第2部第2話
>naomi
翌日、私達3人は久しぶりに神社を訪れていた。
久しぶりにここに上がったけど、なんとも言えない感じは相変わらずだ。
鬱蒼と茂った木々が、何か別世界にいるような感覚にさえ思わせる。
あれ?
私は神社の境内に違和感を感じた。
「ねえ、魔法陣が無いよ」
あれだけあった魔法陣が全て無くなってる。一体どうして?
「ホントですね。誰か消したのでしょうか?」
普通の人間には見えないはず。一瞬、嫌な考えが頭をよぎる。
と、鳥居の影で誰かが動いた。
「そこに居るのは、誰っ?」
「よう。久しぶり」
聞き覚えのある声がした。
「和也ぁ」
私は思わず駆け寄っていた。
この人は、乃沢和也。お付き合いさせてもらってる……って恥ずかしいなぁ、もう。
前は結構ケンカ友達、見たいな感じだったんだけど。
魔族がらみの一件のせいで、自分の気持ちに気付いちゃった。
一応、命の恩人だし、ね。前みたいな態度は、取れない。
「俺が消しといたんだが、不味かったか?」
「ううん、全然。それより、しばらくぶりだよね」
学校が別だから、会うのは随分と久し振りだ。
「悪ぃ。ちょっと文化祭の幹事なんかやらされてな」
そういえば、和也の通う南高は、来週の週末、文化祭だったっけ。
私の西高とは兄弟校に当たる。
共同でイベントなんかもやるけど、今回は向こう単独だから、ちょっとつまらないと思っていた。
「私たちも行っていい?」
「ああ。みんなで来いよ」
「ホント? ねえ、聞いた、お姉ちゃ――あ」
後ろを振り向くと。
「そうそう。今の感じで力を伝えるといいのよ」
「なるほどね。ありがとルビス」
私たちをよそに後ろではレッスンが始まっていた。
「……邪魔しちまったみたいだな。じゃ、またな」
「うん。たまには遊びに来てよね。じゃあね」
彼が階段を駆け下りるのを見送った。
「熱いわね。ナオミ」
「見てる方が恥ずかしかったわ」
な、なによ、二人とも。本当はうらやましいくせに。
な~んて、とても口に出せません。だって、笑顔の裏に、殺気が見え隠れしてるんだもん。
「じゃ、今度はナオミね。何を教わりたい?」
話を逸らせるように、ルビスが切り出した。
「んじゃあ私、新しい魔法が欲しいな。今までよりも強力なヤツが」
「あ、直美ずるい!!」
「大丈夫ですよ、ヨーコ。貴女にも後でちゃんと教えますから」
そう言ってルビスがクスクス笑った。
でも、新しい魔法、ということは、やっぱりあの恥ずかしいことをしなきゃいけないわけで。
「さ、ナオミ。いきますよ」
「うん……んむっ……」
ルビスの口づけと共に、膨大な魔力が私の中に溢れかえってくる。
うぅ、やっぱり恥ずかしいなぁ……
「じゃあ、私の教える通りにやって下さいね」
頃合を見て、ルビスが私の前に立って両手を握った。
「判った、やってみる」
私は目をつぶって意識を集中させる。
ルビスの力が体に流れ込んできた。
『……鮮烈なる――七色の力よ』
ルビスの言葉がはっきりと聞き取れる。
「まさか、その魔法は!?」
姉さんが突然叫んだ。
一瞬そっちに意識が傾きかける。それに合わせてルビスの力の流れが弱くなる。
いけない、気を取られちゃ。
私はもう一度集中した。
『――光り輝き、我に集え』
手の中に光が集まり、輝きだす。
『一つになりて――敵を……』
ルビスが私の手を離す。私の両手の中に、光が生み出されていた。
『……今です!』
ルビスの掛け声。
「――貫け!!」
私の手から光球が発射される。
光の勢いの反動で、体が後ろに吹っ飛ばされる。
「うひゃぁっ?!」
私が転んだことでコントロールを失い、石畳に激突して激しい音を立てた。
「あいたたた……す、凄い――なんて魔法?!」
「これが、光魔法、フラッシュです」
着弾した石畳は、光が一直線に通った後に沿って砕け、大きな裂け目が付いていた。
「石が簡単に……」
「上手く扱うのは少し難しいですが、威力は見て貰った通りです」
こんな力、私に扱えるのか、ちょっと不安だ。
私は自分の手を見つめたまま、少し呆然としてしまった。
「大丈夫、ナオミ? 少し休みましょうか」
私は頷いた。
その時、離れていた姉さんがルビスに駆け寄ってきた。
「ねえ、ルビス、それって……」
「そう、あの時受け取った魔法です」
「やっぱり……そうなんだね」
「今まで使うのを封印してきましたが、もうそんな事言っていられません」
二人とも何か、今までに無く真剣な顔だ。
姉さんとルビスに何があったんだろう……まあ、私が詮索することじゃないかな。
>>
深い闇の底。
そこにツヴァイは呼び出されていた。
『まだ扉は開かんのか! ツヴァイ!』
「は、申し訳ありません、ゼクス様」
闇の中心に佇む巨大な宮殿。その最深部。
玉座に鎮座する男の足元にツヴァイは膝まずいていた。
この男こそ、魔族達を一代にして纏め上げた、魔王ゼクスである。
一度、聖なる力によって、闇の奥底に封印された。
だが、900年のときを経て、古の封印からつい数日前に復活をとげていた。
そのため、以前のような強大な力は影を潜めている。
だが、それでもその力は、目の前にいるツヴァイなど遠く及ばない。
『貴様の部下どもは一体何をしている? たかが精霊ごときに』
「申し訳ありません。やつらが意外としつこいものですので」
『あのルビスとかいう王女か?』
闇が咆える。周囲に殺気が放出される。
「い、いえ。王女は魔力を弱めており、扉の向こう側に取り残されている模様です」
『なるほど。では今がチャンスというわけか。扉など簡単に開けてくれるわ』
「は。これから刺客を向かわせます。数刻のうちに陥落するでしょう」
『我々が世界を支配するには、あの女が邪魔なのだ。判っているな?』
「は。仰せの通りに」
ツヴァイが闇に溶ける。
と、反対側の影から漆黒の衣装を纏った一人の女性が現れる。
「ゼクス様、彼には荷が重過ぎます。多分、また失敗するでしょう」
『ノエルか。何故そう思う』
「確かに、剣の腕は一流かもしれません。でも、魔力は私達5人の中で最低」
ノエルと呼ばれた女性は、深藍の長髪をたなびかせている。風を纏っているのだろうか。
「きっと、前の戦いでも、彼がフィアの足を引っ張ったんだと思います」
彼女の意見に、魔王は納得したようなそぶりを見せた。
「ゼクス様、私に行かせて下さい」
『……いいだろう』
ゼクスの言葉に、その紫の瞳を妖しく輝かせる。
「人間は、根絶やしにしなければいけません」
ノエルのその言葉に、魔王はニヤリと笑みを浮かべる。
『そうだ。だが、失敗したら、判っているな?』
「はい、必ずその人間どもを仕留めて見せます」
ノエルは一礼すると、あっという間に風に溶けて見えなくなった。
『ゼクス様――只今戻りました』
ノエルが消えると同時に、真紅の髪をした女性がひざまずく。
『首尾は、どうだ?』
『はい、順調でございます……それで、ゼクス様、少々お耳に入れておきたいことが』
『なんだ、申してみよ』
『はい、では、失礼します』
女性が魔王の傍らに近付き、そっと耳打ちをする。
『――それは、本当か?』
魔王が驚きの表情に変わる。先程までの余裕の表情ではない。
『いえ、まだ噂の域は出ませんが……』
『そうか……まあいい。お前は少し休んでおけ。ご苦労だったな』
『はい、失礼致します』
そう言って、魔王に背を向ける女性の口元は、笑っていた。
続く
あとがき
「皆さんこんにちは。樋口陽子です」
「こんにちは、ルビスです。完全に指定席になりましたね、そこ」
「悪いけど、ルビスの出番はないわよ」
「うう~~」
「あ、ヘコんでる」
「と、ところで、今日はナオミ来てないんですか?」
「そういえばそうね。どうしたんだろ。ま、いっか、そのうち出てくるでしょ」
「そうですね、じゃあ、何から話しましょうか?」
「といっても、あまり話す事考えてないんだよね。どうしよっか」
「そうだ、ヨーコ達の街の事教えてくれませんか?」
「え? いいけど、何で?」
「私こっちに来てから、あまり経って無いから、詳しい地理とかよく判らないんです」
「そっか。普段はうちとお店と神社ぐらいだもんね」
「確か、神社の隣に学校がありましたよね」
「あれは中学だよ。3月まで通ってた学校ね」
「年齢によって分かれてるなんて面白いですね。向こうでは年は関係なかったですし」
「実力が全てなのね。そっちの方が合理的な気がするなぁ」
「年で分かれると言う事は、いくつも学校があるんですか」
「うん、今私が通ってるのは街の東にある小高い丘の中腹にあるんだ。女子校だよ」
「女性だけの学校というのもあるんですね」
「ちなみに直美は街の西にある川に隣接してる共学校に行ってるのよね」
「私の世界では、大体一つの街に1つですよ。こんなに多いなんて……」
「そうかな? 普通だと思うけど。後は何か知りたいことは無いの?」
「商店街の建物の中から頻繁に飛び出していくあの長いものは何です?」
「長いもの?」
「人がたくさん乗っていたようですけど」
「あ、それって電車の事言ってるのかな?」
「デンシャ?」
「え~とね、街のほぼ中央に駅があって、そこから東西に線路が伸びてるのよね」
「よく判らないけれど……つまり、あれに乗って移動出来るという事なんですね?」
「うん、街をぐるっと一周できるようになってるの。お金はかかるけどね」
「他の物がそうなように、あれもやっぱり、雷の力で動いてるの?」
「まあ、ちょっと違うんだけどね」
「この世界の人間は凄い技術を持っているんですね。あれが魔法じゃないなんて」
「うん、それは私もそう思うよ」
「で、そのすぐ北側に、海があるんですよね」
「行った事無いのによく知ってるじゃない」
「汐の香りが時々するから判るんです」
「そうだ、夏になったら泳ぎに行こうか。あ、でもルビスは蒸発しちゃうか」
「フフ。水浴び程度なら大丈夫ですよ。楽しみです」
「じゃ、そろそろ終わりね」
「寂しいですねぇ。ところで結局ナオミは出て来ませんでしたね」
「まあ、こういう日もあるでしょ。それではお相手は樋口陽子と」
「ルビスでした~~」
『さようなら~~』
「デートか?」