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第2部第5話

牢屋を思わせる地下の一室。

その部屋の中で、ノエルは鎖の手枷をして吊るされていた。

人間に敗れ、闇へと戻った彼女を待ち受けていたのは、手荒い洗礼だった。

複数の下級魔族たちに囲まれ、手負いの彼女は抵抗もできず、捕らえられる。

そして、そのままこの部屋に押し込まれた。


頑丈な入り口の扉が開く。そこには1人の男が立っていた。

「しくじったな。ノエル」

「ゼ、ゼクス様! も、申し訳……」

「大きな口を叩いた割にはあの程度か」

「……っ」

魔王は、黒い兜を被っていて、その表情は読み取ることができない。

が、彼の身体の周りからは漆黒のオーラが漂っている。


「謝罪の言葉など要らん。これが何だか判るな?」

魔王は、ノエルに向かって黒い紐状の物を見せ付ける。

それを見た途端、ノエルの表情が、恐怖の色に染まる。

「嫌ぁぁ! お許しください! あぐぅっ!」

暴れて抵抗しようとするが、容赦なく鞭が振り下ろされる。

「あぁぁぁっ!!」

見る見るうちに、着ている衣装が引き裂かれていく。

「ひぐぅぅぅ!!」

腕に、足に、背中に。乾いた音が部屋に響き渡る。

「ひはぁぁ!!」

一回、また一回と身体を打たれ、その度に声にならない悲鳴をあげる。

それが数十回繰り返された後、ようやく止まった。

まるで操り人形の糸が切れたかのように、ぐったりとし、荒い息をするだけ。

全身を打ち付けられ、体中に赤い線が入り、あちこちから出血していた。

着ていた漆黒の服は原形を留めていない程引き裂かれている。


「フン、今日はこれぐらいにしておいてやる」

「は、はい……」

返事をするのもやっとだった。

「罰として、お前は向こうで生活していろ」

「そ、そんな……ッ?!」

「お前に選択の余地はない。出て行け」

そう言うと、魔王は部屋を後にした。


(終わった――何もかも)


心の中で、ノエルはそう思った。



>Naomi

「お帰り、直美」

うちに帰ると、姉さんが出迎えてくれた。

やっと腕も治ったばかりで、今はしばらく家で休養中。学校も行けない状態なのよね。

「ルビスは?」

「まだ帰ってないわよ。どうして?」

「そっか……あのさ、お姉ちゃんにお願いがあるんだけど」

背中のユミちゃんを見たとたん顔色が変わった。

「うわ、ちょっとどうしたのよ、その子! 気を失ってるの?」

「うん、応急処置はしたんだけど。結構危険な状態だから」

ユミちゃんは、あのまま1度も目を覚まさなかった。

早くしないと本当に手遅れになっちゃう。

「病み上がりで悪いんだけど、お願いしていい?」

「いいわ。じゃ、部屋まで運んでくれる? まだ重い物持てないのよ」

「うん、判った」



数十分後、部屋から姉さんが出てくる。

顔色が良くない。ちょっと無理させちゃったみたい。

「なんとか済んだわ。もう大丈夫よ」

「ホント? ありがとうお姉ちゃん。ごめんね、疲れた?」

「ちょっと、ね。かなりヒドかったわ。一体何があったの?」

「学校の帰りに、魔族の女の人が……」

姉さんの顔が曇る。

「また、襲われたのね?」

「うん。それよりもね……ユ――森野さんも魔法が使えるんだよ」

私はこれまでの経緯を説明した。

「ホントなの? 私達の他に使える人がいたなんて」

姉さんは驚いたのか目を丸くした。

「うん、私の目の前で使ってたから、間違いないよ。それに」

「それに?」

私は、以前、ルビスに言われたことを姉さんにも話した。

「そう。味方になってくれるといいわね」

「うん、そうだね」

確かに、私たちだけでは不安だ。

人数は多いほうがいいもんね。でも承諾してくれるかな……


「さて、私も休もうかな」

そう言って姉さんが自分の部屋の戸をあける。

「あ、そうそう。明日、買い物に行って来て欲しいんだけど、頼める?」

そう言って、何か書いてある紙切れみたいなものを渡された。

「いいよ、それぐらいなら」

「悪いわね。じゃ、おやすみ。あふ……」

あくびをしながら、姉さんは部屋の戸を閉めた。

相当疲れさせちゃったかな……



「ごめんねお姉ちゃん。ありがとう……」



じゃらりと音がして、鎖が外れる。

ノエルは何とか自力で拘束を解いていた。と、再び扉が開いた。

「おい、大丈夫かノエル」

ツヴァイだった。

「はい、何とか。ちょっと痛いですけど、って……」

と、返事をしてふと気付く。

「っ、まさか、ツヴァイ! 覗いて?!」

「なかなか良いものを見させてもらったぞ、ノエル」

「――っ!!」

「それに、お前のそんな格好は、そう見れるものでもないしな」

「え?」

自分の格好を改めて見る。

途端に、耳まで真っ赤になるノエル。

「出てって!!」



服を着替え、傷の手当をしたノエル。

だが、その表情は暗いままだ。

「追い出されたのだな?」

ツヴァイの問いに頷くノエル。

「ええ、仕方ありません。悪いのは私ですし」

紫の瞳を寂しそうに俯かせる。

魔王の信頼を裏切ってしまった事を悔やんでいるようだった。

自分で言い出したことならなおさらだ。


「でも、どうしてでしょう……」

「何がだ?」

「今まで、失敗しても、こういう事なんて一度もなかったのに」

ふむ、とツヴァイは相槌を打った後、こう続けた。

「お前に関する噂の真意を確かめようとしているのかもしれんぞ」

「噂、ですか?」

「なんだ、お前、まだ聞いていなかったのか」

ノエルは頷く。

「気になるなら教えてやるが……あまり良いものではないのだがな。どうする」

「……聞きます」


「お前が反乱を企てている。そう聞いているが」

「ぶっ?! げほ、げほっ」

驚いて咳き込むノエル。この反応を見る限り、真実ではないのだろう。

「どこから出てきたんですか、その情報は?!」

「さあな? まあ、お前を快く思っていない者の仕業だろうが」

「沢山思い当たりすぎて、怖いです」


元々、ノエルはゼクスの部下ではなかった。

ゼクスに拾われ、即、側近という立場に抜擢された経緯がある。

それは嬉しいことではあったのだが、問題があった。

ゼクスに気に入られようと必死になっている者たちを差し置いての抜擢である。

当初、かなりの反発があった。だが、それも表向きには治まっている。

ゼクスがそれらを力で抑えているのもあるが、ノエル自体も力を持っているためでもある。

そうでなければ、魔王5将軍などという地位に居られる訳もない。

そのノエルがたかが人間の少女に敗れた。


魔王に良く思われたい、自分を蹴落としたいと思っている者が噂を流したのかもしれない。

ノエルはそう考えていた。



「そういや、さっき、フィアが目を覚ましたそうだ」

「本当? よかった。じゃ、出る前に顔が見れますね」

少しノエルの顔に笑顔が戻った。


数分後、二人はフィアの部屋を訪れていた。

フィアはまだベットの中で横になっていた。

「よう、具合はどうだ」

「あれ、ツヴァイ。それにノエルまで」

珍客に、大きな瞳をきょとんとさせる。

「フィア。だいぶ良くなったみたいね」

「傷はもういいのか」

「うん、大丈夫。ほら……痛っ?!」

腕を大きく振り回すが、痛みが走ったらしい。

「まだ無理をするな」

と、フィアはノエルが普段着ている黒衣装とは違う格好をしているのに気がついた。

一見すると、普通の人間とさほど変わらない。

「あれ? ノエル、どこか行くの?」

「私、ここを離れることになったから」

それを聞いて、フィアは少し寂しそうな表情になった。

「ねぇ、私も連れてって。いいでしょ?」

駄々をこねるフィアを、ノエルは優しく諭す。

「それは駄目よ。あなたを連れては行けないの」

「えー、あいつらに仕返ししてやりたいのに」

魔としての力は高いものがあるが、その精神は、幼い子供そのものだ。

「もしなにかあったら、ゼクス様に申し訳が立たないでしょ」

「うー……」

今度は頬を膨らませる。拗ねたり、怒ったり、忙しい。

「人間達の監視を言い渡されているの。一人のほうが怪しまれないで済むわ」

とっさにそんな嘘を付いてしまうノエル。

「それは、そうだけど……」

明らかな不満顔。

「フィアはまず、傷を完全に治すことね。そうすればゼクス様のお許しも出ると思うわ」

「うん、ノエルが言うならそうする」

「いい子ね、フィアは」

よしよし、と頭を撫でるノエル。

「ノエル、子ども扱いしないでよっ」

「はいはい」


「さてと、そろそろ行きますね」

「ねえ、ノエル、いつ戻って来るの?」

その一言に、一瞬、どきりとするノエル。

「さ、さあ。それは私にも分からないわ」

「そうなんだ……じゃ、ノエルが戻って来るまでに治るかなぁ?」

「そうね、そうなるといいわね」

ついそう返事をして、後悔するノエル。

本当は、もう戻って来れないのだが。

そんなノエルの様子を、ツヴァイは複雑な心境で眺めていた。


フィアの部屋を出た二人。

ノエルは、寂しげな表情に戻っていた。

「ツヴァイ、私はこれで……」

「ああ。ま、頑張ることだな。別に戻って来れないと決まったわけではあるまい」

本当にそうだろうか、とノエルは思う。

「だが、気を付けろ」

ツヴァイはいつになく真剣な表情で。

「あいつらの実力を見くびっていると痛い目にあうからな」

「そうですね」

(でも、あなたに言われたくありませんけど)

ノエルは心の中でそう思ったのだった。



続く


あとがき

「こんにちは。陽子です。やっとあとがきに帰ってこれました」

「……ルビスです」

「あれ? どうしたのルビス。元気ないじゃない」

「私、二回連続で出番無かった……」

「そういえば、一回名前が出てきただけだよね」

「こんな事で良いんでしょうか? これはきっと何かの陰謀ですよ!」

「あとがきで痛い発言してるから、天誅が下ったのよ、きっと」

「ぎく」(思い当たる節有り)


「まあ、直美が主役だからしょうがないよ。私だって、あまり出てきてないもの」

「やっぱりそうですよね……」

「そうだ、ルビスも、話書いてもらえばいいのよ。昔の話とかさ」

「昔、の?」

「うん、私まだあんまりルビスのこと知らないし」

「やっぱりちょっと恥ずかしい……」

「何でそこで顔赤くなるかなぁ」

「ま、そのうち話しますよ」

「ホントにぃ?」



「そういえば、向こうに居る仲間や、王宮の方たちは、みんな元気でしょうか?」

「そっか、ルビス、王女様だもんね。あれから半年以上経ったんだ……早いね」

「そうですね」

「元気出して。きっと大丈夫だよ」

「はい。落ち込んでても仕方ありませんね」

「でもさ、魔族がわざわざ生きていることを言うとは思えないよね」

「おそらく、彼らは私が死んだと思っているでしょうね」


▽ツヴァイが突然現れる。

「当たり前だ。その方がなにかと都合がいいからな」

「出たわね、魔族1号!」

「その呼び方は止めろと言っただろうが!!」

「何よ、脇役のくせにえらそうに」

「なんだと? この俺の何処が脇役だ!! 今回はちゃんと我々の話もある!!」

「だって、元々の主役は私たちだし」

「ぐ……うるさい! くそ……かくなる上は!」

「何? 何する気?」(身構える)

「はっはっはっ……さらばだ!」

「あ、逃げた……」

「相変わらず追い詰められると弱いですね」


「じゃ、そろそろおしまいね。お相手は樋口陽子と」

「ルビスでした」

「それではまた次回お会いしましょう」


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