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第2部第14話

>naomi

ユミちゃんが倒れている。相当ひどい傷らしい。意識も無かった。

「ルビス、姉さんとユミちゃんをお願い」

「ナオミ、どうするの?」

「大丈夫、私に任せて」

そうルビスに告げると、私は余裕の笑みを浮かべているセラの正面に立った。

「勝負よ、くそ魔族!よくもお姉ちゃんとユミちゃんを傷付けたわね!!」

ビシイッと指を刺して宣戦布告をしてやる。こんな奴を野放しなんかにしてはおけない。

「私の洗脳を解くなんて。なかなかやるじゃない」

私の正面にたったセラは、余裕からか、ニヤニヤ笑みを浮かべたままだ。

「あんたは、絶対に許さないわ!!」

「人間ごときに私は倒せないわよ」

「無理ですよ、ナオミ!! 敵う訳ありません! 下がって!」

ルビスの声をあえて無視して、一歩前へ。

確かに、以前の私だったら敵わなかった。でも、今は違う。

精神集中。宝珠が輝き、髪の色が変わる。

「ナオミ、それは!!」

ルビスが驚きの声を上げる。

「へぇ。少しは強くなっているようね。でも、私の敵じゃないわ。バーニング!!」

セラから炎が発射される。

でも、私が手をかざすと、そこで炎は跡形も無く消え去った。

「効かないよ。今の私には」

「な……そんな?!」

信じられないようだった。そりゃそうよね。急に強くなったら誰だって驚くでしょ。


「凄いわ。ここまで変わるなんて……」

「くっ! こんな筈じゃ……」

次々と炎が飛んでくる。でも、ルビスの力を手にした私には痛くも痒くもない。

「ば、馬鹿な?! そんな事、有りえないっ!!」

「ナオミ……完全に自分のものにしたようですね」


「さあて、今度はこっちからいくわよ! 閃光フラッシュショット!!」

空気の銃を撃つように両手を重ねて、セラめがけて解き放つ。

「何っ?! ぎゃあぁぁぁぁっ!!」

光球がセラを貫き、そのまま後ろの壁に大穴を空けた。

光魔法はかなり堪えたのだろう、身体から煙を噴き上げながら地面に這いつくばるセラ。


「ナオミ! 今です! 決めちゃって下さい!」

「オッケ~、ルビス!! とどめの――」

スガァァァァン


「わ?! 何? なんなの?!」

突如近くの壁が壊れ、中から誰か飛び出してきた。

「鷹野さん! と、ツヴァイ!!」

「あら皆さん、お揃いで」

爆発の衝撃でだろうか。ツヴァイは目を回している。

ツヴァイに勝つなんて……鷹野さんって一体何者?


「あれ? あいつは?」

気付くと、いつの間にかセラがいなくなっていた。

「逃げてしまったようですね。気配が感じられません」

いつの間にかツヴァイの姿も見えなくなっていた。

ほんっとに逃げるの上手いよなぁ。

ま、とにかくこれで全員揃ったね。気を失っているのが2人いるけど。

「とにかく、早く帰ろう」

「そうですね。さ、私につかまって下さい」

ルビスの移動魔法が発動した。




セラは、これまでの経緯を魔王に説明していた。

見る見るゼクスの顔が鬼の形相に変わっていく。そして

「大馬鹿者!!」

ズガアァァァン!

「きゃあぁぁ?!」

文字通りの稲妻が、セラの脳天に直撃した。そのまま床に倒れ伏す。

「も、申し訳ございません!」

「もういい。お前に作戦を一任したのは失敗だったな」

そう言うと、席を立ち、部屋を後にしようとするゼクス。

「ぜ、ゼクス様! もう一度チャンスを下さい! 次こそ必ずっ!」

「要らん」

「え……?」

ゼクスは振り返りもせずに、こう言い放つ。

「ご苦労だったな、セラ。もうお前には用はない」

「そ、そんな! ゼクス様! お待ちください……!!」

「――ディスト」

セラの悲痛の叫びを無視して、ディストを呼ぶ。

「は、ここに」

「フィアはどうした」

「話を聞かれると少々不味いので部屋に連れて行きました」

「うむ、そうか。ところで」

納得したように頷くと、今度は少し険しい表情に変わる。

「ノエルの亡骸が見付からなかったようだが? どうした?」

今度はディストの全身から冷や汗が流れ落ちた。

「……間違いなく息の根を止めたはずですが」

「馬鹿者が。亡骸が無いと言う事は、自らの足で移動したということだ。詰めが甘いな、ディスト」

「も、申し訳ありません……」

ディストはセラと同様の仕置きを覚悟したが……

「まあ、よい。我に仇なすだけの力は無い。邪魔にはなるまい」

ディストは、ほっとした表情を浮かべ、対して、セラは奥歯を噛みしめる。

「その女は地下牢に放り込んでおけ。後の処遇は任せる。好きにするがいい」

「かしこまりました。このツヴァイはどうされますか」

セラが連れてきた、まだ目を回したままのツヴァイを横目でチラッと見る。

「――放って置け」

「御意に」


ゼクスの姿が闇に消える。ディストは、ほぅっ、と一息つく。

セラにいたっては、それを見送ることしか出来なかった。

少しの間のあと、ディストが口を開く。

「……さて、悪く思わないで下さいね、セラ。私も命が惜しい。それだけです」

「い、イヤよ! あんたに好きにされるくらいなら、死んだ方がましよ!」

酷い言われ様である。

「強がりもいいですけど、この身体では、ロクに抵抗なんかできないでしょう?」

そう言いつつ、ディストはセラの身体を起こし、両手首を鎖で固定し始めた。

「ま、まさか、ほんとに……その、するの……?」

「する、とは?」

ディストはニヤリとした笑みを浮かべる。それが答えだった。

「……く……」

涙が溢れてくる。

「今は耐える時ですよ、セラ。復讐をするなら、僕も手伝います。持ちつ持たれつ、ですよ」


どうしてこんな事に……そうだ、あいつ等が悪いんだ。あいつらが――

「あの小娘……絶対に殺してやる……!」



>naomi

大怪我をしていたユミちゃんは直ぐにルビスが治療をした。

そのかいあってか、なんとか一命をとりとめ、その日のうちには動けるまでに回復した。

「ありがとう、ルビスさん……なんてお礼を言ったらいいのか……」

「いえ、お礼はナオミに言ってあげて下さい。あの子がいなかったら」

「私からもお礼を言うわ。ナオミ。マスターを助けてくれてありがとう」

ルビスとシイルが私にお礼を言う。なんか、くすぐったい。

「大げさだよ。恥ずかしいなぁ」

「ナオ、本当にありがとう」

「そんな。でも、良かったよ。治って」

「陽子さんは、まだなの?」

「うん……」

姉さんは未だに目を覚まさないでいた。いくらなんでも遅すぎる。

「何か、強力な暗示が掛けられていたようね。その後遺症で目を覚ませないのね」

「そんなっ、折角助けられたのに! このままなんて!」

「詳しい事はわからないけれど、何かか邪魔をしているのね。それが判れば」

ルビスがだめじゃ……どうすることも出来ないの?


「私なら、なんとかできるかもしれません」

聞き覚えのある声が。この人は……!

突如として、風が舞う。旋風の中心に現われたのは――

『ノエル!』

そこにいた全員の声が重なる。

「こんにちは。皆さん」

あれ、だって、あの時、彼女は。

「生きていたの? 私、てっきり……」

「親切な方に助けて頂きました。ちょっと看せて下さい」

「お願いします」


部屋に案内する。ベッドの上で、寝かせた時と変わらないままの体制で横になっている姉さん。

寝返りすら打った形跡がない。

何かに気付いた彼女が、姉さんの額を抑える。

「これは、やっぱり……」

「何か判ったの?!」

ノエルは頷き、姉さんの額に手を触れながら何か言葉を発した。

突然、姉さんの額から何かが飛び出して床に転がる。

「‘操りの石’ですね」

「操りの石?」

「はい、これを身に付けられると、付けた当人の命令しか聞けなくなります。

 自分の意思は封じ込められ、さらに魔力も封じ込められてしまいます」

「そんな……」

「そして、段々衰弱してしまうと言う物なんです」

「そんなに恐ろしい物だったなんて……」

「セラは手段を選ばない人ですからね。今回の件も彼女が考え出した物なんです」

そうなんだ……じゃあ姉さんをさらったのはあの女だったんだ。

「この子を攫い、ルビス様をおびき寄せる計画でした。私は反対だったんですけれど」

「で、ヨーコは助かるの?」

「はい、大丈夫ですよ。目覚めるのに時間がかかりますが……それでも、2、3日でしょう」

「ノエル、助かりました。ありがとう」

ルビスのお礼にノエルは首を振る。

「私なりの償いです。罪を重ねすぎましたから」

彼女の気持ちは痛いほど分かる。優し過ぎる心はもう限界を超えていたんだろう。

「今更、反省しても許される事ではありません」

「ノエル……」

「だからこそ、これからは真っ当に生きてみたい。そう思うんです」

「ノエルなら大丈夫だよ。その気持ちさえあれば」

「はい」

そんな彼女から、突然意外な言葉が発せられる。

「あ、それから私、この街を離れることにしたんです」

「え? 何で?」

「私がいると皆さんに迷惑がかかると思いますし」

「そんなこと無いよ。一緒に戦う事は出来ないの?」

「ごめんなさい。いくら裏切ったからといって、仲間ですから」

「そっか」

やっぱりノエルは優しいんだなぁ。


「それでは、皆さん。またいつか会えたら」

「じゃあね。ノエル」

私たちはお別れの握手をする。風が吹き始める。

吹いて来た風が渦を巻き、彼女の体を包み込む。

そして、溶けるように渦の中に消えていく。最後に見た彼女の表情は……笑顔だった。


それから暫くして、あのアパートから人の遺体が見つかった。

多分、犯人は彼女ノエルだと思う。

仕方ないとはいえ、本人もさぞ嫌だった事だろう。

そう思うと、ちょっと悲しかった。

この事件は解決することなく、迷宮入りかな。魔族なんて、誰も知らないもんね。

ノエルとはこの時以来会えなくなってしまった。

今ごろどこで何をしているのやら。

また、会えるよね。きっと――



エピローグ

「おはよう直美。途中まで一緒に行こ」

「姉さん……まだ無理しないほうがいいよ」

あれから5日。やっと目を覚ました姉さんは。すぐに歩けるまでに回復していた。

「何言ってるの。いつまでも寝てられないわよ。学校もずっと休んでたし」

そこまで言ってふと私の方を見る。

「あら、私の事、“姉さん”て呼ぶようになったのね」

「変、かなぁ?」

「慣れないわねぇ」

「どっちがいいと思う?」

「どっちでもいいわ。好きなように呼んで」

そう言ってにっこりと微笑んでくれた。

「ほら、早く行かないと遅刻するわよ」

「あ、待ってよ姉さん!」

走り出す。

と、私にかかっていた宝珠が揺れる。

姉さんがそれに目をとめた。

「それにしても……まさかそれが直美に渡るなんて思わなかったわ」

「そうだね。私もビックリしたよ」

「それに、あの魔族に力吸われたおかげで魔力殆ど無くなっちゃったし」

姉さんのため息。

「じゃ、今度は私が姉さんに魔力を分けてあげる。なーんてね」

「こいつぅ」

「あははは」

「私ね」

突然姉さんが切り出した。

「家に戻ることにしたの」

「え、ほんと?」

「うん、家からでも通えるしね。それにやっぱりみんなと居たいなって」

「お姉ちゃん……」

「ずっと一緒に居ようね、直美」

私は姉さんに抱きついた。


折角会えた、かけがえのない家族。もう離れたくない――絶対に離すもんか。



第2部 END


あとがき(という名の雑談)

「こんにちは、樋口陽子です。ここに立つのは随分久しぶりですね。

 最後ぐらい司会っぽいことをやりたいと思います。

 という訳で、今回は今まで出てきた人全員に来てもらってます」



「じゃ、始めるよ。今回で第2部が終わったわけだけど。みんなの感想を聞こうか」

「なんか、態度大きい司会だなぁ」

「はい、そこ。うるさいわよ」

「じゃ、私から。森野由美子です。多分一番出血大サービスだったんじゃないかなぁ。

 よく生きてるよね。私」

「確かに、普通なら死んでるわよね」

「今度はもっと強い私を書いて欲しいな、と思いました」

「ルビスです。出番が少なすぎました。もっと出してください」

「あとがき、結構出てたじゃない」

「‘本編に’もっと出してください」

「わ。強調した」

「シイルです。ルビス様以上に出番がありません。しかも、かなり弱っちいです」

「直美に負けたぐらいだもんね」

「ほっといて下さい」

「竜族の威厳、どこへやら」

「シクシクシク」

「鷹野玲子です。こんな私なんかを出して下さってありがとうございます」

「相変わらず謙虚だね。もっと自分をアピールしていいんだよ」

「は、はぁ。そう言われましても」

「水口直美です。姉さんから受け継いだ力で、次からもがんばるぞ!!」

「ヒロインらしくていいわね。じや、最後は私、樋口陽子から一言」


スゥゥゥゥゥゥッ(息を吸い込む音)

『誘拐されるのは、もう嫌ぁぁぁぁっ!!!』

はぁはぁ


「姉さん、気合入ってるわね」

「しかも、直美まで殺そうとしちゃうし……あぅぅ……自己嫌悪」


「もうちょっとだったのに、ほんと、残念だわ」

「あんたは……セラ!」

「何よ。いちゃ悪いの?」

「呼んでないのに来ないでよ」

「散々だったわ。作戦は失敗するし。ゼクス様には嫌われるし」

「それは自分が悪いんじゃ」

「なんですって! 全部あんた達のせいよ! ああっ、思い出したらまた腹立って来たぁ!」

「あのね……」

「おい、俺たちも忘れていないか?」

「ツヴァイ。フィア。それに……ディストまで」

「最後ぐらい出させろ」

「そうだよ。毎回出てる訳じゃないんだから、少しくらいいいでしょ」

「はぁ、もう勝手にして」

「ところで、ノエルを見ませんでした?」

「さあ? 彼女、あれ以来見かけてないわよ」

「本当に魔族辞めるつもりか。あいつは」

「さあね。本人が足洗うって決めたんなら、それでいいじゃない」

「冗談じゃない。そのとばっちりが全部俺に来るんだ」

「あの後、ゼクス様カンカンでしたからね」

「自業自得よツヴァイ。あんな事すれば」

「(ぎく)な、何を言う、セラ……」

「え? 何? なんかやったのこいつ」

「こいつって言うな!」


「おい、お前ら。盛り上がるのはいいけどな、ここにもう一人いるの忘れてるだろ」

「あ……和也」

「うわ。すっかり忘れてたよ」

「あのなぁ。どうでもいいけど、俺、出番少なすぎなんだよ」

「そう言えば、2話にしか出て来なかったよーな」

「文化祭の話、それっきりだったね。魔法陣消しただけでさ」

「一部ではおいしいとこだけ持ってった癖に、妙に存在感無かったし」

「全く、もう少し考えて書きやがれ」

<<すまん。by作者>>


「よかった……まだ僕より救われない方がいたんですねぇ」

「そんなことで喜ぶなぁ!!」


「ところで、次からようやく異世界編となるらしいんだけど」

「では、ますます我等の出番が増えるというわけだな」

「でも、あくまで主役は直美だし」

「うっ……」

「やっぱり、私達精霊の国の話が中心になるのではないですか?」(期待する目)

「マスターと私のラブラブ……がはっ」(打撃音)

「変なこと作者に吹き込むな!!」

「じゃあ俺はどうなる」

「大丈夫よ和也。私がいるじゃない」

「直美……」

「寂しくなったらいつでも電話して。待ってるから」(は~と)

「……」(いちゃいちゃ)

「このバカップルはほっとこう」


「じゃ、そろそろ時間ね。みんな、言い残すことは無い?」

『もっと出せ~っ!!』

「あらら。見事にハモっちゃったよ。

 みんなそんなに不満があるんなら、このあとがきで直接作者に訴えればいいじゃない」

「それは……駄目よ」

「ルビス、どうして?」


「消されるわよ」

『…………』(しーん)


「ま、まあそこはちゃんと考えてもらうとしましょ」

「ということで、ここまでの司会は、樋口陽子でお送りしました~

 それでは、さようなら~」

「あ、姉さんだけずるい~」

「最後に喋らせろ~」


以下、ドタバタ劇……


今回で、本編は一区切り。

次回からは、また外伝的な物語を始める予定です。



感想、お待ちしてます。

あ、批判でも誤字指摘でもなんでもいいっす。

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