第2部第8話
>naomi
会話もすっかり和んできた頃、見覚えのある顔が歩いてきた。
「あれ、ナオミ。こんな所で何やってるんですか?」
「あ、ルビス……何処行ってたの? 家に電話してもいなかったから心配したよ」
「ちょっと、お店に呼ばれてました。あら、ユミコ……と、その人は?」
「こんにちは。ルビスさん。ほら、シイル、挨拶は?」
「――」
シイルの様子がおかしい。なんか凄く警戒してる。
「どうしたの、シイル? 初対面の人には挨拶しなさいって……」
「待って、ユミちゃん、二人の様子がおかしいよ」
シイルと同様に、ルビスも怪訝な表情を浮かべている。
「あ、あなたはもしかして、竜族の!!」
「やっぱり……お前は精霊か!」
お互いを牽制し合う二人。ちょっと険悪な雰囲気かも。火花散ってるし。
「ドラゴンが何やってるんですか、みっともない」
「そういう貴様こそプライドは無いのか?」
「人間に支配されてるようじゃ、まだまだですね」
「なんだと! 貴様こそ、尻に敷かれてるんじゃないのか?!」
「なんですって?!」
「やるのかコラァ!!」
言い争った後、突然魔法を唱え始める二人。
熱気と冷気の風が、辺りを包む。
「ちょっと! こんな街中で!」
このままだと危険だ! そう察知した私たちは彼女たちを止めに入る。
「こら、シイル、やめなさい!」
「ルビスも、いいかげんにしなさい!」
後ろから羽交い絞めにして、魔法の詠唱を止めさせる。
「ちょっと、ナオミ、離して!! こんな奴に馬鹿にされて黙ってられません!」
「マスター、離してください、こいつに竜族の恐ろしさをっ!」
こんな痴話喧嘩なんかで、明日の朝のトップニュースにはなりたくない。
朝からパパラッチに囲まれるのは御免だ。
「二人とも、意地の張り合いはやめなさい!!」
「ふん」
「べ~」
先が思いやられる……
「え、じゃあ、お互い全然気付かなかったの?」
話を聞いてビックリ。彼女はユミちゃんの叔母さんの店で働いていた。
ルビスがいるお店とは目と鼻の先だ。
なんで今まで気付かなかったんだろ。同じ商店街にいるのに。
そんな私の気持ちを察してか、ルビスが言った。
「多分私の想像ですけど、魔力が足りないのが原因だと思うのです」
「それはシイルにも言えるわ。こんなに自然が少ないんじゃ、能力が発揮できないの」
「お互いの魔力が弱ってるから今日まで全く気付かなかったというわけなんですね」
シイルが納得という顔を見せる。が。
「でも、いくら魔力が弱ってるからって、こんな精霊なんかに負けないわ」
「それはこっちのセリフです。私の力、思い知らせてあげましょう」
わ、また始まっちゃった!!
あっという間に二人の魔法が完成する。
止める暇は無かった。
炎と氷の魔法が炸裂して、二人の間でスパークが起こる!!
「うひゃぁぁっ」
私とユミちゃんは逃げるしかなかった。
見る見るうちに周りのアスファルトが剥がれ、街路樹がなぎ倒されていく。
「ナオ、結界張るの手伝って! このままじゃ、周りの家が!」
「うん、判った!!」
何とか抑えることに成功したけど、二人掛りでやっとだった。
「はぁ……何とか間に合ったようね」
「全く……でもさ、シイルとルビスってどっちが強いのかな?」
結界の中では、魔法合戦が続いていた。
そんな二人の様子を見ながらユミちゃんが呟く。
「私は、ルビスさんだと思う。シイルは竜形態にはなれないし」
ユミちゃんの話だと、自然が少ないこの街では変身する魔力が足りないらしい。
「あ、シイルがっ」
見るとルビスの大きな炎がシイルの氷を包み込んでいる。
「ふふ、どうですか? 私の炎の威力は?」
「ぐ、くそ! 体がっ」
どうやらルビスのほうが押しているようだった。
「謝れば許してあげますよ。どうしますか?」
「だれが、お前、なんかに……謝るかっ!!」
「そう。残念ね」
「うあぁっ?!」
シイルの身体を炎が包み込む……と、次の瞬間!
ビキッ!
ルビスの足が凍りついた!
「こ、これは?! 動けないっ?!」
「さて、さっきのお返しだ!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
あっという間に精霊の凍り漬けオブジェが出来上がった。
「ルビス!!」
「ちょっと、シイル、やりすぎよ!」
ユミちゃんが叫ぶ。
「マスター、相手は精霊です。ちょっとやそっとじゃ死にませんよ」
そう言ってニヤリと笑う。
うわ……コワッ!
ぴし。ぴしぴしっ
「何ぃっ!」
パキィィン!
オブジェを覆っていた氷が砕け散った。そこには平然としたルビスの姿が。
「あなたの氷はこんなものなの? もっとやるかと思ってたのに」
冷ややかにシイルを見つめる。こんな表情のルビス見るの初めてかも。
「そんな、バカな!」
信じられないといった表情で、砕けた氷を見つめるシイル。
「くそっ!」
次々と氷の矢が襲う。
が、それらは全てルビスに届く直前で砕け散っていた。
「はっきり言って、期待外れね」
赤い瞳がギラリと光った。
「あ……ぁ……」
シイルの顔は明らかに恐怖の色に変わっていた。
「さて。今度はこちらの番ね!」
「ぐあぁぁぁぁっ!!」
炎に包まれ悶絶する。
「シイル!!」
倒れた彼女にすぐさまユミちゃんが駆け寄る。
そんな様子をルビスは、冷めた瞳のまま見つめていた。
「まだまだ……ですね」
「お、王女様……だったのですか?!」
「一応ね。もう王位は剥奪されているかもしれませんけど」
「も、申し訳ございませんでしたっ! 数々のご無礼お許し下さいませ!」
土下座。
切り替え早いなぁ……
「ほら、もう顔を上げて。ね」
「ルビス様ぁ」
なんかシイルの地位がどんどん下がっているような気がするのは気のせいだろうか。
と、今度はシイルの怒りの矛先が私に向けられた。
「この方が王女様だって何で最初に言ってくれなかったんですかぁ」
「そうよナオ。私にも言わなかったじゃないの」
ユミちゃんにも怒られた。
「だって……言う前にこんな事になっちゃったんだもん仕方ないじゃない」
「そうですね。二人共、ナオミを責めないでやって下さい」
いつのまにか、普段の優しいルビスに戻っていた。
「でも、この髪ですから。仕方ないんじゃないでしょうか」
そう言ってルビスは自分の栗色の髪を撫でる。
その表情はどこか悲しげだった。
「確かに、向こうで聞いた話だと、炎の王女様は赤い髪をしているって」
「私がいけないんです」
ちょっと自嘲気味に微笑むルビス。
「ちょっとした油断で魔族に吸い取られてしまいました」
「そんなに強い魔族がいるなんて」
ユミちゃんは驚きを隠せないようだ。
「ええ、そのせいで魔力を無くして、帰ることが出来ないのです」
「そうだったんですか……」
「はい。だから、魔力が回復しないうちは無理ですね」
「あれでまだ本調子じゃないなんて。格が違いすぎます……」
シイルがうなだれる。
「落ち込まないで。あなただって十分強かったですよ」
「あ、有難う御座います」
と、シイルは急に表情を変えて、
「でも、絶対諦めません。もっと強くなって、ルビス様に勝てるようになりたい!」
「ふふ。その時はまた相手になりますよ」
「本当ですか?」
「ええ。いつでもかかっていらっしゃい」
「はいっ」
ほんっと、竜族って戦い好きな民族だね。
『水道管破裂? ガス管爆発?』
ちなみに、私達が壊した街の様子は、次の日のワイドショーで取り上げられましたとさ。
ちゃんちゃん。
続く
あとがき
「こんにちは。フィアだよ。みんな、私の事忘れてないよね?
憶えてないの? そんな人はちゃんと前の話読んで復習しといてね。
今日はノエルはいないよ。なんかバイトで忙しいとか言ってたけど。
なんかすっかり人間の世界に溶け込んじゃったって感じだよね~
え? 何? ヒグチさんって誰? あ、あの人間のことかぁ。
あの人なら、今ツヴァイが相手してるんだけど……」
ドガーンッ!!
「わっ、爆発しちゃったぁ!」
「はぁ、はぁ……やっと出られた」
「あれ……ツヴァイは?」
「そこでのびてるわよ。全く、何で司会の私が閉じ込められなきゃならないのよ!」
「ねえ、これって何しゃべればいいの?」
「あ、そっか……フィアは初めてだっけ」
「ううん。一回来たことあるよ。でもあの時は全部あの精霊がしゃべってたから」
「ああ、ルビスがいたんだっけ。それにしても」
「え? 何? ジロジロ見て」
「あなたやっぱり可愛いわね。魔族にしておくのはもったいないわ」
「いくら褒めてもだめだよ。だって、自分の意思でここにいるんだもん」
「残念だな」
「じゃ、改めて自己紹介ね。司会の樋口陽子と」
「フィアで~す」
「コラァ! 何事も無かったかのように和むなぁ!」
「何よ、負け犬魔族が」
「な、なんだとっ! もういっぺん言ってみろ!」
「何度でも言ってあげるわ。負け犬、負け犬、ま・け・い・ぬ」
「うがーっ! もう許さん! 絶対殺してやる!」
「なによ、実力もないくせに」
「なんだとっ! 」
「少なくとも、フィアよりは弱っちいわよね」
「え、ツヴァイそうなの?」
「な、何を根拠に!」(動揺)
「そうよ。だって、ルビスにあっさり負けてるんだもん」(本編第1部参照)
「うっ」
「フィアは確か、あの時彼女に勝ってたわよね」
「そうだよ。あの精霊の魔力を奪ったのは私だもん」(えっへん)
「うん、あの時はもう駄目だなって思ったよ。強かったもの」
「……」(がーん)
「あ、ツヴァイがヘコんだ」
「相変わらず、精神攻撃に弱いわねぇ」
「でも結局、あんたたちに負けちゃったんだよね」
「こっちの方が人数多かったからよ。1対1じゃ、まず勝ち目無かったわ」
「そっか~。もう少しだったんだ。
じゃあ、もっと強くなって、絶対勝ってやるから! 行こ、ツヴァイ」
凹んだままのツヴァイをずるずる引っ張って帰っていく。
「はぁ……一方的に言うだけ言って帰っちゃったわね」
「じゃ、そろそろ終わりにしましょうか。
お相手は樋口陽子でした~。次回もお楽しみに。
さようなら~」