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第2部第3話

>naomi

いつもの学校の帰り道、のはずだったんだけど。

(これって、もしかして囲まれてる?!)

異様な気配が回りに広がっていた。

幸い、ユミちゃんと別れた後だったのでバレることは無いけど、油断できない。

今は私一人。誰も助けてはくれない。

「やるしかないか」

私が呟くと同時に、空間が切り裂かれ、そこから魔物達が出現した!

私の右に1匹、左に2匹。

でも、それはこっちも予想済み。バックステップで振り下ろされてくる腕をかわした。

つい1秒前まで私が立っていたその場所を爪が突き立つ!

轟音と共にコンクリートが砕け散った。

「……やっぱり、まともに相手はできないっ」

魔物に背を向けて、一目散に走り出す。

(お願い、誰も居ないで)

目に付いた交差点を左に曲がる。幸い、人影はなかった。

角を曲がると同時に、魔法陣を張った。

私を追って魔物たちの足音が聞こえてくる。

奴らの姿が見た瞬間、魔法を解き放った!

「フレアー!!」

爆炎があっという間に魔物たちを灰にしていく。

3匹の魔物は断末魔の悲鳴を上げながら崩れ落ちていった。


「ふぅ」

なんとか一撃でしとめられた。

昔の私だったら、最初の爪でアウトだろう。

「なんだかんだで結構強くなってるのかな、私」

そうつぶやいた時だった。

「直美、どうしたの?! 今の気配……何があったの?」

「あ、お姉ちゃん! 見て、これ」

灰になった物を見て姉さんが驚く。

「これは――何でまた魔物が? 扉は閉じているはずでしょ?」

「うん、でも、確実に何かが起こっているみたい」

姉さんも納得したように頷く。

「そうね。早くルビスに知らせないと……直美、しゃがんで!」

とっさにしゃがみ込む。私のすぐ上を何かが通過した。


「な、何事?!」

「上手く避けたな、小娘」

まさか、この声の主は……

『ツヴァイ!!』


何で、こいつがここに居るのっ?!

「運のいい女だ。本当なら首が飛んでいたのだがな」

私の頭の上からパラパラと何かが落ちてきた。髪の毛だった。

ツヴァイの剣が私のポニーテールにかざったらしい。

私は体中に寒気が走った。

「アンタなんかルビスさえ居れば怖くないわ。もう直ぐここに来るわよ」

ここは私の家からそう遠くない。ルビスも異変を感じているはずだ。

「ふん、あの女は部下に任せてある。既に屍と化しているだろう」

「そんな事無い! ルビスは強いもん」

「そうよっ、下級魔族がいくらかかってきたって、ルビスの敵じゃないわ!」

ツヴァイはふっと鼻で笑って。

「果たしてそうかな? 魔力が落ちている王女が勝つ見込みは少ないと思うが?」

「うっ……」

姉さんと私は言葉に詰まった。

確かに、ツヴァイの言うことは正しい。

ルビスの魔力は初めに遭った時の半分にも満たない。

いくら少しずつ回復しているとはいえ、彼女1人じゃかなり厳しい事は否めない。

「残念だったな。諦めて死んでもらおうか」

「ど、どうしようお姉ちゃんっ」

私たちだけじゃ、あいつに勝つことはおろか、傷を付けられるかどうかも怪しい。

「直美、もうこうなったらやるしかないわ」

姉さんは、不安な気持ちに駆られている私の手をぎゅっと握ってくれる。

「大丈夫よ。私たちには、ルビスが付いてるわ」

頷いた。姉さんはやっぱり頼もしい。

「自惚れるなよ、人間が。2人まとめて地獄に送ってや――ぐはぁ?!」

突然、灼熱の炎が立ち上り、ツヴァイの体を包み込んだ!


「2人に手出しはさせません!! 私が相手です!!」

「ルビス!!」

現れた彼女は、左足から血が流れ落ちていた。

どうやら、かなりの深手を負っているらしい。

「ひどい怪我! 大丈夫?!」

「大した事ないです。それより貴方たちが無事でよかった」

そう言って微笑む。その笑顔がなんか痛々しかった。

「くそ、まさか生きていたとは――だが」

奴の周りに冷気が集まる。

「貴様に勝ち目などない! 喰らえ!」

ツヴァイの作り出した氷の刃が、ルビスに襲い掛かる。

「ぐぅっ!」

「ルビス!」

ルビスの左足から血が飛び散った。

一撃、また一撃と、足へとヒットする。

あいつ、わざと同じ所を?!

「――っく、あ」

ガクリ、と膝を付くルビス。その瞬間、血が地面に広がっていく。

「はあっ、はあっ……」

「くくく……とうとう限界を迎えたか」

荒い息をつくルビスをほくそ笑みながら見下ろすツヴァイ。

既に傷だらけになっている足に、剣が突き立てられた。

「ぅああああああ!!」

「貴様には苦しみながら死んでもらうぞ。我々の邪魔をした当然の報いだ」


「ツヴァイ! これ以上は赦さない! フレアー!!」

姉さんの魔法がツヴァイの身体を包み込む。だけど。

「ふん、貴様の炎はその程度か。つまらん」

平然と立っている奴の姿が。

「そんな?!」

「貴様を相手にしている暇はない」

「きゃぁぁぁぁ!!」

今度は、逆に姉さんが奴の放った吹雪に包まれる!

「ヨーコ!!」

その場に倒れ伏す姉さん。

「お姉ちゃん!! 嫌ぁ、しっかりして!!」


「ふん、たかが人間の分際で、この俺に歯向かうとは愚かな」

「くっ」

もう頭来た! 

私は覚えたばかりの魔法を解き放った。

「よくもルビスと姉さんを! 閃光フラッシュショット!!」

「な、なにぃ?!」

私の手から放たれた光が奴の腹を打ち抜いた!

「ぐおあぁぁぁっ!?」

「やった! 直撃ぃ!」


「ナオミ! 退いて!」

ルビスの声に、下がりながらそちらを向くと。

「ツヴァイ! これ以上、貴方達の好きにはさせません――」

痛む足をこらえて立ち上がり、魔法を放つ寸前のルビスの姿が!

「何?! しまった!」

「フレアー!!」

姉さんのものとは比べ物にならないほどの爆発力。

「ぐおおおおぁぁっ!!」

ツヴァイの体が激しく蒸発する。

「おおおっ……おのれ、この俺が、精霊と人間などに負けるだと? 認めんぞ!」

身体からぶすぶすと煙を上げて倒れこむ。

それでもまだ致命傷には至らなかったようで。

「き、貴様らッ……お、覚えておけっ」

そう捨て台詞を吐いて虚空に消える。また逃げちゃった。


「助かったわ。ナオミ」

「ルビス! 怪我は?!」

傷の状態はかなり酷い。人間なら失血死しててもおかしくない位の出血だ。

「大丈夫。それよりもヨーコを」

見ると、姉さんの両腕全体が凍傷になっていた。

「う、腕が痛いよっ、ルビスっ」

「酷い……早く帰って処置しないと!」

やっぱり魔法はすさまじい威力だということを痛感した。

「全く、へっぽこなくせに、変に強いんだから」

「今回ばかりは、逃げ足速くて助かったわ」

なんか非道い言われようだなぁ……ここまでコケにされてる魔族って……



>>

時空の扉…世界の表と裏を繋ぐ場所。

ここに戦いから逃れてきた魔族の男が腰を下ろしていた。

「くそっ……」

「ふふ、残念でしたね、ツヴァイ」

いつの間にか彼の前にはスラリとした蒼い髪の女性が立っていた。

「ノエルか……お前も来たのか?」

ノエルは、ツヴァイをじっと見つめた後。

「ええ。あなたの仇は必ずとります。だから今は安らかに」

そう言って目をつぶって、両手を合わせる。

「って、貴様! 俺を殺すな!!」

「あら、違ったんですか。てっきり虫の息かと」

そう言ってクスクスと笑う。

「今回はタイミングが悪かった。今度こそ!」

「もう3回目ですよね。きっとゼクス様カンカンですよ。何時までそうしてるんですか?」

「う。うるさい!!」

「早く結果を出さないと、堪忍袋の緒が切れてしまいますよ?」

「ぐ……」

ツヴァイには反論すらできない。

「フフ、別に告げ口したりはしません。私はこれから少し用がありますから」

そう言ってノエルは羽織っていたコートをバサッと脱ぎ捨てる。

その下から黒いレザーの衣装が現れた。動き易さを追求した彼女の戦闘用の服だ。

ピッタリとフィットしたその服は、彼女のボディラインを浮き上がらせる。

妖艶なその姿にツヴァイは一瞬息を呑んだ。

「お前、あいつらと戦うつもりなのか?」

「ええ。その為に来たんですから」

「なかなか手ごわい相手だ。油断するなよ」

ノエルはツヴァイをちらりと見た後、クスリと笑って。

「そんなの、あなたのその格好を見れば分かりますよ。私はそんなヘマしません」

「お前、俺にケンカ売ってるのか?」

「さあ、どうかしらね。フフ」

ツヴァイはもはや呆れるしかなかった。

「で、俺に何の用だ。さっさと行けばいいだろう」

「実は、相談があるんですけど」

ノエルは腰をかがめ、視線を合わすようにしてにっこりと微笑んだ。

「俺を買収する気か?」

「そんなんじゃないですよ。私、人間達の顔把握していませんので、教えて欲しいんです」

「で、俺はどうすればいい」

「街、案内して頂けます?」


続く


あとがき

「こんにちは。水口直美です」

「姉さんが療養中の為、急きょ私が代役です。短い間ですけど、よろしく」

「こんにちはルビスです。今、ヨーコは私が作った魔法陣の中でお休み中です」

「やっぱり、また出て来たね、魔族」

「ですね。どうやら、扉が乗っ取られたらしいです」

「そんな、じゃあ、そこを守ってた精霊さんたちは?」

「多分、奴らに」

「そっか……じゃあ、ますます大変になるね」

「そうですよ。前回みたいにのんびりデート、なんて出来なくなりますよ」

「な、何で知ってるのよ」

「この間ヨーコに聞きましたよ。ねえ、一緒に寝てるの?」

「///」(顔を真っ赤にして黙り込む)


「あら、いいじゃない。羨ましいわ。私も欲しいなそんな人」

「意外だなぁ。ルビスに恋人が居ないなんて」

「そうですか? でも好きな人はいたんですよ」

「え、どんな人?」

「その人は人間と精霊の間に生まれた人でした」

「なんか、複雑だね」

「偶然扉を通って紛れ込んだ人間の女性と、大地を司る精霊との男性の間に出来た人です」

「ふうん。昔は通れたんだ。いつから通れなくなったの?」

「背が高くて……かっこよかったです」

「……話聞けよ」

「え? 何? 何か言いました?」

「……で、その人は、どうしてるの?」

「……亡くなりました」

「あ……ごめんなさい……変な事聞いちゃった」

「いいんですよナオミ。もうずっと昔の話ですから」


「ちょっと長引いちゃいましたね。さ、今日はここまでにしましょうか」

「あ、はい。それではここまでは水口直美と」

「ルビスでした」

『さようなら~~』


「……」(ルビスにもそんな事があったんだ……知らなかった)

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