第2部第13話
>naomi
「はぁ……はぁ……」
私は、全身大ヤケドを負っていた。このままだとほんとに……
でも、姉さんを攻撃するなんて、出来るわけないっ!!
「……これまでね――消えなさい」
「お姉ちゃん! お願いだから目を覚まし……きゃぁぁぁ!!」
何度目か判らない位、炎に巻かれて、力が抜けて、膝をつく。
と、同時に何かが弾けた。私の体から光が溢れている。
「こ、これはっ?!」
胸元にかけてあった、ルビスの宝珠が輝きだしていた。
「な、何これ?! すごい……体中が熱い! これが――これがルビスの力なの?」
瞬く間に火傷の傷が治っていく。そして次の瞬間、私の髪の色が……
「あ……髪が……私、一体どうなっちゃったの?」
気付いたら、私の髪が真っ赤に染まっていた。
それに、身体の奥底から沸々と湧いてくる、強い力を感じていた。
オーブからはまだ光が溢れている。
「うあぁぁァァァッ!!」
「お姉ちゃん? どうしたの? しっかりしてっ!」
苦しそうにもがいている。どうしたら……そうだ! こうすれば!
姉さんを抱き締める。姉さんの体から力が抜けていくような感覚。
そして、私の腕の中で意識を失った。
ドクン、ドクン。
姉さんの心臓の音が聞こえる。勝手に涙が溢れていた。
「姉さん……よかった……」
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ルビスは気配が近づいて来るのに気が付いた。
「誰か来ますね。とても大きな魔力です。シイル、気を付けて下さい」
「は、はい」
二人の正面から、一人の青年が現れる。フィアの顔がほころんだ。
「よかった~。ディストだぁ」
「おや、こんな所にいたんですか、フィア……なっ!?」
ディストは、目の前の光景が信じられなかった。
あろうことかフィアは体と手を縛られ、捕まっているではないか。
「ディストォ~、負けちゃったよぅ~。助けて~」
半ベソをかくフィア。
「信じられません……魔力は一番高いあなたが……」
ディストの目付きが鋭くなる。
「運が、良かったんですよ」
「あなたが、ルビス様ですね」
「ええ。初めてお目にかかりますね、“雷光-いかずち-のディスト”」
「そちらの方は……竜族ですね」
その時、シイルの顔色が変わった。
「お、お前はあの時の!!」
ディストはしばらく首を傾げて考えていたが、ポン、と思い出したように手を打った。
「ああ。あなたの村でしたか、それは失礼。かなり前の話だから忘れていましたよ」
「よくも……よくも私たちの村を襲ったわね」
「あの村には隠された財宝があると噂されていましたから。
抵抗しなければ命は取らないでおいたと思うのですがねぇ」
シイルの怒りをよそに、ディストは余裕の笑みすら浮かべていた。
「僕は手加減が出来ないので。ちょっと力が入りすぎていたようです」
「ふざけるな!! みんなの仇、取らせてもらうっ!」
そう叫ぶと、目前の仇に向かって襲い掛かる。が、あっさりとかわされる。
「シイル! 駄目です!」
どすっ
「ぐっ?!」
ディストの拳がシイルの腹にめり込んだ。
「血の気の多いお嬢さんだ。そんな事をしている暇はないのではありませんか」
「げほっ……ゲホゲホッ!!」
「僕はこれで失礼しますよ。生憎こちらにもやる事があるのでね」
そう言うと、苦しんでいるシイルからフィアを取り返す。
「し、しまった」
「ありがとう。ディスト」
「全く……油断しましたね? フィア」
「うぅ~」
頬を膨らませて不機嫌顔のフィア。それでもディストの腕にしがみ付く。
「さ、行きましょう。僕達の目的は達成しましたよ」
「うんっ。じゃあね、王女様。楽しかったよっ」
「ま、待ちなさいっ!!」
「それでは、また会いましょう」
「くそぉっ」
シイルの氷が届く寸前、魔族二人は闇に消えた。
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その頃、ツヴァイは一人の人間と対峙していた。
魔力も持たない少女になぜか勝負を挑まれ、内心困惑している。
この女の自信は一体どこからくるのか。それに、一体どれだけの技を持っているのか。
「よし、いいだろう。相手になってやる。」
ツヴァイの手に氷の剣が現れる。
「お前の力、見せてもらうぞ!」
「やァ!」
少女がツヴァイに切りかかる。
ヒュンッ
「ほう、結構太刀筋が鋭いな。だが、所詮そんな木の棒で、俺に勝てると思うな」
想像通りだった。むしろ非力にさえ感じる。
「そんなの、やってみなければ分かりません」
だが、相手はそれでも自信があるようだ。
「言っておくが、魔族の中で剣で俺に勝った奴はいない。人間の貴様に負ける筈がない」
「では……いきます!!」
木刀が輝く。そこから凄まじいスピードで光が発射された!
「何ぃっ!!」
ドガァァァァッ
「ぐはぁぁっ!」
ツヴァイの体は、あっさりと宙を舞った。
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由美子は、一人探索を続けていた。
途中下級魔族何匹かを倒し、この辺りに陽子が監禁されている話を聞き出していた。
そんな由美子を影でこっそり見ている人物がいる。セラだった。
その目は、明らかに何かを企んでいた。
「フフ。来たわね。それでは第2作戦開始といきますか」
「みんな何処行っちゃったんだろうな」
そんな由美子の前に直美が現れた。
「ナオ。探したよ!」
「ユミちゃん……何処行ってたの? 私、心配したよ」
「とにかく、無事でよかったわ」
由美子は心底ほっとした。
「ね、他の人は見なかったの?」
「ここにいるのは私だけ。私、ずっと探してたんだよ」
そう言うと、由美子に抱きつく直美。
「な、ナオ?」
「ねえ、いいとこに連れてってあげる」
上目遣いに由美子を見つめる直美。
「いいとこ?」
「ええ。あなたを地獄に招待してあげるわ」
「ぐっ?!」
由美子の脇腹を漆黒の剣がえぐる。
「あれ、今ので急所をかわすなんて、やっぱりユミちゃんは凄いね」
「あ、あんた、ナオじゃないわね!」
「フフフフフ……」
直美の姿がみるみる溶け、赤髪の女が姿を見せた。
「見事に引っかかったわね。ちょろいもんだわ」
「ナオに化けるなんて……本物のナオはどうしたのよっ?!」
「さあ? 今ごろは死んでいるかもね」
「……私は、あんた達魔族を、絶対に許さないから!」
身体に風をまとう由美子。ステップでセラとの距離を開け、魔法を放つ。
「風刃!!」
由美子渾身の魔法。しかし。
「残念。遅いわね」
由美子の目の前に、セラの姿が。
ぞぶり。
「あ……そ、そん、な……ぁ……かはッ」
セラの剣が、由美子の胸を貫いていた。
――ナオ、ごめん、わ、たし――
ずるり、と剣が抜け、由美子はその場に倒れ伏した。赤黒い血が広がる。
シイルとルビスがそこに現れたのはほぼ同時だった。
「ま、マスター?」
二人の目に映ったのは、真っ赤に血が滴る剣を手にしたセラが怪しい笑みを浮かべている光景だった。
「あらら、もう来ちゃったのね。残念」
そう言いながら自分の身体に飛び付いた血を、美味しそうに舐める。
「嫌ぁっ! マスター!!」
「ユミコ!! なんてことを!!」
あたりは血の海と化していた。鉄錆びのようなにおいが空気を包む。
「――」
二人に気付いた由美子が身体を動かし、必死に声を出そうとするが、口からは呼吸音しか出ない。
「まだ生きてたの。結構しぶといわね、こいつ」
がすっ
「げほっ……」
傷口を蹴られ、吐血する。そのまま由美子は動かなくなってしまった。
「嫌ぁッ!」
「やめろぉっ!!」
そんな二人の叫びを嘲笑うセラ。
「ふふふ。そうねえ……その代わりに、あなたの命と引き換えね。王女ルビス」
ルビスの顔色が変わった。
「なんだと!! 貴様なんかにルビス様には指一本触れさせないっ!!」
「待って、シイル」
前に立ちはだかるシイルの肩をそっと触れ、その前に歩み出る。
「いいでしょう」
「ルビス様!?」
「このままではナオミとヨーコに顔向けが出来ません」
「駄目ですよ。そんな事を知ったら、マスターが悲しみます!」
そんなやり取りをセラは満足そうな表情で見つめている。
そんな彼女から、ついに最後通告が出た。
「さあ、どうするの? 早くしないとこの子、本当に死ぬわよ。
「くっ」
これで、手柄を独り占めできる。ゼクス様に喜んで頂ける。
セラはそう思うと、自然に笑いが込み上げてきた。
「ふふふ……うふふふふふ――あはははははは!!」
これまでか。
ルビスがそう思ったときだった。
「その必要は無いわ。ルビス」
「何!?」
「ナオミ?!」
そこには、気を失っている陽子を抱き抱えた直美が立っていた。
続く
あとがき
「こんにちは。水口直美です。またもや姉さんの代役です」
「皆さんはじめまして。鷹野玲子です」
「鷹野さんはここでは初めてだったね。よろしく」
「はい、よろしくお願いします。直美さん。最初、双子だったんでビックリしました」
「あはは。いきなり腕掴まれたもんね」
「あ、あの時はすみませんでした」
「いいって別に。よく間違われるもん」
「でも、どうして名字が違うんですか?」
「私たち、中学3年までお互いの存在すら親に知らされてなかったからね」
「そうなんですかぁ」
「だから、ちょっと違和感があって。それで、昔の名字をそのまま使ってるんだよね」
「ご両親、離婚されてたんですね」
「まあね、別に不仲とかそういうんじゃなくて、仕事の都合だったらしいけど」
「大変なんですね」
「そういえば、前に姉さんから聞いたんだけど、途中で転校して来たんだって?」
「私は、今年までドイツに留学していました」
「へ~。凄いなぁ」
「でも、ただの家出ですよ。私、家のしきたりが嫌でしたから」
「しきたりって、財閥じゃあるまいし。ところで、家はどこ?」
「女子校の近くにあります。ほんとは共学に行きたかったんですけど、反対されました」
「待ってよ、もしかして……あの大きな家?」
「はい」
「うわ、ほんとにお嬢様じゃん」
「そんな……私なんて」
「そんなに落ち込まなくても。もっと自信を持っていいと思うよ」
「私は、ただ普通にみんなと生活したい。それだけなんです」
「確かに、普通の生活にあこがれるっていうのはなんとなく分かるけど」
「直美さん……」
「やっぱり、楽しまなくちゃ。落ち込んだままいると、人生がつまらなくなっちゃうよ」
「はい、ありがとうございます」
「ところで、今日は門限大丈夫なの?」
「今日は道場休みですから、10時までに帰れば」
「道場? 何かしてるの?」
「はい。剣道を少々」
「へぇ~、そうは見えないなぁ。段は?」
「あ、いえ。師範にちょっと教わってるだけですから」
「なるほど。だからあんなに強かったんだ。ツヴァイなんか一撃だし」
「あれは……相手が油断していたからだと思いますよ。私そんなに腕っ節強くありませんし」
「確かに、あいつは相手を舐めてかかるからなぁ。そこが憎めないとこなんだけどね」
「直美さんは何かやられてるんですか?」
「中学からテニスをずっとね。なぜか本編で取り上げられてないけどさ」
「お強いんですか?」
「そこそこ、かな? 強い人結構いるからね。鷹野さんも、大会出てるの?」
「一度だけ……でも、私の力じゃ、まだまだですよ。師範には一度も勝った事が無いんですから」
「そんなに強いんだ」
「ええ。でも、いつか勝てるようになりたいですね」
「応援してるわ。がんばってね」
「ありがとうございます。直美さんも」
「うん」
「じゃあ、そろそろ終わりね。どうだった? 今日は」
「あっという間でしたね。また来たいです」
「だってよ、作者。ちゃんと聞いてる?」《はいはい、聞いてますよ》
「それでは、お相手は水口直美と」
「鷹野玲子でした」
「それでは、さようなら~」