表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/157

ドラゴンマスター 第2話

森の奥地にその村はあった。

「ここ、私さっき通ったよ。何で気付かなかったのかな?」

案内された村は、私がたった今歩いてきた道沿いだった。

「結界が張ってありますから普通の人間には分かりません」

なるほどね。


「よう、シイル。今帰りか」

一人の男性が声をかけてきた。

見た所、人間で言うと二十歳くらいの青年といった風貌だ。

多分、と言うか間違いなくこの人も竜族だろう。

「こんにちは、ダイン。貴方も?」

ダインとよばれた彼は、どうやらシイルの友達らしい。

「ああ。それより、そいつは……」

私のほうをジッと見て、そして驚いた。

「人間の娘じゃないか。どうしたんだ?」

シイルは少し困ったような表情を浮かべる。

「――後で話すわ。それより、村長様いらっしゃるの?」

「ああ、どうやら最近忙しいらしい。あまり見ていないんだ」

「そう、もし会ったら、あとで伺うと伝えておいてくれない?」

「ああ、判った」


「マスター、私の家に案内しますね」

男性と別れた私達は、シイルの家に向かうことにした。

周りの竜たちは、なんかみんな物珍しそうにこっちを見てる。

そりゃそうよね。人間が立ち入ることなんてめったに無いんだもの。

村には、竜の姿と人の姿の両方がいる。

竜族は、成体になるとどちらにでも自分の好きなように変身できるようになるためだ。

どうやらシイルは私に合わせてくれたらしい。


しばらく行くと、村のはずれにある一軒家に着いた。

「ここが私の家です。どうぞ」

「おじゃまします」

どこにでもある、いたって普通の家だ。

ただ一つ、住民を除いては。

「やっぱり大きい……」

家の奥の部屋には、巨大な竜が待ち構えていた。

「ただいまお父さん」

『お帰り……おや、お客さんかい……って、人間の子じゃないか』

鋭い眼光に睨まれ、私は一瞬足がすくむ。

『どうした? 拾ったのか?』

ムカついた。

……まあ、そんなもんよね。ここは我慢我慢。


「この方は――ユミコ様は、私のマスターです」

シイルが私のことを紹介した途端、父親の眼光がさらに鋭くなる。

『何だって、この子が、お前の?!』

巨大な竜が、一歩、私に近付いた。

内心ビクビクしながら、それでも何とか平静を装って、私も一歩前に出る。

「はじめまして。お父さん。この度、シイルの主になりました、由美子と申します」

そう言って私は、お辞儀をした。

『ここでは実力が全てだ。悪いけどお引取り願おうか』

シイルの父親は、もちろん、反対した。

「お父さん、どうして?!」

『駄目だ。娘をお前のような人間の、しかも子どもなどに渡せるものか』

当然の結果だと思う。

どこの誰かも分からないような怪しい人間。

会ったばかりで、突然娘を下さいなんて言われて渡せるわけがない。

私が同じシチュエーションだったら間違いなく断る。ってか、速攻で帰す。


シイルの説得は続く。やがて父親は何か考えているのか、黙り込んでしまった。

「お父さんが心配してくれるのは、分かるわ。でもこれは私とマスターの問題だから」

『そうか、判った』

必死の思いが伝わったのか、それとも諦めたのか、少し声のトーンが下がった気がした。

「お父さん、ありがとう」

対照的に、シイルはとってもうれしそう。

あの戦った時の面影は一切無い。とても同一人物とは思えない。


だけど、ほっとしたのもつかの間だった。

『村長が果たしてどう言うかな』

「……」

今度はシイルが俯く。

『長の掟は絶対だ。それがどんな不条理なことでも、我々はそれに従う義務がある』

そう、竜族の部族には、大概村に一つ二つの掟が存在する。

そして、それを取り決めるのが、‘長老’と呼ばれる、村の長だ。


『君、確かユミコといったね、悪いことは言わない。逃げるのなら今のうちだ』

父親は、諭すように私に語りかける。

『長はおそらく、君を殺す。開放の為と、竜族の面子を保つ為にな』

「そうでしょうね」

私は同意した。

召喚士の契約は、自ら解除する以外、例外を除き方法が無い。

唯一の例外が、主――つまり、召喚主の死だ。

私が死ねば、シイルとの契約は破棄され、晴れて自由の身だ。


「そんなっ! お父さん、何とかならないの?」

『こればかりはどうにもできん。あきらめるしかあるまい』

シイルがせがむけど、彼女の父親は首を振るだけ。でもこうなる事は、私も予想していた。

「私は逃げません。どんなことがあっても」

「マスター……」

『君がそう言うなら、もう何も言うまい』

そう言って父親は部屋を出て行く。

そして、出口で振りむいてもう一度言った。

『私は警告したからな』

そう言って彼は部屋の奥へ消えた。

「お父さん――」

「大丈夫よ。心配しないで」

そう言って私はシイルを慰めた。



その日の夜、私とシイルは村長の家に呼ばれていた。

「こんな夜遅くに、すまんの」

現れた村長は、人間風の、初老の風貌をしていた。

「君かね。シイルの主人というのは」

「はい。由美子と申します。村長様」

村長は私の姿をじっと見つめて、うんうんと頷く。

「なるほど。お前さんの目を見れば、それも納得できるな」

「村長様それでは……」

村長はシイルの言葉を手でさえぎって続ける。

「だが、我々としても、このまま黙って容認する訳にはいかないのだよ。判るな?」

「理解しています」

私の返事に、大きく頷き、村長は続けた。

「そこで、だ。村の皆で相談して決めた結果、村で一番強い男と闘って貰うことにした」

シイルの表情が、さっと青ざめる。

「村長様、それはあんまり……」

「黙っていろシイル! 元はお前が原因なのだぞ!」

「す……すみません」

怒鳴られ、しゅんっとなるシイル。

私は、一歩目に出て言い放ってやる。

「ちょっと、シイルは悪くないでしょ! なんでこの子が怒られるのよ!」

「マスター、私のことは構いません」

シイルが私の身体を押さえ込む。

別に、飛びかかるつもりは無かったけど、シイルの目にはそう写ったのかもしれない。


「マスター、か。なるほど、本当に囚われてしまっているようだな」

一瞬村長は暗い顔をする。しかし直ぐにニヤッと笑って。

「ではその実力を見せて貰うとするか」

「構いません」

「決まりだな。では、明日の正午、丘の上の広場に来るのだぞ、よいな」

そしてシイルのほうを向いて、

「お前も来い。いいな。逃げるんじゃないぞ」

最後の言葉は私に対しての警告でもあるだろう。

もし、私が逃げたらシイルが痛い目にあうのは明白だ。

「分かりました」

シイルの表情は冴えない。

「ではもう明日に備えて休みなされ。長旅で疲れているようだからの」

これで逃げられなくなっちゃった。ま、なんとかなるでしょ。


続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ