪われた。

すると、契約の紋章が輝きだし、私の身体に熱い奔流が流れ始める。

「ん、はぁっ……」

長く感じたけど、ほんの数秒。

私から離れたシイルは、そのまま私の前に膝まづいた。

「私‘シイル=ラ=ズェルフ’はこの命の限り、貴女様の従者になる事をここにお誓い申し上げます!」

シイルの言葉は、嘘偽り無い事を、彼女の瞳が証明していた。

少し重いかな、と思ったけど、私は感謝の言葉を述べた。

「ありがとう。私も貴女の力が必要なの。これからよろしくね、シイル」

「はいっ」




その日の夜、村長の家に呼ばれた私はものすごい歓迎を受けた。

どうでもいいけど、態度変えすぎじゃない、あんたら。

「いや、お見事でした。その強さの秘訣は一体何ですか?」

(そんなの運に決まってるじゃない)

なんて口が裂けても言えない状況だ。


「強大な相手に立ち向かう為には、自分を犠牲にする覚悟も必要ですから」

口からでまかせを言ってみる。それでも、相手は納得したようだった。

「いや、恐れ入りました」

まあ、こんなこと勝ったから言えるセリフだけどね。


「しかし、なぜ我々竜と契約を? その強さなら一人でも十分だと思うのですが?」

「私は、小さい頃、両親を亡くしました。いいえ、正確には殺されたのです」

私の話に、一瞬息を呑む村長。

「魔族の一味によって。ですから私は両親の仇を取りたい」

「そうですか」

「その為に、魔法を習得して、やっとシイルに会う事が出来た。彼女の力が必要なのです」

私の話を黙って聞いていた村長。話に区切りが付いた所で、口を開いた。

「実はここだけの話、あの子の本当の親は居ないのです」

それってどういう……

「シイルは、この村の生まれじゃない?」

「はい、シイルは小さい頃に我々が引き取ったのです」

私の中で、線が繋がる。

「ある人間の女が私らの村にやってきて、あの子を託して行ったのです」

髪の色、風貌、知り合いによく似ている人が一人居た。

「もしかしたら、その人、私の知っている人かもしれない」

「なるほど、ご存知のようですな。いやはや、世界というのは狭いものです」


「そうだ、ダインさんは?」

「心配することはありませんよ。もう目を覚ましたそうです」

「よかった……」

私は心底ほっとした。

いくら試合とはいえ、万が一ということがある。

もしそうなれば、私はここから生きて出られないだろう。

「シイルが今様子を見に行っているはずです」

「そうですか。私、行ってみます」

そう言って私は出口へ向かう。と、後ろから声がかかる。

「ユミコ殿、シイルを頼みます」

「いえ、こちらこそ。わがままを聞いて下さってありがとう。村長さん」


バムッ

ドアを乱暴に開け放つ。

「ダインさん!」

「マスター?!」

「シイル、ダインさんは?」

「大丈夫ですよ。ほら」

人間態に戻ったダインさんがベッドに横になっていた。

全身包帯だらけで、痛々しい。

……これ、私がやったんだよね……


「よう。ユミコ。いや、ユミコ様、かな」

「やめてよその言い方……傷は大丈夫?」

「ああ、なんとかな。しかし、強いなお前」

「そんな、貴方こそ。私もヤバかったし」

私の怪我も、生きているのが不思議なくらい深い傷だった。

お互い運が良かったのかもしれない。


「なあ、頼む。俺のマスターになってくれないか」

「ちょっとダイン、ユミコ様は私だけのマスターよ。勝手に取らないで」

シイルが、べたーッとくっついてくる。暑いよ……シイル。

「なんだよ、ケチだな~」

「なんていわれてもダーメ!」

そう言って、私の体をぎゅーってする。あの、息が、できないん……ですけ、ど。

「どうでもいいけど、苦しそうだぞ」

「え? あ、も、申し訳ございませんっ」

「はっはっはっ……そんなに仲良くちゃ、この先も心配なさそうだな」





次の日の朝。

身支度をして、シイルと一緒に村を出た。

村長に少しばかり餞別まで頂いてしまった。

何かここまで来ると、少し申し訳ない。


「どこに行くんですか? マスター」

「んー、あては無いのよね。特には」

ドラゴンを仲間にするという目標は達成出来ちゃったしなぁ……


「マスターってどこ出身なんですか?」

ふむ、どうやって説明すればいいんだろ。

「イザレスですか? それともウェルス?」

訊いたこと無い地名だ。私は首を振った。

「違うわ、この外側の世界よ」

「この地域以外にも国があったなんて」

「私はその東端の島国で生まれたの。いいとこじゃないけどね」

「行ってみたいです。マスターの故郷に」

私は迷った。もう家はないし、お金もないし。

親戚なら居るだろうけど、どこに住んでるのかも分からない。

向こうに行っても何もないのだ。

でも多分、そこに答えがあるような気もする。

「そうね、行ってみよっか。もう3年も帰ってないし」

小さい国だから、親戚ぐらい、すぐに見つかるだろう。

「凄く楽しみです」

「それじゃ、行こうか、シイル」

「はい。マスター」

こうして、私たちは村を後にして、南に向かって歩き出した。


続く

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