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第2部第4話

>naomi

数日後、日が落ちる頃に学校を出た私とユミちゃん。

その日も、普段通りに他愛のない会話をしていた。

「ナオ、どーしたのよぅ、うかない顔して」

「テストが近いから憂鬱なのよ。私勉強苦手だし」

ユミちゃんは私の言葉に大きくうんうんと頷く。

「それは私も一緒だよ。私しばらく日本に居なかったから字が書けなくって」

「ふーん……って、ええっ?!」

とんでもない言葉が飛び出して、思わず大声を上げた。

「あ」

ユミちゃんは一瞬、しまったという顔をする。

「ちょっと、どういう事?! どこ行ってたの?」

「い、いいでしょ、どこでも……」

何故かユミちゃんは顔を背ける。

「え~っ、自分から言い出したくせにぃ」

「駄目。内緒」

「ユミちゃんのけちんぼっ……きゃ?!」

突然の突風。私のスカートがたなびく。

「あれ? どうしたの? その足?」

その拍子に、足の包帯が見えてしまった。

「え、別に大した怪我じゃないよ。気にしないで」

この間のツヴァイとの一戦で、気付かないうちに足に傷を負っていた。

姉さんやルビスの怪我に比べたら、本当に些細な傷だけど。

「気にしないでって言われても気になるよ」

「ホントにダイジョブだってば――うわ」

ユミちゃんは私の手をがしぃ、と握る。

「ねえ、なんかあったらいつでも言って。私に出来ることなら力になれると思うの」

「う、うん、そうする。ありがと」

そう言って適当にはぐらかしておくことにした。

いくらユミちゃんとはいえ、これだけは言えないよなぁ……


もう少しで別れる交差点が見える、という所で、嫌な感じがした。

誰かに見られている。


辺りを見回すと、道端に不思議な女性が佇んでいた。

しかも全身黒ずくめ――何か微妙に露出度高いんですけど。


「ね、ナオ、あの女の人何してんだろ?」

ユミちゃんも気付いたらしい。

「さあ? あ、目、合っちゃった」

女の人が私の前に立って微笑む。


「やっと、会えました」

「へ、わ、私?」

私はこんな女の人知らないし。人違いだろうと思った時。

「はじめまして、お嬢さん方。私は‘疾風のノエル’。貴女方を」

そう言うと、突然、風が吹き始める。

「――殺しに来ました」

女の体に風が集まる。

ちょっと、殺すって、まさか?!

「ナオ?!」

「さようなら」

女の声と、ユミちゃんの叫び声が同時に聞こえた次の瞬間。

「きゃぁぁぁっ!!」

女に集まっていた風の塊が、私に向かって放たれた。

刃物で切られたように、制服が切り刻まれる。風の魔法っ?!

「あら、よく避けられましたね。でも、次はありませんよ」

女の顔は相変わらず笑顔のままだ。でも、視線には明らかに殺気が込められていた。


再び魔法を発動させる女。

応戦したいけど、ユミちゃんの前だから魔法は使えない。

となれば、選択は一つ!!

「逃げよう、ユミちゃん!!」

「う、うん!」

私達は回れ右をして逃げ出した。と。

「ひあっ!!」

右足に痛みが走って、そのまま派手に転倒した。

「ナオっ! 大丈夫ッ?」

起き上がろうとしたものの、足に力が入らない。

自分の足を見る。足に巻いた包帯が真っ赤に染まっていた。

急に動かした所為で傷が開いたらしい。

「くっ……」

「ナオ! 大丈夫?!」

痛みに耐えながら、何とか起き上がろうとする私を、冷たい目で見下ろす女。

「無駄。逃がしませんよ」

こんな所で、殺されてたまるか!

もうユミちゃんの前だからとかそんなこと言っている場合じゃない。

私は魔法を使う為に精神を集中した。と。

「よくもナオを! 許さない!!」

「ユミちゃん?!」

私をかばうように、ユミちゃんが女の前に立ちはだかる。

「あら、用があるのはそっちの子だけよ」

「ユミちゃん! 駄目! 逃げて! その女は――」

無茶だ。普通の人間ならまだしも、相手は魔族!

「人間というのは、愚かですね。逃げれば死なずに済んだでしょうに」

女の周りに風が集まる。まずい!

「死になさい」

血が飛び散り、アスファルトや塀を赤黒く染め上げた。

「ぅあぁぁぁっ!」

「ユミちゃん! 嫌ぁ!!」


倒れて動かなくなったユミちゃんには目もくれず、真っ直ぐ向かってくる魔族……

「もう死んでいます。諦めなさい」

私のほうに視線を戻して、冷酷に言い放つ。

「さて、次は貴女の番ですね」

「わ、私が他の人といる時をずっと狙っていたのね! 卑怯者!!」

私の叫びを無視して女は続ける。

「崇高なる魔王ゼクス様の理想の為には、貴女は邪魔な存在」

「くっ……」

「大丈夫。痛いのはホンの一瞬です。すぐに永遠の眠りにつけますよ」

嫌だっ、死にたくなんかないっ!

「さぁ、終わりにしますね。逝きなさい」

女の眼がギラリと光った。


「ま、待ちなさい、よっ」

「ユミちゃん?!」

全身血に染まりながらも、ふらふらと立ち上がるユミちゃんの姿が!

「なっ! まだ生きていたの?!」

「あんたは絶対に許さない!!」

ユミちゃんの周りに光が集まり始める。

『昼間の子、貴女と同じような力を感じるの。気のせいかも知れないけど』

ルビスの言葉を思い出す。

まさか、あれって!!

「フレアー!!」

「嘘!!」

それは確かにフレアーだった。何で、ユミちゃんが?!

「なっ?! きゃぁぁ!!」

あっという間に炎が立ち上がり、炎に包まれる女性。

「くっ、なんて威力?!」

「お前たち魔族に……ナオは殺させない! 殺させるもんか!!」

再びユミちゃんが炎を放った。だけど、黒い女はその炎をあっさりかわしてしまう。

「あっ?!」

「ふふふ……まさか、もう一人居たなんて……これはゼクス様にいい報告ができますね」

ドッ

魔族の拳がユミちゃんのみぞおちにめり込み、そのまま私のところまで転がってきた。

「ごめん、ね、ナオ……っ、ごほっ――」

「ユミちゃん! しっかりして!」


もう頭来た。私は、女の前に立ちはだかった。

「よくもユミちゃんを傷つけたわね!」

「あら、この状況で、あなたに何ができますか?」

余裕を見せる女が、私の放出する魔力を見て、驚きの表情に変わる。

「ま、まさか、それは光の――?!」

「――フラッシュショット!!」

「嫌あぁぁぁ! ぎゃあぁぁぁっ?!」

光が女を薙ぐ。女は身体を激しく蒸発させた。

「こんな、私が……人間なんかに……」

そうつぶやくと、女は闇に消えて行った。

「逃げた……? 助かっ、た……」

ふう、一息入れて、ユミちゃんのところに駆け寄る。

「ユミちゃん! しっかりして!!」

「ナオ……今のは……」

信じられない、という感情が伝わってくるけど、今は説明している場合じゃない。

「詳しい話は後、とにかく、血を止めないと!」


私は、彼女に回復魔法(キュア)をかけていた。出血が次第に止まっていく。

ついこの前、姉さんに教わった魔法がこんな形で役に立つとは思わなかった。

でも、私には血を止めるだけで精一杯。早く姉さんかルビスに見てもらわないと。

ユミちゃんは驚いた表情と不思議そうな表情を繰り返す。

「ナオ……ありがとう……」

ユミちゃんの目から大粒の涙が。

「いいって、私達、友達でしょ?」

「うん、ごめんね、ちょっと、寝るわ……疲れちゃ……」

スッと、意識を失うユミちゃん。

早く診て貰わなきゃ……手遅れにならないと良いけど。


続く


あとがき

「こんにちは。水口直美です。お姉ちゃんがまだ治らないので、今回も私がやります。

 突然ですが、ここでゲストです。私のクラスメイトの森野由美子さんでーす」

「どうも、森野です。ナオ、あなたこんなことやってたのね」

「お姉ちゃんの代役だよ」

「ナオのお姉さん? どんな人なの?」

「それは、次回のネタバレになるから無しね」

「え~」

「でもビックリだな。ユミちゃんも魔法が使えたなんて」

「それはこっちのセリフだよ。使えるのは私だけだと思っていたんだから」

(と、どこからともなく風が吹いてくる)

「何? この風。ここって屋内の筈じゃ」

「こんにちは、お二人共」

「あなたは、疾風のノエル?!」

「って、どこから入ってきたのよ!!」

「うふふ。お邪魔しますね。あら、どうしたんですか、そんな怖い顔して」

「ちょっと、この間はよくもやってくれたわね!! 痛かったんだから!」

「そうよ! 何しに来たのよ!!」

「大丈夫ですよ。今回は殺しに来たわけではないんです」

「今回‘は’って事はやっぱりいつかは殺されるんじゃない!!」

「ま、それは置いといて。一度やってみたかったんですよ、こういうの」

「あの~、今私たちがやってるんだけど。邪魔しないで貰える?」


がちゃん、がちゃんっ。


(見ると二人の手にはいつの間にか手錠が掛けられていた)


「え? なに?」

「さて、今からここは私たち魔族の支配下になります」

『ええぇぇぇぇぇっ!!』

「ちょっと、そんな話聞いてないわよ!!」

「そうよ、早くこれ外しなさいよ!! このくそ魔族!!」

「……今のは聞き捨てなりませんね。そんなに死にたいですか?」

「う……わかったわよぅ」

「判ればいいんです。私だって無駄な殺生はしたくありませんからね」

「くそー、あんたなんかお姉ちゃんがいれば」

「でも、まだ治ってないんですってね。お気の毒に」

「……あんた達なんか、絶対やっつけてやるんだから」

「でも、その格好じゃ何も出来ないですね」

「何よ。あなただってどうせ、くそ魔王のパシリでしょ」

「なっ、何ですって!」

「結局、魔王があれこれ命令して、あなたたちは逆らうことすら出来ないものね」

「……」(ぷつっ)

「ちょ、ちょっとナオ、駄目だって!」

「やっぱりあなた達を生かしては置けませんね。今すぐここで殺してあげます!!」

(ノエルの回りに風が集まる)

「あ、あれ……マズったかな?」

「ナオのバカァ!!」

「逝きなさい!!」


ガンッ

「ぎゃあ?!」


「全く、何魔族相手にケンカ売ってるんですか」

「ルビス! 助かったぁ」

「う、後ろからは卑怯……ッ」

「魔族のあなたに言われたくありませんよ。さあ、どうします?」

「くっ……」(ノエルは風に溶けて見えなくなった)


「あ、逃げちゃいましたね。ユミコは?」

「気を失ってるみたい」

「そう、じゃ、私帰るわね。見つかると面倒だし」

「うん、ありがと」


「あ、もう締めなきゃ。

 皆さん、お見苦しい点があった事をお詫びします。

 ここまでのお相手は水口直美でした。

 それでは~」


「次回からは姉さんも来るかな?」

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